[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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40: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:38 ID:RCd/gL2Bo(1/5) AAS
「あたしもここに来たのは少し遅れたんだけどさ……」

 さやかは目線を斜め下に落としたまま、最初の言葉を呟いた。

「あたしが来た時、あの人はもういたよ。それで笑って手を振って、あたしを呼んだの」

「あの人っていうのは……命さんのこと?」

 こくり、とさやかは緊張した面持ちで頷く。
 命の名前が出た瞬間、また彼女が身を硬くするのを、マミは見逃さなかった。
 
「それでお茶とケーキご馳走になって、それから楽譜をもらった」

 さやかは鞄から紙を取り出すと、マミに見せた。
 紙の上には音符や記号が踊っている。読み方は知らないが、何の変哲もない楽譜だ。

「これは……?」

「あの人の恋人が作りかけだった、オリジナルのヴァイオリンの曲だって。
その人が事故で弾けなくなって、たぶん……その、亡くなったから私に……」

「もしかして、入院してる美樹さんの幼馴染の男の子に?」

「マミさんも聞いていたんだ。そ、上条恭介って言うんだけど……。
あの人、あたしにこれを渡して、頑張ってる人の背中を押してあげたくなるって言ってた……」
41: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:41 ID:RCd/gL2Bo(2/5) AAS
 つい昨日会ったばかりの少女に、命がそんな大事な物を渡した理由。
 さやかを気遣って、花を持たせる為。その彼に夢への活力を取り戻させると同時に、恋人に叶えられなかった夢を託したくて。
 きっとそうだ。彼女は少々馴れ馴れしくて他人の事情に深入りするきらいがあるが、優しく包容力のある大人の女性だから。

 そんなふうに彼女の側から踏み込んで来てくれたからこそ、マミも打ち明けられた。
 関係ないのに、何故か自分のことのように誇らしくて、胸に喜びが溢れる。
 嗚呼――と、感嘆の息を吐きながら、口元を綻ばせながら、マミは言った。 
 
「そうだったの……」

 相槌に含まれた感動の色に気付いたのか、さやかは顔を上げ、マミを見返してきた。
 睨むような目つきは非難にも似ている。これは美談なんかじゃない、勘違いしてくれるな。
そう目が教えていた。

 「嬉しかった。凄く嬉しかった。きっと、あの人も同じ立場で、
あたしの気持ちをわかって応援してくれたんだって。でも!」

 さやかは膝に乗せた拳を固く握り締めた。

「一時間くらい話して、本当に楽しかった。優しくて、話し上手で、会えてよかったって思った。
でも暗くなってきて、伝言は任せて帰ったらって勧められた。
そして帰ろうとしたあたしに、あの人が笑って言ったの……」

 身体を小刻みに戦慄かせるさやか。
 しかし、今の彼女を支配しているのは恐怖ではない。
 憤怒だ。
42: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:43 ID:RCd/gL2Bo(3/5) AAS
「彼も私が背中を押してあげたんだから、って……!」

 押し殺してもなお怒りのこもった声で、絞り出すように、さやかは言った。
 マミも即座に言わんとするところを察する。しかし問い返すしかできない。
 頭に浮かんだ意味を信じたくなかった。
 
「それってどういう……」

「恭介は雨の夜、交通事故に遭った。恭介は誰かに突き飛ばされた気がするって言ってた。
はっきりとは覚えてないらしいけど」

「待って、美樹さん。それだけじゃ、命さんが犯人とは決められないわ。
何か別の意味で言ったのかも……」

 早口に捲し立てたさやかをマミが宥めようとした直後――バン! と、平手がテーブルを叩く。

「そんなはずない! 昨日あたしは交通事故としか言ってない。
なのに雨の夜ってことも、恭介がヴァイオリンを庇って左手を怪我したってことまで言い当てたんだよ!?
そんなの無関係なあの人がどうやってわかるのさ!?」

「それは……」

 さやかが腰を浮かせ、前のめりになる。
 その剣幕に気圧され、マミは黙るしかなかった。
 脳内では様々な可能性が浮かんでは消える。

 当事者でなければ身内か警察、病院や保険会社の関係者でもなければ知り得ない情報。
 彼女が、そのいずれかである可能性はゼロではない。
或いは、その誰かから聞いたのかもしれない。

 しかし、明かした理由も、笑った訳も、何より言葉の意味がまるでわからなかった。
 それでも。
43: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:45 ID:RCd/gL2Bo(4/5) AAS
「命さんはそんな酷い人じゃないわ……。
仮にそうだとしても、説明のつかないことが多過ぎるでしょう?」

 とにかく命を庇う論理を並べようとして、口から出たのは根拠のない擁護。
 それがどれだけ説得力に欠けるか自覚していながら。
 
「そりゃあ、あたしだって訳わかんないよ。今だって頭ん中ごちゃごちゃで……でもさ」

 一旦さやかは口を閉じ、マミを見る。もう非難がましい視線はなかった。
 ただ単純に、純粋に、不思議そうにマミに問いかける。

「言い切れるほど、マミさんはあの人を知ってるの?」

「えっ……」

――私は、命さんをどれくらい知っているんだろう……。

…………知らない。

何も、知らない。

美樹さんが知っているようなことでさえ――

「でも、私にはそうは思えない。だって、だって命さんは……命さんは……」

 表情が切なく歪んでいくのが自分でも理解できた。
 語尾はか細くなり、最後には消えていく。
 マミはとにかく何か言おうとして、結局は何も言えなかった。
44: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/02/19(火)03:46 ID:RCd/gL2Bo(5/5) AAS
目標まではいけませんでしたが、ここまで
続きは蒼哭ノ魔竜公開までには
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