エンド・オブ・ジャパンのようです (266レス)
エンド・オブ・ジャパンのようです http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/
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150: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/02(木) 00:13:29.58 ID:J8FT46aQ0 〈〈………………!!〉〉 艦娘艤装・艦載機操作補助思念体───通称【妖精】。1m前後の艦載機に乗り込むだけあって彼ら(彼女ら?)の背丈は文字通り掌サイズであり、顔立ちもアニメキャラクターを更にデフォルメしたようなどこかポップな印象で、これが深海棲艦という凶悪な存在を轟沈し得る兵器の操舵者だ等と俄には信じがたい。 どうやら自分には提督の“素質”があるらしくこの【妖精】達が見えるのだが………今足元で、恐らく余りの艤装を用いて対空陣地の構築に奔走していたであろう数人がこちらを見上げて敬礼しているのが視界の端に移る。 艦内移動用の車両──妖精たちの体躯からすれば学園艦の面積で徒歩移動などサハラ砂漠の横断も同然だろう──が近くにある辺り、わざわざ代表して何人かが駆けつけてきたのだろうか。 至って真面目であろう本人たちには失礼ながら、童話の一場面じみた光景には微笑ましさすら感じてしまう。だがそのメルヘンチックさによって、幸い自分自身も肩の力は抜けたが。 「八頭進一等海佐相当官は言った、“日本を守るため、共に僕等に出来るベストを尽くそう”と。 今彼は、フィリピン海の洋上で艦娘達や【こんごう】の乗組員達と共に死力を尽くして戦っている!ならば我々もまた、彼と共にベストを尽くそう!この鎮守府を率いる“提督”の姿に、恥じぬように!!」 全く、あれのどこが“一般人”なんだか。我々が命令に伏し、命を賭し、“共に”戦うに足る、最高の上官ではないか。 つくづく、自分は果報者だ。人生で二度も、そんな上官に巡り会えたのだから。 「「「〈〈─────……………!!〉〉」」」 別に、島を震わすほどの雄叫びも、ハリウッド映画のヒーロー登場シーンかと見紛うばかりの歓声も上がらない。寧ろ、静けさという意味なら前よりも深いものとなった。 だが、肌で解る。隊員たちが、妖精たちが、海上の【第五連隊】の艦娘達が、恐怖や焦りを捻じ伏せていくさまを。勇気を取り戻し、闘気を漲らせている様子を。 押し寄せる敵機を、待ち構えるとまでは言わない。ただ少なくとも、距離を着実に詰めてくるレシプロエンジン音に、真っ向から立ち向かう準備を彼ら彼女らは完全に終えた。 (6年前の…………あの人のお陰だな) 命を賭け、命を捨てるに値した、一人目の上官。彼が明確に自分の上官であった時間は、ほんの数時間に過ぎない。その間言葉を直接交わすことはなかったし、向こうはきっと自分のことを知りもせず逝ってしまったに違いない。 《敵艦載機群、到達まであと100秒!!》 《【第五連隊】旗艦・水無月より連隊各艦、対空射開始!撃ち方ぁ、はっじめぇ!!》 《対空射隊指揮艦・荒潮より艦内艦娘各位、先行射撃開始!!いーい?爆弾落とさせちゃダメよ、お掃除大変なんだから》 〈ワレラモツヅクゾ!!コウカクホウタイ、カクジウチカタハジメ!!!〉 それでも、自分は覚えている。山を鳴動させ、海を震わせ、敗残兵を死兵へと変えたあの人の言葉を。 《………っ!ダメだ、やっぱり水無月たちの火力じゃ十分に防ぎきれない……!!》 《荒潮より司令室、敵機40機強を撃墜し陣形大いに崩すも進軍尚止まらず!!先鋒航空群、突入態勢に移行!!》 《甲板全区画、全隊員に伝達!対空戦闘用意、対空戦等用意!!第一種戦闘配置を継続せよ!!》 硫黄島の空に高らかに響き渡った、平賀文平一等海佐のあの雄叫びを!! 『『『『───────────────ッ!!!!!!』』』』 「敵機直上、急降下ァーーーーーーーーッ!!」 「県一等陸尉より艦内全人員に伝達ッ!!」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/150
151: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/02(木) 00:14:32.46 ID:J8FT46aQ0 . 「暁の水平線に、勝利を刻め!!!!」 自然と喉から迸ったその叫びと共に、89式小銃を“ジェリコのラッパ”が迫りくる方角に向け引き金を引く。 『…………ッ!!!?』 先陣を切ってきていた【カブトガニ】が一機、弾丸に貫かれて爆散した。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/151
152: ◆vVnRDWXUNzh3 [saga] 2023/02/02(木) 01:15:57.60 ID:79O4T+CB0 . 《そもそもね、今回の事態を招いたのは南政権の外交政策にあるわけですよ。軍拡を推し進め【平和維持法】や【艦娘三原則】を勝手に改悪し、周辺諸国の不安を煽りました。 日本が“戦犯国”であるという認識があまりにも欠如しすぎですよ》 《そもそも“武装勢力”が北朝鮮や中国と本当に関与しているという証拠もありませんし………それこそ、自衛隊の中で自作自演をさせている可能性もあるわけでしょ?南首相ならやりかねないわ》 《私は劉首席の言い分にも一理あると思いますよ。対話を求めていた中華人民共和国に対して握り拳で応えたのは南政権です。宝木議員を含め一部の良心的な市民はそのことの危険性と不義理を訴えていましたが、南政権の巧みな扇動によって握りつぶされていたのです》 《仮にこのテロが他の国の仕業だとしてもぉ、それってマジラブアンドピースしなかったニッポンのジゴウジトクっつーかぁ?マジオワコンだよねニッポン》 《これは当局のある情報筋から入ってきたものですが、既にフィリピン海防衛線は敵の“新型艦”に突破されているという噂もあり────》 《南政権は放送法の改正を強く推し進めていましたが、これは恐らくこうした事態が起きた際に情報統制と国民扇動をしやすくするための下準備だったのではないかと専門家からは指摘が────》 《これは沖縄の米軍基地前の様子ですが見てください!!もう南政権には騙されないというプラカードとともに多数の一般市民が殺到しています!この光景は那覇鎮守府や自衛隊基地でも同様に────》 《南さんもね、意地にならずに中国の支援を受ければいいんですよ。彼らだって本当に日本を占領しようとするわけないじゃないですか、話せば解りますよ。チベットやウイグルだって、あんなもんアメリカやイギリスが一方的に主張してるだけで────》 《徐々に各地へと拡大しつつある反南政権デモに対して、県警や自衛隊、鎮守府組織による強制排除の動きが見られます。政府はこれを“暴動”と関連付けていますが、これは明らかな詭弁であり言論弾圧だと一部国から批難声明が────》 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/152
