[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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424: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)03:53 ID:xFW9h5s1o(1/10) AAS
 放課後、まどかとさやかは二人でマミの自宅に向かっていた。それぞれ手には買い物袋を提げている。
 昨日、マミは夜になってからも店で命を待っていたはず。

 もし欠席の理由が雨に濡れたことでの体調不良なら、独り暮らしのマミが心配だ。
迷惑かもしれないが、お見舞いくらいはしたかった。それに用なら他にもある。

 道中、当たり障りのない会話がほとんどだったが、ひとつだけ深刻にならざるを得ない話題があった。

「仁美ちゃん、また寂しそうにしてたね……」

「うん……今日は仁美も習い事があるって言ってたし、昨日みたいに怒ったりはしなかったけどさ」

 一緒に帰れないのは、今日で三日連続。
 昨日一昨日と違って、今日は理由を話せたが、仁美からすれば疎外感は変わらないだろう。
欠席した知り合いの見舞いだから不満を表さなかっただけ。

「私たち、これでいいのかな……」

 まどかが言った。
 まどかは明言を避けたが、言わんとするところは、さやかにも伝わっていた。
 これから周囲で何が起こるのか。そもそも自分がどうしたいのか。
 何もわからないから、何ひとつ決められない。

 仁美との間に溝はできるし、日々の勉強や生活もなかなか手につかない。
 未来どころか、明日さえ暗闇に覆われて見えない。
 そんな漠然とした不安。
425: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)03:56 ID:xFW9h5s1o(2/10) AAS
「大丈夫。そのうち落ち着くって。きっと、もう少しの辛抱」

「もう少しって、どれくらい?」

「う〜ん……わかんないよ、そんなこと。わかんないけどさ……たぶん一ヶ月もあれば」

 自分に言い聞かせるように呟く。
 この街で、大きな何かが起きようとしているのは確かだ。或いは、もう起きているのか。
 だが、ホラーも魔女も自分の手には余る。あれらは鋼牙やマミのような超人の領分だ。

 ただ、キュゥべえが何でもひとつだけ叶えると言う願い事。
これには心惹かれる理由があったが、それだって急ぎ結論を出す必要はないとマミは言った。
口に出した期間には、何の根拠もなかった。
 
 結局、中途半端なのだ。
 マミのように完全に非日常の側に立つでもなく、魔法少女という選択肢を切り捨てて日常に戻るでもなく。
日常と非日常に片足ずつ踏み入れたまま、あっちこっちに揺れながら歩いているよう。
 だから迷う。だから不安になる。こればかりは鋼牙にも頼れない。

 時間の解決に任せるというのは、その実、選択と思考と努力を放棄しているに等しい。
しかし、さやかは他に方法がわからなかった。今はただ、なるようになれ、と。
息を潜めて、嵐が通り過ぎるのを待つように。
 
「え〜っと、あそこで合ってたっけ。マミさんのマンション」

 ちょうど会話も途切れた頃、目的地に到着。
さやかは道に自信がなかったが、まどかが覚えていたので助かった。
 階段を上がり、呼び鈴を鳴らす。
426: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)03:58 ID:xFW9h5s1o(3/10) AAS
「反応ないなぁ……」

「家にいないのか……ひょっとしたら寝てるのかも」

 念の為、もう一度。
 それから数十秒ほど待っていると、ゆっくりドアが開いた。

「鹿目さん、それに美樹さんも……どうして?」

 顔を覗かせたのは、パジャマ姿のマミ。
来訪者の姿は中から窺っていたのだろう。彼女は驚きと共に二人を迎えた。

「あの……キュゥべえがマミさん欠席してるって言ったから……。
迷惑かと思ったんですけど、マミさん一人暮らしだから心配で」

「なんで、お見舞いに来ました。でも、その格好、やっぱり昨日の雨で? 大丈夫なの、マミさん」

 マミは面食らっていたが、すぐに微笑みで返した。

「ううん。大したことないのよ。ただ、ちょっと疲れが溜まってたから大事を取っただけ。
とりあえず、ここで立ち話もなんだし、上がってくれる?」

「はい。お邪魔します」

 マミに促され、部屋に上がる。
 リビングは相変わらず物寂しかったが、畳まれていない衣服や、教科書やノートなどが散らばっており、
一昨日に比べると僅かながら雑然としていた。
 体調が悪かったのだろうが、にしてもらしくない。まるでマミの心が乱れているみたいだ。ふと、さやかは思った。
427: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:00 ID:xFW9h5s1o(4/10) AAS
「あ……ごめんなさい。片付けが行き届いてなくって。今、お茶入れるから待っててちょうだい」

