[過去ログ] マミ「私は……守りし者にはなれない……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第三章 (805レス)
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448: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)18:59 ID:GqgLvea9o(1/13) AAS
*
緑に茂った並木道を歩く。木立の隙間から入ってくる光が眩しくて心地良い。
少女はぐるりと見渡すと、広場中央にある樹の四方を囲んだベンチに腰掛ける。
手に提げたビニール袋を脇に置くと、周囲を観察する余裕ができた。
平日の昼間とはいえ、大きな公園内には人も多い。
散歩する老人。大学生か何かだろうか、談笑する若者。外回りらしきサラリーマンの姿もある。
みんな立場は違っても、どこかから来て、どこかに帰るのだろう。ここはその途中、休憩に立ち寄っただけ。
自分とは違う――そう、杏子は思った。
行き場所も帰る家もなく、目的もなく暇を持て余している自分とは。
グリーフシードと、食糧ないしは金が足りている限り、するべきことは特になかった。
必要になったらその都度、奪うなり盗むなりする。
寂しいと嘆いたことはない。昔は感傷もあったが、もう感じなくなって久しい。
それは今も変わらない。
ただ、楽しそうに、或いは懸命に日々を過ごしている人々を見ていると、以前はなかった感情が疼いた。
虚しい、と。
「くそっ……なんだって、こんな気持ちになりやがる……!」
胸の虚無感を埋めるかのように、杏子は袋からリンゴを掴んでかじった。
魔法少女の力を利用すれば、とりあえず食うには困らない。
しかし、毎日のように腹を空かせていた頃の方が、まだ美味いものを食べていた気がする。
不意に、じんわりと懐かしさが胸を切なく締めつける。これも久し振りのことだった。
杏子はリンゴを乱暴に咀嚼することで、込み上げる郷愁を噛み砕く。
449: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:03 ID:GqgLvea9o(2/13) AAS
別に、今だって毎日三食を腹一杯に食べられる訳じゃない。
現に昨日から何も食べておらず、腹の中は空っぽだ。
こうして食べるリンゴの味は昔と変わらない。充分に美味いと感じられる。
だが、たとえ胃袋が満たされたとしても、真に空腹が埋まることはないだろう。そんな気がした。
心にぽっかり開いた穴は今も広がり続けている。
――ったく……それもこれも、あいつのせいだ。
杏子は心の中で一人の男を思い浮かべた。
涼邑零。
もともと杏子は、彼を追いかけて見滝原まで来た。
発端は子どもじみた対抗心だったが、彼を超えよう、倒そうと躍起になる間は、
過去も未来も、余計なすべてを忘れられた。
零を追って強くなっていく実感は悪くなかったし、目標を持つと日々に張りが生まれるのだと初めて知った。
それは希望と呼べるほど輝くものでもなかったが、何かに一生懸命になったのは随分となかったことだ。
しかし、それも一昨日まで。
ホラーの術中にはまり、幻影を見せられ、すべてを思い出した。いや、記憶は片時も忘れてはいなかった。
ただ、鮮明な光景として掘り起こされ、再び刻みつけられた。あの時の感情まで、まざまざと蘇ってきた。
無意識に目を背けてきた過去を再び直視させられた瞬間、すべてが虚しくなった。どうでもよくなった。
あの日の雨に掻き消されたみたいに、心は湿気て燃え立たなくなった。
こんな自分が強くなってどうするのか。零を倒したとして、何を望んでいるのか。そもそも望む資格があるのかと。
450: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:05 ID:GqgLvea9o(3/13) AAS
そう、零に非はない。八つ当たりは自覚している。
だが熱くならず関心を抱きもしなければ、無味乾燥な毎日を送っていれば、
少なくともこんな気持ちにはならなかった。いきなり梯子を外されたようなものだ。
そして今、杏子は迷っていた。
この街に留まるべきか、元の縄張りに帰るべきか。
迷っているということは、諦めきれていないということ。
しかし何に執着しているのか、わからずにモヤモヤした感情を持て余していると、
「よっ、あんこちゃん」
頭上から声が掛かった。
顔を上げるまでもない。腰から下を見るだけで、声を聞くだけで誰だかわかる。
溢れる陽気にそぐわない、見ているだけで暑苦しい格好の男は、