153: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/02(木) 01:18:56.70 ID:79O4T+CB0 《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に解答、ヨシヒデ=ミナミの武装勢力に対する断固抵抗の姿勢は早期解決に繋がり全面的に支持されるべきだと────》 《アメリカのフォックス=カーペンター国務長官は“早期解決のためにはあらゆる手段を模索するべきだ”と、日本単独での武力鎮圧のみが道ではないと暗に示唆を────》 《ダイオード=リーンウッド首相は日本で起きている事態への直接的な言及は避けたものの、ヨシヒデ=ミナミの強力なリーダーシップによって世界は最悪の状態を免れていると謝意を述べ────》 《南政権との蜜月を築いてきたとされるダイオード首相ですが、現状については“日本は自分達の影響力を考えなければならない”と懸念を表明し────》 《フランス政府は、中華人民共和国の声明に対し人類への反逆と言っても過言ではない最悪の火事場泥棒だと強烈な批判を浴びせ────》 《フランスからも日中間で発生したこの衝突に対し強い懸念が表明され─────》 《…………このように、世界各国からも日本の強硬な対応に対して不快感や不安を指摘する声が多く、世界全体での戦況へ悪影響を与えるのではないかと強い不安を呼んでいます。 南政権には今一度、このような状態だからこそ“人類同士の協和”に向けて動いてほしいと切に願います。 テレビ日ノ出は引き続き、深海棲艦関連のニュース並びに国内で起きた“暴動”の情報を速報で伝えてまいります》 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/153
154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2023/02/02(木) 07:30:52.95 ID:XwtivAAo0 投下おつです ジワジワとタイトル回収へ近づいているのを感じる http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/154
155: ◆vVnRDWXUNzh3 [saga] 2023/02/25(土) 23:30:10.07 ID:0Lt92TP40 . 元より、マス・メディアという集団に期待などしてはいない。彼らの自衛隊に対する「敵対的」な姿勢も、自国民の命や自国の国防より周辺国の“お気持ち”へ配慮することを遥かに重視する性分も、彼女が現役の頃から一貫している。 深海棲艦という未知の脅威が出現した後ですらその姿勢を揺るがさなかった時には、最早一周回って感心と敬意さえ抱いた。 ……向こうは疾うの昔に地中に埋まっていたハードルをこの期に及んで掘り起こし、その下をわざわざ潜ってきたが。 @# _、_@ ( ノ`)「本当に、腐った連中だよ」 彼女────流石挙母(サスガ・コロモ)の吐き捨てた言葉は、これでも自制心を最大限に振り絞り感情を限界まで抑え込んでいる。仮に彼女が心の赴くまま活動を開始すれば、肩口からぶら下がるM249軽機関銃は各報道機関を“黙らせる”為に使われることだろう。 耳元で尚も不快な言葉を羅列し続けるイヤホンを、眉を顰めつつ取り外す。その先につながる持ち運び式のラジオはビルの中で拾った物で、元の持ち主と思われる人物が既に“使える状態ではなかった”ため拝借した。 別角度からの情報収集になればと考えてのことであったが、受けた不快指数が代償として割に合ったものかは議論の余地がありそうだ。 ただ、“有益な情報”を十分に得られたのは間違いない。 @# _、_@ ( ノ`)(中国の“国盗り”、ブラフじゃあないね。人民解放軍の日本進駐実行は秒読みって証拠だ) 各報道機関による、余りにも露骨に偏った南政権への批判的論調。いつも通りの光景と言ってしまえばそれはそう。 だが、ここまで“一斉に”、“整然と”、“足並みを揃えて”動いてくるとなれば、各個の自由意志ではなく何かしらの「指揮系統」が存在することを疑わなければならない。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/155
156: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:31:59.88 ID:0Lt92TP40 言ってしまえば、そもそもマス・メディアが機能を維持していることそれ自体解せない面がある。 本来この手の組織・集団は、自身の正当性や思想の主張、或いは単純な恫喝などを目的として放送施設はかなり高い優先順位で押さえにかかる。昨今は動画サイトやSNSもあるため一概には言えないとしても、日本のような治安が高いレベルで保たれている国においてライフラインの一つを掌握できれば与えられる衝撃は決して小さくはない。 にも関わらず、銃弾の一発も撃ち込まれないどころか暢気に“有識者”を招いての政権批判放送を垂れ流す余裕すら保たれているというのは流石に不自然だろう。 武装蜂起が始まった直後に彼らが神妙な面持ちで「各放送局も被害を受けている可能性が高い」等と宣っていたことを考えれば、乾いた笑いの一つも湧いてくるというものだ。 