エンド・オブ・ジャパンのようです (266レス)
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97: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/16(水) 22:36:19.49 ID:W1WHWUQU0 密かに燻らせていた暗然たる思いがアトランタさんの言によって表出したのは、きっと綾波だけではなかったのでしょう。 この艦隊そのものを押し潰すかのように、重く苦しい空気が辺りを包み込みます。多摩さんも、文月ちゃんも、浜風さんも、私達の艦隊は誰もが暗い影を表情に宿して俯いてしまいました。 「全艦、傾注!!」 それを切り払ったのは、凛として放たれた扶桑さんの声でした。 「各艦隊旗艦は海図を同期、近隣海域で構築されている即席洋上補給拠点の最新情報を取得・共有するように!海図統合完了後、拠点規模に応じて一時艦隊を50km圏内で分散しつつ進軍します。 各空母・航空戦艦、他水偵装備の巡洋艦は偵察機を発艦。海図上の補給拠点が健在であることは事前に必ず確認してください! 拠点確保と補給完了後、指定座標にて再集結を。尚分散に際しては、最低でも一個小隊以上で行動するように。 集結後に後続敵艦隊を捕捉した場合、これを艦隊決戦の末粉砕致します!」 《“海軍”アナンバス鎮守府艦隊、了解!》 《スラバヤ泊地第2艦隊・旗艦高雄、命令を受諾しました!》 《ワイゲオ島泊地第1艦隊祥鳳、了解です!彩雲隊発艦、警戒を厳に!》 《国連“海軍”、マノクワリ鎮守府所属の長門だ。指示を確認、これより艦隊編成を行う》 「け、軽巡洋艦・多摩、命令を受諾したにゃ!」 「Air Craft Career-Hornet, Copy. ………さ、行くわよアトランタ」 「……………ハァ。Alright, Flag」 一連のやり取りを知らない、アトランタさんの言葉を耳にしていない両翼艦隊からは次々と意気軒昂な返答が届きます。また、何の脈絡もなく唐突に「本題」が再開されたことで、綾波達もまた否応なしに戦場へと引き戻されました。 (…………扶桑さんは、怖くはないのでしょうか) 急激で脈絡のない話題の転換は、何かしら長々と励ましや檄を飛ばすより余程迅速に綾波達の空気を切り替えてしまいました。その判断は、相変わらず的確そのものです。 ですが、彼女自身は何故あっさりと切り替えられたのでしょう。これほど聡明ならば、気づいているはずなのに。 私達は時間稼ぎのための“盾”に近い存在だと。この艦隊が、“玉砕”をある程度前提として編成されたものであると。アトランタさんに言われるまでもなく、扶桑さんなら理解できているはず。 にも関わらず、所作にも表情にも、動揺や恐怖は微塵も見られません。 【沈黙者】の忌み名を体現するかのように、彼女は黙して冷静な眼で水平線の彼方を見つめています。 その卓越した知略を以て策を既に練り上げ、“活路”を見出しているが故の冷静さなのか。 或いは知略に長じるからこそ既にこれを“死地”と悟り、その上で自らの使命に殉じる覚悟を定めたが故の諦観からくるものなのか。 (……………どうか。どうか、前者でありますように) そんな、艦娘にあるまじき他力本願で身勝手な願いを胸の内で呟きつつ、他の皆さんに続いて私も機関を再始動させます。 ミ,,#゚ ゚彡《Spearチーム、全機続け!!》 《Rapter-01 for All unit, Follow me!!!》 夕闇に包まれつつある上空を、F-14JとF-22の編隊が凄まじい速度で飛び去っていきました。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/97
98: 以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage] 2022/11/17(木) 02:41:55.12 ID:9tzTYWVS0 VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/98
99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2022/11/17(木) 14:32:20.74 ID:iCKpNwBe0 投下乙です ちょっと気を抜くと悲壮感が出てしまう そんななかフサギコさんが普段通りで安心しますね http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/99
100: ◆vVnRDWXUNzh3 [saga] 2022/11/23(水) 23:16:40.53 ID:Yl0NhHA/0 . 私達が飛び立った、【ロナルド・レーガン】。 他のイージス艦と共に艦対空ミサイルを上空に放ちつつ、“基地航空隊”を間断なく発艦させていく【こんごう】。 低空飛行で接近してきていたところに、殺到してきたシースパローミサイルによって焼き払われる深海棲艦の艦載機隊。 どうやら戦闘を終えた直後と思われる、父島鎮守府を主力とした艦娘の大艦隊。 恐らくその戦闘の相手だったであろう、いかにも敗走中ですといった体でぐちゃぐちゃの陣形のまま来た道を戻る深海棲艦の連中。 それと入れ替わる形で、此方に向かってきているより大きな規模の敵艦隊。 下方を流れていった一連の光景は、それぞれ間に相応の距離が横たわっている。数キロ〜十数km、遠いと五十km前後にはなっただろう。 その全てが、一瞬で音と共に後方へ置き去られていく。 時速2485km/h。マッハにして約2.01。 