[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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520: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/08/13(月)03:11 ID:S3bLBGBqo(1/5) AAS
「それって……どういう……」

 震える唇が、辛うじて言葉を紡ぐ。
 命は答えず、笑みを深くするだけだった。

 命の言う通り、恭介が交通事故に遭ったのは、人気の少ない雨の夜。
 さやかの脳裏に想起される記憶。それは、恭介の事故当時のこと。

 事故の知らせを聞いたさやかは酷く動揺し、学校はおろか日常生活すら手に付かなかった。
幸い、命に関わる重傷ではなかったものの、一時は食事や睡眠もままならなくなるほど、
さやかにとって彼の存在は大きかった。
 
 さやかは面会可能になって、すぐに恭介の病室を訪ねた。
 ベッドの上の彼は思ったより元気そうで、けれども包帯で覆われた左手の不安と悲嘆は隠せていなかった。
 安否を確認したさやかは、取りあえず安堵の息をつき、彼の左手に心を傷めた。
となれば、次に気になるのは事故の原因。

 それが恭介の口から語られた時、さやかは衝撃を受けた。
 
 調査によると、運転手も目撃者も口を揃えて言ったらしい。
事故の瞬間、周囲には誰もおらず、恭介がふらりと出てきたと。
 しかし、恭介は言った。誰かに背中を押されて車道に突き飛ばされた――と。

 勿論そう主張したが、彼自身、前後の記憶がはっきりせず、また練習帰りで疲れていた為か断言できなかったそうだ。
 その後の始末を両親らに任せてからは「何も心配しなくていい」と言われ、情報もほとんど入っていない。
ただ、相手側にも過失があり、自分の曖昧な証言はあまり考慮されていないようだ、とだけ彼は漏らしていた。
521: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/08/13(月)03:14 ID:S3bLBGBqo(2/5) AAS
 このことに、さやかは一片の疑いも抱かず憤った。
 彼の命を奪いかけて、左手を奪った。
そんな人間が裁かれもせず、のうのうと暮らしているとしたら断じて許せない。 
 
 だが所詮、中学生にできることと言えば聞き込みが精々。
成果が出るはずもなく、何の助けにもならず今に至っている。
 それでも、さやかは決めていた。 

 もし、その犯人がいたのなら。
 いや、そうでなくとも、疑いがあるのなら。
 どこまでも追いかけて、追い詰めて、如何なる手段を使っても真実を明らかにする。
恭介の前に引き出して、土下座させてやる。それくらいの心積もりだった。

 彼女の想いは、怒りは、それほどまでに激しかった。
 そして今、目の前に疑わしい人物がいる。
 だというのに――。

 身体は竦んで、一向に動いてくれない。捕まってもいない、触れられているだけなのに。
ただ小刻みに震え、視線を泳がせるだけ。
 声も出せなかった。何かされた訳ではない。喉を塞いでいるのは恐怖。
 問い詰めなければという思考はあるのに、頭の中で鳴り止まない警鐘が邪魔をする。

 烈火のように燃えていた怒りも、刻み込まれた圧倒的な恐怖の前では風前の灯。
情けない、という自嘲すら吹き飛んでいた。
522: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/08/13(月)03:15 ID:S3bLBGBqo(3/5) AAS
 昨日あんな危険な場所で出会ったばかりの人間を、
何故もっと警戒しなかったのかと悔やむが、もう遅い。
彼女が何者であれ、さやかを如何様にでも料理できる状態にある。

 空はとうに薄暗くなっていた。
 また、夜が来る。
 自分を呑みこんで喰らう闇が迫っている。
 もう二度と遭遇したくないと思っていたのに。
 
 ほむらとまどかに見捨てられ、マミはホラーの前に倒れた。
 救いは来ない。
 あの日の絶望が蘇り、心を覆い尽くす。

 周りはこんなにも明るくて、こんなにも人が大勢いるのに、さやかは孤独だった。
 辛うじて動く目で周囲を見回しても、彼はいない。
 だとしても、ただ一心に、叫ぶように念じるしかできなかった。
あんな都合の良い奇跡、二度も起こるはずがないとわかっていても。

 さやかは固く目を瞑り、繰り返し彼の名前を呼んだ。

――助けて!

 絶体絶命の状況で頼れる唯一の存在。
 闇を切り裂いてくれる魔戒の騎士の名を。

――助けて!! 冴島さん!!
523: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/08/13(月)03:17 ID:S3bLBGBqo(4/5) AAS
 強く心に想った瞬間。
 ドンとテーブルが揺れ、左手首が温かい人肌に包まれる。
 そ〜っと目を開くと、手首を握る何者かの手によって、命と引き離されていた。

 弾かれたように、顔を上げるさやか。
 だが、繋いだふたつの手を離したのは冴島鋼牙――ではなく。

 見知らぬ男だった。

 鋼牙と同じく、もう暖かい季節というのにロングコート。ただし、その色は白でなく黒。

 歳はさやかより上だが、鋼牙よりは幾らか若く見える。
鋼牙と大きく違うのは、鋼牙が常にしかめっ面に見えるのに対し、
黒尽くめの青年は正反対に柔和な顔つきをしていた。
 
 隣では、赤い髪の少女が腕を組んで睨んでいる。こちらは、さやかと同年代だ。

「お楽しみのところ悪いけど、ちょっと付き合ってもらえるかな」

 命とさやかを覗き込み、男は言った。
 飄々と、おどけた風な口調は、鋼牙とはほど遠い。
 なのに身に纏う雰囲気は、どこか鋼牙と共通していた。
単に格好が似ているだけなのか、本能的に何かを感じていたのかはわからなかったが。

 だからこそ、さやかは彼が救いの主だと期待していた。
 その瞬間までは。
524: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/08/13(月)03:18 ID:S3bLBGBqo(5/5) AAS
ちょっと夏バテ気味で、短くてすみません。できれば、お盆の間にもう一度
そういえば土曜日に、ニコニコで二期の一挙放送があるそうで、とても楽しみです
リアルタイムにはきつい時間で、TS期間も短いですが
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