教えて! アルクェイド先生 (33レス)
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1: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:03 ID:FpkFq5Eu0(1/32) AAS
注意事項

・リメイク前の旧作(アルクGoodEnd + シエル先輩残留)を基準に書いています
 ただし話の本筋には関係ない小ネタでリメイクのネタが出てきます

・リメイク版のみプレイした人でも大丈夫な内容(コメディ)になっています

・資料を確認しながら書きましたが、新旧月姫の知識がごちゃ混ぜになっている状態です
 間違い等がありましたら申し訳ありません

「シエル。あなたはなぜ学校に通っているの?」
省15
2: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:04 ID:FpkFq5Eu0(2/32) AAS
――事の発端は30分前。
 日差しで暖かくなり始めた午前10時頃に、駅前でフラフラと彼女らしくない様子で歩く先輩を見かけたところから始まった。
 心配になって声をかけてみれば――

「これはこれは、恥ずかしいところを見られてしまいました。
 実は昨夜から夜明けまでちょっと“お仕事”をしていまして。そこからさらにあと片付けやら報告を食事も取らずにしていましたら、気がつけばもうこんな時間!
 ご飯を食べようにもカレーは作り置きもレトルトも切らしていたため、こうしてメシアンに向かっている最中なんです」

「そんなにお腹が空いていたなら――」

 近くのコンビニで済ませれば良かったんじゃないですか? という迂闊な言葉をかろうじて飲み込む。
 普段の先輩ならば「何を言うんですか遠野君! 心身ともに疲れた体を癒す食事を、適当なもので済ませていいはずがありません。ターメリックとコリアンダー、クミンにレッドペッパー。ガラムマサラに人参・玉ねぎ・リンゴ・牛肉。そこから導きだされる黄金比の輝き《カレー》こそが求められるのです!」と握り拳で語るぐらいで許してくれるだろう。

 しかし今ここにいるのは飢えた獣だ。口調こそ柔らかいが眼がギラついている。
省14
3: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:05 ID:FpkFq5Eu0(3/32) AAS
「ん? あっちの方を歩いていたら志貴の声が聞こえてきたから」

 その黄金に輝く髪で俺の頬をくすぐりながら、アルクェイドが指さしたのは六車線道路の向かい側。
 
 はて?
 俺が先輩と話し始めてからまだ一分過ぎたかどうかというところだ。
 日中の駅前で車は絶え間なく行きかい、信号機も歩いて一分ほどの所にある。
 どうやってコイツは俺に気づかれることなく後ろに回り込めたのだろう。

「アルクェイド。人間社会で生活をするのなら道路交通法ぐらい守りなさい」

「ええ〜? 人間だって歩いて渡っても余裕なら信号無視するじゃない」

「あなたの歩いてはロードバイクみたいなものです」
省19
4: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:06 ID:FpkFq5Eu0(4/32) AAS
「人はカレーと聞いて何を想像するか。一般的なところだと玉ねぎと人参にジャガイモ、そして牛肉でしょう。ではナスやオクラを想像するのは間違いでしょうか? いいえ、夏に食べるナスカレーやオクラカレーも暑さに弱った体に活力を与えてくれます。もちろんトマト、キノコ、ズッキーニ。カレーに合う野菜はまだまだあります。
 そしてカレーのトッピングで選べるのは野菜だけではありません。エビ、イカ、ホタテ等を加えたシーフードカレー。キウイ、バナナ、パイナップル等によるフルーツカレー。いやそもそも、肉を牛肉にこだわる必要すらありません。鳥でも豚でも、なんなら鹿や猪でも構いません。
 トッピング次第でいくらでも必要な栄養素を接種できる。それも、カレー味で!
 好き嫌いの多い小さなお子さんでもカレーなら食べられるというケースもあり、全国――いな、全世界のお母さんの味方と言っても過言ではありません!
 さらにさらに! ここまで自由自在なカレーですが、彼《カレー》は自らだけでなくその相方も変幻自在。ある時はライス、ある時はナン、ある時はうどん、ある時はラーメン、ある時はパン。人類の主食である穀物との圧倒的、調和力《シンフォニー》!!!
 人はパンのみにて生くるものにあらず! カレーの彩りが必要なのです、わかりましたかこのアーパー吸血鬼!!!」

「お、おおぅ」

 先輩のあまりの勢いにたじろいだアルクェイドは「“ねえ、シエルが言っているのは本当なの? スパイスの過剰摂取でおかしくなったわけじゃないよね?”」という不安そうな目を向けてきた。

 ここは――

1.正直に話す。
省1
5: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:07 ID:FpkFq5Eu0(5/32) AAS
「先輩の言う通りだよアルクェイド。カレーは日本三大国民食の一つにして、インド人十四億による魂の息吹。この世で最も至高の頂《いただ》きに近い完全栄養食なんだ」

