[過去ログ] さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 (1002レス)
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259: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:52 ID:JqNzRaySo(1/9) AAS
 まどかは鋼牙と連れ立って夜道を歩く。
 一歩引いて鋼牙の横に並ぶまどかは、時折チラチラと彼を窺っていた。
 精悍な横顔は前だけを見据え、眼は微動だにしない。

 それでいてまどかの様子も的確に把握しているらしく、まどかの早歩きに歩幅を揃えている。
疲れて少し歩調を緩めると、合わせてもくれた。
 見た目ではわかりにくいが、彼が優しく、信用の置ける人物であることは改めて実感できた。
 故に魔物に対する不安や恐怖は、もう欠片も残っていない。何せ最強の存在が傍にいるのだから。

 しかし今、まどかの表情には不安が浮かんでいる。
 彼の隠れた優しさは素直に嬉しいのだが、気難しい性格にまどかは戸惑っていた。
 静寂の夜道を歩く間、二人は一言も口を利いていないのだ。
 
 鋼牙はおそらく沈黙を重苦しいと感じておらず、無駄な会話も必要としないだろう。
そんな彼と何を話せばいいのやら。
 平然と歩く鋼牙の横で、まどかは内心悶々としていた。

――世間話……なんて駄目だよね、全然続く気がしないもん。
じゃあ、ホラーのこととか……。でも何を訊いていいのかわからないし、
知っちゃいけないかもしれないし……。
何か……あぁっ、思いつかないよ急に〜!――

 そもそも大人の男なんて父親や教師以外に馴染みがないまどかである。
まして相手はテレビから出てきたみたいなヒーロー。一般人とは違う、ともかく凄い人間という認識。
 雑談が成り立つはずもない。まどかにとって鋼牙は未知の生物に等しかった。
 考え過ぎて目が回りそうになっていると、

「どうかしたのか?」

 鋼牙が振り向いた。
 どうやら、頭を振って悩んでいるところを不審がられたものと思われる。
260: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:55 ID:JqNzRaySo(2/9) AAS
 何を話せばいいか迷っていた、などと本人を前にして言えるはずもない。

「い、いえ! 何でもないです!」

 また首を振って、慌てて否定した。
 ますます不審さが増して、鋼牙は訝しげに視線を合わせてくる。
それが更にまどかを混乱させるとも知らずに。
 そして遂には涙目になって頭を下げてしまう。

「あの、ごめんなさい……」

「何を謝る?」

「私、緊張しちゃって……。パパ以外の男の人と二人で歩くなんて初めてで、
何を話したらいいかわからなくって……」

 しどろもどろになり、消え入りそうな声で俯く。
聞こえたかどうかもさだかでなかったが、鋼牙は正面に視線を戻し言った。

「無理に話す必要はない」

 端的だが、どこか穏やかな色も含んだ声音。
自分を励まし、慰めようとしてくれているのが、まどかにも理解できた。
 だがその励ましが、慰めが、より彼との違いを浮き彫りにする。

 切っ掛けは、ほんの些細なこと。だが自分は満足に受け答えもできなかった。
それが恥ずかしくて、情けなくて、まどかの気持ちは沈んでいく。
261: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)02:57 ID:JqNzRaySo(3/9) AAS
 無理に話す必要はない。そんなことはわかっている。
 わかっていてもできない。
 すぐに実行できることでも、なかなか勇気が持てない。 

――はぁ……どうしてこうなっちゃうんだろう……。
臆病で、弱虫で、自信が持てなくて。
迷って、振り返って、立ち止まって。
私、そんな自分が大嫌い……。

 もし私も冴島さんみたいに、マミさんみたいに輝けたなら。 
先の見えない暗闇でも、迷わず前だけを向いて歩けるんじゃないかって思えるのに……。

 でも、どうすればいいんだろう。この人なら、その答えを持ってるのかな……。
 訊いてみたい。どうしても知りたい。
 今なら訊ける。うぅん、今を逃したらもうチャンスはないかもしれない。
 だから私は――

