狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】 (433レス)
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33: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:18 ID:Vqcr7VCy0(33/86) AAS
「あー、アンナの体力に奥間がついていけんのか。おぬしはそう考えているのじゃな」

「ええ、女性に体力が劣るというのは、奥間君を傷付けてしまうのではないのかと思うと、それは言えなくて」

 別のことを考えていたためか、熱でぼうっとしていた頭は少しは回ってきた。ただその代わり、下腹部から愛の蜜が湧き出る感覚が生まれ、愛しい人に傍にいてほしいという気持ちはむしろ強まるばかりだった。

「ふむ、じゃあこれが役に立ちそうじゃの」
省27
34: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:19 ID:Vqcr7VCy0(34/86) AAS
 記憶を刺激されて無意識に口角が上がってくる。にやつく口元を必死で抑えた。

「アンナよ、これを見てくれんかの」

「――――ッ!!」

 見せられたのは、《雪原の青》に馬乗りになって恍惚に酔い切った、自分自身の絵だった。
省31
35: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:20 ID:Vqcr7VCy0(35/86) AAS
 アンナ先輩の言葉に、やはり僕と二人きりの世界を望んでいたことに、ショックがなかったと言えば嘘になる。

「それが、アンナ先輩の本心ですか?」

「ええ。間違いなく」

 でもよく考えると、いやよく考えなくても、
省23
36: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:21 ID:Vqcr7VCy0(36/86) AAS
 暴走してしまって、終わってしまいそうになったけど、心が壊れそうになるほどに僕を助けようとしていたあのアンナ先輩を、嘘だとは思いたくはなかった。

「アンナ先輩。今、アンナ先輩の心の中は、華城先輩のことが心配で、華城先輩に危害を加えるかもしれない犯人たちが憎くて、だから助けに行きたくて、きっとそれだけなんです」

「奥間君」

 気配は変わらないけど、どこか自嘲的な昏さが加わった気がする。
省28
37: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:22 ID:Vqcr7VCy0(37/86) AAS
「???」

 あれ、アンナ先輩生理だって言ってたよね? ナプキンしてるし本当にそうなんだろうけど、アンナ先輩は量が少ない体質なのか、それとも愛の蜜の分泌量が凄まじすぎて血を薄めてしまっているのか、思っていたほど血で真っ赤ということはなかった。

「奥間君、は、早く」

 じれったそうに腰を蠢かす。でも僕の懸念としては、バカ二人の作ったこのこけしが大丈夫なのかという問題がある。
省33
38: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:22 ID:Vqcr7VCy0(38/86) AAS
 陶酔しきったとろんとした声で、辛うじて僕の呼びかけには答えた。反応の鈍さが僕のやらかしたことの大きさを物語っていた。

「す、すみません、大丈夫ですか!?」

「う、あ、え、ええ……あは。うぇふふふふひっ……!!」

 ちょ、完全に別世界にイッてる! どうしようコレ!
省20
39: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:23 ID:Vqcr7VCy0(39/86) AAS
 きゅいーんきゅいーんきゅいーんきゅいーん

 PMに内蔵されているアラーム音の一つが、アンナ先輩のPMから大音量で鳴り響いた。

「…………」

 幸せに蕩けきった顔から、何とか現実に戻ってきた。気怠そうにPMを操作し、アラームを解除する。
省27
40: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:24 ID:Vqcr7VCy0(40/86) AAS
 ぐちょぐちょになったアンナ先輩にはシャワーを浴びてもらって、僕はトイレのウォシュレットで後始末をして、マスターに器物損壊や勝手にシャワーを借りたことを詫びて、そしてバカ二人に拳骨を喰らわせた。

「なんてものを作ったんだよお前ら!」

「お、おぬしはそれで助かったんじゃろうが!」

「別にわたしは実験的に作っただけで実用するつもりはありませんでしたし」
省36
41: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:24 ID:Vqcr7VCy0(41/86) AAS
「不破さん、双眼鏡で確認って」

「出来るわけがないでしょう、常識的に考えて」

 くっそ不破さんに常識を説かれると腹立つ! だけど正論だ。そもそも入院患者のプライバシーを守るためにあんな厳重なセキュリティが施されているのだ。報道を見る限りでも窓にはカーテンが引かれていたし、所詮学生である僕達に手に入る情報なんて限られている。

「お待たせしましたわ」
省31
42: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:25 ID:Vqcr7VCy0(42/86) AAS
「それも国にとっての正義ならば仕方ない事なのでは?」

 冷たい言葉だった。だけど僕はもう言葉を挟まなかった。

「綾女さんを犠牲にしなければ為せない正義ならば、わたくしはそれを否定します」

「アンナ先輩……」
省20
43: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:25 ID:Vqcr7VCy0(43/86) AAS
「《SOX》出てこねえな」

「なんか一言欲しかったけどね」

 犯人たちの会話から漏れ聞こえる《SOX》への期待感に、綾女は苛まれていた。

(自分でぶち壊しにするような真似しといてよく言うッス!)

