中野四葉「まにまにりぽーと」 (253レス)
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1: [ saga] 2019/01/29(火)21:14 ID:gUiBlRD20(1/29) AAS
五等分の花嫁のss。R18。

過去スレ貼るのが面倒になったのでそっちは皆様に丸投げ。
2: [ saga] 2019/01/29(火)21:15 ID:gUiBlRD20(2/29) AAS
「うげっ」
「その反応は人としてどうなのよ」

 チラシに挟まっていた特売情報に釣られてやって来た、日頃利用しないスーパーで知った顔に遭遇した。時に、この知った顔という表現は俺にとってかなり厄介なものであるように思える。なにせ、別人のくせに顔が同じという面倒な連中と付き合いを持ってしまっているものだから。
3: [ saga] 2019/01/29(火)21:16 ID:gUiBlRD20(3/29) AAS
「ちょうどいいから手を貸しなさいよ。この卵、おひとり様一パックまでらしいから」
「……ったく」

 差し出された10個入り1セットの生卵を渋々受け取る。我が家ほどではないが、彼女たちの家計も贅沢が許されないレベルのものなのは知っているので、ここで無碍に断るのは良心が痛む。本当は、もっと他に痛めるべきポイントがあるのかもしれないが。
 元から自分が持っていた買い物カゴにそのパックを詰め込み、ゆっくりフェードアウトしようとしたところで彼女に腕を掴まれる。二乃は、こういう時に簡単には逃がしてはくれない奴だ。
4: [ saga] 2019/01/29(火)21:16 ID:gUiBlRD20(4/29) AAS
「あんたにどっか行かれたら意味ないじゃない」
「そこはほら、また後日的な」
「待ってる間に消費期限が来ちゃうわよ」

 たいてい二週間くらいの猶予はあるのだし、それに間に合わないことはないだろうと思った。しかし、その言葉は胸の奥底にしまいこむ。揚げ足を取るのはいいが、そうすると自分の揚げ足が取られる確率まで上がってしまうからだ。失言や失態と無縁ではない生き方をしている自覚があるのも相まって、ここで余計なことをするのは悪手だという直感が走った。
 諦めて、二乃の横につく。が、無抵抗の意思表示をしているにも関わらず、彼女は俺の腕を返してくれなかった。
5: [ saga] 2019/01/29(火)21:17 ID:gUiBlRD20(5/29) AAS
「逃げないっての」
「分かってるわよ」
「それが分かるなら俺の言いたいことも察しろ」

 言葉を濁して自分の意思を他人に推し量ってもらうというのは酷い甘えだし、傲慢であるとも思う。だが、その理由を口に出すのも出すので憚られるという極大のジレンマが、俺の動きを鈍らせた。公衆の面前で女子と引っ付くのが恥ずかしいだなんて、堂々と言えることではない。

「これ?」

 二乃は、解放するどころか自分の腕を俺に絡めてくる。いたずらっぽい笑みは、『意図を理解した上でやっている』というおちょくりか。
6: [ saga] 2019/01/29(火)21:18 ID:gUiBlRD20(6/29) AAS
「もちろんわざとやってるんだけど、なんでだと思う?」
「なぜクイズ」
「正解は、見せつけたいから、でした」
「答えさせてもくれないのか……」

 思ったことをそのまま伝えてくれるのは、裏を疑わなくていいという点ではものすごく楽だ。楽だ……が。それにしたって、時と状況を選んでもらわないことには、こちらが対応策を用意できなくなってしまう。端的に言えば、すごく困る。
7: [ saga] 2019/01/29(火)21:19 ID:gUiBlRD20(7/29) AAS
「しょうがないでしょ。こうでもしないとあんた、私のこと意識もしないんだろうし」
「俺はそこまで鈍い奴だと思われてんのか」
「思ってるからやってるのよ」

 ごもっとも。だからといって受け流せるかといえば、それもまた別問題だが。
 
「誰かさんが直々に、『卒業までは考えさせろ〜』なんて言うもんだから、私はそれまでの得点稼ぎに必死なの」
「その発言が俺の心象を悪くするとは思わなかったのか?」
「薬まで使って色々やった人間に対する感情が、たかだか一つや二つの言葉で変わるわけもないでしょ」

