[過去ログ] ( ・∀・)午前2時11分、君に会いに行くようです (53レス)
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1: 2015/08/09(日)22:06 ID:rJU1q38w0(1/46) AAS
百物語参加ナンデス
2: 2015/08/09(日)22:21 ID:rJU1q38w0(2/46) AAS
ぼくはたまに空を見上げながら、この世界がどこまで本物なのか考える事がある。

( ・∀・)午前2時11分、君に会いに行くようです
3: 2015/08/09(日)22:22 ID:rJU1q38w0(3/46) AAS
目を覚ますとすぐに自分が寝落ちてしまった事に気がついた。
ベッドの上でのそりと身体を起こす。服は帰宅時のままなのが寝落ちてしまった何よりの証拠だろう。
蛍光灯も消しておらず、何時間も眠るだけのぼくを無駄に照らしていたようだった。
やはり充電されていなかった情報端末をたぐり寄せる。とうに日付を跨いでいて、いよいよ後悔する。
着替えるべきだし風呂にも入るべきだ。ろくに夕食も取っていないので腹だって減っている。
何から着手しようか最適な順序立てを寝起きの頭のなかでなんとか整理してから、勢い良くベッドから飛び出した。

結論からすればこのままコンビニエンス・ストアに出かけて夕食を買い、帰宅してからシャワーを浴びるという筋書きだ。
省14
4: 2015/08/09(日)22:24 ID:rJU1q38w0(4/46) AAS
帰りも感応式の街灯が行く先を照らしてくれる。それを辿ってぼくは歩く。
ぼくの住む街は丘陵地に位置しているので坂が多い。帰りはひたすら上り坂だ。
なんとなく途中にある公園に寄る。ここも灯りは感応式でぼくを見つけて自らを灯す。
木製のベンチに座って缶コーヒーを傾ける。ちょうど公園からは開けた景色が見える。
一昔前までは住宅地に設置された街灯の軍団が見渡せたはずだ。
しかし今は感応式のものに取り替えられたため、見下ろせる街に灯りは殆ど見つけられない。
節電がしきりに叫ばれる現在では仕方のない事ではある。
省17
5: 2015/08/09(日)22:25 ID:rJU1q38w0(5/46) AAS
( ・∀・)「この辺りの人なの?」

(゚、゚トソン「ええ」

( ・∀・)「名前は? ぼくはモララー」

(゚、゚トソン「私は、トソン」

( ・∀・)「トソン」
省14
6: 2015/08/09(日)22:28 ID:rJU1q38w0(6/46) AAS
( -∀-)「かなり疲れていたんだ。 居酒屋のバイトをしているんだけど、帰りが遅くなる時があって」

(゚、゚トソン「大変そうね」

( ・∀・)「大変なんだよ、居酒屋のバイトって。 働いているのは殆どバイトだし」

(゚、゚トソン「社員の方はいないの」

( ・∀・)「社員はごく僅か、それも入社数年の若い人達ばかりだ。急に店長を任されたりするんだよ。
      店長が休むには店長クラスに働けるバイトを育てなくてはならない。だから月に二十八日も出勤する社員もいるぐらいだ」
省20
7: 2015/08/09(日)22:30 ID:rJU1q38w0(7/46) AAS
日頃感じていた事を長々と喋ってしまいぼくは謝る。
しかし彼女は嫌な顔一つしない。
きっと聞き上手なのだ。

(゚、゚トソン「ううん、いいの」

( ・∀・)「そういえば君は、何をしているの? 大学生?」

(゚、゚トソン「私は、何も」

何も、というのは無職という事だろうか。最近では死語に近いが家事手伝いと呼ぶべきだろうか。
省16
8: 2015/08/09(日)22:32 ID:rJU1q38w0(8/46) AAS
狐につままれた、そんな気分だった。ともかく彼女は姿を消してしまった。
腕時計を見る。およそ20分。夢などではない。
いつもここにいる。その言葉がぼくのなかを反復する。
首を傾げながら、缶コーヒーを飲みきってゴミ箱に放り、公園を出た。
また住んでいるアパートまで感応式街灯のエスコートが続く。