「なんとぉ!?」

 俺は草食動物。荒れ狂うルーの大波に逆らう事などできない。

 決して「え、そんな知識知らない。二人ともどうしたの? お昼時によく流れている緑黄色野菜を絞った汁や、膝や関節の痛みが治りそうなサプリや健康食品を宣伝するドキュメンタリーみたいな“圧”が出てるけど」と困惑してオロオロするアルクェイドが見たいから悪ノリしたわけではない事を、ここに明言しておこう。

「本当ならば遠野君と二人きりのつもりだったのですが、これも主の思《おぼ》し召《め》しでしょう。あなたも行きますよ、メシアンに!」
省3
6: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:08 ID:FpkFq5Eu0(6/32) AAS
※ ※ ※

「へえ〜、ふ〜ん。なんだかシエルっぽい雰囲気のお店ね」

「そ、そんな。別に貴女に褒められても何もしてあげませんからね」

 全体的に赤っぽくて茶色っぽい彩りと、厳かなのに奇怪な雰囲気が漂う店。
 アルクェイドが軽く辺りを見渡しながら口にしたあんまりな感想を、先輩は満更でもない様子で受け入れる。

 良いんだ……カレーショップらしいっていうのが誉め言葉になるんだ。
 あ、でもこの店の何でも受け入れますという包容力は確かに先輩らしいかも。
省24
7: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:08 ID:FpkFq5Eu0(7/32) AAS
 いや、大丈夫なのか!?
 先輩ではなく俺たちが大丈夫なのか!?
 そういうのを食べ慣れている先輩は大丈夫なんだろうけど、手を伸ばせば届く距離にそんな劇物に鎮座されて、俺たちの目と鼻は大丈夫なのか!?

 あ、でもアルクェイドは3000℃の高熱にも耐えられるから辛いのもいけ――いや、あいつニンニク駄目だった!
 食べ物に関してはそんなに無敵じゃないぞあいつ。

「んー、じゃあわたしもその20倍セットで。なんだか面白そう♪」

「――――――――――」

 デトロイトやメンフィスを舞台にした映画で、チンピラが大した理由もなくゲラゲラ笑いながら人をなぶり殺しにするシーンってありますよね?
 必要にかられたわけでもなく、むしろ自分たちから望んで笑いながら人を[ピーーー]シーンは見ていて「これって映画の中だけだよな? え? 実際のデトロイトもロボコップみたいな治安? うわっ」と文化の違いによる驚きと恐怖を感じてしまう。
省10
8: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:09 ID:FpkFq5Eu0(8/32) AAS
――待てよ。

 アルクェイドはカレーを食べるのは初めてだ。
 最初の一口目でスパイス20倍セットに挑むという暴挙を、果たしてあのカレー奉行が許すだろうか?

 そう、先輩ならきっと――――――――――ッ!

「―――――――――あ」

 助けを求めた先にあったのは、先輩の背中。
 その背中が――
省5
9: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:10 ID:FpkFq5Eu0(9/32) AAS
※ ※ ※

「――――――来たか」

 こうして無力な俺は、テーブルにスパイス20倍セットが2つも並ぶのを止めることができず(俺のドロワット感度20倍化は断固阻止した)、圧倒的スパイシーな香りに息をのむ。

 それは赤く、黒かった。

 カレーと聞いてバーモントカレー(甘口)を思い浮かべる者たちの首根っこを鷲掴《わしづか》みにして、積み重なったガラムマサラの砂丘に生き埋めにせんとする暴力的な香り。
 このカレーを口にする者、一切の希望を捨てよ。
 同じトレーで運ばれてきたけど、俺のドロワットに辛さが移っていないだろうか。
省19
10: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:10 ID:FpkFq5Eu0(10/32) AAS
 スプーンで掬いあげたカレーをまじまじと観察するアルクェイド。
 おい、そんなに眼へ近づけるな。
 何の脈絡も無くボコッと湧いた飛沫が眼に飛びかかるかもしれないんだぞ。
 クソ、もしかしてお前まだ俺にやられた傷が癒えてないのか。

 本来の貴様なら一目で気が付いたはずだ。
 その金色の眼を凝らしてよく視るがいい。
 視えるであろう。その体内《ルー》に内包された、六百六十六素のスパイス達の混沌が――――――

「味もみておこうっと♪」

「ばっ――――」

 ネロ教授の警告も空しく、アルクェイドはそのままスプーンを口に入れてしまった。
省19
11: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:11 ID:FpkFq5Eu0(11/32) AAS
 先輩は本当なら、こんな風に食べる人じゃないんです。
 ちょっと健啖《けんたん》なところはあるけれど、それだって普段の運動量を考えれば少ないぐらいだし、そもそも美味しそうに食べる女の子って見ていて癒されるよね?