 それもまたごもっとも。酷い正当化だとは思うけれど。
 しかし、彼女の言う点数稼ぎとやらは、かなり体を張る行為らしい。その証拠として、毅然と振舞おうとしているのはなんとなく分かるけれど、二乃の瞳は妙に揺れている。
8: [ saga] 2019/01/29(火)21:19 ID:gUiBlRD20(8/29) AAS
「恥ずかしいならやらなきゃいいものを」
「うるさいわね。慣れてないだけよ」
「お前、これに慣れるつもりなのか……?」
「ゆくゆくはね」

 ゆくゆく、というのがどれくらい先を指しているかは不明だった。卒業までか、あるいはもっと未来までか。万一後者だったとして、こいつはいつまで俺に執着する気なのだろう。
9: [ saga] 2019/01/29(火)21:20 ID:gUiBlRD20(9/29) AAS
「式ではどうせこのスタイルなんだし」
「俺はお前が怖いよ」

 式と言うのはたぶん、冠婚葬祭の頭から二つ目のアレだ。確かにバージンロードを歩く新郎新婦は腕組みをしているイメージがあるが、そこまで見据えているというのは流石に恐ろしい。なぜこの段階から俺と添い遂げる覚悟を固めているんだこの女子高生は。
10: [ saga] 2019/01/29(火)21:20 ID:gUiBlRD20(10/29) AAS
「もう否定するのも疲れたから聞くんだけどさ、お前の人生設計ってどうなってんの?」
「子供は二人以上欲しいわね」
「家族計画はまた今度聞くから今は控えろ。俺が聞きたいのは、何歳で何をして〜みたいなのだ」

 とんでもない爆弾発言が飛び出たが、そこまで驚きもしなかった。既にそれを目的とした行為を重ねてしまったからというのが主要因だと思う。俺は二乃が怖いが、それ以上に自分も怖い。
11: [ saga] 2019/01/29(火)21:21 ID:gUiBlRD20(11/29) AAS
「取りあえずはまあ、高校卒業よね」
「そっちの見通しはだいぶ立って来たな」

 今は屋根の下にいるから感じないが、外に出れば既に秋の匂いが漂う時期だ。途中途中のテストなんかも順当に突破してきていて、よっぽどのことでもない限り彼女たちは当初の目標通りに高校修了の有資格者となる。

「そうしたら、料理の専門学校にでも行こうかしら」
「得意分野だもんな」
 
 自分の店を持つみたいな話もあった。なら、そこに至るまでに必要とされるものをかき集める必要があるだろう。俺が思いつく範囲では、調理師免許とかだろうか。
12: [ saga] 2019/01/29(火)21:21 ID:gUiBlRD20(12/29) AAS
「で、そこも卒業したら就職よね」
「おう」

 当たり前の流れだ。ここまでは俺でも予想できる。

「その場所で二年働いて」
「なるほど」

 起業のための準備金を貯めると。プランとしては悪くない。ただ、二年でどこまで貯金できるかがネックか。そこは彼女の頑張りにも依るだろうが、それにしたって昨今の労働状況では、二十代前半からがっぽり稼ぐのは厳しい。だから銀行にでも頼るのかと思って、次の言葉を待つと。
13: [ saga] 2019/01/29(火)21:22 ID:gUiBlRD20(13/29) AAS
「そして、ちょうど大学卒業のあんたと入籍ね」
「おい」
「しばらくは家事育児に追われるだろうから専業主婦で」
「おい」
「子供から手が離せるようになったら、そこでようやく夢の実現に向けて頑張ろうかしら」
「おい」
「何よ?」
「それは俺の台詞なんだけど」
「どこかおかしかった?」
「全体的にな」
省1
14: [ saga] 2019/01/29(火)21:23 ID:gUiBlRD20(14/29) AAS
「あんたとくっつくのは確定事項だもの」
「おかしいな認めた記憶がない」
「認めさせるわ、近いうちにね」

