私「2度と月に帰れなくなってしまったんだね」 (106レス)
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74: [saga] 2022/03/15(火)20:30 ID:guKA3R0i0(74/98) AAS
私「……」

担任「それらの意見はどちらも正しく、また間違っているとも言える」

私「先生は何が言いたいのでしょう」

担任「別に。単なる雑談さ。散歩なんてそういうものだろう?」

私(先生は再び歩みを進めた)
省7
75: [saga] 2022/03/15(火)20:31 ID:guKA3R0i0(75/98) AAS
タタタ

友達「探しましたわよ」ハァハァ

私「あれ。奇遇だね」

友達「奇遇じゃありません。教室で職員室に行った聞き、職員室で副担任から中庭に向かったという情報を得て、ここまでやってきたのですわ!」ズイ

私「そ、そうなんだ。ありがとうね」
省7
76: [saga] 2022/03/15(火)20:32 ID:guKA3R0i0(76/98) AAS
──

私(本物とは何だろう。偽物とは何だろう)

私(画家は言っていた。偽物の跋扈で本物が肩身を狭くしていると)

私(先輩は言っていた。水と油を一緒の水槽に入れているようなものだと)

私(友達は言っていた。”何か大切なものを失っている”と)
省5
77: [saga] 2022/03/15(火)20:32 ID:guKA3R0i0(77/98) AAS
──ビル群──

私(12月。買い物をしに都心に出ると、背の高いビルが並ぶ街中で、うさぎの姿を見つけた)

私(いや、あれはうさぎなのだろうか。ブランド物の服を着込み、1番のトレードマークだったうさ耳がなくなっている)

私(うさぎと私は向き合う形で立ち止まった)

うさぎ「……あんたはいつも、私を驚かせる登場をするうさね」
省2
78: [saga] 2022/03/15(火)20:33 ID:guKA3R0i0(78/98) AAS
私「そうなんだ」

うさぎ「これからは、企業に雇われて配信することになったうさ」

うさぎ「引っ越し作業も進んでて、あそこにあるマンションにもう決めている」

私(うさぎは後ろのタワーマンションを指差す)

私「……」
省3
79: [saga] 2022/03/15(火)20:34 ID:guKA3R0i0(79/98) AAS
うさぎ「──え?」

私「あなたの話は配信についてばかり。違うよ、配信は手段でしょ」

うさぎ「……」

私「目的は月に帰ることだったはずだよ。私があなたの口から聞きたいのは、月に帰る計画がどれだけ進んだかって部分なのに」

うさぎ「……。前に、あんたに言ったうさよね。あんたは良い奴か、それか単なるバカのどちらかだって」
省4
80: [saga] 2022/03/15(火)20:35 ID:guKA3R0i0(80/98) AAS
私(ビル風が吹く。耳のない彼女の寂しい頭を横風が撫でた)

うさぎ「どうかしてたんだよ。きっとフリーターの自分の境遇が惨めで、幻想の世界に逃げ込んでいたんだ」

うさぎ「現実逃避すると人は宇宙についてネットサーフィンをするものだから。私もその症状にかかっていただけ」

うさぎ「月が故郷だという話も、スペースシャトルが必要だという話も、全部お金稼ぎのための嘘だった」

うさぎ「今ならそれがわかる。この世界のことを正しく認識できる。ふふ、地球が嫌な場所だなんてとんでもない」
省6
81: [saga] 2022/03/15(火)20:36 ID:guKA3R0i0(81/98) AAS
うさぎ「……登録者数50万人の私が、かわいそう……?」

私「あなたは本物の月のうさぎだったのに」

うさぎ「は、はぁ……?」

私「……私たちが出会ったあの日。砂浜で語ってくれたあなたの言葉は、嘘なんかじゃなく全て本音だった」

私「月の石と同じ。博物館の展示は本物だった。でもお金に目が眩んで、偽物に替わってしまった」
省4
82: [saga] 2022/03/15(火)20:38 ID:guKA3R0i0(82/98) AAS
──

私(私には本物がどうとかって話はわからない)

私(ぼーっとした性格で、難しいことはあまり得意じゃないから)

私(何より、問いに対して明確な答えのあるようなテーマだとも思えないから……)

私(私には音楽がわかわない。友達も先輩も、どちらの言い分も正しくて間違っているようにも思える)
省2
83: [saga] 2022/03/15(火)20:39 ID:guKA3R0i0(83/98) AAS
私(私には配信がわからない。だから、うさぎの配信の内容についてどうこう言うつもりは毛頭ない)