夜が明けてぼくは目を覚ます。少し遅い目覚めで、テレビをつけても朝の情報番組は既に終わっている。
講義には十分間に合う時間で、ぼくはゆっくりとベッドから這い出て洗面台へ向かう。
省19
9: 2015/08/09(日)22:34 ID:rJU1q38w0(9/46) AAS
バスに乗って、着席を獲得して一息つく。同じキャンパスの学生を乗せてハイブリットタイプのバスは駅前ロータリーを発車する。
シートに身を任せながらぼくは窓の外をぼんやりと眺める。外の景色には様々なVirtualの看板や広告が並んでいる。
今やぼく達に情報を伝える最大のツールはVirtualだ。Virtualは街の至る所に表示されている。
道路にある案内看板も道路脇にある宣伝の看板もVirtualで占められている。メンテナンスが不要だからだ。
ぼく達国民にはVirtualを見る事の出来る特殊レンズを網膜に貼り付ける手術が義務付けられている。
それほどに日常的な生活においてVirtualは無くてはならないものになっているのだ。

しかし情報の洪水だとぼくは思うのだ。Virtualの充実による現代では与えられる情報が多いと感じる事が多い。
省18
10: 2015/08/09(日)22:37 ID:rJU1q38w0(10/46) AAS
ハイブリットタイプのバスが大学構内に入っていく。自然豊かな丘陵地のなかにあるのでバスが構内にまで達しているのは非常に便利だ。
学生情報を持つぼくが構内に入った事でぼくに関する学部の講義の情報などがウインドウにまとめられ飛び込んでくる。
そもそも一人ひとりが見ているVirtualの世界は異なる。Virtualの広告にしても最適化されているのだ。
中年男性に化粧品の広告を表示するのも高齢者に新作ゲーム発売の広告を表示するのも最適ではない。
国民全員に割り振られたマイナンバーには個人の情報が登録されている。そこから最適かつ必要なVirtualの情報を表示しているのだ。
例えばぼくは二十歳、一人暮らし、大学生だ。表示される広告はファッション関連や流行りのJ-POPなどが多い。
深夜帯の人気のない住宅地で煌々と街灯を灯すのも、買うはずもない購買層に商品の広告を打つのも効率が悪い。
省23
11: 2015/08/09(日)22:38 ID:rJU1q38w0(11/46) AAS
遅い時間ではある。だが明日も朝は早くなくても良い。ものは試しだ。
弁当を食べ、今度はきちんと45リットルのゴミ袋に放って、風呂に入る。
机に向かって勉強をして、頃合いを見て出かける準備をする。

きっとぼくは彼女のミステリアスな雰囲気に魅入られてしまったのだ。
また会ってみたい、話してみたいと考えている。
実際にこんな深夜にまたあの公園を訪れようとしている。

アパートの部屋を出て寝静まった住宅地を歩く。今夜も感応式の街灯が進む先を次々と照らしてくれる。
省21
12: 2015/08/09(日)22:42 ID:rJU1q38w0(12/46) AAS
( ・∀・)「まぁ遅かったかな。 昨日ほどではないけれど」

(゚、゚トソン「ならどうして」

どうしてだろうね。ぼく自身よく分からない。

( ・∀・)「多分ね、また君と話してみたいと思ったんだ」

(゚、゚トソン「私と」
省18
13: 2015/08/09(日)22:44 ID:rJU1q38w0(13/46) AAS
(゚、゚トソン「大学生だものね、楽しい?」

( ・∀・)「勿論楽しいよ。 試験だったりレポートだったり常に何かに追われてる感じはするけど、やはり楽しい」

彼女は同年代に見えるがどうやら無職らしい。ならば大学には行った事がなかったのだろうか。

(゚、゚トソン「いいなぁ」

( ・∀・)「君はいつも何をしているの」
省12
14: 2015/08/09(日)22:45 ID:rJU1q38w0(14/46) AAS
( ・∀・)「え…」

ぼくは考える。儚げな彼女を見ながら考える。
いや、頭の片隅にはあったのだ。もしかして、という可能性の一つとして既に存在していた答えなのだ。
まさか。しかし、まさか。それはあまりにも非現実的で、非科学的だ。