第四世代の艦上戦闘機・F-14J【トムキャット】が出しうる最高速度にかかれば、150kmになるかどうかの空間なんてほんの数分で渡り切ってしまう“短距離”だ。 |w;´‐ ‐ノv(ぬ………ぐぅ…………!) 畜生、全身が悲鳴を上げてやがる。私だけじゃなく、F-14Jの機体も。 超音速飛行の長時間継続────所謂“スーパークルーズ”に本来対応していない機種でやるには、暴挙に等しい開幕からの全速前進。当然、機体への負荷は非常に大きい。最前線の上空で空中分解なんて、助かる見込みはまず皆無だ。 それでも、私は速度を緩めない。エンジンをフル回転させ、速度計器の針を目いっぱいのところに抑えつけ、襲い来るGの苦痛と海原に突然投げ出されるかもしれない恐怖を歯を食いしばって耐えながら前へと進む。 《Enemy contact!!》 何のことはない。 《【Black Bird】 incoming!! Allrange, Allrange!!》 《Damn,Over 60!!!》 ミ,,;゚ ゚彡《Don't stop!! All unit, keep speed and potion!!》 速度を緩めれば、どのみち私“達”は死ぬのだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/100
101: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:18:47.56 ID:Yl0NhHA/0 北欧戦線から深海棲艦が投入し始めた新型の制空戦闘機、【黒鳥】。私ら人類が扱う第4、第5世代戦闘機とほぼ同等の速力を出せる上に、その最高速を維持したまま旋回してくるという化け物じみた性能の持ち主。 こっちの数は、米軍のF-22も併せて8個編隊32機。性能面がボロ負けで数量面でもダブルスコアときたら、ほんの少しでも足を止めれば瞬く間に“食われる”だろう。 《Enemy Lock, Enemy Lock, Zulu-09 FOX-3!!》 £#°ゞ°)《Knight-01 FOX-3!!》 《Glasgow-10, FOX-3》 【回転木馬】を維持している後方の連合空軍主力から、【黒鳥】の跳梁跋扈を阻止すべく次々と空対空ミサイルが飛来する。が、さっきの第二次防衛ライン崩壊に際して膨大な損害を被ったことと前線が広域化して各方面に戦力が分散したことが重なり、投射される火力の量は先程と比べ大幅に減少している。 『『────!!!』』 《No, No!!!?》 《Damn………》 十何機かがミサイルによって撃墜され、残る大半は回避のためにこちらへの突撃を断念した。だけどミサイル群をくぐり抜けた数機が、編隊の横っ腹に食らいつく。 悲鳴と悪態をそれぞれ残し、レーダー上から友軍機の反応が二つ消えた。 それでも───胸糞の悪い勘定だけど、犠牲が二機で「済んだ」なら御の字だ。 《Rapter-10 and 13 down!!》 ミ,,;゚ ゚彡《Keep, Keep!! Don't stop!!》 |w;´‐ ‐ノv「─────っっっ!!!」 速度が“互角”であるなら、一度距離を取れば直線で追いつかれる可能性は低い。向こうの兵装は現状確認されている限り九九式二〇粍機銃に相当する性能の機関砲二門のみ、一度距離さえ離してしまえば向こうの射程はこっちの背中を捉えられなくなる。 故にこそ、Raptorから出た“尊い犠牲”を無駄にしない。撃墜機の破片や爆風を回避するために追撃が鈍った隙を突き、そのまま連中を一気に振り切る。 《Shamrock-01, FOX-3!!》 《Rapier-04, FOX-3!!》 『『『─────ッ!!!』』』 距離が開いたことに加えて【回転木馬】による第二次掃射も始まっては、そりゃあ追撃なんてできやしないだろう。私達を追ってきていた【黒鳥】の反応が、次々と踵を返していく。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/101
102: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:23:20.55 ID:Yl0NhHA/0 一難去ってまた一難。世界中の制空権を脅かす化け物機体から逃れたはいいが、“危機”自体はこの後にまだ控えている。 そのまま60km………時間にして1分ちょっと程も飛行を続ければ、次なる“難”が─── 『『『ォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』 《Enemy AAF incoming!!》 ───深海棲艦共の対空砲火がお出迎えだ。 《Fuck, So hard!!》 《How many!? They're fill the ocean!!》 《Break!! Break!! Break!!》 光景を眼にしたRapterチームが、狂乱状態で無線をやり取りしている。そういや連中はまだこの戦線に到達したばかりだったね。 当初報告された“推定1500隻超”の時点で大いにイカれた物量なのに、 『【学園艦棲姫】から新たに排出された分と戦線再構築の間に近隣海域から続々と集結した分で、更にその二倍強まで膨れ上がった極大艦隊』 による未曾有の超火線展開だ。発狂したやつが1人も居なかっただけ大したもんさ。 なんせかれこれ三往復目の私でさえ、未だに喉から朝飯のよく消化されたササニシキがコンニチワしかけるぐらいだぜ? ミ,,;゚ ゚彡《Dive to Fireworks!!》 それでも、初見の奴らと比較すりゃまだ私達【Spear】隊は肝が座っている。富佐隊長が叫んだ、どこぞの世界線で自機の片翼を赤く塗った妖精が口にしてそうなセリフに合わせて、改めてフットペダルを強く踏み込む。 