【オリジナル】治療完了、目を閉ざすよ【長編小説】 (184レス)
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1: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:34 ID:7Uxebwje0(1/79) AAS
以前書いて完結した一次創作小説のシリーズ第2作目です。
外部リンク:ncode.syosetu.com

こちらから読んでいただいても解るようには書いています。
残虐表現が多いため、一応R18指定とさせていただきます。

執筆しながら、出来た分を投稿していくので超低速です。
ジャンルとしてはサイコホラーとなります。

気長にお付き合いいただければ幸いです。
宜しくお願い致しますm(_ _)m
2: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:37 ID:7Uxebwje0(2/79) AAS
【1】水の中で

よく考えることがあった。
死んだら一体、その人はどうなってしまうのだろうか……。

消えるのだろうか。
残るのだろうか。
それとも、記憶の飛沫として誰かの中にただ、遺るだけなのだろうか。

死の先に、まだ続きがあるのだとしたら。
そこに向かうことは罪ではないのではないのではないだろうか。
そこに導くことは、間違ってはいないのではないだろうか。
3: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:38 ID:7Uxebwje0(3/79) AAS
侑玖(たすく)は、目を開いた。

「異常変質心理壁内に侵入しました」

耳元のヘッドセットに向けて言葉を発する。
ヘッドセットからノイズ混じりの女性の声がした。

『周囲の状況は?』
「心理壁の崩壊が見られます。虚無空間が見えてる。残り三十分あるかないかですね」
『それだけあれば十分よ。中枢を目指して頂戴』
「了解」
4: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:39 ID:7Uxebwje0(4/79) AAS
ヘッドセットのスイッチを切り、侑玖は周りを見回した。
十四、五歳ほどの少年だった。
青白い病院服の上下を着ている。
外国人とのハーフなのか、薄灰色の髪の毛と、空のように蒼い瞳をしていた。
痩せぎすの体で、裸足を踏み出す。
ジャリッ、と音がして足元の砂がきしんだ。

彼は、無限回廊のようにどこまでも続く細い道の真ん中に立っていた。
5: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:40 ID:7Uxebwje0(5/79) AAS
前も、後ろも数十……数百と赤い鳥居が連ら重なる、白い砂が敷き詰められた道だ。

空気が淀んでいる。
何かの腐臭が鼻をついた。

周囲には枯れた木が、おびただしい数立っていた。
地平線の向こうまでそれが続いている。
そして、木の枝には全裸の人間が、モズの早贄のように数百数千と突き刺されていた。
腐臭はそこから出ているようだ。
6: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:41 ID:7Uxebwje0(6/79) AAS
近くで眼球と舌を半ば飛び出させながら絶命している男性を一瞥し、侑玖は白い砂の道で足を踏み出した。

空は青い。
突き抜けるほどの青さだ。

しかし、所々が「欠けて」いた。
ガラスが割れているかのようにヒビが入り、欠け落ちている部分もある。
そこだけ銀色の流動体が、奥に蠢いているのが見えた。
7: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:42 ID:7Uxebwje0(7/79) AAS
暫く進むと、神社の社が見えた。
小さな社だった。

「中枢を発見しました」

ヘッドセットに手を当てて音声を送り、侑玖はそれに近づいた。
無造作に手を伸ばし、社の扉を開ける。

そこには赤ん坊が丸くなって眠っていた。
薄汚い毛布に包まれている。
スゥスゥと寝息を立てている赤ん坊を見て、侑玖は無表情のまま口を開いた。

「精神中核を捕捉しました」
8: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:43 ID:7Uxebwje0(8/79) AAS
『施術は可能そう?』

問いかけられ、彼は表情を変えないまま腕を振った。
一瞬後、侑玖は右手に刃渡り三十センチはあるかと言うほどの長大なサバイバルナイフを持っていた。

「していいんですか?」

逆に問いかけると、通信の奥の声は一瞬言葉を止めてから、静かに言った。
9: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:44 ID:7Uxebwje0(9/79) AAS
『時間がないわ。施術の許可をします』
「了解」

短く応え、侑玖は赤ん坊を左手で掴み上げた。
泣き声も上げずに目を閉じて眠っている。

どこかで、空が砕ける音がした。
バラバラとガラスのようになった青空が降り注いでいる。
侑玖はそれを見上げ……。
そして、持っていたサバイバルナイフをためらいもなく、赤ん坊の眉間に叩き込んだ。
10: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:46 ID:7Uxebwje0(10/79) AAS


「大河内幸(さち)?」

そう言って、Tシャツにジーンズ姿の少年……山中侑玖は手に持っていた資料に目を落とした。

やつれたような顔をしているが、どこか眼光が鋭く、近寄りがたい雰囲気を発している少年だった。
彼が持っている資料には、黒髪の少女の写真と、彼女の経歴が書いてあった。

