[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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749: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:12 ID:VPkeJGs0o(1/9) AAS
 話には聞いていたが、その姿は異様としか言いようがなかった。
 恐ろしく、醜悪な容貌自体はホラーとしては珍しくないが、最も特徴的なのは両肩の輪。
右の輪の中には炎が、左には氷の結晶を思わせる水色の物体が。
 既に零も味わっている、切り離して自在に飛び回る腕も、付け根に肩と同色の光があった。

 情熱と哀しみを表しているかの如き炎と氷は、
闇の中で煌々と輝き、不覚にも美しいと感じてしまう。
 しかし、この炎が人を焼き、氷が人を凍らせて砕く。
故に、この世界に絶対にあってはならない光。

 ホラーは何も語らない。もう命の名残は、どこにも残っていないのだろうか。
 零は少し考えて、無意味だと首を振る。どの道、ここに至っては言葉など無用。
 人を喰い、人に憑依するホラーと魔戒騎士は決して相容れない。殺し合うしか道はないのだから。

 戦いは睨み合いから何の前触れもなく、静かに始まった。
 掛け声も合図もない。それぞれ相手の思考を察し、結果ほぼ同時に動いた。
 零が双剣を手に駆け出し、ホラーの両腕が飛ぶ。

 モロクの攻撃に対し、零は正面から突き進む。
 飛ばせる両腕は想像以上に素早く、変幻自在。
遠距離、少なくとも視界が届く範囲はモロクの独壇場である。勝つには近距離で戦うしかない。

 左の剣で確実に切り払い、右の剣は撫でるように逸らして避ける。
右手の握力さえ戻り切っていれば、右も難なく弾けたのだが。
 と、嘆いてみても仕方ない。零は一気に距離を縮めた。

 連続して襲い来る腕をかわす度に手の痺れは強まる。
 気を抜いて剣を落とせば、即座に死に至る緊張。ほんの数メートルが遠い。
750: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:15 ID:VPkeJGs0o(2/9) AAS
 零は切り払い、或いはかわして、モロクにあと一歩まで接近したところで反転。
クルリとモロクに背を向け、首元目掛けて迫る腕を右で牽制しつつ、後ろ手で左の剣を刺した。 
 胸を突かれ、姿に似つかわしくない女の叫びが迸る。
 
 苦痛に満ちた悲鳴も、耳に届いても心に響くことはない。
 冷徹にバックキックで剣を引き抜き、前転で腕を潜り抜け、仕切り直す。

――勝てる……!

 一連の攻防の中で零が得たものは確信。
 右手が負傷していても、自分が圧倒しているという手応え。
 後は右手が回復次第、鎧を召喚して勝負を決める。

 冴島鋼牙が一度は倒したホラーだ。
 あの頃の鋼牙の力量を、既に零は凌駕している。
もっとも、鋼牙は更に先へ行っているのだから慢心できようはずもないが。
 
 零に油断はなかった。
 ただ、この時は意識から外れていた。

 人は短い生涯の中で成長し、経験を次の世代に伝え、
そうして魔戒騎士の知恵と技は連綿と受け継がれていく。
 だがホラーもまた封印の度、魔戒騎士との戦いの記憶を持ち越し、
より悪辣に、より狡知に長けて、この世界に再び現れることを。

 それも油断と言えるかもしれないが、この目で見てきたのだ。
数多の戦いを切り抜け、強大なホラーを滅してきた騎士でさえ、
些細な歯車のズレから格下のホラーに敗れる場合もあると。
751: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:19 ID:VPkeJGs0o(3/9) AAS
 自分も、いつそうなるかもしれない。

 肝に銘じていたはずだったのに。

 零は攻め手を緩めない。再び腕をかわし、懐に入ろうとする。
 流れはこちらにある。回復まで時間稼ぎするよりは、攻撃した方が却って安全。
 二度目は比較的、楽だった。モロクの反撃が左腕の一本のみだったからだ。
 