『『『グォオオオオオオオオンッ!!!!!』』』 射程圏に踏み込んだ途端、ただでさえ分厚く熾烈だった対空弾幕は更にその激しさを増す。実は私は死んでて、ここは今灼熱地獄ですって言われたら信じちまいそうだ。 まぁ、“アイツ”を残して死ぬわけにはいかないので御免被るが。 |w#´‐ ‐ノv「しっかり捕まってろよ!!」 「りょ───う、っかい!!」 後部座席の観測員君に声をかけ、操縦桿を傾ける。 向こうの火線は確かに濃密だが、流石にこのイカれた、そして集まったたばかりの物量を一つの指揮系統で完全に統一できているわけじゃないらしい。弾幕の密度や発射間隔が一定ではなく、“ムラ”や“隙間”は微かだが確実に存在する。 |w#´‐ ‐ノv「鬼さんこちら、っとくらぁ!!」 それらを脳内で一本の線に繋ぎ、そこを通過するべく最高速で只中に飛び込む。 え?巡航速度の方が小回りが利くって?バカ言うでねぇよ、その個別に分狙われる、軌道が読まれる可能性が上がって寧ろマイナスじゃい。 どんな速度であれ被弾のリスクは免れないなら、向こうに“とにかく弾幕を張り巡らせる”以外の対処法を許さない最高速での突撃が結局最適解ってワケだ。 『『『ヴォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』 《No, No No N……》 《Rapter-11 Lost!!》 《Shit, I'm hit!!》 さっき富佐隊長はこの弾幕に飛び込むことを“花火の中”と表現したが、真夏の隅田川や某夢の国の年末だってこれの激しさと比較したら泣いて土下座するに違いない。 新たな犠牲を知らせる無線からの悲鳴や爆発音をBGMに、獲物を狙う蛇のような軌道で予め目星をつけておいた火線の“隙間”をすり抜けていく。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/102
103: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:26:07.68 ID:Yl0NhHA/0 『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』 機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。 量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。 だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。 |w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」 「うぶぉ…………」 それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。 《Damn………Sorry, I'm seced!!》 《I can't attack!! Retreat, retreat!!》 《This is Spear-08, I'm retreat……》 無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。 大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。 《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》 その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。 ………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。 だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。 |w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」 ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》 《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》 《Rapter-16 FOX-2!!》 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/103
104: >>103ミス ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:31:45.68 ID:Yl0NhHA/0 恋愛から甘酸っぱさを抜いてスリルショックサスペンスの濃度を500倍ぐらいにした十数秒。それが終わり超対空弾幕空域を抜ければ、そこには【学園艦棲姫】の横っ面が………とは、残念ながらならない。 『──────……………』 代わりに眼前に現れるのは、無数の爆光によって照らし出されて夕闇に浮かぶ、バカでかい“球”。 そしてその表面からあらゆる方向に伸ばされる、周辺の随伴艦隊に勝るとも劣らない分厚さの新たな弾幕だ。 《【Fortress】 awaken!!》 ミ,,;゚ ゚彡《Break, Break!! Attak of Allrenge!!》 深海棲艦で現在確認されている個体の一つ、【浮遊要塞】。 姫級や鬼級が周囲に随伴させているケースが非常に多い艦種(?)で、形状は艦載機の【オニビ】から耳と翼を取っ払ったような………まぁ端的に言うと球体だ。