( ・∀・)「その、君はさ」

けれどそうでもなければ説明のしようがない。
ぼくは恐る恐る、その予想を口にする。
省19
15: 2015/08/09(日)22:49 ID:rJU1q38w0(15/46) AAS
(゚、゚トソン「20分しかいられないの」

( ・∀・)「20分」

(゚、゚トソン「午前2時11分から、20分。 それが私でいられる時間」

なんと短いのだろう。たった20分だ。
そうだ。昨夜も20分で彼女は消えてしまったではないか。

( ・∀・)「その20分だけ、なの」
省18
16: 2015/08/09(日)22:51 ID:rJU1q38w0(16/46) AAS
( ・∀・)「そんな」

(゚、゚トソン「何度か試したけれど、入り口から外には出られないの。 弾かれてしまう」

まるでいわゆる地縛霊だ。公園というフィールドだけに縛られている。
そこから出る事が出来ないのだ。

( ・∀・)「じゃあ君はこの公園でずっと」

(゚、゚トソン「そう」
省13
17: 2015/08/09(日)22:54 ID:rJU1q38w0(17/46) AAS
( ・∀・)「あ、明日も来るよ」

彼女は微笑む。ぼくも笑う。

( ・∀・)「必ず明日も来る。 明後日も来る。 君さえ嫌じゃなければ」

(゚、゚トソン「うん、嬉しい」

( ・∀・)「君が寂しくないように」
省24
18: 2015/08/09(日)22:55 ID:rJU1q38w0(18/46) AAS
そういうオカルトの類は一部のマニアにしか受けなくなった。ならば廃れて当然である。
ぼくも幼少時からそんなものを信じなかったし、周囲の人間も信じている者は到底いなかった。
それ故に幽霊を名乗る女性と関わるなど、今の状況は異常であった。しかし同時に彼女が嘘をついているとは思えなかった。
彼女も現世に何か強い思い残しがあったのだろうか。訊いてみたいが、訊いて良いのかは分からない。

彼女はあの公園から出られないという事は地縛霊のカテゴリに属すると思う。
あの公園に強い思い残しがあったりするのかもしれない。例えばあの公園で殺されたりとか。
それにしても午前2時11分から20分だけ出現する、というのは理解しかねる。
省20
19: 2015/08/09(日)22:58 ID:rJU1q38w0(19/46) AAS
情報の混濁。世界には情報が溢れている。そんな情報社会で幽霊など、他人に話しても信じてもらえないだろう。
考えようによっては幽霊も情報の一つだ。しかし管理されていない情報は本来存在を許されない。
情報は基本的に管理されている。個人が発信する情報も、企業が広告として発信する情報も管理されている。
違反した広告が出されれば監査から即座に停止命令が出るし、個人が犯罪に繋がる情報を発信すればたちまち警告を受ける。
いくら個人の呟いた何の変哲もない情報ですらマイナンバーのログに蓄積されていく。警察の捜査となればそれらの閲覧は許可される。
情報はそうやって常に管理されているのだ。そうしなければ情報は無法地帯になってしまう。

だが、幽霊が情報の一つだとすればそれは管理された情報とは言えないだろう。
省14
20: 2015/08/09(日)23:00 ID:rJU1q38w0(20/46) AAS
彼女は、寒くないだろうか。これから本格的に冬が来る。
それなのに彼女はあの深夜の冷えきった公園で過ごすのだ。
防寒具など持ってはいない。これまでどうやって冬を過ごしてきたのだろう。
もう何度目かの冬になるはずだ。彼女は自分でも忘れてしまうぐらいにあの公園に囚われているのだ。
そもそも幽霊に暑い寒いという感覚があるのかも定かではない。感覚そのものがあるのだろうか。
それに触れられるのかも分からない。

そう、彼女に触れられるのかも分からないのだ。
省22
21: 2015/08/09(日)23:04 ID:rJU1q38w0(21/46) AAS
(゚、゚トソン「昨日も一昨日もこのベンチにいたから、今日はいなくて驚いちゃった」