 では右腕はどこに行ったのか。
 モロクの右腕は右肩の後ろ。輪の中の炎を握っていた。 
同時に、左腕が零の動きを封じようと掴みかかる。

 背筋に走る悪寒。魔戒騎士の直感が身体を衝き動かす。
 魔戒剣を下から振り、

「っぁあああ!」

 左腕を斬り上げた勢いのまま床を蹴り、横に回転。
その傍らを放たれた火球が飛び、着弾。一時、闇に明かりを灯す。
 炎か結晶を握り込んだ手から、対応する炎弾ないし氷弾が出るらしい。

 一撃の威力が高いのは厄介。けれども決定的な弱点もある。
 そうそう連射できず、しかも音と光を放つこと。
無音で闇に紛れたりしないので至極、読み易い。

 何発か避けるうち、零は火炎弾の軌道、間隔を見切った。
後は左腕さえ排除すれば、残るは本体。
752: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:21 ID:VPkeJGs0o(4/9) AAS
 行く手を阻む左掌に右の魔戒剣を突き立てる。
 如何に岩のように強固な肌であっても、
手のひらは防御も薄く、握力の弱った右手でも刺すには充分だった。

 だが、剣を抜こうとした時、零は驚愕に目を見開いた。

「な……にっ……!?」

 モロクの左手は刺さった魔戒剣を握り締めたのだ。
 当然、ソウルメタル製の剣である。そんなことをすれば、傷が深くなるだけ。
現に、指の間を刃が切り裂いて、黒い体液がダラダラ垂れ落ちていた。
 
 急いで引き抜こうにも、がっちり食い込んでいる上に握られている。
左手も全力で零に抗っているせいか、簡単には抜けそうになかった。
 零は一瞬の逡巡の末――魔戒剣を手放した。

 手を引いた零と、剣を刺したまま素早く飛び去る左腕の間を、火炎弾が過ぎる。
 剣の取り合いを続けていたら、右手は黒焦げになっていただろう。
 偶然とは思えない。企んでいたとしか考えられなかった。

『まさか……!』

「魔戒騎士対策ってことかよ……!」

 腕一本を犠牲に、剣一本を奪う。
 双剣使いにとって、片方の剣を奪われれば戦闘に支障をきたす。
が、問題はそれだけに留まらない。
753: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:24 ID:VPkeJGs0o(5/9) AAS
 一対の剣が揃っていなければ鎧の召喚は行えない。

 よしんば可能だったとしても、防御と逃げに徹されたら、
一本では99.9秒の制限時間内に押し切れるか怪しい。
 次にモロクが取るであろう行動も、容易に察しがついた。
だとしても勝算には繋がらず、有利な状況がひっくり返されたことに変わりはないのだが。

 それから零は魔戒剣を奪還しようと右手を追うが、
案の定、右手はヒラヒラ逃げるばかりで攻撃すらままならなかった。
 援護に来るかと本体を狙っても、なかなか誘いに乗らない。
攻撃力と手数不足で、充分にダメージを与えられなかった。

 このままでは無駄に疲労するばかりで埒が明かない。
開かれた戦場も、今は枷にしかならなかった。
 零は敵に背を向け、階を上がる。
 どうにか、そこで迎え撃つ手段を考えなければ。

 三階は二階に比べて小奇麗で、さほど荒れてもいない様子だった。
 窓に面した長く狭い廊下と部屋がいくつかある。隠れて奇襲が適切か。
 零が顎に手をやり思案していると、

『面倒なことになったわね、ゼロ』

「ああ、まったくだぜ」

『随分と落ち着いてるのね。まぁ、あなたらしいけど。
でも、これからもっと面倒になりそうよ』

「へぇ……」
754: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:27 ID:VPkeJGs0o(6/9) AAS
 シルヴァと軽い調子の会話を交わしていると、背後から階段を上がる足音が響く。
 予想通りだが、やはり追ってきた。
 なるほど。面倒になりそうだ、と零は内心で嘆息した。