“船体殻”こそ身にまとっていないものの、甲殻それ自体の硬度は他の非ヒト型と比較して飛び抜けており、ミサイルや砲弾が一〜二発直撃した程度では大破にすら持ち込めないと聞く。 大きさは対象的に1.5mから最大でも2.5m程度だが、連中はほぼ確実に纏めて4〜5隻は現れる上にロボットアニメで言うところの“ファンネル”のような戦闘スタイルを取る。 その為、周囲を飛び回る【浮遊要塞】に本命への攻撃を遮られて歯噛みする艦娘や鎮守府関係者は後を絶たないのだとか。しかも連中自体も重巡と同程度の火力を持っているというのだから、尚更厄介極まりない。 ………そう。実際に相対したことこそなかったが、私が知る限り【浮遊要塞】──或いは上位種である【護衛要塞】──の大きさは、デカくても2.5m。まぁ小さいとは言わないが、従来の非ヒト型と比較した場合通常種から見ても1/2程度にしかならない筈。 じゃあ眼前の“コイツら”は、なんだ。 銀を基調としつつやや錆びついたように薄っすらと赤みがかった体色、丁度中央部にある武装等を格納・展開するための開閉部、“姫級”の周りを漂う球体………何れも、全て以前資料で眼に通した【浮遊要塞】の特徴と一致する。 だが私が覚えている限り、資料上で“直径が実は推定300mである”とはどこにも書かれていなかったし、 『───────ン゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛』 武装は開閉部に格納されている分のみで、体表に全域を覆い尽くすほどびっしりと対空・対艦火器が生えているなんて記述もなかった筈だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/104
105: >>103ミス ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:35:02.23 ID:Yl0NhHA/0 『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』 機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。 量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。 だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。 |w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」 「うぶぉ…………」 それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。 《Damn………Sorry, I'm seced!!》 《I can't attack!! Retreat, retreat!!》 《This is Spear-08, I'm retreat……》 無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。 大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。 《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》 その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。 ………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。 だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。 |w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」 ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》 《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》 《Rapter-16 FOX-2!!》 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/105
106: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:39:23.90 ID:Yl0NhHA/0 ミサイルさえ撃ち落とされるほど圧倒的な密度の弾幕も、“懐”を取ってしまえば流石に射線転換が間に合わない。必死に狙いを合わせてくる高角砲や機銃座の抵抗を置き去りにし、AIM7-スパローが炸裂する。 【浮遊要塞】の表皮硬度がミサイルや砲弾を容易に通さないレベルであるというのは先程紹介した通りだが、照準変更や弾薬装填で多数の可動部を持たなければならない兼ね合いか“超大型”の表層に密集している艤装群についてはその限りではない。着弾箇所周辺で、幾つかの銃口・砲口が爆炎に吹き飛ばされた。 それが一気に6箇所で発生し、火線に空いた“穴”を埋めるためか一瞬【浮遊要塞】からの弾幕が緩む。その隙に改めて加速し、一気に上方へ、そして対空砲火の射程圏外へと離脱していく。 《突入チーム、残余全機の離脱を確認!》 《敵対空砲火此方を指向せず!後方より【黒鳥】による追撃なし!!》 ミ,,;゚ ゚彡《全機再集結、編隊組成を急げ!全周警戒を怠るな、【要塞】からの追撃はなかったが他の海域から呼び寄せて来た【黒鳥】が来る可能性もある!!》 富佐隊長の指示に従って、続々と合流した【Spear】と【Rapter】が素早く陣形を組み直しにかかる。 ミ,,;゚ ゚彡《All unit, report!! How many down!?》 《Rapter-01 for Spear-01, I report. Rapter team, 03, 06, 10, 11, 13 is Lost. Spear team, 14 Lost. End report》 嗚呼、嗚呼。やっぱりそうか。 スピアー編隊14番機。あの声は、あの悲鳴は、澄華のヤツだったか。 |w´‐ ‐ノv(ヒト様の想い人にあんな口聞くからだろ、馬鹿野郎め) http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/106