「いえ、そんなお構いなく」

「いいってば、お茶なんて。マミさん病人なんだから寝てなきゃ」

 お見舞いに来たのに、歓待されては立場がない。
 二人に揃って止められ、マミは渋々と腰を下ろした。 

「もう、大げさね。本当に大したことないのよ。ちょっと調子が悪かっただけ」

「それなんだけどさ、魔法少女でも病気になるの?」

 マミが欠席したと聞かされた時から気になっていた。
あんな過酷な戦闘にも耐える魔法少女の肉体も、病に屈することがあるのだろうか。
 さやかの質問に、マミは思案顔で視線を彷徨わせる。

「私は魔法少女になってから大病した経験はないけど……おそらく、ないとは言えないわ。
無理をすれば翌日に疲れを残し、時には不調も来す。もちろん、普通の人より耐性はあるでしょうけど」

「でも、回復の魔法ってあるんですよね? 結果的にはないと同じじゃないんですか?」

「あれも誰でも使えるものではないし、何でも治せるものでもないから。
外傷はともかく、病気や障害となるとどうかしら……。
私も、今はグリーフシードの手持ちがないから控えてるの。
もともと、戦い以外で魔法に頼るのは好きではないし」

 まどかに対するマミの答えに、さやかは内心がっかりしていた。
マミに責任はないし、まどかの質問で話が逸れてしまっただけなのだが、それでも――。
428: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:04 ID:xFW9h5s1o(5/10) AAS
 幼馴染の上条恭介の手を、魔法で治療してもらえる望みは薄い。
少なくとも、マミには自信がないようだ。
 期待していた訳でもないのに、落胆を抑えられなかった。
 
「それもそっか。魔法少女だって人間だもんね」

 だから、動揺を隠すように努めて明るく、さやかは言った。
 何気ない一言だった。
 しかし、

「えっ……」

 と、突然マミが肩を震わせ、絶句した。
 
「え、ええ。そうね……」

 言葉に詰まりつつ目を伏せた、その表情は青ざめている。
 見るからに尋常ではない。にも関わらず、さやかは見逃してしまった。
いや、見ながら深く気に留めなかった。

 マミが孤独に抱えている悩みのサインも。
彼女が立ち直るまでの十数秒、まどかが怪訝そうにそれを見つめていたことも。
 この時はただ、自分の心の整理しか頭になかった。
 
 それから何となく会話が止まり、さやかは重くなった空気を変えようと話題を変えた。

「あ、そうそう。マミさん、さっきグリーフシードがないって言ったよね」

「ええ、言ったけど?」

 頷くマミに、さやかは鞄から黒い宝石のような物体を取り出す。
429: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:08 ID:xFW9h5s1o(6/10) AAS
「これ、一昨日の魔女が落としたグリーフシード。
冴島さんに渡されてずっと預かってたんだけど、昨日は渡しそびれちゃったから」

「でも、これは……」

 自分の手柄じゃない、と。
 一昨日もマミは受け取りを渋った。プライド――と言うよりも、意地だろうか。
彼女の鋼牙に対する複雑な心情は、さやかには窺い知れないが、それはこの際あまり重要ではなかった。

「あたしが持ってても何の役にも立たないしさ。
それに、こいつから魔女が孵化するって聞いたらおっかなくって。ね、お願い」

「……わかったわ。それじゃ、ありがたくもらっておくわね」

 両手を合わせて頼みこむと、マミは根負けといった態度で受け取った。
 それでいいと思う。これは彼女に絶対必要なもので、彼女が持ってこそ相応しい。
 もちろん、口に出した言葉も嘘ではないが。

「よかった。あ、それとこれも」

 さやかが目配せすると、まどかが買い物袋を広げた。
 中からは、みかんや桃などの果肉入りのゼリー。そして数種類のレトルトお粥。

「あの、お見舞いに何か持って行こうと思ったんですけど、迷っちゃって。だから、いろいろ買ってきました。
休んだ理由がわからなかったから余計なお世話かもって不安でしたけど、良かったみたいです」

「これ……私に?」

「いやぁ、お手軽なものばっかだけど、独り暮らしなら案外こういうのの方がいいのかなーって。
果物とかだと剥くの面倒臭いかもしれないし、これなら好きな時に食べれるでしょ」
430: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:10 ID:xFW9h5s1o(7/10) AAS
「もう、さやかちゃんってば。それ言ったの私だよ」