そしてこれらの“不自然”は、「マス・メディアが“武装勢力”と敵対していない」ケースを仮定した場合途端に“自然”なものとして説明がついてしまう。 @# _、_@ ( ノ`)(そりゃあ自分達の要望と主義主張を自主的に“代弁”してくれるなら、いちいちリソース割いて制圧する必要なんざないだろうさ) 寧ろ「報道機関が“自主的に”人民解放軍の日本進駐に肯定的な意見を述べている」となれば、中国側にとっては先の宝木蕗也(たからぎ・ふかや)による南政権への“糾弾声明”と併せて立派な大義名分となり得る。実情がどうあれ曲りなりなりにも「言質」さえ存在すれば、アメリカやロシアに対する“戦後”の牽制材料としても十分だ。 @# _、_@ ( ノ`)(ただしこれらは、“実効支配”の確立が前提条件だ。となると、共産党の上層部が“拙速”を重視して各軍閥をまとめ切る前に動かせる分だけで強引に乗り込んでくる可能性も否定できなくなってきた………もう、時間は殆ど残されちゃいないだろうね) そこまで考察を終えたところで、挙母は用済みとなったラジオからイヤホンを抜き取り………無造作に頭上へ放り投げた。 《都内で“武装勢力”に対して自衛隊並びに艦娘の出動が行われている件についても、各界“有識者”からは対話を放棄した暴力的な対応であるt 考えた人間の脳に何らかの欠陥が存在するであろうことが容易く想像できる文章を無遠慮にがなり立てていたラジオが、伸びてきた何本かの火線に貫かれる。 世界で最も製造され、世界で最も多くの人を殺し続ける自動小銃───AK-47から放たれたそれらは、そのまま挙母が身を隠している路上で横転した乗用車の屋根に突き刺さり火花を散らした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/156
157: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:33:24.59 ID:0Lt92TP40 県庁所在地と言えど、水戸市はあくまで地方都市の一つ。駅周辺の商業エリアや繁華街の一部区画を除いて、東京都中心ほど建造物同士の“密度”は高くない。道路の幅も広く、比較的視界が拓けている場所がそれなりに多くなる。 故に、同地における戦闘は“市街戦”であると同時に“攻城野戦”の側面も併せ持つ。 遮蔽物の少ない路上を行軍する際攻勢側はどうしても身を晒す機会が多くなり、防衛側は予め沿道の建造物を掌握すれば敵の位置を容易に確認しつつ上方、側面から安全に火力を投射し得る。 準備砲撃や潤沢な航空支援によってそうした脅威を事前に排除できるならまだいい。だが歩兵戦力のみでこれを制圧しようとした場合、戦況の天秤は最初から大きく防衛側に傾くことになる。 挙母たちが今いる場所などは、その典型的な例だろう。 水戸駅から南に800m程南下した大通り、道は広くしっかりと塗装され、沿道にはマンションと都内より遥かに階数の少ないビジネスビルが閑散と立ち並ぶ。 既に日は暮れ、また路上には運転手の逃亡や“沈黙”によって放置された民間車両が幾らか転がっているため身を隠す術は用意されているが、それでも限度はある。全くの無策で進軍すれば、たちまち十字砲火の餌食だ。 故に挙母達は、あえて敵に“先手”を取らせにいく。 从' '从《先ぱぁい、火線により敵位置把握できました〜。交差点挟んだ向こう側、左手の学習塾が入ったマンションと右手ガソリンスタンド後ろのマンション、それぞれの屋上に狙撃手〜。左手沿道の消防署内にも動きがありますね〜、多分中から敵が出てくると思われます〜。 それとぉ、駅南公園通りを東700mほど先から新手が接近中〜。数は目算20人ぐらいかな〜》 背後の高校校舎を押さえ、その屋上に別働隊を率いて陣取る“後輩”────渡辺優香(ワタナベ・ユウカ)からの無線通信。口調こそ場違いに間延びしともすれば闘争心が削がれるレベルだが、内容は迅速で的確だ。 陸自の最精鋭が集う中即連において尚【天の眼】と称された空間把握能力は、一線から退いて5年経った今も衰えていないらしい。 @# _、_@ ( ノ`)「西進中の新手、牽制で止められるかい?」 从' '从《はいはーい。このためのぉ、L96A1とぉ、ラプアマグナム弾〜》 やはり間延びした、しかしどこか嬉々とした響きの返答。闇夜を銃声が駆け抜け、観測手と思われる男がくぐもった声で《One Down》の一言を告げる。 「xxxxxッ!!!」 从' '从《From fire-department almost never reach me anyway, so I left it up to my allies. Keep an eye out for snipers only. Don't have to hit it, so don't let them take aim with Suppression fire》 即座に校舎屋上へ向けて弾幕が殺到するが、渡辺は冷静さを崩さない。一瞬で状況を整理し、的確な指示を味方に下す。 @# _、_@ ( ノ`)「………さて、行くかね」 同時に、挙母もまた動く。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/157
158: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:35:40.84 ID:0Lt92TP40 交戦開始とほぼ同時に行われるスムーズな戦力展開に、即時の増援派遣。既に市内各所で新たに発生した“戦闘”を向こうの指揮官達も把握し、その上で対処に動き始めているのだろう。 水戸警察署を始め警官や自衛隊による抵抗が完全に排除されたワケではない中でこうして更なる人員を捻出できるとすれば、同市における“武装勢力”の規模は自分達や横須賀の予想以上に大きい可能性を考慮しなければならない。 ならば、此方もド派手に動いて兵力の“過大評価”を誘発させる。 @# _、_@ (# ノ°)「主砲撃、右正面ガソリンスタンド!!」 「了解!!」 飛ばした号令に、挙母のすぐ横で小柄な人影が───神風型駆逐艦四番艦・松風が勢いよく車の影から路上へと躍り出る。その右手で起動した12cm単装砲が、何ら躊躇することなく砲弾を指定された“目標”に向かって撃ち放った。 从' '从《ワァオ》 気化性も引火性も高い液体燃料を扱い、ただでさえ【火気厳禁】は絶対不可侵な場所。