何も無いロレンシア (83レス)
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68: ◆SbXzuGhlwpak 2019/06/01(土)03:28 ID:zJUkddjZ0(68/82) AAS
 深い知性と憂いがたゆたう藍色の瞳。その髪もまた黒に近い藍色で緩いウェーブがかかっており、落ち着きとともに悲しみを感じさせる妖しい色香がある。外套をつけていてはっきりとはわからないが、その髪は肩より下まであるようだ。

 一八〇を超える背丈は均整がとれていて、その足運びも隙が無いというより、美しいという印象を抱かせる。腰に差した剣が男が戦いを嗜んでいることを示すが、この男が血と泥にまみれて戦っている姿が衛兵にはどうにも想像できなかった。どこかの貴族様だろうか。年齢は二十代後半のように見える。

「三人……か」

「え……あ!?」

 衛兵がつい物思いにふけっていると、青年は辺りを見回しながら呟く。その呟きは独り言なのか、衛兵に尋ねたものなのか判断がつきかねたが、どちらにしろこの場から離れてもらわなければいけない。相手が貴族だとすればなおさらだ。

 しかし――

「ここで戦っていた数は三人で間違いないか?」

「は、はい!」

 その藍色の瞳を向けられると自然と直立の姿勢をとってしまい、緊張で上ずった声で返答してしまう。同時に衛兵は自然と理解した。この方は、自分程度が指図していい方ではないのだと。

「深紅の鎧……それにあの槍は、音に聞く皆殺朱か。だとするとこの男は“血まみれの暴虐”フィアンマだろう」

 “血まみれの暴虐”フィアンマ。凶悪極まりない名を聞き驚きの声を上げそうになるが、青年は考え込むように辺りを見回している最中なのでなんとか声を押し[ピーーー]。彼の思索を邪魔してはならなかった。

「死してなお残る、この不快な気配。魔に心を呑まれたモノの可能性が高いが、それらしき情報はないのか?」

「……ッ!! この場に何十という蛇がいたという話と、つい一刻前にこの世のモノとは思えないおぞましい叫びが響き渡りました」

「私が着く前に、そんなことがあったのか。となると、そこの大きな緑色の水たまりが、“深緑”のア―ソンだったものか」

 魔に心を呑まれたモノがこの街にいた。魔に心をのまれたモノだったものがそこにある。その事実に衛兵は愕然とする。

 実をいうとその可能性は考えなかったわけではない。しかしそんなことあってたまるかという思いがその考えに封をしていた。

 “血まみれの暴虐”フィアンマと“深緑”のア―ソンがこの場で戦ったのだとすれば、むしろこの程度の惨状で済んでくれたとさえいえる。何せ二人とも、小さな街ならば滅ぼすことができる実力と、それをやりかねない気性と残虐性を持つという話なのだから。

 だがここで疑問が生じた。

「あと一人。こいつは何者だろう?」
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