キョン「分かち合うって、何を?」佐々木「世界の喪失の、哀しみを」 (7レス)
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1: [sage saga] 2022/01/16(日)21:41 ID:xk4lsT1lO携(1/7) AAS
「キョン、どうかしたのかい?」
「え? 何がだ?」
「さっきからずっと上の空だよ」

中坊の頃、迫り来る高校受験を目前にしてまったく勉学に取り組む姿勢を見せなかった俺に痺れを切らしたお袋に指図され、学習塾に放り込まれた。そうした経緯で漫画やゲームを取り上げられて勉強漬けを余儀なくされた可哀想な俺の唯一の娯楽はライトノベルであり、申し訳程度の挿絵の存在を親が知らないのを良いことに読み耽っていた。ライトノベルはシリーズ形式で何冊も刊行されている作品も多くなかでも好きなシリーズがあった。

「ああ、なるほど。ニュースを見たんだね」

1巻からコツコツ読み進めてようやく最新刊に追いついた俺は、その作品の続きが読めないという現実に直面した。この世の中にはどうしようもないことがあって、それを現実と呼び、受け入れるしかないことを俺は学んだ。

「あの作品、僕も好きだったよ」
「佐々木が?」
「意外かい? 僕もたまにはラノベを嗜む」
省6
2: [sage saga] 2022/01/16(日)21:44 ID:xk4lsT1lO携(2/7) AAS
「なあ、佐々木……教えてくれ」
「僕に答えられることなら、なんでも」
「どうして世界は回り続けているんだ?」

俺は現実を受け入れられなかった。時が止まってもおかしくないと思うほどに、喪失してなお回り続ける世界に違和感を抱いていた。

「世界が回り続ける理由は、たとえばそれでも生きていかなければならないとか、後世に何かを遺し伝えるためだとか、そんな綺麗なものではなくただの惰性だと、僕は思うよ」

惰性。ならば、いずれは止まるのだろうか。

「回転が緩やかになると、誰かがまた勢いをつけて回してくれる。そうやってこの世界は回り続ける。そう考えるとロマンチックだ」
省6
3: [sage saga] 2022/01/16(日)21:48 ID:xk4lsT1lO携(3/7) AAS
「佐々木、訊いてくれるか?」
「もちろん。僕はキミの親友だからね」

俺は作品について佐々木に語った。その作品の魅力。どこに惹かれ、何を楽しんだのか。

ツンデレヒロインを守る少年のひたむきさ。
若さ故の過ちでドキドキハラハラする展開。
基本的に第三者視点で描かれるその作品は文法や書体は重要視せず、描写も細かくない。

けれど、読者が、まるでその場でやり取りを眺めているような、そんな没入感があった。
作者自身が自分の目で見たことを自分の感情を踏まえて伝えるような作風が好きだった。

そして現実に直面した俺の心境を吐き出す。
省12
4: [sage saga] 2022/01/16(日)21:50 ID:xk4lsT1lO携(4/7) AAS
「キョン。僕の話を訊いて」
「ああ。もちろん、訊くぜ」

自分だけ言いたいことを云って、お前の話は訊きたくないなど、そんなことは言わない。
佐々木は俺の書いた駄作を読みながら語る。

「本題に入る前にまず教えて欲しい。キミは初めてこの二次創作を書いたのかい?」
「ああ。とはいえ、読んでる最中にIFルートみたいなものは考えていたがな」
「そうかい。それを踏まえた上で僕は改めてこの二次創作を個人的に興味深いと思う」

改めて言われるとなんだか恥ずかしくなる。

「いいよ。駄作だってことはわかってる」
「駄作か良作かはともかく、この作品にはキミの考えや感情が反映されている。それが僕は興味深くて、なかなか楽しませて貰った」
省6
5: [sage saga] 2022/01/16(日)21:52 ID:xk4lsT1lO携(5/7) AAS
「書いてみてよくわかった。書きたいことを書いて読者を楽しませる作者の凄みがさ。そして、それがどんなに、困難かってことを」

書きたいことを書いても読んでる奴が面白いとは限らない。中にはプロとして読者の望みを作中に反映させる作者もいるだろうが少なくともこの作者はそうした書き方ではない。

「俺は、あの人のようには、なれない」

生まれも育ちも違う。俺とその作者は別人。

「俺はあの人のように、なりたかった」
省8
6: [sage saga] 2022/01/16(日)21:53 ID:xk4lsT1lO携(6/7) AAS
「それにしても……キミの作品のこのオチ」
「ああ。酷いもんだろ?」
「なんで主人公とヒロインが脱糞するのさ。裏腹でハラハラしてもお腹は下さないよ?」
「フハッ!」

なんでだろうな。生まれや育ちの影響かな。

「キミはきっと、この作品に対する賞賛を原作者に捧げたいのだろうね。この二次創作を読んだあとに原作を読むといかにオリジナルが素晴らしいかがわかる。やれやれ、だね」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

わざわざ分析するまでもない。オリジナルあってこその二次創作。賞賛されるべきは原作者であることは明白だ。だから、俺は嗤う。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「止まりかけた世界が回って、なによりだ」
省10
7: [sage saga] 2022/01/16(日)21:54 ID:xk4lsT1lO携(7/7) AAS
先日、『私のほうが先に好きだったので。』という作品と出会いまして、これがまた素晴らしいお話で存分に楽しませて頂きました。
世界が止まりかけている方におすすめです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!
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