そこに艦砲射撃を食らわせれば、どうなるか。 誰でも容易く辿り着ける単純明快な問だが、あえてそれを比喩的に表現するならば、 「ムグォッ」 「「「ッッ!!?」」」 マイケル=ベイ監督作品のハリウッド映画の一場面、といったところか。 「XXxxxxx!!??」 「xx,xXxxx!!」 地下の貯蔵タンクが炸裂する。空間が揺れる。暴風が吹き付ける。巨大な火柱が生贄を求める竜神のごとく逆巻き荒れ狂う。 消防署から現れた一団、その最外殻にいた数人が灼熱の渦に飲み込まれる。一人の身体が浮き上がり消防署の壁に叩きつけられる。凄まじい速度で吹き飛んできたコンクリ塊に、更に一人の頭蓋が粉砕される。 路上を、火の粉混じりの土煙が濛々と覆い尽くす。 「xxxxxxx!!」 「xxx、xxXx!」 「xxXXxxxX, xxxxxx!!」 至近で起きた大爆発、一瞬で失われた1/4の兵力、膨大な土煙による視界の封鎖。これだけ悪条件が伴ってなお、敵の指揮官は冷静だった。残った人数で即座に陣形を再編し、弾幕を周囲に張りながら部隊を後退させていく。 ただの盲撃ちなら何ら恐れることはないが、統率が取られ火線間が密な“制圧射撃”は例え的が捕捉できない状況下でも牽制としては十分な効果を発揮する。 マズルフラッシュによる位置の特定を避けるべく各員が連携を崩さない範囲で細かく動きながら銃撃を行っている点もソツがない。並の練度の部隊・兵員が相手であったなら、消防署までの撤退は十分に間に合っただろう。 「知ってるかい?」 問題は、 @# _、_@ ( ノ`)「日本じゃあ、ゴミのポイ捨ては犯罪だよ」 「………っ!!!?」 相対した側が、とびきりの手練であった点にある。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/158
159: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:38:01.25 ID:0Lt92TP40 放置車両を飛び越え、弾ける銃火をくぐり抜け、爆煙の只中に突っ込む。肉食獣から逃げるカモシカの如く靭やかに、獲物を追うヒグマの如く獰猛に駆け、一息で距離を詰める。 あっという間に敵兵の懐を取った挙母が次に取った行動は、殴打。原始的で単純、故に出が早く実行するだけなら特別な技量を要さない、最も基礎的な攻撃行動。 殺傷能力は使われるモノによってくるが、フル装弾されたMINIMI軽機関銃の銃床を利用したならそれは当然十分に確保される。 況してや挙母の全力を以て振るわれたなら、最早殴打というよりは“砲撃”に近い。 @# _、_@ (# ノ゚)「噴ッ!!!!」 「ギュペッ」 「xXxっ!!?」 真っ向から食らった敵兵の頭蓋が、コンクリ塊での“それ”よりも遥かに凄まじい勢いで砕け散る。首から上を骨片と脳髄と千切れた毛細血管がぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったナニカへ変貌させ屍が崩れ落ちようとするが、しかし挙母は胸ぐらを掴みそれを許さず持ち上げる。 「xッ!?」 「XXxxっ!!!」 @# _、_@ ( ノ`)「っ……!」 挙母の乱入に気づいた他の敵兵達が、ある者は悪態を、ある者は驚愕を口にしながら銃口を向けてくる。 迸る火線を遮るは、盾の如く掲げた屍体。まぁ一応防弾装備をしてはいるが、カラシニコフ小銃十数丁の斉射となればさしたる役には立たない。加えて斃した男の体躯は拳母のそれよりも小柄で、隠れきれるものでもない。保って、せいぜい数秒。 そして、その数秒で挙母にとっては“十分”だ。 「グォバッ!!?」 「xx……xッ!!?」 火線の出処の内一つに“肉と骨と断裂した血管で構成された元人間の塊”を、別の一つに腰から抜き放ったナイフを投げつけ、射撃が止まり開いた火線の穴へ飛び込む。 ナイフを投擲された方は銃身で弾き防いでいたが、構え直そうとしたAK-47を横から伸びてきた腕が押さえつける。 渾身の力でそれを跳ね除けようとするが、まるで溶接でもされたのかと疑うほどにビクともしない。 @# _、_@ ( ノ`)「鈍いね」 「ヒッ………」 挙母の腕だった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/159
160: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:39:31.72 ID:0Lt92TP40 「ゴフッ、ギッ、グガッ………」 膝打ちを腹に入れ、掌底で地面に叩き伏せ、頚椎を踏みつけ圧し折る。流れるような殺戮動作の延長で前転し、振り向きざまにMINIMIを膝立ちで構える。 「「ガァッ!!?」」 「「ぅグッ………」」 フルバースト射撃で、銃口を横一線。背後に回り込まれての弾幕に為す術などなく、軌道に沿って立て続けに四人が撃ち抜かれる。 「xxXX!!」 「「「xX!!!」」」 尤も、流石に百発百中の精密射撃とはいかない。指揮官と思われる男を筆頭に、被弾を免れた残余の兵士たちが一斉に反転し射撃体勢に入り、 「…………ゴッ!!?」 内一人の喉笛に、背後から伸びてきたナイフが突き立てられた。 (´ `)「Иди спать, испорченная собака.」 「ヒコッ!?」 「ヌァッ………」 指揮官の喉を引き裂いた襲撃者は、ロシア語で何事か呟きながらその屍が倒れ伏す前に次の動作を開始している。 左右の敵兵に、眼にも止まらぬ連続射撃。右側の敵兵は側頭部を、左側は胸部を射抜かれ、小さく呻いて事切れる。 右手で煙を燻らすのは、サブマシンガンやアサルトライフルではなく………リボルバー式の拳銃だった。 @# _、_@ ( ノ`)(………こりゃ驚いた、コルトなんざ使う物好きがいるたぁね) コルト・シングルアクション・アーミー。アメリカ合衆国で実に150年前、西部開拓時代に生まれた軍用拳銃だ。安全装置を持たないという機構的特色故に【早撃ち】に対して極めて高い適正を持つ銃であり、所謂「保安官」の代名詞的存在であるテキサス・レンジャーにおいては一部局員が未だに愛用しているという。 無論、性能として特化しているのはあくまで「早撃ち」の部分に対してのみ。威力については一般的な銃火器と大差なく、“本来なら”連射力は近現代のオートマチック拳銃やサブマシンガン、アサルトライフルに大きく劣る。 だが、挙母は見逃していない。左側の敵兵に対して、あの“ガンマン”が一度の射撃で「3発」の弾丸を叩き込んでいたことを。 某盗賊一味のガンマンも使う、リボルバーを“手動”で回転させることによって“連射”を実現させる超技法。 @# _、_@ ( ノ`)(ファニング・ショット…………本当に西部開拓時代からタイムスリップしてきたなんてオチじゃあるまいね) しかも“ガンマン”による3連射は、全てが寸分の狂いもなく同位置に突き刺さった。“重ね撃ち”だったからこそ防弾チョッキも肉も貫き、一息に心臓まで届いたのだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/160
