[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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166: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:51 ID:riuFgEhho(1/6) AAS
「クスッ……賑やかな娘ね」

 周囲の椅子を蹴散らしながら去っていくさやか。
台風が過ぎた後のように静まり返ると、命が口を開いた。
まどかはというと、自分のことのように身を縮こまらせている。

 マミは、自然と笑みを浮かべていた。
さやかよりも、さやかのことで恥じらうまどかが可笑しくて、可愛くて、
もう少し見ていたい気分に駆られる。
 とは言え、このままでも可哀想なので、話を逸らしがてら尋ねてみる。

「面会時間とか病院って言ってたけど、誰かのお見舞い?」

「あ、はい。クラスメイトで、さやかちゃんの幼馴染の男の子なんですけど、
先月から交通事故で入院してて……」

「何? ひょっとして彼氏とか?」

 命が嬉々として口を挿むも、まどかは力なく首を振った。

「そういうのじゃないんです。でも、さやかちゃんは気に掛けてて、
よくお見舞いに行ってるんです」

 命もマミも、暫く何も言わなかった。いや、言えなかった。
 まどかが表情を曇らせていたからだ。軽い調子で語れる話でないことは明らかだった。
167: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:53 ID:riuFgEhho(2/6) AAS
「……ごめんなさい、からかったりして。ひょっとして重い怪我なの……?」

「幸い、そんなに重くはないそうですけど、手が……。
将来を期待されてたヴァイオリンも、また弾けるようになるかわからないって……」

「そう……」

 とだけマミが言うと、それきり沈黙が訪れる。全員が続く言葉を失っていた。
 話を逸らすつもりが、思いがけず重い話を聞いてしまったと、マミは後悔した。
 まず、さやかへの申し訳なさ。本人が不在なのに深い事情を知ってしまった。
そして辛いだろうに、それを語らせてしまったまどかにも。

 次第に騒がしくなりつつある周囲のざわめきから、隔絶されたかのような静寂。
 マミは命が上手く空気を変えてくれることを期待したが、
彼女はテーブルに肘をつき、組み合わせた手で目を隠しており、その表情は窺えない。

 命でさえ気の利いた慰めが思いつかないのだ。
きっと、今は何を言っても空虚にしか聞こえない。
 言葉は口から出た瞬間に力を持つ。相手を、時には自身を傷つけもする。
 故に、役に立たない言葉は封印して黙るしかなかった。

「ごめんなさい、湿っぽくしちゃって……私、そろそろ帰らなきゃいけないんで失礼します」

 まどかが立ち上がってお辞儀をする。気を遣わせてしまったのは明白だが、止めはしなかった。
この場には居辛いだろうし、帰らなければならないというのも嘘ではないだろう。

「うぅん……こちらこそ、ごめんなさい。今日は色々迷惑かけちゃったし、ここは払わせてちょうだい、ね?」

「ありがとうございます……それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
168: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)01:59 ID:riuFgEhho(3/6) AAS
 命の提案にまどかは迷う素振りを見せたが、やがて躊躇いがちに頷く。
 そして鞄を持って帰ろうとするところを、マミが呼び止めた。

「ねぇ、鹿目さん。最後にひとつだけ聞いていいかしら?」

「はい?」

 マミは振り向いた彼女の顔、その眼をじっと見つめる。
くりっと大きく、まだ純粋で穢れを知らない円らな瞳を。
 見ていると、形容し難い複雑な感情――敢えて言葉にするなら保護欲と嫉妬が混ざったような――を覚えたが、
それらは胸の奥に沈めて質問はひとつ。