107: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/23(水) 23:43:36.62 ID:Yl0NhHA/0 板橋澄華、航空自衛隊3等空尉で私と同い年。本人は「澄んだ華、まさに自分に相応しい名前だ」なんていつもふんぞり返っていたけど、私は聞く度に板橋区に住んでそうだなって感想しか浮かばなかった。 まぁ実際見てくれは中の上〜上の下程度だった一方で、容姿が派手なやつの宿命か異性関係じゃ度々よろしくない噂も立ってたな。 ブーンの写真を見せた時に「えー、意外といい男じゃん!私も狙おうかしら♡」とかカマしてきた辺り、強ちただの理不尽・偏見ってワケでもないだろう。 :: |w´ ノv ::(…………バカ、野郎、が!!) それでも、悪いやつじゃなかった。 奴さんには中学ぐらいから付き合ってる男が1人いて、実のところソイツにゾッコンであることを知っている。 まぁ上記のセリフを吐いた時は顔面におにぎりを一つくれてやったが、こっちが本気で怒ってると解ると自分がやり返された事は全く顧みず涙目で謝ってくるような奴だったと知っている。 ゾッコンな彼氏くんについて指摘してやると、「そんなんじゃないし!!」と否定しつつ満更でもない笑顔を浮かべるようなあざとかわいい女だと知っている。 色目使って空自に籍をおいているなんて陰口叩かれてもどこ吹く風で、擦り切れるほど使い古した訓練生時代のノートを今でも隙あらば読み返す努力家だったと知っている。 こっちが奴さんより上の階級に昇格しても、「アンタの腕前なら安心して命を預けられるからとっとと佐官になってくれ」と屈託なく笑ってくれる奴だったと知っている。 こっちがブーンの事で悩んだり落ち込んだりしていた時に、「そんな隙見せてたら、他の女に取られるぞ!アタシとか!」なんて軽口叩きながら背中を押してくれる奴だったと知っている。 少なくとも、こんなところで死んでいい女じゃなかった。 骨一つ残らず、幼馴染の恋人の名前を叫ぶ暇もなく、またその顔を見ることも叶わずに殺されるような悪い女じゃあなかったんだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/107
108: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/24(木) 00:54:45.73 ID:ppnt4kDF0 ミ,,゚ ゚彡《………Thanks》 やはり、澄華の死に思うところはあったのだろう。Rapter隊から“レポート”を聞き終えた富佐隊長の返答にも、幾分かの間があった。 何時も富佐隊長、富佐隊長っつって滅茶苦茶人懐っこいトイプードルみたいにくっついて回ってたもんな。アレも一部の連中から色目だの枕だの言われてたっけ。 富佐隊長は富佐隊長で「ワイルドな魅力がある」とかでそれなりに競争率が高いせいだろうけど……ソイツらが澄華みたいに“F-14Jの運用法について徹夜で富佐隊長と語り明かせる”ほど勉強してない限り、色目呼ばわりは嫉妬乙としか言えねえな。 ミ,,゚ ゚彡《All unit, Keep position. We'll retreat the Aircraft-Carrier》 《Rapter-01, Roger》 《Rapter-02, Roger》 《Spear-02, Yes Sargent》 |w´‐ ‐ノv《………Spear-03, Roger that》 それでも、実質的に2つの編隊を統率する身である以上、個人的な感傷で「死」に対する反応を変えるワケにはいかない。 Raptor側で落とされた5機のパイロット達だって家族や恋人や親友がいただろう。澄華と同じで、“ここで死んでいい”奴なんて存在しない。そうした面を配慮して、声の一つも震えさせず指示を出せる富佐さんはまさに自衛官の鑑ってやつだろう。 |w;´ ノv「……………………!」 ああ、そうだ。「死」はいつだって私達の隣りにある。人種も、職業も、年齢も、性別も、抱いている思いや決意も、何もかも考慮せず。究極的平等主義者の死神野郎は気紛れで命を刈り取っていく。 澄華は、こんなところで死んでいいやつじゃなかった。Raptorチームの五人だってそれは同じだ。それでも死んだ。ならば「次」が、私じゃない保証はどこにある? ブーンの為に死にたくない。アイツを助けるため、アイツの「空」を守るために生きたい。誰のどんな想いにも負けないぐらい、私もまたそう強く強く想っている。 それでも、F-14Jの真下で高射砲の弾丸が炸裂すれば、何ら映画的な奇跡が起こるわけでもなく私は死ぬだろう。また突入を仕掛けた時に、そうならないと何故言える。 終わりが見えているならいい。だが実際には、6機もの犠牲を払って4つある【要塞】の内1つの、ほんの一部分の艤装を削っただけに過ぎない。