 まどかは胸に当てた拳をキュッと握り、鋼牙を見つめる。
そして、なけなしの勇気を込めて質問をぶつけた。

「あの……訊いていいですか? どうやったら、冴島さんみたいに強くなれるんですか?」

「……強くなりたいのか?」

 突然の質問に流石の鋼牙も戸惑ったのか怪訝な顔で訊き返すが、急ぐまどかへの配慮か、足は止めなかった。
 まどかは肯定も否定もせず、鋼牙の横を歩きながら話を続ける。
262: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:00 ID:JqNzRaySo(4/9) AAS
「私って、昔から何の取り柄もなくて……これから先ずっと、誰かの役に立つこともないまま、
人に迷惑ばかりかけていくのかなって、そう思ったら凄く嫌で……」

 鋼牙は何も言わなかった。じっと黙して続きを待っている。
 取り留めのない想いを、ゆっくりと言葉に変換して紡ぐ為の時間。そう考えたら沈黙も悪くない気がした。

「ずっと考えていたんです、昨日のこと、今日のこと……。
私を助けてくれた二人は眩しかったんです。それでキュゥべえに素質があるって言われて、
同じことが私にもできるなら、私やさやかちゃんを助けてくれたみたいに誰かを守れたなら。
きっと、これ以上嬉しいことはないだろうなって……」

「だが――」

「命懸けだってことはわかってます! 今日の戦いも、とっても怖かった。でも、私……」

 だとしても憧れは止めらない。
 それで望む自分に成れるのなら。
未だ迷いは晴れないが、その為なら戦いを受け入れてもいいとすら思い始めていた。

 甘いと怒られるだろうか。現実を知らないと笑われるだろうか。
いや、彼なら認めてくれそうな気がする。
 確かな根拠がある訳じゃない。ただ、彼の寡黙な優しさを昨日も今日も見てきたから。
きっと真摯に受け止めてくれて、何かアドバイスをくれると思った。

「あっ、その、まだ決めた訳じゃないんですけど……願い事だって決まってないし……。
ただ私もマミさんや冴島さんみたいに誰かの助けになれたら、
黄金騎士みたいにかっこよくなれたら、輝けたなら……それくらいなんです、私の願いなんて。
強くなりたいって言うより、胸を張って誇れる自分になりたいって言うか。
だからキュゥべえと契約して魔法少女になることで叶えられるなら、私も……」
263: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:01 ID:JqNzRaySo(5/9) AAS
――絶望に暮れる人に希望を示せる、そんなあなたや彼女に少しでも近付ける。

 はにかんで頬を赤らめるまどか。
しかし、照れを誤魔化すような笑顔を向けられた鋼牙が彼女に応えることはない。
目を閉じ、何事か思案している様子。
 まどかが緊張しながら待つと、やがて鋼牙が目と口を開く。

「……無理だな」

 と一言。
 たった一言で、まどかの笑顔が凍りついた。

「え……?」

 まどかが発したのも、言葉にもならぬ掠れた疑問符のみ。
 それきり、いくら待っても続く答えは返らない。

「……それって、どういう意味ですか? 
やっぱり私なんかじゃできっこないってことなんですか……?
私、女だし、体も小さいし、運動も全然できないです……。
とても冴島さんみたいには戦えない、でも……!」

 魔法少女になれば変われるかもしれない。
 そう思っていたのに。

 まどかは歩みを止めない鋼牙に追い縋りながら震えた声で捲し立てるが、仕舞いには言葉を詰まらせてしまう。
 それでも問うと、ようやく鋼牙の顔がまどかに向いた。
264: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:03 ID:JqNzRaySo(6/9) AAS
「女は騎士にはなれん。だが、それ以前の問題だ」

「それ以前の……?」

 訊き返すも、やはり答えは返らない。これ以上はない、ということだろうか。
 まどかには鋼牙の言わんとしていることが、まるで理解できなかった。
そもそも端的過ぎて、正しく相手に伝える意思があるのかも怪しい。
 しかし何とか理解しようと首を捻っていると、鋼牙の足が止まった。

