臥煙伊豆子「おいで。君の意思で、私の隣に」 (12レス)
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1: [sage saga] 2022/02/03(木)23:29 ID:GA97p571O携(1/9) AAS
「え……?」

大昔のRPGやシューティングゲームに横スクロールや縦スクロールという形式があって、日常生活においてそのような景色の見え方をする機会はそう多くはないのだが、時として似たような感覚に陥ることがある。たとえば停車している電車に乗車している際に隣の電車が発車した時だとか、今まさにこうして、エスカレーターで上層階に上がる時などだ。

「臥煙、さん……だよな?」

仕事帰りに気まぐれに立ち寄った大型ショッピングモールのエスカレーターで、臥煙さんらしき人物とすれ違った。なんとなく、臥煙さんというか専門家連中は世俗を離れている意識があったので、よもやその元締めたる臥煙伊豆子さんがここに存在しているとは思わず、他人のそら似かと目を逸らす間際、まるでその瞬間に僕とすれ違うことを知っていたかのように目が合った。そのまま僕は進む。

「まさか上がってきたりしないよな……?」
「やあ、こよみん」
省5
2: [sage saga] 2022/02/03(木)23:30 ID:GA97p571O携(2/9) AAS
「なんだい? 私は別に、君の面を食うつもりはないよ。面食いじゃあるまいし」

はっはっはーっ。と、臥煙伊豆子は笑った。

「えっと、怪異絡みの案件ですか……?」
「いんや。違うよ。君は何にも知らないね」

なんとなく、仕事で迎えに来たわけではないと察しはついていた。何故ならば、いつものダボダボした緩い服装ではなく、キャップも被っていなかったからだ。私服姿だろうか。

「いつもと感じが違いますね」
「おや、そうかい? 君がいつもの私を知っているとは驚きだ。どこで目撃したのかな?」
省9
3: [sage saga] 2022/02/03(木)23:35 ID:GA97p571O携(3/9) AAS
「デートはともかく、特に予定も用事もないので、映画を観るのは構いませんけど……」
「もちろん知っていたとも。さあ、行こう」

臥煙さんは何でも知ってるお姉ちゃん。果たして本当だろうか。たまたま僕を見かけて今さっきデートプランをでっち上げたのでは。

「こよみん。映画館は何階にある?」
「え? 3階、ですけど……?」
「そうだね。じゃあ、なんで、私が下りのエスカレーターに乗っていたと思うんだい?」

僕とすれ違うため。信憑性を裏付けられた。

「あの、臥煙さん」
「ん? なんだい、こよみん?」
「腕を組むのはちょっと……」
省6
4: [sage saga] 2022/02/03(木)23:36 ID:GA97p571O携(4/9) AAS
「さて、何が観たい?」
「えっと」
「実はもう観る作品は決まっているんだ」

上映スケジュールを眺める僕に水を差した臥煙さんは、ペポパッ!とタッチパネルを操作してチケットを2枚買った。片方を手渡す。

「はい、どうぞ」
「あ、お金……」
「いいよいいよ。付き合って貰っているのは私だし、これから楽しむのも私だからね」

堂々と自分勝手な振る舞いをしながらも、映画のチケットを奢る臥煙さんはたしかに大人で、僕は少なからず憧れる。格好良かった。

「ところで確認なんだけど、こよみんは上映中に何か飲んだり食べたりする?」
「いえ、食べたり飲んだりしません」
省5
5: [sage saga] 2022/02/03(木)23:39 ID:GA97p571O携(5/9) AAS
「どうして席をひとつ空けるんだい?」
「このご時世ですから」

キープディスタンス。間隔を空けるルール。

「でもここには私とこよみんしか居ない」
「空いてて良かったですね」
「だから社会的なルールは適応されない」

そんな馬鹿な。個室じゃあるまいし。けど。

「ルールなんてものは、自分で自分の行動を決められない人間が、何も考えずにただ従うことで楽をしたいがために存在してるのさ」
省11
6: [sage saga] 2022/02/03(木)23:41 ID:GA97p571O携(6/9) AAS
「つまらないかい?」

