[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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515: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:42 ID:sq6YS7+5o(1/6) AAS
そこは異様としか形容できなかった。
まず、そこらじゅうに大きなアイスクリームやドーナツが転がっていたり、ケーキが景色に溶け込んでいた。
本物かは定かでないが、触りたくもないし、まして口に入れるなんて絶対に御免だった。
漂う甘ったるい臭い。
甘いもの好きとしては食欲をそそられそうだが、とんでもない。
チョコレートもフルーツも焼き菓子も何もかも一緒くたな上に、全体に暗く淀んだ色調の空間では気分が悪いだけ。
しかもメスやハサミなどの医療器具も、それらと混ざり合っているのだ。見ていると逆に食欲が失せる。
魔女の結界は、それぞれ主である魔女の特徴が顕著に表れている。
それは元となった魔法少女の心象風景――希望、祈り、執着、そして絶望の形なのだろう。
これまでなら然して気に留めなかったが、先日の魔女結界では感傷を抱き、同情もした。申し訳なくさえ思った。
しかし今、マミからそんな余裕は消え失せていた。
あるのは恐怖と怯懦。
こんなに結界の内が怖いと思ったのは、魔法少女になって最初の戦い以来だった。
自棄になって死んでもいいと踏み入れた結界だが、その場で使い魔に身を投げ出す気にはなれなかった。
たぶん、やるだけやったと言いたいのだ。他の誰でもなく、自分自身に言い訳がしたいのだと。
おそらく最奥に待つ魔女に勝てはしないだろう。魔力も心許なく、体調も万全とは言い難い。そして精神はガタガタ。
そのはずなのに。
引き摺るような遅々とした足取りでも、マミは止まらず進み続ける。
おっかなびっくり、些細な物音にも過敏に反応しつつではあったが。
道中の使い魔は、すべて一撃の下に葬り去る。一切の反撃を許さず、時には発見されるよりも早く。
微塵の油断もなければ余裕もない。
516: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:45 ID:sq6YS7+5o(2/6) AAS
そんな戦い方は心身共に消耗を早めてはいたが、どの道、生きて帰れるなんて思っていない。
誰かを守る必要もない。誰も傍にいないだけでなく、今のマミは誰かを守りたいという考え自体が頭にない。
自身を含め、守るべきものが存在しない。気負いというものが消えていた。
結界に入る前の弛みように反し、いざ敵とまみえた時、身体は戦いを覚えていた。
とても戦える精神状態とは思えなくとも。
むしろ、こと戦闘に限ればいつになく冴えている。絶好調と言っていいかもしれない。
今、あらゆる軛から解き放たれたマミは自由だった。
しかしマミ自身、不思議でならなかった。
――せめて形だけでも魔法少女として……でも、本当にそれだけなの?
何もかもを失くして、恐れていた孤独に行き着いて。
それでも絶望はしていない。限界まで追い詰められているが、
宙に張られた、か細いロープの上に立つように、不安定でも最後の一線を保っている。
だが、いったい何がその歩を進めているのか。何が引き金を引いているのかは曖昧だった。
迷いながらでも、身体は慣れ親しんだ動きをなぞる。
眼に映るすべては敵。無差別に殺戮を撒き散らしながら、マミは結界を行く。
心と身体の乖離は、次第に現実感を奪い去っていく。奥へ奥へと進むうちに、ますます自分がわからなくなる。
思考は飛び、記憶は巻き戻る。
脳裏をかすめるのは楽しかった思い出ばかり。
最後の記憶は一昨日の夜。零との食事だった。
あの日もテーブルには色取り取りのスイーツが並び、落ち込んでいた心が弾んだ。
灰色だった世界が鮮やかに色付いた。
何故だろう、ここはまるで違うのに。もしかすると、甘い臭いに中てられたのだろうか。
517: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:49 ID:sq6YS7+5o(3/6) AAS
そんなどうでもいいことを考えている間も、指は引き金を引き、もう一方の手は次の銃を握っている。
自動化された精密機械の如く、感情の介在しない正確無比な射撃。
バラバラに散らばる思考の片隅で、ふと気付けば考えている。自分のソウルジェムはどうなっているだろうと。
後先考えずに魔力を消費しているのだから、きっともう大半が黒く染まっているに違いない。
――あぁ……。でも、それも悪くないかもしれないわね……。
口元に薄ら笑いを浮かべながらも、マミの動作には寸分の狂いも生じない。
それすらも彼女の内で些事と化しつつあったから。
しかし――無意識なのか、時折空いた手がポケットを上から撫でる。
その手のひらに伝わる硬い感触が、ふわふわと今にも遊離しそうなマミの精神を、風船の糸のように繋ぎ止めていた。
無数の薬瓶が並ぶ空間を抜け、暫く歩くと明るく開けた空間に出た。
おそらく、ここが魔女の待つ結界の最奥。
あちこちに極端に脚の長いテーブルとイスが、いくつも置かれている。
群がってくる使い魔を同様に蹴散らすと、その中央のイスに、
女の子を模したような――小さなぬいぐるみに似た物体がふわりと着地した。
マミは即座に直感した。あれが魔女だと。
他の使い魔とは造形が異なり、見た目は可愛らしいが、その可愛らしさが逆に不自然極まりない。
