狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】 (433レス)
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7: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)09:55 ID:Vqcr7VCy0(7/86) AAS
「夏休み前から、どうも私に反抗するようになって。以前はそういうことはなかったのに、何があったのか」

「反抗期というものはどんな子供にも存在するだろう。それに転校に反対する娘の為にこの汚染された第一清麗指定都市に私を呼んだのは貴様ではないか」

 ソフィアは感情的だし厳しすぎる面もあるが、決して子供のことを思ってないわけではなかった。むしろ信念を持って、子供の為を思って、《公序良俗健全育成法》を夫である錦ノ宮祠影と共に国に通し、成立させた。

 一人娘のアンナのことだって、あれほどまでの理想的な娘を誇りに思ってないわけがない。転校したくないという娘の意思をソフィアなりに考えたうえで、自分をこの都市に呼んだのだ。

「まあ、そうですが。このままだと、それも無意味になりそうですね」

 今もソフィアは子供たちの未来について考えている。だからこそ自分は協力しているのだ。

「貴様の夫は何と言っているのだ?」

「この件に関しては対立してます」

 あんな自爆テロみたいなやり方では当然だろうと爛子でも思った。

「あのやり方だけではなく、夫は政府の主張に反対していません。むしろ推進する方向で動いているようです」

 ソフィアのプロレス技のような拷問にかけられてそうなら、祠影はその方向で動いていくのだろう。

「ああもう! あの人も金子玉子も!! 腹立だしい!!」

 突然ヒステリックに叫ぶが、爛子としては慣れた反応だったし、心情としては自分もそうだった。

 金子玉子は与党所属の国会議員の一人でありソフィアと同じくPTA組織の幹部で、自分たちが反対している政府の方針を勧めようとPMの強制配信で自分たちの主張を潰そうとしている、自分たちの敵だ。

 今こそ世論は様子見と言ったところだが、政府の強制配信がこれからも続けば、一回のデモ程度の動きは簡単に塗りつぶされるだろう。

 性悪な頭脳を持つソフィアでも、簡単には打開案を思いつかないようだ。

 今日はどちらかといえば、作戦会議よりは疲れを癒すためという意味合いが強い。自分は傷痕が目立つしソフィアの容姿も娘に負けず目立ち、アンナには悪いがこのマンションの一室で軽く酒を交わすことにさせてもらいにきた。無論、酒は自分達で買ってきたものだ。

 がらん、と何かが落ちる音がしたのは、ワインの蓋を開けようとした時だった。

「――アンナ?」

 キッチンからだった。まずソフィアが動き、自分も追う形でキッチンに向かう。

 見るとアンナが蹲って、両腕で体の震えを抑えるように掻き抱いていた。ソフィアが背中をさすっている。傍には包丁が落ちていて、自分たちの為の料理を作っていた最中だったのだとわかる。爛子はとりあえずコンロの火を止め、包丁をまな板の上に戻した。

「アンナ!?」

「大丈夫か?」

 よく見ると頬が上気し、眼には僅かに涙が浮かんでいる。一瞬、爛子の動きが止まってしまった。

「あ、お母様……大丈夫、ですわ」

「熱でもあるのでは? 救急箱は……!」

「いえ、本当に大丈夫ですの、お母様」

 す、と一瞬で元の淑やかで上品な笑顔に戻る。あまりの突然の変化に、ソフィアも爛子も呆気にとられる。

「いや、君も心労がかかっていると思う。私達のことはいいから、もう休みたまえ」

「そうね。アンナ、あなたは休みなさい」

 はい、お母様と、あくまで貞淑に、出迎えた時と同じように上品に一礼すると、ソフィアの言うとおりに寝室と思われる方に向かっていった。

 蹲っていた時に一瞬見えた、自分が一瞬止まってしまうほどの不吉さを湛えた飢えた肉食獣のような笑みは、おそらく見間違いだろう。あのようないい子が、自分が見てきたどの犯罪者よりも不吉な笑みを浮かべるなど、そんなことがある訳がないのだから。
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