161: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/02/25(土) 23:43:03.59 ID:0Lt92TP40 そして、更に驚くべき事実が一つ。 華奢な身体つき、挙母のせいぜい胸辺りという──挙母側が異様であることを差し引いても──決して高いとは言えない背、爆風に靡く長いブロンドの髪、透き通るような白い肌、悪態と思わしき言葉を発した声の高さ。 この“ガンマン”は、女だ。 @# _、_@ ( ノ`)(………まぁ、だからどうしたって話ではあるがね) 挙母自身は、急遽渡辺からお呼びが掛かった事で自身の子供達を助けるにあたって「渡りに船」と参加した身であり、この部隊がどういった存在かは皆目検討もつかない。 ただ日本という国の在り方と照らし合わせれば、何かしら後ろ暗いモノを抱えているのは容易に想像がつく。そして渡辺に指揮を託しているということは、十中八九構成員それ自体もまともではないのだろう。 だが、そんなものは今の挙母にとってはどうでもいい。 組織の設立経緯が胡散臭かろうが、所属員達の出自が後ろ暗かろうが、それを率いている“後輩”が超絶ド級の変態で戦闘能力と引き換えに人間性を母の胎内に置いてきたレベルの人格破綻者で仕事上の付き合いでなければ1秒以上同一空間の酸素を共有していたくないほどのゴミカス野郎であろうが、全て政治屋連中が対処すべき問題で挙母には関係ない。 まぁあの色んな意味で化け物じみた首相なら、この問題についても恐らく“上手いこと”やるだろう。 挙母にとって重要なのは、ただ一点。部隊がこの“想定外の有事”に対して、自分の子供達を直接的にも間接的にも危機に陥らせているこのクソッタレな状況に対して、即応性を持っているかどうか。それだけだ。 そこさえ満たされているなら、他の全てについて意に介するつもりはない。後は目的を───国を護るという誇り高き職務に懸命に従事する、バカ娘とバカ息子の“手助け”を果たすのみ。 @# _、_@ (# ノ°)「Both sides!!」 それに、“現状”そもそもそんな事に気をやっていられるような暇もない。 @# _、_@ (# ノ°)「Fire, Fire, Fire!!」 (#´ `)「Садись!」 「ガフゥ」 「xxXxxX!!」 “ガンマン”と他の後続兵によって残党も殲滅され制圧下に置かれた路上、だがそこに息をつく間もなく弾幕が降り注ぐ。消防署とガソリンスタンド裏のマンションそれぞれの入口から新手が出現し、2階、3階からも計数十丁ほどの銃口が突き出される。 消防署側は即座に挙母が応射して押し留め、マンション側も“ガンマン”が先鋒二人を立て続けに撃ち倒したことで足並みが乱れその間に他の兵士の合流が間に合い路上への展開を防ぐことに成功した。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/161
162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2023/02/27(月) 10:04:25.20 ID:vjNZ8XHM0 更新おつです 母は強し、と言えども普通は軽機関銃を手持ちで撃てませんね そんなことできるのはシュワルツェネッガーだけw http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/162
163: ◆vVnRDWXUNzh3 [saga] 2023/03/16(木) 22:57:16.50 ID:YzHzCrxO0 そこから本格的な銃撃戦が始まったが、 @# _、_@ ( ノ`)(まぁ、これもあまり喜ばしくはないね) 現時点で既に数的・地形的不利がある上で、他の方面から更なる増援が派遣されればこれはより拡大する。時間はあくまで敵の味方、この交戦が長引けば長引くほど挙母達は不利になっていく。 @# _、_@ (# ノ°)「朧、名取!!」 「「了解!!」」 ただ幸いなことに、こちらの部隊には“軍艦”がいる。 「xxxx!!?」 「そんなもの、人に撃ったらダメですよ!!」 どこかズレた叫び声と共に、火線を遮る形で挙母の前に滑り込んできた名取。即座に向こうの銃火が彼女に集中されるが、一発辺り4000ジュール程度の熱エネルギーを何千発束にしたところで軽巡洋艦の装甲など抜けるわけもない。 「やぁあっ!!!」 「フグッ……」 「「「ドォッ!!!?」」」 玄関扉を体当たりで粉砕し、最前列にいた一人をラリアットの要領でなぎ倒す。更に踏み込んで突貫、ショルダータックルが迎え撃とうとした三人を纏めて吹き飛ばす。 「xxxっっ!!!」 「うっ……!?」 艦娘に人間が勝ち得る可能性がある数少ない分野、白兵突撃。それを看破した上で狙ってやったのか破れかぶれの末の偶然か、何れにせよナイフを構え柱の陰から飛び出したその兵士の奇襲は完璧に名取の不意をつくことに成功した。 極限まで美化した言い方をすれば、その兵士の決意と勇気が産んだ千載一遇の好機。名取は自分の肩を手が掴んだ時にようやく気づけたほどで、艦娘の身体能力と反射神経を持ってしても反撃や防御は間に合わない。 訓練された軍人による正確な、殺戮を手慣れた者による躊躇のない斬撃が、名取の喉笛に迫る。 @# _、_@ ( ノ`)「邪魔だよ」 「ヌンッ!?」 だが、横合いから伸びてきた大きく太い軍用ブーツを履いた足が、容赦なくその“好機”を踏み躙った。 @# _、_@ (♯ ノ`)「Clear of the stairs!!」 「Roger Mom!! Guys, Go ahead!! Go ahead!!」 「グゥッ………」 「「「ギャアッ!!?」」」 「XxXx!? XXXXXっ!!!」 蹴り飛ばされ柱に叩きつけられた“勇敢な兵士”、周囲で慌てて小銃を構えようとしていた数名、そして奥の階段から姿を現した更なる増援と、順番にMINIMIの火線を叩き込んでいく。 階段の敵部隊には突入してきた此方の部隊員の掃射も浴びせかけられ、瞬く間に1/3前後の人数を失ったその部隊は殆ど反撃らしい反撃が出来ぬまま後退を始めた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/163