自分をあんこちゃんなどと呼ぶ男は、もっと言えば杏子に親しげに話しかける男は一人しかいない。
「またあんたか……何しに来たのさ」
鬱陶しそうに溜息をつくと、零は許可も取らず杏子の隣に腰掛ける。
隣と言っても、杏子から斜め後ろ――直角に向いているので、
顔を合わせもしなければ、傍からは連れにも見えないだろう。
拒否すら面倒だったので放っておいた。
「手厳しいな、あんこちゃんは。ただの偶然だぜ。ひと仕事して休憩しようと思ったら、あんこちゃんがいただけ」
「どうだか」
「これでも暇じゃないんでね」
451: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:07 ID:GqgLvea9o(4/13) AAS
皮肉のつもりか。一瞬ムッとなるが、ここで怒れば図星を指されたと思われる。それはそれで癪だ。
だから杏子も努めて平静に、皮肉で返してやる。
「そりゃあ、商売繁盛で結構なことで」
「喜ばしいことじゃないよ。そんだけホラーに人が喰われるってことだし。
こんなに忙しい街も珍しい。それに魔女だっている。
あんこちゃんが、さっさと魔女を狩ってくれたら俺も助かるんだけどな」
「ま、そのうちね……」
気のない声で答える。
当面、グリーフシードには不自由していないし、とり急ぎ魔女を狩る必要はないのだ。
そんな気分にもなれなかった。
「あんこちゃんは昼飯? 美味そうなもん食ってるじゃん」
曖昧にかわされても零は構わず、杏子の袋を勝手に物色している。
しかし袋に入っているのは、リンゴがもう一個の他はコンビニのサンドイッチやおにぎり、あとは菓子ばかり。
大して美味くはない。
そもそも人喰いの話から即昼飯の話に切り替えられるあたり、この男もどこかおかしい。
慣れきっているのだ。日常のひとつなのだ。
命懸けで戦うこと、人が喰われるのを見ること。それらが飯を食い、寝るのと同じくらい常態化している。
――気に入らない。
「欲しけりゃやるよ。好きに取りなよ」
452: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:08 ID:GqgLvea9o(5/13) AAS
すると、さも珍しいと言わんばかりに、零は目を僅かに丸くした。
してやった、と内心で拳を握りつつ杏子は言葉を継ぐ。
「ただし、盗んだ金で買ったもんだけどね。食ったらあんたも同罪さ」
ニタリと口の端をつり上げ、悪意たっぷりに言い放つ。
零を試す意図もないではないが、ただ単に意地悪をしたかっただけかもしれない。
返事次第では彼を嘲笑うなり糾弾するなりして、苛立ちを紛らわすつもりだった。
そして零は考えるまでもなく、
「そっか。そういうことなら遠慮しとく」
手を引いた。
あらかじめ用意していた答えを嘲弄と共に返す。
「ハッ、だろうね。どうせ正義の味方様はそんなことできないってんだろ」
「だって俺が食ったら、あんこちゃんの分が減る。そうなったら、どっかの誰かに悪いだろ」
零の答えに、杏子は一瞬だが面食らった。
彼は杏子の行為を否定しなかった。自由を阻害しなかった。
だが盗むこと自体を咎めはしなかったが、杏子の行動によって誰かが迷惑を被ると暗に伝えている。
自分の面子を気にしている様子はない。
返事に迷っていると、零はからかい混じりの笑みを浮かべ、
「――みたいな答えが、正義の味方としては正解かな?」
453: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:09 ID:GqgLvea9o(6/13) AAS
「……遠回しな説教のつもりかい。らしくもない」
杏子はそっぽ向いて、そう言うのが精一杯だった。
零は杏子の思考も動揺も見抜いたかのように苦笑する。
「確かに、俺の柄じゃない。あんこちゃんが何をしようが関係ないし、知ったことじゃない。
正義の味方のつもりもないしね。けど自罰的って言うのかな、
今日のあんこちゃんは責めてほしいように見えたからさ。
あんこちゃんがお望みなら説教してもいいけど?」
「ふんっ、誰が……」
などと言いながらも、杏子の内では零の言葉が反響していた。
自罰的――当たっているかもしれない。
少なくとも迷いは生じ始めている。このままでいいのかと。一度は振っ切ったはずだったのに。
自分は何故戦っているのか。決まっている、生きる為だ。では、何の為に罪を犯してまで生きているのか。
家族も何もかも失って、それでも生きている理由。
異なる立場で異なる怪物と戦っている人間を知ってからというもの、少しずつ考えるようになった。
もし彼の意見を聞けたならヒントになるだろうか。
「そんなことよりさ、あんたは何で戦ってるんだ? だって正義の味方じゃないんだろ?