「関東中央赤十字の案件でしょう?」
11: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:47 ID:7Uxebwje0(11/79) AAS
病院の診察室の一角だった。
コーヒーポットから中身をカップに移しながら、ざんばらの赤茶けた髪の毛を無造作に首の後でまとめた女性……秋坂美樹が、医師服を片手で直しながら口を開いた。

「さぁ? こっちの機関に回してきたってことは、あっちで手に負えなくなったってことじゃないの?」
12: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:48 ID:7Uxebwje0(12/79) AAS
「東京第一学園の小等部から中等部まで通っていて、現在休学中。自殺病患者じゃないみたいだけど」
「今回はその子を『起こして』ほしいとのことだ。眠り姫。好きでしょ君、そういうの?」
「そういう言い方はハラスメントに当たりますよ」

言い返してから、侑玖は写真を見つめた。
整った顔の少女だった。

「でもウチはそういうの専門じゃないでしょ?」
13: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:49 ID:7Uxebwje0(13/79) AAS
「すでに関東中央のマインドスイーパーが五名ダイブして失敗してる。攻撃性が強すぎるのと……」

ズズ……とコーヒーをすすって一息ついてから、秋坂は侑玖に向き直った。

「その子は変異亜種になりかけているそうだ。通常の方法では太刀打ちできない」
「へぇ……」

どうでも良さそうに返事をしてから、侑玖は資料をめくった。

「二ヶ月前から原因不明の昏睡状態……か。まさに眠り姫ですね」
14: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:50 ID:7Uxebwje0(14/79) AAS
「その子の母親は、関東赤十字病院の理事、大河内汀(みぎわ)女史。院内で処理したかったみたいだけど、どうも手が回らなくなってしまったようね」
「別に、俺はいつでもいいですよ。ダイブするのは俺一人?」
「じゃなきゃお前に依頼はしないだろう?」

淡々と言われ、侑玖は無表情のまま資料をテーブルに放った。

「確かに」
15: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:51 ID:7Uxebwje0(15/79) AAS
「午後から関東赤十字に行く。そのままダイブができるようなら、して欲しいそうだ」
「一つ確認したいんですけど」

秋坂にそう言って、侑玖は感情の読めない顔で彼女を見た。

「殺しちゃダメなんですよね?」
「危険地帯へのダイブだから、そんなことより自分の身を心配したほうがいいわよ」
「まぁ、それはそうか……」

椅子から立ち上がり、侑玖はパンパンとジーンズのお尻を叩いた。
16: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:52 ID:7Uxebwje0(16/79) AAS
「じゃ、俺メシ食ってきますんで。ああ、それと……」
「何?」
「さっきの患者、ちゃんと死にました?」

何でもないかのように問いかけられ、秋坂は椅子に腰を掛けてコーヒーをまた飲んでから言った。
17: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:53 ID:7Uxebwje0(17/79) AAS
「ああ。無事に息を引き取ったよ。さっき」
「それならいいんです」

侑玖はポケットに手を突っ込んで、診察室を出ていった。
秋坂が、彼が放った資料を手にとって眺める。
換気扇がカラカラと無機質な音を立てていた。
18: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:53 ID:7Uxebwje0(18/79) AAS


秋坂と侑玖が関東赤十字病院に着いたのは、午後一時を回ってのことだった。

関係者用の駐車場に車を停め、二人が裏口から中に入る。
秋坂は医師服にネームプレートを首から下げていたが、侑玖はそのままTシャツにジーンズの軽装だった。

守衛に事情を話すと、会議室に通される。
すでにそこには数名の医師達が待機していた。
彼らはやる気がなさそうな目をした侑玖を見た瞬間に体を固くした。
19: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:54 ID:7Uxebwje0(19/79) AAS
「秋坂です。こちらは当院が保有しているマインドスイーパーの、山中侑玖です」

秋坂が軽く頭を下げて侑玖を紹介する。
少年はぎこちなく頭を下げ、興味がなさそうに部屋を見回した。

ホワイトボードの脇に、車椅子に乗った綺麗な女性がいた。
長い白髪を首の脇で三つ編みにしている。
三十代前半ほどだろうか。
彼女は真っ直ぐに侑玖を見ていた。

「関東赤十字病院の理事を務めています、大河内汀です。どうぞ、お座りください」
20: 1◆58jPV91aG. [saga] 2018/10/25(木)13:55 ID:7Uxebwje0(20/79) AAS
白髪の女性は静かな調子でそう言った。

か細い声だった。
どこか具合が悪いのか、小さく咳をしてから指先で車椅子の操作をして向き直る。
不随で体が動かないようだ。

言われたとおりに秋坂が腰を下ろし、侑玖はしばらく迷っていたが、彼女の脇の椅子に座った。
それを確認して、汀と名乗った女性は続けた。

「急なお呼び立てに応じてくださり、感謝します。秋坂先生」
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