「誰かの役に立ちたいと言ったな」

「は、はい……」

 唐突に質問で返され、戸惑いがちに頷く。
 そして――。

「なら道のゴミ拾いか家の手伝いでもしていろ。今日からでもできる」

 ぞんざいに言い捨てられた言葉に、まどかは耳を疑った。
 後頭部を殴られたような、自分でも信じられないほどのショックに襲われた。
 初めて自覚した。自分が彼の優しさを誤解していたと。

「そんな……私、真剣に相談したのに……」

 助けたのはそれが魔戒騎士の使命だから。送ってくれるのも、その延長。人生相談に付き合う義理などない。
 だから、こんな子供の悩みなど、所詮ちっぽけなものだと思われたのだろうか。だから軽くあしらってもいい、と。
 そんなふうに考えたくないのに考えてしまう。
265: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:05 ID:JqNzRaySo(7/9) AAS
「俺も本気で答えた」

 彼はそう言うが、では他にどんな意味があるというのか。 
 まどかは訳もわからず混乱していた。頭の中はグシャグシャで、堰を切った感情が溢れて整理がつかない。

「酷い……っ」

 言ってしまった直後、あっ――と思わず口をついて出た言葉に驚き、まどかは押し黙る。
 それでも鋼牙は足も止めず、表情ひとつ変えない。
 自分では何をしようが彼を揺らせない、影響を与えられないのだと思い知って、また切なくなる。
 もう彼の隣にはいられなかった。

 気付けば裏道も終わり、また明るい住宅街に出ていた。家までは2,3分といったところか。
 まどかは鋼牙の前に勢い良く走り出る。

「近くなのでここからは一人でも帰れます、ありがとう……ございました……っ」

 顔を見られないようにお辞儀をするなり、反転して駆け出す。
 ずっと堪えているつもりだったが、振り返り際、潤んだ瞳から涙の滴が飛んだ。
 きっと鋼牙にも見られただろう。

 だというのに。
 やはり背後からは声も足音も聞こえてこなかった。
 何故だかわからないけど、それが無性に悔しくて悲しかった。
 それからまどかは休まず、振り返らず、家路を急いだ。

「ただいまっ――!」

 玄関を開け放つと素早く靴を脱ぎ、なおも走る。
266: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:07 ID:JqNzRaySo(8/9) AAS
「おかえり、まどか。心配――」

「まどか! こんな時間まで何……を……」

 この時ばかりは父と母の声も耳に届かなかった。
 床をドタドタ踏み鳴らし、階段を駆け上がる。
自室で鞄を投げ捨て、ベッドに身体ごと飛び込むと、やっと動きを止めた。

 枕に顔を埋めて洟を啜るまどかは、少しだけ冷静になり、鋼牙とのやり取りを思い出す。

――優しさを誤解していた。
 でも、それは冴島さんのせいじゃない。
 勝手に甘えて、期待を抱いて、何でも受け止めてくれるって心のどこかで思い込んでた。
 それで勝手に幻滅して馬鹿みたいだよぉ……――

 これから鋼牙の言葉の意味を考えてみようと思う。しかし鋼牙が何を伝えたかったのか、何を望んでいたのか。
そして、それを受けて自分がどうしたいのか、いつか確かな答えが出せるのだろうか。

――こんな私が、キュゥべえに煽てられたからって、
ちょっと力を得たくらいで冴島さんに並べるなんて、自惚れだったのかな――

 変わらない。
 何も変わらない。
 まだ暗闇を彷徨っているような気分。
 なのに闇に光を与えてくれるはずの黄金騎士の助けは期待できなかった。

「私、どうすればいいの……」
267: ◆ySV3bQLdI. [ saga] 2012/05/28(月)03:10 ID:JqNzRaySo(9/9) AAS
ここまで。次も間に合えば日曜深夜に
多くてもあと二回で2話を終わらせたいです

たくさんのコメント、いつもありがとうございます
でも、自分が優しいかどうかはよくわかりません
では今回の鋼牙は優しかったのかどうか

短いのに、これまでで一番苦戦した気がします
こんなのでいいのか、かなり悩みましたが、説明は作中で追々
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