いくらもらってんのか知らないけど、化物相手に戦うなんて単なる仕事じゃなかなかできない」
抵抗はあったが、話題を逸らすついでに杏子は思い切って訊いてみた。
この流れを逃せば、いつ機会があるかわからない。純粋に興味もあった。
「へぇ、あんこちゃんも魔戒騎士に興味なんてあるんだ。
何でって言っても、魔戒騎士ってのは多くが世襲で代々の家業なんだけど」
454: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:13 ID:GqgLvea9o(7/13) AAS
「他がどうとかじゃなく、あんたはどうなんだよ」
今の口振りでは例外もあるということ。そして、零は何となく一般の騎士に比べ型破りな気がした。
もっとも他の魔戒騎士も知らなければ、彼の身の上も聞いていないから勘でしかないのだが。
「戦う理由ねぇ……昔は色々あったけどな」
チラリと横目で窺った零は、どこか遠い目をしていた。
杏子の知る由もない昔を思い出しているのだろうか。
杏子にあるように、零にも壮絶な過去や変遷があったのかもしれない。
「今は強いて挙げるなら……そうだな。
ひとつは"これ"が一番得意で自信がある。なにせガキの頃から剣ばかり振ってきたから。
これしかできないくらいに。
それともうひとつ、他人と比べて――魔戒騎士の中でも、ちょっとばかり上手くできる。
だから、誰かがやらなきゃいけないなら俺がやればいいって、そんなとこかな」
言い切った零に、今度は杏子が目を見開いた。
「……ほんとに、それだけの理由で……?」
それが得意だから。
他人より優れているから。
必要とされているから。
並べてしまえばありふれた、一般の職業選択の理由と何ら変わりない。
最後だけはらしいと言えなくもないが、それだって前ふたつがあって成り立つような口振り。
怪物を狩るという、極めて特殊な使命に臨む戦士の言葉としては意外に感じられた。
455: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:15 ID:GqgLvea9o(8/13) AAS
しかし、仮にその胸に正義感や使命感が宿っていたとしても、
彼の性格からして大っぴらに口にはしないだろう。
短い付き合いの杏子でも、それくらいはわかる。
「じゃあ、俺からもひとつ。あんこちゃんはさ、何の為に生きてるんだ?」
「え……」
戦う理由でなく、生きる理由。
いきなり問われて言葉に詰まった。
それこそが、今最も杏子を悩ませている疑問だったから。
「当ててみようか。何となく、死にたくないから――ってとこ?」
「っ……だったら悪いのかよ……!」
つい語気を荒げてしまった。
彼の指摘が正しいのかはわからない。ただ、いくら考えても理由なんて出てこない。
気の利いた返しも思いつかない。なら、たぶん彼が正しいのだろう。
「いや、人間なんて大抵そんなもんだよ。俺だってそうだし」
「あんたも……?」
「さっきはああ言ったけど、実のところ俺だって戦う理由なんてほとんど意識しちゃいない。
俺にとっては、生きることも戦うことも同じようなものだから。
もし大それた理由がなくたって、あんこちゃんが生きる為に戦ってるなら、それはごく自然だと思うけどね」
「なら、あんたは……」
456: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:16 ID:GqgLvea9o(9/13) AAS
しかし、仮にその胸に正義感や使命感が宿っていたとしても、
彼の性格からして大っぴらに口にはしないだろう。
短い付き合いの杏子でも、それくらいはわかる。
「じゃあ、俺からもひとつ。あんこちゃんはさ、何の為に生きてるんだ?」
「え……」
戦う理由でなく、生きる理由。
いきなり問われて言葉に詰まった。
それこそが、今最も杏子を悩ませている疑問だったから。
「当ててみようか。何となく、死にたくないから――ってとこ?」
「っ……だったら悪いのかよ……!」
つい語気を荒げてしまった。
彼の指摘が正しいのかはわからない。ただ、いくら考えても理由なんて出てこない。
気の利いた返しも思いつかない。なら、たぶん彼が正しいのだろう。
「いや、人間なんて大抵そんなもんだよ。俺だってそうだし」
「あんたも……?」
「さっきはああ言ったけど、実のところ俺だって戦う理由なんてほとんど意識しちゃいない。
俺にとっては、生きることも戦うことも同じようなものだから。
もし大それた理由がなくたって、あんこちゃんが生きる為に戦ってるなら、それはごく自然だと思うけどね」