随伴の深海棲艦は寧ろ交戦当初より増え、食い止めようと投入される艦娘艦隊には轟沈者も出始めている。 よしんばこれらを死物狂いで薙ぎ払っても、その向こう側にいる【学園艦棲姫】は世界最強の艦娘艦隊の総攻撃にMOABまで上乗せして尚未だ小破しかさせられていない。 あと何回、アレを繰り返せば私達は勝てる?あと何発、ミサイルを撃てば【学園艦棲姫】は沈む? あと何回、私たちは生き残り続ければいい? |w;´ ノv(こいつを、沈める………ブーンを………助ける………) 営倉を出され、【かが】を飛び立った時から、ずっと胸の内で繰り返し続けてきた言葉。絶対にやり遂げてみせると、胸に刻み続けてきた決意。 それが少しずつ、空虚で淀んだ響きになりつつあることを、私は認めざるを得なかった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/108
109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2022/11/24(木) 11:55:29.48 ID:FsIwIl8T0 更新おつです さぁ、盛り下がってまいりました(戦意が) 逆転劇は一度すべてを諦めてからが本番ですよね http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/109
110: ◆vVnRDWXUNzh3 [saga] 2022/11/25(金) 22:37:30.81 ID:6zQ8/6i00 . 「Spear-01より入電、【Fortress】への攻撃を完了も与えたダメージは極めて軽微とのこと!Rapterと併せて損失は6機、着艦・補給要請が届いています!」 「そのまま【チェスター・ニミッツ】へ着艦誘導!ニミッツ側には超特急で整備とミサイル補充を終えるよう指示を!! クソッタレ、マーシャル方面の戦況確認も急げ!!余裕があるようならクワンジェリンから余りの基地航空隊を根刮ぎこっちに引っ張ってこい!!」 「【セオドア・ルーズベルト】より入電!第9空母打撃群、周辺の深海棲艦掃討を完了!これより当方に合流するとのこと!」 「丁度ベトナム空軍が2個編隊迷子になってるぞ、発艦する部隊と入れ替わりですぐに収容させろ!」 「【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の航行速度、低速状況を継続!各航空隊、遅滞戦術を維持せよ!」 「【ロナルド・レーガン】CICより【Shark Head】, 防空ラインの後退は許可できない。【回転木馬】を死守し【Black Bird】を引き続き食い止めてくれ………おい、ハワイの空軍州兵動員の件はどうなった!?本格的にフロントラインの損耗が看過不可能な段階になりつつあるぞ!!」 「既に州知事は同意しましたがここまでの距離を考えてください、F-16を常時最高速でぶっ飛ばしても単純計算で4時間かかるんですよ!? 補給や休養を考えれば最速でも戦線への合流は10時間後です!」 「【Fortress】への巡航ミサイル群による第三次飽和攻撃、失敗!全基撃墜されました、敵迎撃能力未だ健在!」 「グアム島第43基地航空隊、前線に到達。敵艦載機群と交戦開始」 「ASEAN各国政府より返答あり、海上戦力の投入は南沙諸島における人民解放海軍の動向から拒否された。繰り返す、ASEANは艦隊戦力の動員を拒否」 「ビスマルク海にて深海棲艦の出現を確認、総戦力15個艦隊強!現在カビエン、ラマ両鎮守府が迎撃中、同方面よりの戦力抽出は現時点では不可能です!」 《Wyvern teamが間もなく着艦する。整備士各位、補給と応急修繕の準備を怠るな》 (*^○^*)「アラスカ州が空軍州兵と鎮守府艦隊の投入を拒否した?」 「……………はっ」 怒号じみた報告の声と電子音がひっきりなしに飛び交い、これに定期的に流れる艦内放送も合わさってまさに“喧騒の坩堝”と呼んで差し支えないCIC。 そんな中にあっても、ポージー=ハメルスが発した疑問の声は、直立不動で彼の前に立つ士官の耳朶にしっかりと届いた。 別にポージーは、激高し声を荒らげたワケじゃない。寧ろ陽気であっけらかんとした言動が多い彼にしては、落ち着いた静かな声色での問い質しだ。 だが、細められた眼の奥で、両の瞳に宿る酷く冷たい光。 柔和で朗らかな、一見いつも通りの微笑みの中に紛れる明らかに異質な輝きを前に、士官──アメリカ海軍大尉・ガルシア=ポンセの聴覚は自然と極限まで研ぎ澄まされていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/110
111: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/25(金) 22:39:54.30 ID:6zQ8/6i00 (*^○^*)「理由は?」 「…………ギルゼン=コールマン州知事は、ベーリング海に出現した深海棲艦に対応するため、と」 (*^○^*)「例の【防共協定】はベーリング海並びにアラスカ全域を対象としている。既に日露それぞれの鎮守府が艦娘部隊と基地航空隊を派遣して海域全体の掃討・索敵を開始しているはずだけど?」 あくまで平坦な、ただ“疑問を口にしている”に過ぎないポージーの口調。だが、烈火のごとく怒り今にも罵声を吐く寸前の上官に相対している時よりも、遥かに大きな「圧」がポンセの首を締め上げる。 「州知事曰く、“広大な海域故【不測の事態】に対応し得る予備戦力を残存させておきたい”とのことで」 (*^○^*)「ワイオミング州、ノースダコタ州、ネブラスカ州、これらの州軍による増援部隊はもう到着してる筈だよね?