上映して30分で飽きた。古臭い撮り方。ありきたりなストーリー。大昔の名優がメガホンを取り自ら主演したその作品は、数十年前からなんら進歩も発展もなく、古ぼけていた。

「まあ、正直」
「知ってた。じゃあ、もう観なくていいよ。退屈なら私の横顔でも眺めていたまえ」

言われて見やると臥煙さんは真っ直ぐスクリーンを見つめていてプロジェクターの光に浮かんだ青白い横顔は映画より魅力的だった。

「退屈しのぎにお喋りでもしようか」
「上映中の私語は……」
「それは君の意思かい?」
省10
7: [sage saga] 2022/02/03(木)23:42 ID:GA97p571O携(7/9) AAS
「臥煙さん。訊いてもいいですか?」
「どうして何でも知りたいかって?」

何でも知っているお姉さんに質問するのは難しい。何を訊いても答えが用意されている。

「知らないことを知りたいからさ」
「でもなんでも知ってるって……」
「矛盾を指摘するなんて生意気だ」

叱られた。しゅんとする僕の手を撫でつつ。

「私には良く出来た姉が居てね。何をしてもその姉には敵わなかった。姉はなんでも出来たしそれこそなんでも理解した。とはいえ、今の私と違ってなんでも知っていたわけじゃない。そこに矛盾は生じない。何故かって? 理解することと知ることは違うからだ。同じく、知ることと理解することもまるで違う」
省3
8: [sage saga] 2022/02/03(木)23:46 ID:GA97p571O携(8/9) AAS
「結果的に、私は挫折した。あらゆることを知った私は理解した。やはり私は姉にはなれないし、姉を超えることは出来ない。乗り越えられない。乗り越えようとした。姉には逆立ちしても出来ないことを成した。死体に付喪神を憑依させ、そして、ルールを破った」

長い長いエンドロール。臥煙さんは、語る。

「ルールを破ってみて私は理解した。姉もルールを破りこの世を去った。生命を生み出すことへの代償、対価。駿河を産んだ姉が支払ったのは自らの命で、私が負ったのは呪い。それを知って理解してなお、逃れられない」
「辛い、ですか……?」
「そうだね。良い映画だった。思わず泣いてしまうほどに。目を逸らしてくれるかい?」

正面を向くとエンドロールが終わる。隣から聞こえる啜り泣きがただ唯一の拍手だった。

「こよみん」
「なんですか?」
「なんでも知っている私の知る限り君は泣かない。それは何故かな?」
省7
9: [sage saga] 2022/02/03(木)23:48 ID:GA97p571O携(9/9) AAS
後日談というか誰でも知ってる今回のオチ。

「泣かない僕は処理を放棄しているわけか」
「本当に?」
「ええ。だって現に泣いてないですし……」
「じゃあどうして股間が濡れてるんだい?」
「フハッ!」

処理しきれなかった感情が、愉悦となった。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「元は取れたね。愉しかったよ、こよみん」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
省16
10
(1): 2022/02/05(土)01:04 ID:AE4a8jG2o(1) AAS
イイハナシカナー?
11: 2022/02/06(日)19:05 ID:RiGVsfvVO携(1) AAS
>>10
臥煙さんの名前を間違えてしまったので、内容以前にその時点でこの作品は良いお話とは呼べません。
正しくは臥煙伊豆湖さんでした。
完璧な物語はもちろんオリジナルなので、二次創作の時点でそれを実現することは不可能ですが、初歩的なミスで自分から遠ざけてしまったことが悔やまれます。
確認不足で申し訳ありませんでした。

最後までお読みくださりありがとうございました!
12: 2022/02/06(日)20:16 ID:QjZQOz6j0(1) AAS
地獄への道は善意で舗装されているって奴だな
無能な部外者がステマダイマすると期待度にマイナス補正がかかる
結果元ネタも安っぽいんだろうなって思われる訳で
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