私(だけど──彼女が本物の月のうさぎであることを諦めてしまったことだけは、どうしようもなく悲いのだ)

私(偽物にならざるを得なかったことが、可哀想でしょうがないのだ)

私(それからもうさぎは、配信界隈で活躍し続けていると、同級生から度々噂話を耳にする)

私(けれど、私とうさぎが再び顔を合わせて)
省1
84: [saga] 2022/03/15(火)20:40 ID:guKA3R0i0(84/98) AAS
──回想・音楽室──

友達『他に借りたいものがあったら、次からは部長を通さなくて良いですわ』

友達『直接私に聞きに来てください』

バタン

私『……あの子はああ言っていたけど、部長さんに黙って判断しちゃって大丈夫なのかなぁ』
省7
85: [saga] 2022/03/15(火)20:41 ID:guKA3R0i0(85/98) AAS
私『口実なんてなくても会いに行きますよ。友達ですもの』

先輩『うん。今度私の部屋に遊びに来るといい』

私『ありがとうございます。楽しみにしていますね。それでは』

スタスタ

先輩『あ、そうだ。君に聞いておきたいことがあったんだ』
省3
86: [saga] 2022/03/15(火)20:41 ID:guKA3R0i0(86/98) AAS
私『……。リクエストしても良いんですか?』

先輩『当然だよ』

私『ありがとうございます。それじゃあ……もし、チャンスがあったらでいいので』

先輩『?』

私『兎の写真を撮ってきてくれませんか』
省4
87: [saga] 2022/03/15(火)20:43 ID:guKA3R0i0(87/98) AAS
私(先輩は少し驚いた表情を見せたあと、得心いったという感じで私のタンバリンを見た)

先輩『そうだった。君はかぐや姫なんだった』

私『はい』シャン♪

先輩『ふふふ。姫には似つかわしくないハリボテの満月に見えるけれど』

私『お言葉ですが先輩。信じ続ければタンバリンだっていつか本当の月に見えますわ』
省5
88: [saga] 2022/03/15(火)20:43 ID:guKA3R0i0(88/98) AAS
──友達の家──

私(新曲を聴いてほしいと言われて、私は友達の家に招かれた)

私(白いエントランスに置かれたピアノの前に、パイプ椅子をおいて彼女の演奏を待つ)

私「……始めますわよ」

私(友達は緊張した面持ちで、白い鍵盤に指を這わせていった)
省5
89: [saga] 2022/03/15(火)20:44 ID:guKA3R0i0(89/98) AAS
私「……」ボロボロ

友達「あなた……泣いているの?」

私「ごめん。い、良い曲だったよ。本当に」ゴシゴシ

友達「感動して泣いてくださいましたのね。私……感無量ですわ」

友達「あなたこそが、あなただけが私の理解者です。あなたと出会えて私は本当に幸せ者です」
省6
90: [saga] 2022/03/15(火)20:45 ID:guKA3R0i0(90/98) AAS
私(先輩の予言めいた言葉が耳にこだまする)

 先輩『もしも学生の身分から卒業し、このままの状態で社会に出たならば』

 先輩『彼女は間違いなく飢え死にするだろう』

私(きっと先輩の言う通りだ。この曲は綺麗すぎる。多くの人の心には響かない)

私(だから友達は、いつかきっとこの曲を捨てるだろう)
省2
91: [saga] 2022/03/15(火)20:46 ID:guKA3R0i0(91/98) AAS
──

私(その夜。お父さんと一緒にドキュメンタリー番組を見た)

私(宇宙飛行士がインタビューに答えている)

記者『宇宙空間での暮らしとはどのようなものでしょう』

宇宙飛行士『基本的には実験と軽作業ですね。仕事で行っていますので当然ですが』
省7
92: [saga] 2022/03/15(火)20:47 ID:guKA3R0i0(92/98) AAS
私(リモコンの電源ボタンを押す)

私「……嘘つき」

私「いなかったんじゃない。いなくなったんだよ」

私(視線を感じて横を見ると、お父さんが驚いた表情で私を見ていた)

私(私は自室に戻る)
省5
93: [saga] 2022/03/15(火)20:48 ID:guKA3R0i0(93/98) AAS
私(私がいくら手を伸ばしてみても、月は一向に私の身体を引っ張り上げてはくれない)

私(本物の月以上に強い偽物の引力がそれを許さないからだ)

ビュオオオ…

私(もしも私が本当にかぐや姫で、いつか月に帰ることが叶ったならば)

私(あの哀れな友人を、あの可哀想な友達だけは)
省2
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