何のために【カーヴィル・ドクトリン】があると?」 口調は変わらずも、「圧」は更に増した。少なくとも、笑みの裏に隠された明確で激烈な怒りの影を感じ取れる程度には。 無論その怒りはポンセに向けられたものではないが、彼は自身が叱責されているがごとく生唾を飲み込む。 「お怒りは、至極御尤もです」 辛うじて絞り出した一言は、自分でも情けなくなるほどか細く、そして言い訳じみたものであった。ただポンセ自身の名誉のために添えるなら、これ自体は彼の非常に素直で正直な心情ではある。 ベルリン陥落の直前に結ばれていた、アメリカ・日本・ロシアの3ヶ国による対深海棲艦相互防共協定。 その内容は【オペレーション・オリョール】という“下地”の存在もあって極めて強固かつ具体的な防衛戦略要項となっているが、分けても綿密に練られていたのはベーリング海の防衛計画に関するものだった。 アラスカ州は成立に至る経緯もあってアメリカ本土から切り離されており、ベーリング海で再び大規模な攻勢が行われた際に沿岸防備が難しい。その為“有事”に際しては海上自衛隊が千島列島方面から、ロシア軍がカムチャッカ半島方面からこれを側面支援する形で展開し、ベーリング海全域の掃海・機動防御を行う手筈となっている。 一方でアラスカ州軍……取り分け空軍に関しては、「三軍全体での遊撃的予備戦力」と定義され、「作戦海域外の他方面において“有事”が発生した場合を含めたあらゆる事態に対して出撃する」ことが取り決められた。 要は、日本とロシアが──ベーリング海の制海権が彼らの安全保障にも直結するからこそとはいえ──自国防衛の戦力を割いてまで手厚くアラスカ州の守護を肩代わりする分、同州の航空戦力を両国で起きた“不測の事態”に対する予備戦力として扱うことを協定上で許可しているわけだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/111
112: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/25(金) 22:43:59.63 ID:6zQ8/6i00 実際のところ、人類が保有する航空戦力の重要度は対深海棲艦戦闘においても低くはない。青ヶ島、ベルリン、ムルマンスクといった直近の大規模戦闘において上がった数々の戦果から、寧ろ増している面さえある。 だが、別段“替えが効かない”という程ではない。条件が揃った際に「極めて大きく一方的な戦果を得られる」という点は稀有ではあるが、あくまで“殲滅”に拘った場合の話。防衛・撃退に主眼を置いた場合基地航空隊や艦娘の艦載機で十分以上に対応は可能だ。 今回のケースでは、ベーリング海防衛に際し“潤沢”な戦力と言えるかはまだ解らないにしても、千島列島・北方四島には空自・海自に配備された膨大な基地航空隊が存在する。艦娘も練度が十分な分だけでも述べ20個艦隊前後を動員できる。 カムチャッカ半島からもロシア軍保有の基地航空隊に加えて“海軍”鎮守府が投入可能であり、完璧に防ぎきれるかは敵の規模次第にしろ少なくとも瞬時に制海権が奪取され上陸まで漕ぎ着けられることはほぼ有り得ない。 先に述べた【防共協定】の要項においてアラスカ州空軍の運用に対する“距離”の制約は存在しない。そして【学園艦棲姫】は、日露のみならずアメリカにも直接的な脅威となる。 また州知事が主張する“不測の事態”だが、まさしくそれに対応するため【カーヴィル・ドクトリン】────協定締結に際して立案された、新たな米本土防衛政策がある。 内容それ自体は 『深海棲艦関連の“有事”に際してそれが米国本土に脅威をもたらす時、内陸州の州軍や所属艦娘を沿岸州に派遣し防衛を強化する』 という言ってしまえば単純なものに過ぎないが、制定にあたりトソン大統領はドクトリン発動の「追認」を許可している。 これにより各州軍は深海棲艦の近隣海域出現と同時に発動指示を事実上“既に受けている”という体を取り、合衆国連邦軍指揮系統への正式な編入を待たずに各個の判断で即時行動を開始できる。 上げられた3州は何れもベーリング海方面で“要項”が満たされた時にアラスカ州への派兵が定められているため、【ドクトリン】に基づくならポージーの言う通り既に戦力移動が終わっておりアラスカ州空軍は事実上フリーに近い位置づけの筈だ。 つまり、今回のアラスカ州知事の判断はケチや臆病といった次元の話ではなく、純粋な“協定違反”と見做されかねない。 戦力面、戦術面、戦略面の何れから鑑みてもこの空軍州兵温存に正当性がない以上、少なくとも日米両国からすればそうとしか取りようはないだろう。 (*^○^*)「既に正式な“大統領令”も出たんだ。なら州兵の指揮権は【カーヴィル・ドクトリン】関係なしに連邦軍総司令部に帰属するはずだけど」 「州軍司令部は、“空軍の長駆派兵が作戦として適切であるか、またベーリング海における深海棲艦の浮上規模が【協定】発動に適切であるかを現在注視確認している最中だ”と回答を寄越しています」 (*^○^*)「ふぅん」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/112
