[過去ログ] 俗物ポエム図書館 2 (45レス)
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39: [age] 2022/08/21(日) 17:36:43.13 ID:???
188 名前:_ねん_くみ なまえ_____[] 投稿日:2022/08/21(日) 11:04:14.47 ID:5Djiv74H
ちょうど一杯目のコーヒーが尽きかけた頃、身なりの整った
青年が親しみのこもった目でこちらを見ているのに気づいた。
こちらも目線を返すと徐に青年はこちらに近づいてきた。
「突然ですみません。ひょっとして今お使いの万年筆は昔のやつですか?」
青年は丁寧な口調で尋ねる。
「ああ。そうですが。」と私が答えると青年は目を輝かせた一瞬間の後、申し訳無さそうな顔で
「あの、もしよかったらそれで少し字を書かせてもらえないでしょうか。実は祖父が生前あなたがお使いのものと同じものを持っていて、あれで書いたときの感じをもう一度体験したくて・・・。」
と訊いてきた。
私は「貴方は万年筆というものをあまりご存知ないようですね。これはただの149ではない。開口モデルという非常に貴重な逸品なのです。そして万年筆というのはニブ、これが命です。そしてそのニブの先端にはイリジウムという金属が付けられており、イリジウムは持ち主の書癖に合わせて形を変えていくのです。私がコイツを手にして早二十余年、その間コイツは命を削りながら必死に私の書癖を覚えてきた。それを今ここでたとえ一瞬でも貴方に使われてしまうとコイツは貴方の書癖を覚えてしまう。そうするとこれはもう、私のものとは言えなくなってしまうのです。ですから残念ですが貴方にコイツをお貸しすることはできません。」
青年は虚をつかれた顔をしている。暫時の後、会釈をすると青年は席に戻っていった。
私は万年筆のspiritsを次世代に伝えられたことに大変満足して冷めたコーヒーを啜った。
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