狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】 (433レス)
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15: ◆86inwKqtElvs [saga] 2020/08/21(金)10:04 ID:Vqcr7VCy0(15/86) AAS
「彼氏さんはね、節制の正位置が出ててね、これは調節とか適応とか、そういう意味を持ってるんだけど」

 彼氏さん彼女さん呼びはもう置いといて、PMの天文図が切り替わる。多分僕の生まれた時の星の位置なのだろう、星の位置が僅かに動いた。

「彼女さんと違って、白黒はっきりつけるより、グレーゾーンが広い人。これはね、優柔不断に繋がることもあるけど、本質は善悪両方を呑みこむ度量を持っていて、これとカードの結果を合わせると、彼氏さんはね。組織で言う、バランサーだね。まず人の話を聞いて、上手く流れを作っていける人。だからね」

 占い師さんはアンナ先輩に笑いかけると、

「何か重大な決断を決断する時は、一人で決めずに、彼氏さんの意見を聞くといいよ。この彼氏さんはね、視野が広いし、ちゃんと周りのことも考えて、その上であなたにとって最良の考えを言ってくれる人だから。彼氏さんはね、彼女さんがいろんなものに縛られて動けなくなった時が来ても、その能力をうまく引き出せる人だから、安心していいよ」

 いやアンナ先輩の手綱を引っ張る事なんてとても無理だと思いますが、でもわりと説得力のある結果だった。こちらのことをちゃんと考えてくれているのが伝わっているからだろうか。

「なんというか、説得力ありますわね。恋愛の神様と言われていると聞きましたが、素晴らしいアドバイスでしたわ」

「……うん。なんかね、私自分の恋愛運を人に分け与えることが出来るみたいで、周りが幸せになるのは私が恋愛運を分けてくれるからだって誰かが言ったからそのあだ名がついたんだよね。おかげで私はいい人に巡り合えないけど」

 何だろう、いきなりどす黒いオーラを発揮し始めた。羅武マシーンの腐のオーラやアンナ先輩の嫉妬時の絶対零度暗黒オーラとはまた違った黒い瘴気みたいなのが出始めたんだけど、「いいの、私、おくりびとだからいいの」とかぶつぶつ言い始めたんだけど。

「あ、あの、大丈夫ですの?」

 アンナ先輩の呼びかけに占い師さんははっと我に返ると、「何かパワーストーンも買ってみます?」と無理矢理話を変えてきた。まあ僕としても何かしら買って帰るつもりではあったけど、この人大丈夫なのか、さっきまでの感嘆が薄らいでちょっと不安になってきた。

 結局それぞれの誕生石をメインに合わせて、二人おそろいの石を選んで、同じデザインの三連石のペンダントを作ってもらった。浄化とかよくわからないけどなんか霊的なパワーを補充する意味合いの説明を受けている間、アンナ先輩は楽しそうで、とりあえず選択としては悪くなかったならよかった。

 別の予約していたお客さんが来たので、僕達は退散することにする。また来ますわとアンナ先輩は微笑むと、僕達は店を後にした。

 ずっと薄暗いところにいたせいか、冬なのに太陽の光がやたら眩しく感じる。

「占いというものはよくわかりませんが、あの方がいい人なのはわかりますわ」

 おそろいのセミオーダーペンダントというのはアンナ先輩にとってきっとものすごくいい買い物をしたのだろうけど、僕にとってはまた引き返せなくなるなあと若干絶望していた。

「じゃ、じゃあお昼になりましたし、前に行った喫茶店に行きましょうか」

 そのままペンダントをしまおうと思ったのだけど、アンナ先輩はマフラーを再び巻く前に自分のペンダントを付け、

「……奥間君も」

 ネクタイを直すみたいな感じで、人目が僕達に注目していないのを確認してから、僕にもペンダントを付けた。

「おそろい、ですわね」

 アンナ先輩は恥ずかしくなったのか、自分のペンダントは服の中に仕舞ってしまった。

 僕もそれに倣うことにする。く、華城先輩たちが見てなくて良かった、絶対ゆでたこになってる、鏡を見なくてもわかるったらわかる。

「い、行きましょうか」

 いつもの喫茶店は歩いてもすぐ近かった。やっぱりアンナ先輩は僕の袖をつまみながら、恥ずかしそうにだけど幸せそうについてくる。

 ああ、ずっとこの時間が続くなら、僕はそれはそれで幸せだったと思う。

 喫茶店に入る。ぴし、と僕は固まってしまった。

「あら、お義母様」

 アンナ先輩は摘まんでいた袖を離し、珍しく慌てた様子でお辞儀する。その様子はむしろ初々しさを印象付ける。

 けど僕はそれどころじゃ無い。相席していたもう一人がなんでここにいるのかわかってないからだ。

「不破さん? どうして?」

 助けてください、と無表情ながら冷や汗をだらだらかいてこちらにいつもより更に濃いクマの上の目で訴えてきたけど、アンナ先輩の姿を見てその瞳は一気に絶望に染まった。

「お義母様、うちの学園の生徒が何かしましたの?」

 あ、アンナ先輩の気配が獲物をいたぶる蛇のそれに変わった。ごめん、不破さん、君の棺桶にはBL本をたくさん入れるよ。僕も生きて帰れるかわからないけど。
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