必ず明日も来ると約束したのだ。危なかった。さっそく誓いを破ってしまうところであった。
息を整えながら、ぼくはベンチの方へ歩いていく。

(゚、゚トソン「走ってきたの」

( ・∀・)「あぁ、また寝落ちていて。 慌てて走ってきた」

(゚、゚トソン「ごめんね」
省24
22: 2015/08/09(日)23:07 ID:rJU1q38w0(22/46) AAS
(゚、゚トソン「仕方ないよ」

割りきってしまっているのだ。諦めてしまっているのだ。
しかしそれを咎める事は出来ない。記憶のない彼女の過ごした長い時間を考えると何も言えはしない。
自身のルーツを探る事などとうにやめてしまっているのだろう。知るすべがないがない。
この公園から出られず、一日に20分しかいられず、ずっと意識の海を漂流している彼女だ。

(゚、゚トソン「それにモララーが来てくれるから、今が楽しい」

( ・∀・)「そう言ってもらえると、ぼくも嬉しいよ」
省18
23: 2015/08/09(日)23:10 ID:rJU1q38w0(23/46) AAS
( ・∀・)「幽霊って浮いていたり透けていたりして、触れられないイメージがあったから」

(゚、゚トソン「あぁ、なるほど」

彼女は足をついて、ブランコの動きを止める。そして白い手を差し出した。

(゚、゚トソン「ちゃんと、触れられるよ」

彼女の手を取る。本当だ、きちんと触れる。細い指。滑らかな肌触り。実体がある。
不確実な彼女の存在の証明だ。たとえ幽霊でも、一日に20分しかいられなくても、彼女は確実に存在している。
ここにいる。こうして触れられる。彼女は存在する。
省16
24: 2015/08/09(日)23:13 ID:rJU1q38w0(24/46) AAS
(゚、゚トソン「じゃあ、また明日ね」

( ・∀・)「うん、明日は寝ないから」

ふふ、と彼女は笑う。

(゚、゚トソン「待ってる」

彼女が消える。代わりに静寂がやってくる。
ぼくは見送る事しか出来ない。
省19
25: 2015/08/09(日)23:14 ID:rJU1q38w0(25/46) AAS
でもぼくはそこまでVirtualに頼りきりの生活は好きではない。
家電本体や壁に埋め込まれたスイッチまで動かずに手元であらゆる操作が出来るし、極めて便利ではある。
指先で呼び出したウインドウからインターネットへ接続出来る、究極のユビキタス社会だ。
我が国で開催された二度目のオリンピックを契機に国内の至る所に公衆無線LANが張り巡らされている。
強固なセキュリティに守られ常にインターネットに接続しているのだ。

ぼくが不安に感じてしまうのはどこまでVirtualに任せて良いのかという点だ。
そのうち何をするにしてもVirtualでウインドウを呼び出せば叶ってしまう気がしてならないのだ。
省14
26: 2015/08/09(日)23:15 ID:rJU1q38w0(26/46) AAS
何故わざわざ旧時代文化の象徴である漫画喫茶に来たかといえば、ぼくは紙の本が好きなのだ。
重たいし、収集するとかさばるけれど、どうしても紙の本が好きなのである。ページをめくる感覚が良いのだ。
デジタル書籍の指や目でページを弾くのとは違う、紙のページをめくる感覚。これこそ本を読んでいると実感させる。
親しい者に話しても面倒なだけだろうと笑われてしまうが、それでも紙の本の魅力は捨てがたい。
しかし現実問題として一人暮らしのアパートに紙の本は部屋の容量を圧迫するだけで、邪魔になってしまう。
過去に集めた紙の本は全部実家に置いてきてしまった。Virtualで読んではいるが紙がたまに恋しくなるのである。