「なら、あんたは……」
457: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:18 ID:GqgLvea9o(10/13) AAS
何の為に生きているのか。
そう問おうとしたのだろうが、うまく言葉が出なかった。
軽々しく尋ねるのに抵抗があったのか、それとも比較して空虚な自分を意識するのが怖かったのか。
杏子自身にもわからなかったが、それでも零は意図を汲み取ってくれたようだ。
「あとは、そう……戦いの中でも、たまには心からやってて良かったと思える瞬間がある。だからかもな」
「それは――」
「秘密。前に言ったろ、ひとつ教えるならこっちも、って。
欲しいなら対価を払うか、それとも盗むか奪うかな。いつもあんこちゃんがやってるみたいにさ」
杏子は勢い込んで追及しようとしたが、あっさりかわされる。
ここまで言っておいて勿体ぶる零に底意地の悪さを感じながらも、力尽くで聞き出そうという気にはなれなかった。
挑発されて腹は立つが、かと言って力で聞き出して何になる。それで自分は満足できるだろうか。
それなら、もうひとつの手段を選ぶより仕方ない。
またぞろ面倒な質疑応答を始めるのかと杏子が構えていると、
「さてと、そろそろ行くかな」
予想に反して零は立ち上がり、歩き出そうとする。
当然、質問されると思っていた杏子は慌てた。
「お、おい。どこに……」
「俺も飯にするよ。それから夜に備えて休憩。またね、あんこちゃん」
458: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:20 ID:GqgLvea9o(11/13) AAS
ヒラヒラ手を振って去っていく零。
質問はない、ということなのか。
ひとつ答えたらひとつ質問できるという交換条件に則れば、零が訊かなければ杏子からも問えない。
その気がないなら教えてくれてもよさそうだが、あくまでタダで教える気はないらしい。
引き止めることもできず、杏子は零を見送った。
暫し呆然とした後、
「くそっ……何なんだよ、あの野郎は!」
やり場のない憤りをベンチに叩きつけた。周囲にいた数人の視線が刺さる。
零が隠した内容は?
何故隠したのか?
まるでわからない。今は考えるのも面倒だ。
食欲も失せた。ここにいて目立つのも嫌だったので、袋を纏めて立ち上がる。
自分もどこかで横になろうかと足を踏み出した矢先。
その目が公園の外の雑踏に留まった。魔法少女の優れた視力が捉えたもの、それは――。
艶めいて柔らかそうな金の巻き髪。
白を基調とした制服、胸元の赤いリボン。
その髪を、服を、横顔を覚えている。家族を除けば最も親しい仲だった少女。
459: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:22 ID:GqgLvea9o(12/13) AAS
「巴マミ……」
そして今は最も逢いたくなかった少女。
突然の邂逅に杏子は戸惑った。彼女が見滝原にいるのは当然ではあるのだが。
そうこうしている間に、彼女の姿は見えなくなった。杏子には、まったく気付かないままで。
一瞬、追うべきか迷い――。
「いや、まさかな……」
首を横に振った。
考えてみればおかしい。
あの真面目腐った彼女が平日の真昼間に、しかも制服姿で街中をぶらついているはずがない。
しかも、あんな見覚えのない、壊れかけのような虚ろな表情で。
遠目で数秒のこと。見間違いだろう、そう思うことにした。
気安く肩を叩ける仲でもなし、そうであってほしい。
「あたしは……これからどうするかな……」
ぽつり、と誰にともなく呟いてから、遠ざかるように杏子は逆方向に歩き出した。
この時もしも追っていたなら、二人の運命はまるで異なる道筋を辿っていただろう。
しかし杏子がそれを知ることはなかった。
460: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2013/10/01(火)19:24 ID:GqgLvea9o(13/13) AAS
前回から相当遅れてしまいました
一度鈍ると書けなくなるのに加え、書き直したり手間取っていました
今回は疑問を感じる方もいらっしゃるかと思いますが、
自分なりに想像したところ、こんな感じかなと
改めて零は掴みにくいところがあると思ったので、スピンオフに期待
あと、闇を照らす者の続編も
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