FF零式「開戦運命の三時間」 (13レス)
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1: 2022/01/18(火)22:37 ID:pAViFCvW0(1/13) AAS
FF零式の公式ムービーを書き起こしたものです。懐かしい気持ちで、作品を知っている方は見ていってやってください。

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2: age 2022/01/18(火)22:38 ID:pAViFCvW0(2/13) AAS
午前十時五十一分。
戦争で巻き荒れた砂塵渦巻く街の中を、一人の若い朱雀兵が歩いていた。
白虎兵、朱雀兵。
彼の前には白や赤といった色を基調とした兵装を纏った死体が、いくつも転がっている。そしてまた、幾ばくも無いままに、彼も死体のうちの一つになることは、想像に難くない。

息も絶え絶えといった様子で、彼は上空を見上げる。見上げれば、巨大な白虎軍の空挺がいくつも浮かんでいる。
戦況は不利。すでに朱雀の領土のほとんどには、虎のマークの旗が鎮座していた。

「ポイントは……まだ先か」

彼は一人ふらふらと歩き続ける。眩暈をこらえながら、彼は重要な任務のために歩き続けた。

途中、何人か赤の兵が密集している場所を見つける。
省10
3: saga 2022/01/18(火)22:39 ID:pAViFCvW0(3/13) AAS
突如、二人の間に爆発が起こる。
彼は吹き飛ばされ、戦渦で裸になった街の地面に投げ出された。

「いたぞ!」

――白虎兵が、集まってくる。

先ほどの爆発で、何人かの朱雀兵が火だるまになっている。

「殺せ!」
省12
4: [saga] 2022/01/18(火)22:40 ID:pAViFCvW0(4/13) AAS
「なんだ?」と白虎兵。

次の瞬間、当の本人は宙に投げ飛ばされていた。
鎧を纏い、くちばしが赤く染めあがったチョコボが雄たけびを上げている。
素早くもう一人の白虎兵がチョコボに銃を向ける。

鋭い緊迫感の流れる中、若い朱雀兵は必死で地面に落ちている剣を拾い、咄嗟に白虎兵に突き出した。

「うああああ!」

必死だった。
省8
5: [saga] 2022/01/18(火)22:40 ID:pAViFCvW0(5/13) AAS
彼は自分の戦友であるチョコボの名を呼ぶ。
弱り切った彼の腕は、チチリの顎を愛おしそうに撫であげ、「くぇくぇ」とチチリは嬉しそうに鳴いた。

彼はもう一度目を瞑る。

――俺は……立ち上がらなくてはならない。

体も心も疲弊して、おまけに今大勢の仲間が死んだ。
けれど、新しく仲間が来てくれた。ずっと一緒にいた、頼りになる相棒が。

だから彼は立ち上がる。
奥歯を噛みしめながら、チチリの体を支えに、彼はなんとか立ち上がった。
省3
6: [saga] 2022/01/18(火)22:41 ID:pAViFCvW0(6/13) AAS
タン、タン、タン、タン。

チョコボのチチリの駆ける音が、規則正しく耳に聞こえてくる。
上下に揺れる視界は、戦渦でボロボロになった街並みを映し出す。

今、この瞬間にもどこかからする爆発音が聞こえてくる。行く手にも、いくつもの黒い煙が、亡者の手のように伸びている。

体中が痛い。

視界の揺れは、チチリの背にいる振動なのか、それとも自分がどうにかしてしまっているのか。
わけがわからない状況に陥りながらも、彼は必死に手綱を握りしめる。
省7
7: [saga] 2022/01/18(火)22:41 ID:pAViFCvW0(7/13) AAS
「あいつは……エースは」

目の前が暗くなっていく。
彼がぼやける視界で最後に見たのは、懇願するように見つめる、チチリの大きな目だった。



午前十一時三十七分。

――銃声。
省5
8: [saga] 2022/01/18(火)22:44 ID:pAViFCvW0(8/13) AAS
自分の背後では、足音が二つ聞こえる。兵隊の足音だ。

「チチリ!」

――足音が近づいてくる。

「――はっ」

彼はチチリに向けて、回復魔法を使った。
淡い光は眩く彼の手のひらを包み込み……集まった光は力なく消滅した。
省15
9: [saga] 2022/01/18(火)22:45 ID:pAViFCvW0(9/13) AAS
だれか自分を見つけてくれ。
その一心で放った、泣き声のような雄たけびは、魔法の炎によって迎えられた。

瞬く間に広がる炎は、白虎兵のみを綺麗に焼き払う。
焼死していく白虎兵達を背景に、彼は確かに、【エース】の姿を見た。

特別な意味のある赤いマント。戦場にあって僅かに煤のついた白い肌。魔法のような明るい金髪に、意志の強い翡翠色の瞳。

「ここだ!」

エースは彼をしかと見つめる。
省8
10: [saga] 2022/01/18(火)22:45 ID:pAViFCvW0(10/13) AAS
エースは彼に回復魔法を使った。
彼のものとは違い、魔法は途中で消滅せずに彼の体を包み込む。しかし、傷つきすぎた彼の体には、もはや効果はなかった。

エースの横を生真面目そうな眼付きの強い女が通り過ぎる。彼女もまた、赤いマントを羽織っていた。

「もう、無理ですね」
「わかってる」

悔しさを滲ませながら、エースは答えた。
エースはゆっくりと立ち上がる。

そうして、赤いマントの特待生は、次の戦場へと向かった。
省14
11: [saga] 2022/01/18(火)22:46 ID:pAViFCvW0(11/13) AAS
「マキナの名づけは、わかんないなあ」



午前十一時三十九分。

血だらけになったチョコボと、若い朱雀兵が一緒になって倒れ伏していた。
彼らを中心に、ゆっくりと血の池が広がっていく。

「俺もお前も、死ぬのかなあ」
省7
12: [saga] 2022/01/18(火)22:46 ID:pAViFCvW0(12/13) AAS
彼は清算を続ける。今までの自分の人生。してきたこと。大切な人たち。
思い出をぐるりぐるりと頭の中で回す。その滑車を回せば回すほど、自分が幸せになれると盲信しようとし続ける。

「うっ」

鋭い痛みが自分の体を駆け巡る。
信じられないほどの苦痛だった。

甘い思い出の逃避は、鋭い痛みによって引き戻される。
彼が再び目を開けば、ぼやけた視界に、清算な戦争の光景が映った。

「いやだあ」
省11
13: 2022/01/18(火)22:47 ID:pAViFCvW0(13/13) AAS
おしまい
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