【ミリマスR-18】舞浜歩の抱えたトラウマを上書きする話 (24レス)
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9: オーバーライト 8/19 [sage saga] 2021/03/14(日)00:26 ID:Xw+hWuzl0(9/21) AAS
 初回こそ難航していたドラマの撮影だったが、回を追うごとにリテイクは少なくなっていった。初めの方はパートナーと密着してダンスすることに抵抗を示していたのも今は大分慣れたようで、次第に初々しさの抜けていく立居振る舞いは、ドラマの中の少女の成長とうまくシンクロしていた。

 リテイク無しで撮影を終えた歩が主役の二人と挨拶を交わし、こちらへ駆け寄ってくる。

「指先まで意識が行き届いてて、エレガントなダンスだった」という監督の褒め言葉にすっかり上機嫌で、にやけた笑みが顔に張り付いている。

「お疲れさん。うまくやれてたみたいだな」
「ふふーん。アタシ、意外と女優向いてたりするのかな?」
「調子こいてるとまたやらかすぞ? この間はそんなこと言っててドレス踏んづけただろ」
「いやぁ、それは……ほら、アレだよ」

 スタジオから離れるに連れて、人間一人分あったスペースが狭まっていく。自分たち以外の気配が無くなる頃には、左腕に歩がしがみついていた。

「……次回はさ、いよいよあのシーンの撮影なんだよね」

 散り際の線香花火みたいに、声のトーンが下がった。シナリオの通りに進むならば、次回は、絆が深まりつつある劇中の二人の関係性が大きく進展する回。ベッドシーンの撮影が予定されている。

 ドラマの撮影内容に向けての事前検証は、ここまで全て一緒にこなしていた。フラッシュバックの有無を確かめるために、人目の無い場所では手も握ったし、ハグもした。今だって腕を組んで、本当の恋人同士みたいな距離感で駐車場の隅を歩いている。

 事情があるとはいえ、歩とは、親密になり過ぎることが許されない関係だ。だから、特別な感情は介在させないよう、極力努めてきた。だが――

 歩への協力に「恋人ごっこ」という言葉でラベルを付けたせいだったかもしれない。彼女から向けられる眼差しには、いつしか信頼以上のものがこもるようになっていた。単に恥ずかしがっているだけかと思っていたが、目が合えばじっとこちらを見つめてくることが多くなった。体温を感じ取れるような至近距離になると、一回り大きくなった瞳が潤いを含み、心の底を掬い取ろうとしてくるのだ。鼓動が高鳴る自分がいるのを、認めざるを得なかった。

「……泊まりに行っても、いい?」

 組まれた腕の末端で、手が震えている。事務室で見た蒼白の顔が脳裏をよぎった。あの再現になるかもしれないが、歩はそれを承知でトラウマを乗り越えようとしている。添い寝程度で終わるだろうか。いや、同じベッドで睡眠を取るだけのつもりなら、遠慮や甘えが何層にも折り重なった視線を歩がぶつけてくるはずがない。

歩の覚悟は、もう差し出されていた。もう後戻りできなくなっている。それなのに「これ以上は」なんて考えているのは、自分本位に思えてしまった。
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