【グラスリップ】透子「かけるくん?」 (171レス)
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20: [sage saga] 2019/04/04(木)00:08 ID:dmglIwuH0(2/7) AAS
 言いながら、俺は透子の反応を伺う。

 すると、彼女はどういうわけか瑣末なことをぶつぶつと呟き始めた。

「……謝るってことは、誰にも聞かれてないと思ってお風呂場で歌を歌ってたり、いや、そんなことより、まさかテストの点、呟いてないよね……」

「どっちでもない」

「よかったぁ」
省14
21: [sage saga] 2019/04/04(木)00:14 ID:dmglIwuH0(3/7) AAS
「……こないだの祭りの日」

 彼女を不安にさせないよう、俺はなるべく穏やかな口調で、そう話を続けた。

「俺は初めて《映像》と《声》――両方の合わさった《欠片》を見た」

「かけら……?」

 透子は俺の言い回しに首を傾げたが、心当たりがあったのだろう、これまでで一番それらしい反応を見せる。
省9
22: [sage saga] 2019/04/04(木)00:27 ID:dmglIwuH0(4/7) AAS
「幻覚のようなものが見えるとき、何かきっかけがあるだろう?」

「……うん」

「それがあると、たぶん見えやすい」

 すると、透子は首から下げたネックレスの飾り玉に触れた。

「ガラス、でいいの?」
省27
23: [sage saga] 2019/04/04(木)00:35 ID:dmglIwuH0(5/7) AAS
 どうする――?

 素朴な質問に、俺は虚を衝かれた。

 俺にとって《未来の欠片》は、それ自体が目的であって、何かを為すための手段ではない。

 俺が完全な形になるのに、《未来の欠片》を拾い集めることが必要だというだけ。

 そして透子といれば、よりはっきりとした《未来の欠片》を手に入れることができる。
省9
24: [sage saga] 2019/04/04(木)00:38 ID:dmglIwuH0(6/7) AAS
 *

 家に帰ってからも、透子の問いに対する明確な答えは出なかった。

 考え過ぎで疲れた頭をすっきりさせようと、俺は海沿いを走ることにした。

 その途中、俺は透子の友人の一人に会った。

 イミ、ユキナリ。
省5
25: [sage saga] 2019/04/04(木)00:41 ID:dmglIwuH0(7/7) AAS
 *

 次の日の夕方、家の電話が鳴った。

「はい、沖倉です」

『あの! あ、えっと、深水ですけど、同じ学校の』

「ああ、俺だよ」
省6
26: [sage saga] 2019/04/07(日)10:02 ID:4h98r15f0(1/32) AAS
 †

 山登りは、元々は父さんの趣味だった。

 子供の頃は、正直、父さんとの山登りにはあまり気が乗らなかった。

 大人の足ならなんてことのない山道も、子供の足にはかなりきつかった。景色だってほとんどの道のりはただ木々が見えるだけで退屈だった。

 それでも、一度習慣になったことは、なかなか抜けないもので。
省8
27: [sage saga] 2019/04/07(日)10:07 ID:4h98r15f0(2/32) AAS
<第3話 ポリタンク>

『あ……今の――』

 初めてガラス球越しに逆さまの風景を見たときのように、透子は《未来の欠片》が実際に『未来の欠片』であることに感じ入っていた。俺はそっと手を取るように、うん、と肯定し、話を本題に――透子が未来が見たいと言い出した件に――戻す。

「それは今から?」

『うん、今から』
省8
28: [sage saga] 2019/04/07(日)10:12 ID:4h98r15f0(3/32) AAS
 *

『YATAGLASS
 studio』

 透子から聞いた住所に着くと、烏の意匠の看板を掲げた建物がまず目に入った。ここが透子が待ち合わせに指定した工房だろう。電気が点いていたので、俺は正面の入り口ではなく、ガラス張りになっている側面へと回る。

 透子は工房の中に一人でいた。Tシャツにジーパンというラフな格好で、髪を一つに結んでいる。作業中のようで、竿の先についたオレンジ色に煌めくガラスの表面を、特殊な紙か布のようなもので磨いていた。透子は慣れた手つきで、くるくると竿を動かし、ガラスの形を整えていく。

 俺はそんな彼女の姿を黙って見つめた。扱っているものがものだけに不用意に声は掛けられないし、それに、誰かが一心に仕事をしている姿は、それだけで絵になるものだ。
省3
29: [sage saga] 2019/04/07(日)10:20 ID:4h98r15f0(4/32) AAS
 *

