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753: (ｵｯﾍﾟｹ Sr05-2iAH) 2023/06/16(金)12:22 ID:cpdljW5Ar(1) AAS
2023.06.16ㅤ9:03配信
フリーライター・文学修士(歴史学)
倉本 菜生 NAO KURAMOTO
Twitter：＠0ElectricSheep0
⚫養成所に通えと運営から強制される
夢に向かって頑張るミナミを温かく応援していた西田さんだったが､ふたりの間に亀裂が入る事件が起こる｡
「ある日､突然彼女が『お金を貸して』と言ってきたんです｡
『は？』と思って話を聞くと､『事務所から養成所に通えと言われている｡お金がないから貸してほしい』という理由でした」
ミナミいわく､所属している事務所から養成所を指定され､そこに通えと言われたという｡
自主的ではなく､運営側から強制的に「養成所」に通えと言われるのは不自然だ｡
「元カノがアイドルビジネスの詐欺にあって､転落していく様子を止められませんでした」
そう語るのは､都内在住で美容師の西田直樹さん(38歳・仮名[以下同])だ｡
彼が“自称”アイドルのミナミと出会ったのは､今から17年ほど前｡たまたま入った飲み屋のカウンターで隣同士になり､そのことがきっかけで交際に発展したという｡
「(ミナミの)見た目は黒髪ロングのツインテールで、低身長かつ童顔の幼い感じ｡自分と1歳違いだったので､当時20歳でしたね｡『私､アイドルを目指して頑張っています！』と､どこに行ってもそのことをアピールしている子でした」
当時は「第二のアイドル冬の時代」といわれていた時期。国民的アイドルグループだった「モーニング娘｡」が凋落し､代わりにライブ等で接触の多いアキバ系アイドルが台頭した時代だ｡ミナミもアキバ系アイドルに憧れ､上京してきたひとりだった｡
付き合いだしてから同棲を始めた西田さんとミナミだったが､彼はミナミのステージを一度も観たことがなかった｡
見習いスタイリストとして夜遅くまで働いていたため､いつも時間が合わなかったのだ｡
「事務所に所属していて､秋葉原の小さなライブハウスに出演していたみたいです｡『今度〇〇のイベントの前座で出してもらうことになった』とたまに話していましたが､出ていたのは今でいう地下アイドル御用達の箱ばかり｡
インターネットで調べても､彼女の情報は全然出てこない｡どこで活動しているのか､本人の口から聞かないと分かりませんでした」
今では公式ホームページやSNSがあって当たり前だが､当時は個人サイトすら持っていないアイドルも多かった｡西田さんがネット上でミナミを見つけられなかったのも不思議ではない｡
「一応ファンはいたようで､たまに差し入れのプレゼントを持って帰ってくることもありました｡事務所から『ちょっと頑張ってみようか』って､よくわからないイベントに出させられて､モーニング娘｡とかを歌っていたそうです｡本人はアイドルの下積みなんだって笑っていましたけどね」
当時交際していた都内在住で美容師の西田直樹さん(38歳)によると､ミナミはインターネットで調べても全く出てこないようなアイドル活動を､下積みと称して続けていたという｡
ある日､西田さんに彼女は「お金を貸してほしい」と告げたそうだ｡理由は､所属している事務所から指定された養成所に通えと言われたからだという｡
●騙されていると全く考えない
ミナミが提示してきた金額は60万円｡アイドルを目指して上京し､アルバイト生活だった彼女には貯金がなかった｡事務所にも登録費や衣装代等のお金を払っていたようだ｡
「なんとなく嫌な予感がして､『それ詐欺じゃない？』って止めましたよ｡アイドルの養成所ビジネスや詐欺は昔からあったし､事務所もグルになっているんじゃないかって｡でも､『ちがうちがう｡私頑張っているから､事務所が認めてくれているだけ』って言って聞かないんです」
その日以降､ミナミは何度も金の無心をしてきたそうだ｡
西田さんはそのたびに「売れる人はそんなことしなくても売れる」と言って止めたが､彼女は「私は養成所に通わないと売れないの！これは仕方がないこと」と反発していたという｡
「一応事務所のレッスンを受けていて現場にも出ているから､騙されているわけがないと思っていたんでしょうね｡承認欲求がすごく強い子で､『自分は頑張っているし認められている｡私の居場所はここだ』と執着していましたから」
お金を貸せば済んだ話だろうが､金銭の貸し借りに厳しい家庭で育った西田さんは､絶対に貸さないと押し通したという｡結局この件が引き金となり､交際1年半で２人は破局してしまう｡
「別れる間際､『事務所がお金を貸してくれることになった』と報告されました｡事務所から､頑張っているから貸してやると言われたそうです」
⚫地下アイドルの行く末
別れてからはミナミと音信不通になってしまったが､思わぬところから彼女のその後を知ることとなる｡
「共通の友人から､お金が返せなくてAV女優になったと聞きました｡じつは事務所から借金したと聞いたとき､『それお金が返せなくなって､AVか風俗になるパターンじゃない？』と忠告していたんですが…｡彼女はその言葉にすごく怒っていましたが､現実になってしまいましたね」
その後もミナミのうわさは西田さんの耳に届き続けた｡
「場末の風俗で働いているとか､裏社会の人間の愛人になって､違法な薬に手を出しているとか｡生活保護を受けているなんてうわさもありました｡真相は分かりませんが､AVで成功しなかったのは確かです｡そっちで売れていたら､どこかで名前を見るはずだから」
交際から17年経った今､彼女の行方を知る者はいない｡完全に消息不明で､生きているかも分からないという｡当時を振り返り､西田さんはこう締めくくる｡
「養成所詐欺かもしれないっていうのは俺の予想ですが､ろくな事務所じゃなかったのは間違いないと思います｡ただ悪質極まりないところだと､お金だけ吸い取ってステージに上がらせてくれないところもあるので｡結局は彼女の身の振り方次第だったんでしょうね」
西田さんに説得されたときが､彼女にとって人生のターニングポイントだったのかもしれない｡
冒頭で紹介したように､アイドル志望者を狙ったビジネスは､令和の今になっても存在している｡
地下アイドル界隈では運営と契約書を結ぶほうが珍しく､給料が払われるどころかアイドル自身が経費を支払うケースも多い｡
脱退の際に違約金や損害賠償を求められるトラブルも増えており､支払えずに泣き目を見る女性は確かに存在する｡
★まとめ★
名乗ってしまえばアイドルになれてしまう地下アイドル界隈。東京や都心だけではなく､大阪や名古屋の都市圏､地方であっても､地下アイドルは無数に存在する｡
その彼女たちの夢や承認欲求を利用する人間がいる限り､やりがい搾取のビジネスはなくならないのだろう｡
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