今日はなんとなく、幽霊を取り扱った作品を中心に気になったものを読む。
省11
27: 2015/08/09(日)23:17 ID:rJU1q38w0(27/46) AAS
果たして、彼女はどうなのだろう。
作品における幽霊はフィクションだ。彼女はノン・フィクションだ。枠に当てはめる事など出来ない。
しかしそう考えたとしても、彼女がいつか消えてしまうのではないかという不安は拭い切れない。
彼女はあの公園に囚われてもう数年か数十年かも分からないと言った。
しかしそれがいつまでも続くという保証はないし、明日にでも消えてしまうという可能性だってある。
とにかく彼女は不確実な存在だ。幽霊なのだから。何の保証もないのだ。

ぼくは読んでいた漫画本を閉じる。今日も、会えるだろうか。
省11
28: 2015/08/09(日)23:18 ID:rJU1q38w0(28/46) AAS
余裕を持ってアパートを出る。感応式に切り替えられた街灯が今夜もエスコートしてくれる。
自販機に指を押し当てて缶コーヒーを買う。もう長い事小銭に触れていないな、と気づく。
国民一人ひとりに付与されるマイナンバーには指紋と口座番号が登録されている。
指一本であらゆる決済が出来る。よっぽど時代の流れに逆らおうとする老舗でない限り、どこででも指一本で買い物が出来る。
硬貨はおろか紙幣もあまり触っていない。銀行もそろそろ役割を終えつつある。

デジタル化されつつある世界を全く信頼していない人は今でも紙幣を大量に保管しているそうだ。
ある程度の価値は維持されるという事で金や貴金属を持っている人もいるという。
省14
29: 2015/08/09(日)23:21 ID:rJU1q38w0(29/46) AAS
( ・∀・)「あぁ、今日は土曜日だったから」

(゚、゚トソン「あ、土曜日なんだ。 曜日感覚がなくて」

( ・∀・)「そうだよね」

彼女にとってまさしく世界の全てである午前2時11分からの20分はただの静かな深夜だ。
月曜日でも土曜日でも関係なくただの静かな夜でしかない。

(゚、゚トソン「そっか、休みだったんだ。 何をして過ごしたの」
省17
30: 2015/08/09(日)23:23 ID:rJU1q38w0(30/46) AAS
(゚、゚トソン「幽霊を題材に」

( ・∀・)「数十年前までそういう作品は多かったんだ。 ラブ・ストーリーが多いけれど」

(゚、゚トソン「ラブ・ストーリーが多いんだ。 どういうお話なの」

( ・∀・)「例えば事故で死んでしまった者が幽霊となって舞い戻り、恋人と再会する話だったり」

彼女の様子を伺う。彼女には少し不躾な内容だが、反応を見る。
省14
31: 2015/08/09(日)23:24 ID:rJU1q38w0(31/46) AAS
(゚、゚トソン「そう、ハッピー・エンド。 良かった」

彼女は笑う。ぼくは罪悪感に苛まされる。

( ・∀・)「うん、そうでしょう」

ハッピー・エンド。彼女にとってハッピー・エンドとはなんだろう。ぼくにとってハッピー・エンドとはなんだろう。
幽霊のハッピー・エンドとはなんだろう。生き返る事だろうか。しかし遺体は火葬されて現実世界に残るのは遺骨のみだ。
思い残しを果たす事だろうか。例えば、届けられなかった想いを伝えて。願っていた復讐を叶えて。
やはりそこに定義なんてものはない。正解も不正解もない。曖昧だ。
省18
32: 2015/08/09(日)23:26 ID:rJU1q38w0(32/46) AAS
AA省
33: 2015/08/09(日)23:28 ID:rJU1q38w0(33/46) AAS
彼女はどこか寂しそうに、言う。

(゚、゚トソン「本物の、世界」

( ・∀・)「あぁ…」

興味を引いたのだろうか。あまり他人から理解される事のない、ぼくの漠然とした不安を。

(゚、゚トソン「モララーは、見たい? 本物の世界」
省17
34: 2015/08/09(日)23:28 ID:rJU1q38w0(34/46) AAS
現代における最大の問題はエネルギー問題だ。世界は列強が限りあるエネルギーを食い合う争いをずっと続けている。
新しいエネルギーの開発などが各国で熱心に行われているが困窮するエネルギー問題を一気に解決に導くような逆転劇は見られない。
慢性的かつ深刻なエネルギー不足は時間をかけて人々に節約の意識を植え付けた。コンパクトで効率の良い社会こそ理想たる形なのである。
Virtual技術の進化もロボット技術の進歩も反対意見などに阻まれる事なく進んでいく。
いつだって社会にはいつの間にか流れが出来上がって突き進んでいくものだ。