 作業場の隣には、長テーブルと椅子が置かれた談話室のような部屋があり、俺はそこに案内された。

 片付けを終えた透子が、作業場の電気を消し、部屋に入ってくる。その表情はどこか暗い。先ほどの失敗を引きずっているのかとも思ったが、理由はまた別にあった。

「……やなちゃんを泣かせちゃう」

 やなちゃん――眼鏡の彼女、永宮が『さっちゃん』だったから、透子が言っているのはリボンの子のことだろう。
省15
30: [sage saga] 2019/04/07(日)10:35 ID:4h98r15f0(5/32) AAS
 *

「ごめんね、来てもらったのに追い返すような……」

「別に気にしなくていい」

 少なくとも、透子とガラスの関わりについてわかったのは収穫だった。

 それより気がかりなのは、透子が『未来を見たい』といった理由のほうだ。
省21
31: [sage saga] 2019/04/07(日)10:46 ID:4h98r15f0(6/32) AAS
「透子は彼らの未来を見て、どうするつもりだった?」

 『どうする?』――麒麟館での透子の問いかけが脳内に反響する。

 《未来の欠片》を手段にして現実を変えようとする透子。

 《未来の欠片》そのものを追い求める俺とは違う。

 そんな彼女は一体何を求め、何を願うというのだろう?
省11
32: [sage saga] 2019/04/07(日)10:56 ID:4h98r15f0(7/32) AAS


「ここでいいよ、ありがとう」

 見送りは透子の家の敷地から出たところで固辞した。と、透子に呼び止められる。

「明日、山にみんなで行くの!」

 喫茶店にいたメンバーでハイキング――それがどうかしたのだろう。イミユキナリと会っても気まずくならない方法とかなら、対症療法は思いつくが……。
省13
33: [sage saga] 2019/04/07(日)11:02 ID:4h98r15f0(8/32) AAS
 *

 その帰り道のことだった。

『見ろよ、夕日が綺麗だ』

 《俺》に声を掛けられ、俺はそちらから肩を叩かれたように、海へと視線を向けた。

 岸に泊められた船舶の向こうで、赤々と輝く、大きな太陽。
省14
34: [sage saga] 2019/04/07(日)11:20 ID:4h98r15f0(9/32) AAS
 †

 自分の名前について調べてみることは、誰でも一度は経験があるだろう。

 俺――沖倉駆も、例に漏れず漢字辞典を開いた口だった。

 『馬』に、『区』。

 意味は、走ること。特に、馬に乗って。
省19
35: [sage saga] 2019/04/07(日)11:23 ID:4h98r15f0(10/32) AAS
<第4話 坂道>

 庭に張ったテントで寝起きすることにも、少しずつ慣れてきた。

 日が昇り、まどろみの心地よさと、覚醒しようとする意思とが、いつものように戦っていると、

「どうだ、住み心地は?」

 そう、テントの入り口から父さんが顔を出した。
省9
36: [sage saga] 2019/04/07(日)11:28 ID:4h98r15f0(11/32) AAS
 *

「長いこと、おまえには迷惑かけたな」

 芳ばしく薫るハムを皿に盛りつけながら、父さんはそんなことを言った。

「朝からなんだよ」

「いや、これから一緒に暮らすわけだしな。最初に少し真面目な話をしたほうがいいかと思ってな」
省12
37: [sage saga] 2019/04/07(日)11:31 ID:4h98r15f0(12/32) AAS
 それに、俺なりに、こうしてみたい、という漠然とした希望もある。

 母さんのようになりたい、という気持ち。

 色々な場所を飛び回るような仕事をして、生きてみたい。

 ただ、それ以上のことを考えようとすると、決まって胸の中に暗い靄が立ちこめる。

 迷っている……いや、踏ん切りがつかない、というほうが正しいか。
省15
38: [sage saga] 2019/04/07(日)11:35 ID:4h98r15f0(13/32) AAS
 答えを求めるように、俺は母さんの演奏を再現するオーディオプレイヤーに目を向け、ふと思う。

 俺にとっての《未来の欠片》と、父さんにとってのこれは、似たようなものかもしれない、と。

「いつも聴いてるの?」

 ずっと母さんと一緒にいた俺は、父さんがこの家で一人、どんな風に暮らしていたのかよく知らない。けれど、

「ああ。おまえがいると恥ずかしいんだが……まあ、聴いてるかな」
省10
39: [sage saga] 2019/04/07(日)11:38 ID:4h98r15f0(14/32) AAS


 朝食を済ませると、俺は出かける準備を始めた。

 透子の誘いを断った手前、というわけではないが、近辺を散策することにしたのだ。

 結論から言うと、その散策で、俺は二つのものに遭遇した。

 そのうちの一つは、人物。
省1
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