164: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 22:59:55.19 ID:YzHzCrxO0 @# _、_@ (♯ ノ`)「No prisoners! Kill them all!!」 (訳:敵に虜囚の辱めを与えては日本の武士道に背きます、丁重に全員地獄に送って差し上げてください) 「Yes Mom!! Guys, Listen!? Kill them, Kill them, Kill them!!」 (訳:指示を承りました。皆さん、聞きましたね?しっかりと仕事を熟しましょう) 「「「Hoorah!!!」」」 (訳:私達はとてもやる気に満ち溢れています) 挙母からの命令に威勢よく応じながら突入部隊の面々が階段を駆け上がっていき、程なくしてくぐもった銃声・怒号・断末魔が上から聞こえ始めた。 向こうの練度が低いわけではないが、見た限り渡辺や“ガンマン”を筆頭に此方の人員は個々の戦闘能力がイカれた領域に踏み込んでいる。地形優位が消え懐に飛び込んだ今となっては、後数分もかからず彼らは仕事を終えるだろう。 (#´ `)《This is Team 2, we cleard the entrance hall!!》 从' '从《Team 3 for Team 2, The apartment building is currently spreading fire. No need to overrun, fall back quickly and prepare for the appearance of new enemy units》 @# _、_@ ( ノ`)「朧、アンタは引き続きチーム2に同行、ソイツらと一緒に路上に展開しマンション内や別区域からの敵増援に備えな」 《駆逐艦・朧、了解しました!》 (´ `)《………Copy that》 こっちと負けず劣らずの速度で制圧を終えたらしいマンション側に、即座に渡辺から後退の指示が飛ぶ。ガソリンスタンド爆発の影響で火災が発生しており危険だからという至極真っ当な理由だが、応じた“ガンマン”のものと思われる女の声は酷く凶暴で不機嫌そうな色を伴っていた。 あの超絶技巧を身につけるまでにどんな凄絶な修練を積んだのかと思っていたが……なるほど、“好きこそものの上手なれ”だったか。 @# _、_@ ( ノ`)(まぁ発起人があの深海魚で、統率者があのクソ変態ならそりゃあ下も“こうなる”のは当たり前だね) まさしく、“類は友を呼ぶ”。こうもあっさり的確に現状を言い表せる諺や慣用句が出てくる辺り、やはり先人達の知恵は侮れない。 そんなやや場違いなことを考えながら、挙母は足元に────微かに上がる、うめき声の方に視線を向ける。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/164
165: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 23:01:57.75 ID:YzHzCrxO0 「グゥ………アッ………ァガッ!?」 「ギャッ」 「xxXx………ヘルッ」 打ち付けた箇所を押さえ、身体を丸め、苦悶の表情で床の上をのたうち身動ぐ四人の武装兵。腰から9mm機関拳銃を抜き、それらに順番に弾丸を叩き込んで沈黙させていく。 「タ、タスケtイ゛ッ、ムォッ!?」 最後の一人は何事か言い掛けながら掌を向けてきたので、“フリ”に応えてまずそっちのド真ん中に風穴を開けてから喉笛をぶち抜いた。 「あ、ありがとうございます……お手数をおかけしてすみません……」 四人目の始末を終えたところで、名取が挙母に頭を下げる。 ……そう。この四人は先程、名取の攻撃を受けて入り口から吹き飛ばされた武装兵達。何故、か細いながらまだ息はあったのかと言えば、当然それは名取が最大限の“手加減”を施したからだ。 軽巡洋艦・名取が、相当大人しい性格の艦娘であることは挙母も知識としては知っている。水雷戦・夜戦においては他の艦種の【改二】にも比肩する実力を誇りながらそれに奢らず、常に謙虚で引っ込み思案な心優しい“穏健派”艦娘の一人。 ならばこの武装兵達に対する“峰打ち”も、彼女のその性格から、優しさから来るものであったのか? 否、答えは否。 もしも“そう”であるならば、何故挙母が拳銃を抜いた時、その目標が明白であるにも関わらず彼女は止めようとしなかったのか。何故一人目が射殺された時、抗議の声を上げず行動を妨害しなかったのか。 何故、全てが終わった後に、彼女は謝罪と“感謝”の念を述べたのか。 @# _、_@ ( ノ`)(さしずめ、“ゴキブリ”ってところかね) ゴキブリは大半の人間にとって存在そのものが不快極まりない生物であり、基本的には見かけたら一刻も早い排除を試みる。 だが一方で衛生面の問題や向こうの俊敏性、外見のおどろおどろしさによって直接触れる、素手で潰せるという者は少なく、殺虫剤などの間接的な排除手段がない限り無力な人間も多い。 名取にとってこの武装兵達は、“素手で潰すしかできないゴキブリ”だったのだ。自分で潰すことはできないが、かといって視界に入り蠢く限り不快で鬱陶しい。だから、代わりにそれを潰してくれた挙母に対して“礼”を述べたのだろう。 代わりに殺してくれてありがとう、と。 @# _、_@ ( ノ`)(………【艦娘三原則】、思った以上にこの子らを歪ませちまったねぇ) 艦娘は人間の武器であれ、忠臣であれ、奴隷であれ。SF小説の大家が作り出した概念に準えて偉そうな文言を並べ立ててはいるが、あんなモノ要約してしまえば言わんとしていることは上の3つだ。 人間としての姿形・声・感情を持つ存在にこれを言っているのだから、考え出した連中はきっと心を持ち合わせていないロボットの如き冷血漢に違いない。 だが、どれ程腐り果てた実情があろうとも、それは確かに彼女たちにとっての行動“原則”であり絶対遵守の指針だった。そして遵守さえできていれば、他の面には干渉されないという“自由”に対する【逆説的な保証書】でもあった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/165