マミはゆっくり魔女の座るイスに接近するが、魔女は微動だにしない。
このまま撃てば倒せそうなくらい無防備だったが、それで片が付くと思うほど楽観的でもなかった。
取り分け、警戒心と猜疑心の塊のような今のマミは。
襲いかかってくれば相応の反撃ができるのだが、まったく動かないのでは却ってやり辛い。
と言って攻めなければ、いつまで経っても決着はつかない。
518: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:52 ID:sq6YS7+5o(4/6) AAS
それを理解していながら、マミは攻撃しなかった。できなかった。
この戦いで自分は死ぬかもしれない。いや、確実に死ぬ。
こちらから戦いの火蓋を切れば、これまでのように受け身ではない。
能動的に死に向かって一歩を踏み出すことを意味する。
――私は……何を今さら躊躇っているんだろう。結界に足を踏み入れた時点でわかっていたはず……。
マスケットをきつく握り締める手は小刻みに震えていた。
そして数秒、マミは銃をひっくり返し、銃身を握った。
――何でもいい……始めなければ終わりもしない。私は終わりを望んでいるんだから……。
迷いは晴れない。覚悟は定まらない。全身に絡みついたまま、マミを苛み続ける。
だから結論を待たず、銃把でイスの脚をへし折った。
思考を放棄し、状況の流れに身を任せた。
ひとたび戦いを始めてしまえば、余計なことを考える余裕は消える。
脚を折られ崩れるイスから投げ出された魔女は、抵抗もなく落ちてくる。
バットのように銃を振り被ったマミは、魔女を殴り飛ばし、空中で連射を浴びせた。
避ける暇もない連続射撃。胴を貫かれた魔女は壁で跳ね返り、床に落ちた。
その頭に銃口を押し当て、撃つ。
撃ち込んだ銃痕からは糸が伸び魔女を拘束、空中に固定した。
ここまでの動作に一切の無駄はなく、また同情が混じりもしなかった。
あとは大威力の砲撃――ティロ・フィナーレで終わらせる。
普段のマミでも、おそらく同じ戦法を取っただろう。マミの戦法としては基本中の基本だが、
それ故に最も確実で、最も信頼が置ける。
しかし、やはり反撃はない。反撃の隙を与えなかったとはいえ、その素振りすらないのはおかしい。
519: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:56 ID:sq6YS7+5o(5/6) AAS
――おかしい。いくらなんでも、うまく行き過ぎてる……。
あまりの手応えのなさに拍子抜けしそうになる。
半面、じわじわと不安に侵食されるような感覚もある。
もしかしたら、魔女は何かを隠しているのか?
警戒心に背中を押されるように、マミは壁に開いた無数の銃痕から一本のリボンを伸ばし、手に取った。
拭いきれない違和感に迷い、数秒ほど動きを止める。
それでも、始めてしまった以上は止まれない。毅然と顔を上げ、マミはマスケットに魔力を注ぐ。
これしかない、たとえ罠が待っているとしても。
奥の手は、ここぞという時まで隠しておくもの。ここぞとは、往々にして自分か相手が追い詰められた瞬間。
魔女が尻尾を出すとしたら、おそらく後者。ならば小競り合いは消耗を招くだけ。
それは現状の分析と、過去の経験からの類推。
だが最大の根拠は、こんなに落ちぶれた今でもマミの内側で燻り続けている魔法少女の――戦士の勘。
――分の悪い賭けだわ……。絶対の不利を知りながら攻めなければならないのだから。
先に手の内を晒した方が不利になる。特に魔法少女の戦いは、そうした側面を持っている。
それも今回は、私の能力、状態、魔女の性質、相性――あらゆる条件がマイナスに働いている気さえする――
マミの持つ銃が光を放ち、巨大化する。
台座に固定した大砲の狙いを定め、
「ティロ……フィナーレ!」
マミは運命の引き金を引いた。
耳をつんざく轟音。
それと共に撃ち放たれた光弾は、狙い違わず魔女に届いた。
届いたが――。
520: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2014/03/07(金)23:59 ID:sq6YS7+5o(6/6) AAS
弾は魔女を容易く貫いたが、魔女そのものを滅していないのは一目瞭然だった。
魔女の口から押し出されるように、ぬるりと何かが飛び出した。
小さな身体のどこに収まっていたのか、魔女を遥かに上回る巨体だった。
手も足もない黒蛇のような身体。先端の顔は魔女同様に可愛らしい。
大きく開かれた口に、鋭く尖った牙が生え揃っていなければ、だが。
魔女相手に物理法則など通用しないとわかってはいたが、改めて度肝を抜かれる。
これが、この魔女の正体?
それとも、もうひとつの姿と言うべきか?
どちらにせよ、これこそが魔女の隠し玉だったのだ。
迫る牙を、マミは呆然と見ていた。
思考は加速するのに、身体は動かない。行動に移せない。
ティロ・フィナーレの反動が身体を包んで、まだ消えない。
それ以上に、あの顎に頭を噛み砕かれる数秒後の未来のイメージに竦んでいる。支配されてしまっている。
――そんな……私は……ここで終わってしまうの?
こんな場所で、死んだことすら誰にも知られずに?――
最初に浮かんだのは、そんな疑問。
覚悟していたはずだった。終わらせる為に、死ぬ為に来たはずなのに。
一秒にも満たない時間で、過去の出来事や人の顔が脳裏に現れては消える。
走馬灯の中には、出会ったばかりの鋼牙や零の顔もあった。
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