 鼓修理はキレていたが、ゆとりは自分と似たような絶望が伝わっているのか、黙っていた。
省25
44: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:26 ID:Vqcr7VCy0(44/86) AAS
 愛する人に愛しているとてらいなく言えるその堂々とした姿に。愛する人が自分の変化に悲しむ姿を見て、だけど変化そのものを否定せず、あくまでもその変化を良きものとしていこうとするその姿勢に。

 アンナはいい子だ。能力もその性格も。極端から極端に行ってしまうけど、それは狸吉がカバーできる。あの夜のアンナですら止めてみせた狸吉なら、きっと出来る。

 親友や《SOX》の支持者がたくさんいるこの第一清麗指定都市の人間を切り捨てた自分なんかより、よっぽど相応しい。

 だけどどうして、自分はそこまで切り捨てるようになったのか。《SOX》を優先したのか。
省12
45: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:27 ID:Vqcr7VCy0(45/86) AAS
「犯人が分かったぁぁ!!?」

 そういえば不破さんが一応進展はあったと言っていたので聞いてみると、大した情報ではないのですがと前置きした上でもたらされた情報は犯人の素性と思われるものだった。

「この状況を打破するのに優先順位の高い情報ではないので」

「説明してくださる?」
省33
46: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:27 ID:Vqcr7VCy0(46/86) AAS
 早乙女先輩が突っ込んできた。ただ《SOX》でない不破さんやアンナ先輩にどう説明したらいいのか悩ましい。ただ話さないわけにもいかなかった。

「鼓修理の父親が、あの病院の経営のさらに上の人なんですよ」

「鼓修理ちゃんのお義父様は、奥間君のお義父様じゃないんですの?」

「えっと、それなんですけど」
省34
47: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:28 ID:Vqcr7VCy0(47/86) AAS
「うわーん、鼓修理ぃぃぃ!!」

 ばたばたと手足をばたつかせ、大の大人が部屋中をごろごろしていた。

 ゴスロリドレスという森の妖精スタイルで。

 秘書はもう慣れていたが、やはり不気味だった。だが仕方ないだろうとここは見守ることにする。
省36
48: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:29 ID:Vqcr7VCy0(48/86) AAS
「確か、《群れた布地》の事件、あなたも解決に関わっていたね」

 《SOX》が戦力不足を強化する為に時岡学園生徒会に掛け合い、風紀委員と共に解決に導いたのは記憶に大きく残っている。

『ああ、実力に関してはこう言えばわかると、とある方から伝言がありますわ。「アンナ会長は《鋼鉄の鬼女》と同じレベルですよ」……すみません、これはどういう意味なのでしょう?』

 電話の向こうで別の人間に問うような声音になったが、この言葉が狸小僧からのメッセージだとすれば、本当ならば実力は疑いようがない。何度部下が《鋼鉄の鬼女》の餌食になったことか。
省20
49: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:30 ID:Vqcr7VCy0(49/86) AAS
 し、心臓に悪い。

 鬼頭慶介とアンナ先輩のやり取りを聞いた感想はその一言に尽きた。スピーカーモードにしていたため、僕は勿論早乙女先輩や不破さん、ついでに月見草やマスターもやり取りを聞いていたが、多分きっと全員がアンナ先輩が自分の将来を切り売りし売り込むとは思っていなかっただろう。

 慶介が僕を指名したため、一旦保留にし、回線が僕に回ってくる。電話に出ようとして、それでもどうしても聞きたくなった。

「いいんですか? アンナ先輩」
省23
50: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:30 ID:Vqcr7VCy0(50/86) AAS
 思わずしみじみと頷いていた。それが逆に説得力をもたらしたのか、

『まあ、送ってあげてもいいよ、それぐらいの情報なら』

「本当ですか?」

 もっと足元を見られるかと思ってたけど、『鼓修理も人質だし』との一言に、一応親の気持ちがあるんだと思うことにした。時々森の妖精になるけど。
省34
51: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:31 ID:Vqcr7VCy0(51/86) AAS
 外にいた時間は20分ほどだったと思う。女性陣(一名除く、あ、マスターも)は何をしているのかと思うと、不破さんがドライバー片手に何やら弄っていた。細かい作業をしているようで、アンナ先輩は見張るというより単純に作業自体が珍しそうに見ている。そのアンナ先輩はサンドイッチをつまんでいた。お昼食べてなかったな、そう言えば。

「奥間君、どうでしたの?」

「一応、これ渡されたんですけど」

 早乙女先輩と月見草の姿がなかった。多分それぞれ役目があるのだろうと思って、まず優先するのはこのタブレットの情報を精査することだと中身を見ることにする。
省19
52: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:32 ID:Vqcr7VCy0(52/86) AAS
「それが正しいでしょう」

 不破さんがちらっと見ただけで断言する。これらの分析は一瞬で行われて、正直僕が3つ目のカメラをチェックするのがやっとといったところでだった。アンナ先輩もだけど不破さんはさらに別の作業しながら横目でそれを確認したってことで、観察力と分析力本当に凄い。

 僕、まだ何も出来ていないなとふと思った。結局交渉もアンナ先輩の将来を切り売りする形になって、自分は安全圏で流れを見ているだけだった。

「奥間君、ありがとうございます」
省37
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