 背中に鳥肌がぶわぁっと広がった。嫌な予感は、今日も休まず俺の後方数センチの至近距離に詰めてきている。
 この強引さが二乃らしさなのだろうとは思うが、やっぱりしばらくの間はこいつから供与される飲食物に対して一定以上の警戒心を持っていた方が良さそうな気がした。それから、ハンコの類は絶対に隠していようとも。
15: [ saga] 2019/01/29(火)21:23 ID:gUiBlRD20(15/29) AAS
「あれだけ色々したんだもん、責任取ってもらわなくちゃ」
「ピンポイントで俺の弱点刺すんじゃねえよ……」

 そこを指摘されたら何も言い返せないのだ。だから、そればっかりは勘弁してもらわないといけない。それからその理論で行くと、俺にはあと二人ほど責任を回収しなきゃならない相手がいる。
 先のことを考えてため息を吐くと、二乃との距離がいっそう縮まった。いつだかにたっぷり堪能した柔らかさが一瞬だけ呼吸を乱すが、しっかり落ち着いて「あんまりくっつくな」と冷静な返答を選択する。
16: [ saga] 2019/01/29(火)21:24 ID:gUiBlRD20(16/29) AAS
「卵が割れるだろ」
「必要経費よ」
「まだ未購入だってのに……」

 それでも離れてはくれないらしくて、なおも腕をホールドされたまま、生鮮売り場やら野菜売り場やらを巡る。忘れかけていたがこれはそもそも我が家のための買い物なので、自分の目的物も手に取っていかなければならない。
 夕時のスーパーは仕事帰りのサラリーマンやら材料を買い込みに来た主婦やらでごった返していて、そんな中で女子とべたべたくっつきながら歩くのはなかなかにキツかった。主に浴びせられる視線が。
17: [ saga] 2019/01/29(火)21:25 ID:gUiBlRD20(17/29) AAS
「そういえばさ」
「なんだよ?」
「私さっき、あんたが大学行く前提で話しちゃったけど、そういうのって考えてるの?」
「問題のある仮定はそっちの方じゃないだろ」
「いや、これは割と真面目な話」
「……どうだろうな」

 学びを深めるという点では、間違いなく大学進学は価値のある行為だ。ただ問題があるとしたら、俺は別に好きで勉強をやっているわけではないということ。いつか獲得した知識や知恵が役立つようにと思って励んではいるが、そこに重きを置き過ぎたせいで将来像はまるで固まっていないように思う。過程と結果が存在する世界で、過程に力を注ぎ過ぎてしまったのかもしれない。
 だから、迷いがある。
18: [ saga] 2019/01/29(火)21:25 ID:gUiBlRD20(18/29) AAS
「知ってるとは思うが、ウチに俺を道楽で進学させられるほどの余裕はない」
「まあ、なんとなくはね」

 借金は伏せてあるが、それにしたって切迫した懐事情については既にバレバレだ。そんな中、なんとなくで四年間も家の負担にはなれない。進学するなら、明確な理由が要る。
 それが今の俺にあるかと問われれば、答えに窮する。『いつか役に立つように』は明確な理由足りえない。
19: [ saga] 2019/01/29(火)21:26 ID:gUiBlRD20(19/29) AAS
「だから、ギリギリまで考える。何をしたいかとか、何が出来るかとか」
「人の進路ばっかり気にして自分の将来設計がすっからかんなところとか、すごいあんたらしいわね」
「うっせ」

 奨学金に頼ればどうにかならないこともない。だけど、それだって一応は借金の部類だし。
20: [ saga] 2019/01/29(火)21:26 ID:gUiBlRD20(20/29) AAS
「ま、最悪路頭に迷った時は私が養ってあげるから安心して」
「迷わねえからお前も安心しろ」

 こういう場面での軽口は、素直にありがたかった。今までに色々あったが、そこで培われた信頼の一端を見ることが出来たように思えるから。邂逅から一年、忙しない毎日を駆け抜けてきたが、走った後にはちゃんと道が出来ている。この事実が救いになるかどうかは、今はまだそこまで分からないけれど。
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