ぼくが彼女をVirtualではないかと考えたのは、単に辻褄が合うからである。
彼女は自分を幽霊だと言った。しかしやはりどうしても幽霊というのは非科学的で非現実的だ。
省11
35: 2015/08/09(日)23:30 ID:rJU1q38w0(35/46) AAS
確かに人工知能技術の発展は著しい。中学の授業で人工知能と話す機会があったが、もはや人間そのものだった。
彼女と話している時はとても自然体であったが、人工知能ではないと言い切れる確実な証拠なんてものはない。

分からない事ばかりだ。
あとは、彼女が最後に言った、本物の世界。それが、頭の中を駆け巡る。

緊急情報受信!

突如、警告アラームが鳴り響いてぼくの思考をシャットダウンする。
緊急のVirtualが現れる。非常時の際に発行されるものだ。
省15
36: 2015/08/09(日)23:31 ID:rJU1q38w0(36/46) AAS
そもそもVirtualの普及はインターネットの充実から成りうるものだ。
どこからでもいつでもインターネットに接続出来るからこそVirtualが一般化したのだ。
インターネットに接続出来なければVirtualで情報を得る事は出来ない。
Virtualのコントローラーで家の中の家電を操作する事も出来ない。
マイナンバーに保存した電子書籍を読む事も出来ない。
指紋認証で買い物をする事も出来ない。

家の中でぼうっとニュースを見ているだけでは落ち着かず、ぼくはアパートの外へ出る。
省13
37: 2015/08/09(日)23:32 ID:rJU1q38w0(37/46) AAS
公園まで歩くなかでぼくは気づく。
交差点に設置されていた信号機がなくなっていた。道路脇の街路樹も消えていた。
偽物のVirtualで誤魔化していたのだ。本物だと思っていたのに。
民家を彩っていた花壇もなくなっていた。Virtualだった。

公園に着く。木々が全部なくなっていた。全部見せかけの偽物だったのだ。
木製のベンチに座り、カシオの腕時計を見る。本物の腕時計を持っていて良かった。
彼女と会えるだろうか。不確実で何の保証もない彼女という存在。
省14
38: 2015/08/09(日)23:34 ID:rJU1q38w0(38/46) AAS
( ・∀・)「君はVirtual…なの」

彼女は口をぎゅっと閉じて、俯く。
諦めたように目を閉じて、頷く。

(-:、・ソノ「ごめんなさい」

( ・∀・)「責めてはいないよ…。 でも君には自覚があったの?」

うん、と小さい声で認めてから、彼女は続ける。
省15
39: 2015/08/09(日)23:36 ID:rJU1q38w0(39/46) AAS
(゚:、・ソノ「テロリスト達も目的は本物の世界を暴く事…最悪の場合、世界は丸裸になる」

( ・∀・)「Virtualが消えるのか?」

(゚:、・ソノ「このまま今の状態が続けばいつかは多くのVirtualが消滅する。 だけど元々不安定だった私は、すぐに消えてしまう」

交差点の信号機も道路脇の街路樹も民家の花壇も公園も木々もVirtualだった。消えてしまった。

( ・∀・)「そんな…」
省11
40: 2015/08/09(日)23:39 ID:rJU1q38w0(40/46) AAS
彼女の身体が蝕まれていくように、徐々に消える。
公園のVirtualだったものも消えていく。金属フェンスに見えていたものがなくなっていく。

全部消えてしまう。実はVirtualだったものが消えてしまう。偽物だったものが消えてしまう。
世界が本物の姿になっていく。本来の姿を取り戻していく。

( ・∀・)「本物の…世界…」

彼女が昨夜言った言葉が蘇る。本物の世界。
この世界がどこまで本物なのか。ぼくが時折漠然と感じた、馬鹿げているとすら思っていた不安。
省12
41: 2015/08/09(日)23:40 ID:rJU1q38w0(41/46) AAS
記憶がない、というのは決して嘘ではなかった。
Virtualは目的を持っている。しかし彼女にはそれが分からない。それに存在も曖昧だ。
それでは自分を幽霊だと言っても、仕方のない事だとは思う。