166: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 23:05:41.03 ID:YzHzCrxO0 人と同じ感情を持ち、一部は人以上に誇り高い筈の彼女たちが、何故“あんなモノ”に従っていたのか。無論生まれた時からそうなるように教育(或いは……プログラミング)されていたからというのは大きいだろう。 だが、この【保証書】という側面を持つ故に、艦娘達にある種の怠惰が、“依存”が生まれていたこともまた事実ではないか。 一先ずは“それ”さえ護っていれば、制限下の“自由”を得られるのだから。生を受けたその瞬間から、彼女たちには“それ”が存在するのだから。“それ”を絶対視し、諦観し、遵守していれば、後は「提督」の指示に従うだけで自分達では何も考えずに済むのだから。 南政権が先の国会で制定した【艦娘自己自衛権】法案は、艦娘に“自由”を………完全なものをもたらすにはなお時間が必要としても、そのきっかけになっていく可能性は大いにあるだろう。 だが、絶対的価値観が消失したからこそ、彼女達には「自分で考え、行動する」ことへの“義務”が生じる。 以前は、提督からのあらゆる命令には基本的に従えば良かった。従ってはいけない命令は、【三原則】が示してくれていた。従うべき命令と従うべきでない命令を“自分で”判断する必要はなかった。 【三原則】が絶対であった時は、人間とはいかなる例外もなく“傷つけてはいけない存在”と定義されていた。 明らかな害意にすら必要最低限の抵抗しか許されていなかったが、故に敵は深海棲艦に限定されており、人間を「敵と味方」に選別することはなかった。 彼女達は、駆逐艦や一部軽・重巡洋艦並びに軽空母でも就学児童程度、戦艦・空母といった艦種からは明確に成人女性を模した姿形で“建造”される。 今年の半ば頃から実装が始まった【海防艦】はやや怪しい面があるが、それでも大半は自分自身で善悪の区別やそこではっきり割り切れないものに対する「玉虫色の判断」を下せるぐらいの思考力は身についているように感じられてしまう。 だが、忘れてはいけない。艦娘が“実装”されたのは、2012年初頭であることを。 彼女達の中で最年長の者でも、その実初等義務教育の開始年齢にすら届いていないことを。 @# _、_@ ( ノ`)(禄に人生経験も積んでない“せいぜい5〜6歳の小娘”連中に、既存の価値観が根底からブッ壊れたレベルの思想的パラダイムシフトに自己判断だけで適応しろってのは………無理難題だろうね) http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/166
167: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 23:07:54.56 ID:YzHzCrxO0 第一項。深海棲艦に対する利敵行為を認められた国家、個人、団体に関しては、例えそれが人間であったとしても“敵性”であると認定し攻撃することを認む 第二項。艦娘は自身の任にそぐわない行為・行動・思想を強要する存在に対して、第一項の抵触者と見なして無制限に抵抗する権利を有する 第三項。艦娘は全ての対深海棲艦を主とする軍事行動に関して、無制限に発言権を認める。また、これを理不尽に阻害する存在に対しては第一項の適用を認む 第四項。上記三項目は全て“艦娘三原則”に抵触しないものであるとして、“艦娘三原則”に対し優先して適用することを認む 南慈英が施行に漕ぎ着けたこの【艦娘自己自衛権】法案は確かに歴史的な大変革であるが、そこに決して“即効性”は求められていない。実際、彼女らの権利拡大はあくまで「深海棲艦との交戦時」における物に限定され、直接的な人権関連には触れることを避けている。 人類共通の敵にして目下最大の脅威と戦うにあたって、艦娘達が“円滑な作戦行動”を行うため……こんなお題目を掲げれば、艦娘技術において遥か後塵を拝する他国も否やは言い辛くなる。欧州諸国が次々と陥落しつつある現状では尚更に。 それでも否やを言ってくる連中は、“同盟の有無”を理由に確認をすっ飛ばしつつ仮初めとはいえ国際社会の中枢機関である国連の「アタマ」を押さえ反論を封じる───何を食べ、どんな暮らしをしていたらこうも悪辣に立ち回れるのか聞いてみたくなる動きだが、“最も角が立たない第一歩”であったことは間違いない。 その上で、深海棲艦の存在に託けて盛り込んだ第一項を徐々に拡大解釈していき、艦娘達の自己判断能力を育てつつ彼女達の権利を人間本来のものへ近づけていく。きっと、あの深海魚首相の脳内ではこんな青写真が描かれていたのだろう。 ……だが今、現実に、“深海棲艦以外に対する適用事例”が起きてしまった。反艦娘運動家のような生温い内容ではなく、より明確な“敵意”を持った集団が、殺戮或いは無力化を目的として攻撃をかけてきた。それも第一項の緩やかな拡大どころか、法案それ自体の浸透周知さえ禄に済んでいない中で。 「…………いい気味」 今目の前にいる名取の姿は。優しげな風貌からは想像もつかないほど冷たい視線で見下しながら屍に向かって吐き捨てる有様は。 人類が「戦時下だから」と言い訳して“歪み”から目を逸らし、その解決を後回しにしてきたツケの表出だ。 ほんの少しでも状況を緩和しようと施行された法案が表出のきっかけとなってしまった辺りに、挙母はなんとも言えない皮肉を感じた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/167