113: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/25(金) 22:48:34.33 ID:6zQ8/6i00 作戦に重大な支障を来しかねない事態に対する反応としてはあまりにも軽い、いっそ不真面目にさえ聞こえてしまう相槌。 しかしポンセは、ポージーの声が北極海に浮かぶ氷のように冷え切っていることを肌で感じとった。 (*^○^*)「これ」 「は?これは一体………」 (*^○^*)「コールマン州知事のスキャンダルデータ集」 数秒の沈黙の後、ポージーが無造作に投げ渡してきたのはUSBメモリ一つ。すぐに続けられた言葉によって、幸い疑問は殆ど間を置かずに解消された。 尤も混乱の度合いは、寧ろ聞く前より大きくなったが。 (*^○^*)「贈賄、不倫、不倫相手親族への州議会における便宜融通、大手建築会社との癒着、息子の薬物所持のもみ消し………不正・スキャンダルのコンプリート目指してたの?って聞きたくなるぐらい選り取り見取りなんだ。これをすぐに解凍・リストアップしてコールマンに送るんだ、これだけ熱心に“説得”すれば多分次は二つ返事で空軍を送ってくれるんだ。 あ、因みにこの大手建築会社、国外から不自然な資金流入があるんだ。その辺りのデータは別枠でまとめてあるからCIAとFBIの方に送っといて欲しいんだ」 「えっ、はっ、あの………はぁ!?」 (*^○^*)「ハイ、時間ない!すぐにかかる!!駆け足!!!」 「イ、Yes sir!!」 目を白黒させながら強引にCICの外へと送り出されたポンセと、入れ替わる形で男が1人入ってくる。彼──ジェイムズ=ウィーランド中将は走り去るポンセの背中を一瞥すると、何が起きたのか概ね察して帽子を目深く被りながらポージーの方を向き苦笑いを浮かべた。 「どうやら“大損”をされたようですな、閣下」 _, ,_ (*^○^*)「全く持ってその通りさ、“親父”」 問いかけに応じつつ、ポージーは椅子に座り直し深く深くため息をつく。 笑顔をデフォルト設定しているなんて揶揄されるようなこの在日米軍司令官にしては珍しいことに、その眉間には深い皺が刻まれていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/113
114: ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga] 2022/11/25(金) 22:52:37.10 ID:6zQ8/6i00 ポージーも決して若い身ではないが、ウィーランドは更にその歳を10近く上回り還暦を目前に控えている。だが、肩を並べて長年対深海棲艦の最前線に経ち続けてきた二人の間には、年齢や階級を超えた確かな友情が存在した。 故にポージーは親しみと敬意、そして彼の年齢を加味しても些か異様な落ち着きぶりへのささやかな誂いを込めて、彼を“親父”と呼ぶ。 そしてウィーランドは、ポージーがオフではなく公務の場で自分を“親父”と呼ぶ時は、彼が周囲に対して取り繕う余裕を失いつつあるのだと長年の経験で知っている。 (*^○^*)「コールマンは合衆国民並びにアラスカ州民にとっては史上最低クラスのクソッタレ野郎だけど、僕にとっちゃあこの上なく“やりやすかった”。 泳がされてるとも知らず寄ってくる利権を暢気に片っ端からつまみ食いし、結果奴は【誘蛾灯】になっていた。調査する度に新しい“スポンサー”がくっついてるもんだから、正直こっちが罠にかかってるんじゃないかと疑ったぐらいだけどね」 「まぁ、C.I.AやF.B.Iならいざ知らずまさか在日米軍がわざわざアラスカの州知事に身辺調査を仕掛けているとは思わなかったのもあるでしょうな」 (*^○^*)「在日米軍は別に日本だけにかかずらわってるワケじゃない。日本列島を【不沈空母】に見立てた上で、アジア全域の対深海棲艦………そして、“対共産主義”防衛線を死守するために存在する。 自然、そのアジアから“不審なお客さん”が母国に向かっているようなら目に付くさ」 だからこそ、ソイツらの雁首が揃ってからまとめて“刈り取り”たかった。そう言ってポージーは拳で軽く机を叩く。 それは彼の精一杯の忍耐であり、実のところ満身の力を込めた握り拳を叩きつけたかったであろうことは、ウィーランドも重々承知している。 (*^○^*)「だけど、もう“釣り”はここまでだ。コールマンは流石にやり過ぎた、ロスとサンディエゴの機体まで引っ張ってくることになりかねない状況で尚州空軍の出撃を渋るのは“釣り餌”として看過できるもんじゃない。 大方、奴さんがつるんでる環境保全団体と平和活動家連中に配慮したんだろうが、ライン超えだ。グルであろう州軍司令部共々叩き潰す」 一気にそこまで言い切ってから、ポージーはふと外を見やる。 視線が向けられているのは、水平線の彼方にいるであろう【学園艦棲姫】─────ではなく、その遥か手前。 この【ロナルド・レーガン】の数百メートル横を並走する、日本海上自衛隊所属のイージス艦・【こんごう】だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/114
115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2022/11/26(土) 08:35:16.67 ID:t1Hly90C0 更新おつです http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/115
116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage] 2022/11/28(月) 09:27:42.64 ID:BSeTTiQ60 おつです ポジハメ司令官のR.レーガンが健在ならレールガンも稼働できそうなのは希望ですね 次回は八頭身提督の回ですかね絶望的状況に心中いかばかりか http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1657376096/116
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