[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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277: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:45 ID:WK12HDz4o(1/5) AAS
「……もういいよ」

「私のことを怒ってないの?」

「さやかちゃんを見捨てたのは……やっぱり納得できない。でも、ほむらちゃんを憎むことはできないよ。
だって、ほむらちゃんは私の命を助けようとしてくれたんだから。
ほむらちゃんのお陰で私が助かったのは間違いないから」

 そして自分は間違ってないと言った彼女の表情。
 彼女の冷静さは冷徹や冷酷とも取れる。しかし、この時は違った。
 そこに見えたのは、微かな苦渋の色。それだけでも、彼女が心底から利己的な人間ではないと思えた。

「ほむらちゃんのせいにはできないもん。
さやかちゃんが辛くて一番いてほしい時に、傍にいられなかったのは事実だし」

 命の恩人を悪く言いたくはないが、それとは別に、まどか自身にも負い目があった。
 怒りとも悲しみともつかない感情。きっと、さやかの胸の内に渦巻いているのは、そんな思い。
 度々こちらを不安そうに見る目には、ほむらと同じ迷いがあった。

 一昨日、あの暗闇で伸ばした手を払った、さやかの目を思い出す。
 激情から一転、子供のように怯えを露わにした瞳。
 わからないのかもしれない。どうしたいのか、どうすればいいのか。

「理屈じゃないんだよ。さやかちゃんは考えるより感じるって言うか、
思ったら突っ走っちゃう娘だし」

「でも、あなたはそれでいいの? 真実を話さなければ、彼女は納得しない。
あなたへの怒りだって治まらないと思うけど」

「これまで私は、さやかちゃんに返し切れないくらい、たくさんのものをもらってるから。
やり切れない気持ちの捌け口にでもなれるなら、受け止めるのが友達……だと思うから」
278: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:49 ID:WK12HDz4o(2/5) AAS
 まどかは困ったふうに、小さく笑った。
 当然、さやかとすれ違ったままでいいとは思わない。

 それでも、まどかはこうも思っていた。
 自分とさやかの仲は、これしきで揺らぎはしない。これっきりで終わる訳がないと。
 絆を、友情を信じる。しかし、それは信じたい、積み重ねた時間に縋りたいという願望。
 不安の裏返し。

 この二日、積極的にさやかとの関係を修復しようとしてこなかったのには、もうひとつ理由がある。
 敢えて語らなかったのは、ほむらにも触れられたくなかったから。
 黒い陰を儚い微笑の裏に隠して、自分に言い聞かせるようにまどかは言う。

「大丈夫。さやかちゃんとも時間が経てば、仲直りできると思う。
本当は、すごく優しい娘だから。できれば、ほむらちゃんとも――」

「そう……あなたがそう言うのなら、この件については、もう何も言わないわ」

 言わんとするところを察したのか、ほむらが遮った。
 事実上の拒絶を受けて、まどかは続く言葉を紡ぐ気になれなかった。

「でも、もうひとつ、これだけは覚えておいて。冴島鋼牙――彼は確かに人を守りし者。
絶対の信頼を寄せていい相手かもしれない。あなたが人である限りは」

 唐突に話が変わり、戸惑うまどか。訳もわからず相槌を打つが、最後の一言が引っ掛かった。
 その意味を問う間もなく、ほむらは続ける。

「でも、全能じゃない。事実、彼があの場に現れたのはまったくの偶然。
助けてくれたのも、単なる幸運。二度目、三度目があるとは限らない。
もし私があなたを連れて逃げなければ、彼が来なければ。少しでも歯車がズレていれば、あなたは確実に死んでいた。
巴マミは斃れ、あなたと美樹さやかは手を握り合ったまま切り裂かれ、他にも大勢の人間が喰われたでしょうね」
279: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:51 ID:WK12HDz4o(3/5) AAS
 その口調は淡々としていながらも厳しく、疑問を差し挟むことを許さない。
 
「うん……わかってるよ。ほむらちゃんには感謝してる……」

「感謝も謝罪も必要ない。そんな言葉、何の意味もない。私は二度と危険に近付かないでほしいだけ」

 有無を言わせぬ眼力に射抜かれる。
 彼女の纏う雰囲気に、まどかは気圧されていた。
 いや、何も言えなかったのは、それだけが理由ではない。
まったくの正論で、反論の余地がなかったからだ。ぐうの音も出ないほど。

「あなたがあの場に行かなければ、美樹さやかも行かなかった。
結果だけ見れば、あなたは彼女を危険に巻き込んだとも言える」

「うん……」

 と、まどかは力なく答えるしかなかった。
 最初に改装区画に立ち入ったのは結果論で済むかもしれない。
 だが、ほむらは知らない。

 さやかが走れなかったのは何故か。
 誰を庇って両足に傷を負ったのか。
 この一点だけは、言い逃れのしようがないほど、まどかに原因があるのだ。
ほむらにも責任転嫁できない。

 理解していたはずなのに、改めて言葉にされると突き刺さった。
280: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:52 ID:WK12HDz4o(4/5) AAS
――私のせいで、さやかちゃんが死ぬかもしれなかった。
命こそ助かったけど、心に消えない傷を負ったかもしれない。
だから……さやかちゃんに拒絶されても仕方ないんだ……。
それでも離れたくないと思う私は……ずるいのかなぁ――

 ギュッと拳を握り、下唇を噛む。
 そうでもしないと涙がこぼれそうだった。
 まどかの様子を察したのかどうか、やや穏やかな声で、ほむらが言った。

「あなたを責めるつもりはないわ。
あなたの意志の強さや優しさは認める。それでも――」

「私、そんなに優しくも強くもないよ。ううん、むしろずるくて、弱虫で、何の役にも立てない」

 慰められるのが耐えられなかった。
 まどかは自罰的な衝動に任せ、恐ろしい想像を口にする。

「もし、ほむらちゃんも冴島さんもいなかったら私だって……」

 もし、鋼牙が来なかったら。
 ほむらに手を引かれていなかったら。
 自分は死ぬまで一緒にいられただろうか。最後まで、さやかの手を離さずにいられただろうか。

 何度となく胸に問いかけても、答えは出なかった。

 一歩一歩、近付くホラー。
 迫る死の恐怖。
 繋いだ手を振り解いて駆け出すことで、助かる可能性が僅かでも上がるなら。

――さやかちゃんを見捨てて逃げたかもしれないのに。
281: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/05/13(月)03:55 ID:WK12HDz4o(5/5) AAS
ここまで
なんやかんやで2週も開いてしまいましたが、
明日からはまた本気を出して書こうと思います
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