168: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 23:09:38.37 ID:YzHzCrxO0 各部隊に渡された武器弾薬と医療品の中で、やたらと量が多かった鎮静剤の意味が今なら解る。 水戸市への派兵に際してあの首相は、ある程度こうした事態になる可能性を危惧していたのだ。 そして不幸にも、その危惧は完璧に当たってしまった。 @# _、_@ ( ノ`)(なんせ、この子らはまだ“マシな方”だからねぇ) 水戸市において“武装集団”に制圧・され捕虜となっていた艦娘や自衛隊員の救出は、その時点で展開中だった兵力や艦隊数と照らし合わせる限り概ね完了している。市民が自主避難を怠っていたからこそ大半は──特に“自称平和団体”を刺激しないため──市外で県警による避難完了まで待機せざるを得ず、結果として損害は最小限に留められていた。 だが、他の部隊によって救出された艦娘達の中で、戦線への復帰が可能だった艦娘は一人も居ない。ほぼ全員が重度のPTSDに類似した症状と極めて深刻なパラノイアを発症しており、特に救出ができはしたが“間に合わなかった”艦娘数名は狂乱状態に陥って近くの自衛官や救出部隊に艤装を向けようとしたと言う。 挙母の言う通り、少なくとも無差別攻撃に至るほど錯乱してはおらず交戦意志も維持できているだけ、状態としては遥かにマシだ。 ただ、大いにアテが外れたのは間違いない。 【自己自衛権】の施行から日数が浅かったことやせいぜい4〜5個艦隊分とはいえ艦娘も含まれていた筈の展開兵力があっさりと市内から敗走・駆逐されていたことを加味して、渡辺と挙母も艦娘たちを十全に活用可能とは端から計算していない。 しかしせめて半数程度は、名取たちのような“支援”に参加してくれるとソロバンを弾いてはいた。 @# _、_@ ( ノ`)(この子らにしろ、言動を見る限り“意気軒昂”とはいかない。どっかで歪みが深刻化して他の部隊みたく「友軍相撃」なんて事になりゃ笑えもしない。何かしら、代替案を考え─────) ………彼方より挙母の耳に届いた、雷鳴のような、或いはボクサーがサンドバッグを軽快に叩いている有様を思わせる連続した音。着実に近づき、大きくなっていくソレに、思わず挙母の思考が止まった。 从' '从《Unknown is approaching from 11 o'clock. Everyone be on the lookout.……あっ先ぱぁい、駅前公園通り方面からの敵増援部隊、殲滅完了してましたぁ〜》 @# _、_@ ( ノ`)「あぁ、聞こえてるよ」 本来完遂と同時に真っ先に報告されるべき事柄が後付されたが、しかし挙母の方もそちらには反応しない。渡辺にとって、そして彼女を知る挙母にとって、後者は「私はさっき呼吸しました」と同価値のくだらない報告だ。それよりも接近してきている“正体不明機”の方が、遥かに優先順位が高い。 从' '从《あれは………【チヌーク】ですねぇ、でも機体に自衛隊の刻印がないですぅ〜。あと、下に何かぶら下げてますねぇ〜》 @# _、_@ (# ノ`)「艦娘各位、射撃待て!射撃待て!いいかい、こっちから命令があるまで艤装を空に向けるんじゃないよ!!」 《ヒンッ、了解しました!!!!》 接近を続ける「ローター音」をも掻き消す勢いで無線に向かってがなりたてれば、松風が子鹿の悲鳴みたいな声と共に応じてきた。 危なかった、案の定対空機銃が火を吹く寸前まで行っていたらしい。どうやら“間接的な殺人”のみならず、姿形さえ視認しなければ“直接的な殺人”についても許容してしまえる程度には「タガ」は外れつつあるようだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/168
169: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2023/03/16(木) 23:32:33.33 ID:YzHzCrxO0 从' '从《チヌーク、尚も接近中〜。数は2機、“敵対武装勢力”による攻撃を受けてまーす。あ、今のRPG避けるんだ。いい腕してる〜》 @# _、_@ ( ノ`)「…………っ!!」 渡辺による“実況中継”が無線から垂れ流される中、挙母は消防署の外へと飛び出す。 「ッァアアアアアアアア………────」 途端、悲鳴と共に向かいのマンションの屋上から人影が落ちてきてコンクリートに叩きつけられたが、どうせ渡辺が撃ち抜いたスナイパーだろうから無視する。ちょうど交差点の真上辺りに一機、渡辺が報告してきた【チヌーク】の片割れであろう一機が激しく風圧を下方に掛けながらホバリングしていた。 型はチヌークで間違いないが、たしかに正式採用機であることを示す“陸上自衛隊”の刻印はない。そもそも機体自体、闇夜に溶け込もうとしているかのごとく黒く塗装されていて何とも不気味な印象だ。 また、両側面にぶら下がる大口径のガトリングガンと思わしき武装も軍用とはいえ“輸送ヘリ”についているものとしては些か物々し過ぎる。 @# _、_@ ( ノ`)(さっき渡辺は11時方向から飛来したと言っていた、なら百里基地からじゃない。 方角的には宇都宮か。しかし中即連の主力連中は大洗の方に出張ってるはずだし、オリオン通りや宇都宮駅が襲撃を受けてたって話だから残余兵力を回すような余裕もないはずだけどね───っと?) 挙母が素早く思考を巡らせていく中、漆黒の【チヌーク】はワイヤーロープでぶら下げていた“所持品”を切り離し、交差点のど真ん中へと投下する。 「「「ウギャアアアアアアアッ!!!?」」」 そのままガトリングを起動させて両マンション屋上の“武装勢力”に数秒間にわたり無慈悲な弾幕を浴びせかけると、その機体は他の方角から飛んできた新たなRPG弾や対空射撃を悠々と掻い潜り来た道を戻っていった。 「味方………だったのかな」 @# _、_@ ( ノ`)「まぁ、連中に対して攻撃してたってことは一先ず“敵じゃない”んだろうさ。それよりも奴さんは何を落としていったのやら───」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/169
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