「あははは。そうだったっけ――って、マミさん!?」

 さやかが驚きの声を上げる。見ると、マミは両目から大粒の涙を零していた。
 その綺麗な瞳は開かれたまま、声も出さず、表情も歪んでいないのに。
 
「ど、どうしたんですか!?」

「ひょっとして、どっか苦しいとかじゃ……!」

 二人でオロオロと慌てふためいていると、やっとマミは自分が泣いていることに気付いたらしい。
 涙を拭い、濡れた手を不思議そうに見つめた後、はにかんだ。

「うぅん、違うの。ごめんなさい、嬉しいなって思ったら勝手に涙が溢れちゃって」

「いや、そんな……財布の小銭で買える程度で大したもんじゃないっすよ」

「そうかもしれない。でも、鹿目さんと美樹さんの気持ちは確かに伝わったもの。
ありがとう……これも大切に頂くわね」

 まだ涙を流しながら微笑むマミに、さやかは照れ臭そうに頬を掻いて、まどかと顔を見合わせる。
どうやら、まどかも同じだったのか、お互い同時に口元を綻ばせた。

 戦闘中の凛々しい立ち姿とは異なり、目の前の先輩がか弱く映る。
ある意味、身も心も鉄でできていそうな鋼牙とは真逆。
 出会った初日は、遥か高みに見上げる存在だと思ったが、
そのイメージは二日目、三日目を経て徐々に変わっていた。
431: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:12 ID:xFW9h5s1o(8/10) AAS
 そして今日、彼女は歴戦の戦士であっても、その心は自分たちとひとつしか変わらない少女なのだと気付く。
ここ数日はそれに苛立つこともあったが、今は不思議と嬉しく、愛おしく感じられた。

 それから暫し、マミは感涙にむせび泣いていた。
さやかとまどかは温かくも気恥かしい思いで見守っていたが、やがて泣き止んだ彼女は言った。

「いけない、もうこんな時間……。鹿目さん、美樹さん、そろそろ帰らないと家に着く頃には真っ暗よ」

 時計を確認してハッとなる。
 まだ訪ねて十分かそこらしか経っていないと思っていたが、
あれこれ買い物に悩んで費やした時間が長かったのか。

「でも、マミさん大丈夫ですか? お邪魔してる私たちが訊くのも変ですけど……」

「大丈夫よ。本当に少し調子が悪かっただけで、大したことないんだから」

 まどかはまだ心配そうにしていたが、マミに急かされて席を立つ。さやかも従って玄関に移動した。

「じゃあ、そろそろお暇しますね。早く元気になってください」

「二人とも、今日はありがとう。せっかく来てくれたのに、おもてなしもできなくてごめんなさい」

「お大事に、マミさん。また明日」

 挨拶をして、ドアを閉める。

「ええ、また明日……」

 去り際の一瞬、ドアの隙間から見えたマミは儚く、とても哀しげだった。
432: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:14 ID:xFW9h5s1o(9/10) AAS
 * 

 それから、さやかはまどかと別れ、家に帰り、晩ご飯を食べて、お風呂に入り、眠りに就く。
 この日は珍しく危険に巻き込まれず、周囲で妖しい気配が蠢きもせず、平穏無事に一日が終わった。
 もっとも、今宵も街のどこかで誰かが魔女の虜となり、ホラーの餌食となったのかもしれないが。
そんなことをベッドの中で考えてしまい、怖くなって目が冴える。

「大丈夫だよね、きっと……。冴島さんだっているんだから」

 光り輝く黄金の鎧を思い浮かべ、少し安堵する。
 こうやってすぐ忘れられるのは、まだ心のどこかで危険が遠いものと感じているからだろう。
他ならぬ自分自身が危機に晒されたというのに。
 もっと明確に、近しい人間に犠牲が出れば考えも変わるだろうか――。

 さやかは頭を強く振り、今度こそ忘れることにした。
 次に思い出すのは、別れ際のマミの様子。
 あの時、「また明日」と言って別れた。

 「また明日」と言って次の日も無事に会えることが、どれほど幸運なことか。
 こんな自分でも、今は知っているつもりだ。
 だから、ささやかな祈りを込めて、その言葉を口にした。
 また明日、マミに会えますようにと。

 しかし、その翌日もマミが学校に来ることはなかった。
433: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/08/08(木)04:15 ID:xFW9h5s1o(10/10) AAS
ここまで
かなり遅くなってしまいました
もう少しでクライマックスの予定
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