「あなた、願い事はある? もしも魔法少女になるとして、キュゥべえに頼みたい願いが」

 真摯なマミの眼に射竦められたまどかは硬直し、目線だけを忙しなく彷徨わせる。
 それから三十秒ほどして、ようやく想いを口にした。

「え……っと……。正直、まだ……わかりません……」

 自信なさ気に絞り出した声は、三十秒も待たせた答えがこれで申し訳ないと、
秘めた謝罪の念を感じさせた。
 が、マミは責めない。元より予想できていた。
 むしろ、突然質問されてすぐに答えられる方がおかしい。そっちの方が真剣さを疑う。
迷うのは、事の重大性を正しく受け止めている証拠だ。

「そう……よく考えてみてね。
魔法少女になれば、今日の私みたいになるかもしれないことも念頭に置いて」

 迷える後輩に的確なアドバイスを送る為に。
 彼女たちが頼れる先輩だと、誇れる自分で在る為にも。
169: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:01 ID:riuFgEhho(4/6) AAS
――私は、真実を知らなければならない。

 マミは静かに決意する。
 一応の念押しと、勇気と決断の切っ掛けを得たくての問いだった。
 だから、もういい。

「ごめんなさい、呼び止めて。家まで送りましょうか?」

「いえ、大丈夫です。失礼します」

 そう言って、今度こそまどかも帰っていく。
 マミは、ふーっと細く長く息を吐いた。肺の空気と一緒に、心に溜まっていた淀みが流れていく気がした。
 そのことに不思議な心地良さを感じ、自然と頬が緩む。

「いい顔になったわね」

「えっ?」

 向かいに座った命が、マミを見て目を細めていた。
 どうやら、ずっと見ていたらしい。気付くと、途端に恥ずかしくなる。

「そう……でしょうか……」

「うん。さっきまではこう……キッ! と張り詰めて頑張ってる感じがしたけど、
今はリラックスしてるんじゃない?」

 命の言う通り、自分を苦しめていた重荷がひとつ下りて、今は少し心が軽い。
 現状が何か変わった訳ではないが、覚悟を決めただけで、世界が違って見える気がした。
あくまで気がしただけだが、それで充分。
170: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:13 ID:riuFgEhho(5/6) AAS
 マミの表情にも雰囲気にも、切れる寸前まで張った弦のような危うさは既になく、
険が取れて柔らかになっていた。
 指摘されて初めて、それを自覚する。

「だとしたら……夕木さんのお陰かもしれません」

「私? 私は何もしてないわよ?」

「はい。私が勝手にそう思ってるだけですから」

 命が訳がわからないと首を傾げる様が無性に可笑しくて、マミはクスッと小さく吹き出した。
 それは、マミが久しく見せなかった素の笑顔。
 後輩の前で見せる上品で優雅なそれとも異なる、歳相応の子供らしい顔。

 クラスの友人の前でも滅多に見せたことがない。家族を亡くしてからというもの、
どこか他人に対して一線を引き、強く頑なな自分を作ろうとしていたから。
 それが崩され、否定され、打ちひしがれていた時に、その価値を認めてくれたのが彼女だった。

 人と人との仲は、必ずしも時間と共に深まるとは限らない。
 少なくとも、一方的に好意を抱く分には、時間はさほど重要ではない。
 例えば自分とまどか、鋼牙とさやかのように。

 前者のように共通する物は何もないし、後者ほど劇的な出会いでもない。
 ほんの些細な巡り合わせ。
 それでもマミは、命に好意を抱き始めていた。
171: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/04/30(月)02:26 ID:riuFgEhho(6/6) AAS
短いですが、ここまで。結局、一週間も開いてしまいました
何日か書いていないと勘が鈍ってしまい、思うように手が進みませんでした
しばらく文体も二転三転すると思いますが、頑張って取り戻したいと思います

たくさんの感想ありがとうございます。参考にさせていただきます
議論雑談も、脱線し過ぎない程度なら好きにして下さって構いません

現状のマミのキャラ付けに不満を感じる方もいらっしゃるようで、申し訳ありません
ただ、クロスオーバーを書く際に、どちらか一方だけを贔屓はしたり貶めたりはしないよう心がけています
下げることがあっても、上げるための前振りだと思っていただければ
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