 それから零は長い廊下をひたすら逃げた。
 反撃の糸口も見つからない。
 みっともなく足をもつれさせ。
 命からがら。
 這う這うの体といった具合に。

 走りながら、攻撃を避けながら。
 零は廊下の窓ガラスを片っ端から割っていった。
 幸い屋内には可燃物がなかったせいか、炎が燃え広がることはない。
それでも新鮮な空気を取り入れる意味はある。

 モロクの外した、或いは切り払った火炎弾を外に出す為でもあった。
 弾く度にガラス片と火の粉を撒き散らされるよりはマシである。
 市街地のエアーポケットのような廃ビルは、敷地内も荒れ地だったはず。
これも火災の心配はまずないと見ていい。

 やがて、逃げて逃げて、とうとう追い詰められる零。
 もう少し下がれば突き当たりの壁。最早、逃げ込む部屋もない。
 最後の窓ガラスに手をついて外を見る。

 隣のビルまで20mは離れている。飛び移るのは流石に難しい。助走も足りない。
あちらの方が幾分か高い分、向こうの屋上から跳ぶのならいざ知らず。
 昼間か満月の夜ならまだしも、視界が利き辛い今は止めておくのが無難だろう。
 何より無意味だ。三階の高さなら楽に飛び降りられるのだから。
755: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:28 ID:VPkeJGs0o(7/9) AAS
 つまり、いざとなれば窓から逃げることも可能なのだ。
 考える時間はあった。
 モロクは零を嬲っているつもりか、ゆっくりと余裕の足取りだった。

 零から五歩の距離で立ち止ったモロクは、しかし攻撃をしてこない。
 ここまで醜態を曝した零を侮っている。
いつでも殺せると高を括っているに違いない。

――ホラーに剣を奪われたまま、情けなく尻尾巻いて逃げ帰る……か。
重大な掟破り……厳罰、少なくとも称号の剥奪は覚悟しないとな――

「けど俺……あんまり掟とか気にしないんだよね」

 誰にともなく呟くと、懐からライターを取り出し、着火。
 窓に向かって軽く腕を回すと、緑色の炎が輪を描く。
 ここにいるぞと、誰かに合図を送るように。

 すると、隣のビルの屋上で赤い光が一際強く輝いた。
756: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:30 ID:VPkeJGs0o(8/9) AAS
 外を見遣ると、何かが風を切り、高速で飛来してくる。
 零は後ろに飛び退きながらも、一瞬たりとも目を逸らせなかった。

 まるで放たれた矢――いや、この速度と予想される破壊力を形容するには到底足りない。
 砲弾。
 或いはミサイル。
 様々な比喩が頭に浮かぶ。

 だが幽かに赤く光の尾を引く様は、美しく、どこか一瞬で消えそうなほど儚く。
 彼女の姿は零の目に、まるで流れ星のように映った。

 そして窓に飛び込んでくる流星。
 けたたましい音を響かせながらガラスを派手に砕き、床に槍を突き立てた。

「ちっ……外したか」

 憎々しげに呟いて立ち上がったのは、魔法少女、佐倉杏子だった。
757: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/11/06(火)03:34 ID:VPkeJGs0o(9/9) AAS
ここまで。次こそ日曜日にできれば

モロク戦については、原作の描写から変えてみました
wikiには火炎弾と氷弾を放って攻撃とありますが、改めて見返すと直接攻撃に使ってはいないんですよね
牙狼の動きを束縛?するのに使っていたようですが(あまり効いていませんでしたが)
正直よくわからなかったので、ここでは攻撃に使っています

実際1本で召喚できるかはわからなかったので、ここではできないものとしています
できたらすみません

>>747-748
お気遣いありがとうございます
いろいろ牙狼らしくない点も多々ありますが、これからも頑張ります
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