狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】 (433レス)
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17: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:05 ID:Vqcr7VCy0(17/86) AAS
「くっつけばいいとかじゃない。狸吉はアンナの貞操を奪ったの。その責任は、きちんと取らないといけない。そこに《SOX》がどうという意見はないわ。別に恋愛は自由だもの。《SOX》が絡むと、またアンナが暴走する。狸吉自身が判断するべきことよ」

「あれを恋愛だとかいうのか? 狸吉は奪ったんじゃなく、あの化け物女が勝手に暴走して狸吉の意思を無視して、そんなのに責任だのなんだのおかしいだろ! 《SOX》としても完全にあの化け物女は敵として動いていて、そんなやつのもとに狸吉をおいとくのかよ! ばれたら殺されるより酷い目に遭わされるぞ!」

 ずっとこの調子で、二人は平行線だった。

 結局はあの化け物を昔から知っている親友でもある綾女と、もはや人間とすら思ってないゆとりの、どうしようもない壁だった。

 鼓修理はと言えば、ゆとりよりはあの化け物の近くにいる。時岡学園は中高一貫校で、鼓修理は中等部に春から編入していた。遠くはあるが、高等部の生徒会長としての演説や仕事ぶりは、中等部の奴隷男子ネットワークでもたくさん耳にしている。最近変わったという噂もそうだが、それ以前から、狸吉が入学する前から中等部にもファンがいるほどの人気だった。

 その人気は、鼓修理みたいに人心掌握を意識してやって獲得したわけではない。狸吉が絡まないところでは、ひたすらに完璧だからだった。容姿も、能力も、悪に対する姿勢も、それでいて悪事を犯さない弱者にはひたすらに手を差し伸べるその人徳も。

 その一面を知ってしまうと、《育成法》の被害者といいたくなる気持ちはわからなくもない。

 知識さえあったなら。

 綾女と狸吉が口を揃えて言う言葉だった。なら知らないなら許されるのかというゆとりの疑問には、二人とも答えてはいなかった。

 《育成法》の矛盾を考えさせられる問題に、最初はただ暴れたくて、次に綾女に憧れて、テロリストとしての考えなど持っていなかった鼓修理にも、流石に思うところは出てきてくる。

「ったく、何度目なんだぜコレ……!」

 ゆとりは頭を抱える。綾女はそんなゆとりを見ようとせず、窓の外をぼーっと見ている。今世論はガンガン動いていて、本来ならば《SOX》も動かなければならないのに、動いているはずなのに、停滞している。

「《育成法》の被害者だとか、ごちゃごちゃと……ややこしいんだぜ……」

「ゆとりは負の部分の被害者っスからね。あの化け物とはまた違って、ただ制定された時の余波を被っただけっスから、綾女様とも意見違ってくるんスよ」

 鼓修理の指摘にゆとりは俯く。ゆとりはあの化け物とはまた違った側面の《育成法》の被害者だった。それは綾女や狸吉も同じ。

 卑猥な犯罪を犯したり卑猥な職業に就いていた親のもとに生まれた子供。

 それだけで、本人は何もしていなくても、差別を受けてきた子供。

 化け物が“成功例”としての被害者なら、ゆとりは今の日本で賤業とされる酪農家の娘だった。動物の交配や交尾、去勢などのその職業に必要な、しかし卑猥な知識とされるものを持たざるを得なかったゆとりは、ずっと差別を受けてきたと聞く。

 知らないから超えてはいけない一線を越えた化け物に対して、知識を持たざるを得なかったがために差別を受け続けたゆとりにとっては複雑過ぎるのだろう。狸吉に惚れているとかそういうことを抜きに考えても。

「まあ、とにかく、今は狸サルのことは置いといて、《SOX》の今後を」

 話を切り替えた途端、視界が暗くなった。

 自分だけではないようで、綾女もゆとりも天井を見上げる。

「蛍光灯切れ? ――照明全部が、同時に?」

「停電……病院でか?」

 だだ、と、廊下から激しい音が聞こえてきた。

 全員、《SOX》として、下ネタテロリストとしてそれなりに場数をくぐってきた全員が、不穏さに気付く。だけど気付いた時には、もうどうしようもなかった。
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