(゚:、・ソノ「それでね、端的に言えば、私には本物の世界が見えている」

( ・∀・)「本物の世界…Virtualのない世界?」

(゚:、・ソノ「そう。 一切の色付けがされていない純粋な世界」

( ・∀・)「そんな事ならぼくだって出来る、Virtualの機能をオフにすれば」
省12
42: 2015/08/09(日)23:43 ID:rJU1q38w0(42/46) AAS
( ・∀・)「どうして、君は…」

(゚:、・ソノ「それだけは、分かるの。 きっとそれが私に託された事なんだと思う」

公園から様々なものが消えていく。Virtualだったものが消えていく。
風に吹かれて飛んでいってしまうように、ホログラムとなって見えなくなる。

(゚:、・ソノ「モララーは、本物の世界を、見たい…?」

( -∀-)「でもそんな事をすれば、君が見えなくなってしまう」
省11
43
(1): 2015/08/09(日)23:44 ID:hBlEhb2Q0(1) AAS
支援!雰囲気が大好きです!
44: 2015/08/09(日)23:45 ID:rJU1q38w0(43/46) AAS
(゚:、・ソノ「仕方ないよ…いずれこういう日が来ると思っていた…。
     この世界は完璧なんかじゃない。 見せかけの、脆くて弱い世界だから…」

その前にモララーに会えて良かった、と彼女は繋ぐ。

(゚:、・ソノ「最後に、役割を果たせたんだと思う」

役割。Virtualには役割がある。彼女にも役割があった。
それが本物の世界を見せる事なのか。ぼくなんかのために。

ぼくは君がいてくれるだけで良かったのに。
省13
45: 2015/08/09(日)23:46 ID:rJU1q38w0(44/46) AAS
ぼくは夜が明けるまで動けずにいた。呆然と座っていた。朝陽が公園に差し込んで、夜明けに気がつく。
まるで全てが夢だったのではと、錯覚させるほどの眩い太陽。ぼくは立ち上がり、その陽射を受ける。
開けた景色がある。街を見下ろせる。朝を迎え新しい一日が始まる。

ぼくに見えるのはあらゆるVirtualのない世界。
ようやく手に入れた、本物の世界。

綺麗なはずの空の色は青などではなかった。
どんよりとした茶色をしていた。
省12
46: 2015/08/09(日)23:48 ID:rJU1q38w0(45/46) AAS
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。
47: 2015/08/09(日)23:50 ID:rJU1q38w0(46/46) AAS
>>43
支援ありがとうございました。

関係ないけどスレからいただいてきたろうそく忘れてたサーセン
48: 2015/08/10(月)00:18 ID:FBBFynC.0(1) AAS
すごいおもしろい!のに目が滑るのだけが残念だ・・・
本物かどうかわからない世界は恐ろしいな。おつ
49: 2015/08/10(月)00:39 ID:7eANBCz.0(1) AAS
おつおつ
悲しくなる
50
(1): 2015/08/10(月)02:55 ID:reIdEuo60(1) AAS

人間に見せかけた(トソンの場合は幽霊だけど)Virtualってのは他にもいたのかな?
モララー以外全員がVirtual・・・ってのは流石に飛躍し過ぎか?
51
(1): 2015/08/10(月)09:35 ID:zMGHBlFQ0(1) AAS
面白かった
終末世界の人かな?
52: 2015/08/18(火)21:28 ID:u8C6XghA0(1) AAS
ありがとうございます~

>>50
他にもたくさんVirtualだった感じですね

>>51
そうです~
臨時ニュース→街が混乱→終末って展開がまるで一緒ですね
53: 2015/08/21(金)14:29 ID:nQNzMm0s0(1) AAS
おつおつ!映画を一本見終わった気分だ。読んでるだけで情景も浮かんでくるし、本当に面白かった。
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