 けど今の先輩は食事休憩無しでの徹夜明け。一周回ってハイな状態ってやつだ。

「ふうぅ……んっ……この……っ……辛さ……ああ――嗚呼《ああ》!
 生きて、います。今わたしは……んっ……生きて……いましゅ」

 最初は噛みしめながら味わっていたものの、空っぽだった胃が刺激を受けて動き出す。そうなってしまったら睡眠不足の脳では止められない。
 あとは衝動に突き動かされるままに目の前のカレーを喰らうのみ。

 え? 先輩は年上の包容力と丁寧口調、隠し切れないほどお人よしな上にメガネ。こんなことはしないって?
 文句なら二十年の歳月を経てもなお印象に残っている“カレーパン覚醒シーン”に言っていただきたい。
 もしくは外道マーボー神父、激辛激甘シスターなど“教会関係者=食の変人”というイメージを作り上げた菌糸類に言っていただきたい。
省4
12: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:12 ID:FpkFq5Eu0(12/32) AAS
※ ※ ※

「シエル。あなたはなぜ学校に通っているの?」

 その問いかけは先輩が大盛りのインドスペシャルを半分ほど食べ終わり、瞳に理性の光が戻ってきた頃を見計らってされた。

「――――――――――」

 先輩は驚きで目を見開いたが、アルクェイドの意図を問おうにも口がカレーでいっぱいでそれも叶わず。
 まずはと急いで咀嚼し、次いでカレーを食べているうちに流れ出ていた汗をハンカチで拭った。
省17
13: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:13 ID:FpkFq5Eu0(13/32) AAS
「うん。私はそれを聞いてね、羨ましくって――でも手を伸ばせばわたしにも届きそうに思えた。
 でも本当に手を伸ばしていいのかな? 志貴と一緒にいる時はこんな事考えないけど、一人になると昔のわたしが訴える。
 アルクェイド・ブリュンスタッドは無駄なものを持ってはならない、余分は事をしてはならない。それは個体としての機能を落とす事に他ならない――って」

「おまえ……」

 先輩と口喧嘩をして、眉をしかめるのを隠そうともしない姿。
 俺と先輩にカレーの偏った知識を与えられ、戸惑いを隠せない姿。
 初めて食べるカレーに心底楽しそうに笑う姿。
 先輩のつれない反応にふてくされる姿。

 今日一日を思い出すだけでも、天真爛漫を絵に描いたようなアルクェイドにしか出せない輝きの数々。
 
省17
14: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:14 ID:FpkFq5Eu0(14/32) AAS
 いったい誰に何を言われたのか。
 うつむき加減で不敵に笑い始める。
 というか二人の知り合いが教会にいたとか今初めて知った。

「今のところ埋葬機関としての仕事はありませんし、期せずしてあなたと奇妙な友好関係を築けたわたしが監視役として最適なのだから黙ってろとは言ってるんですがね。
 別にあなたの肩をもつわけではありませんが、わたし以外の教会の人間が監視していたらあなたも嫌でしょう?」

「ん〜、マーリオゥなら我慢してあげなくもないけど、メレムは付きまとってきてうっとおしいし、それ以外は問答無用で潰すかな?」

 ……なんだろう。
 今初めて存在を知ったしどういう奴なのか知らないけど、今俺はそのメレムさんをすごく不憫《ふびん》に感じている。
 何だか二人からの扱いが何というか――――――雑でした。 

「つまりシエルってばお仲間に嫌味を言われながら、それなりに忙しい中で時間を割きながら学校に通っているわけよね?」
省11
15: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:14 ID:FpkFq5Eu0(15/32) AAS
「学校は確かに楽しいものですが……楽しいから通っているかというと、少し違いますね」

 そんな俺も知りたかったけど知るのが怖い問いかけに、先輩は穏やかな表情で答えた。

「私が学校に通っているのは……憧れ……心残り……そういったものです」

 在りし日の事を――まばゆい光のように思い返しながら、そう口にする。

「あなたには共感しづらいとは思いますが、わたしたち人間は子どもの頃は、数歳年上の相手が大人びて見えて憧れるんです。
 小学生の時は中学生が大人っぽくて素敵に見えて――ああ、わたしもいつかは中学生になるんだ。あんな風に素敵なお姉さんになれるかな、なりたいなあ。中学校では何をするんだろう? わたしはこんな事をしてみたいなあ……と」
省18
16: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:16 ID:FpkFq5Eu0(16/32) AAS
「――――――――――」

 沈黙が流れる。

 言いたい事があった。
 話しかけたい事があった。

 しかし――今俺が口にしてはならない。

 だって先輩がこうして胸の内を明かしたのは、アルクェイドに対してだ。
 そこに居合わせただけの俺が、今の先輩に語りかける権利は無い。
 それができるのは、許されるのは、しなければならないのは、ただ一人のみ。
省7
17: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:16 ID:FpkFq5Eu0(17/32) AAS
 辛い過去――などという生ぬるい表現では済まない事をまざまざと思い返しながら、先輩は今の自分の生き方を語ってくれた。
 それもこれまで幾度となく争ってきた自分に、何の打算も無く、一人の友人として。

 これに謝るのは間違っている。
 先輩はそんなつもりで胸の内を明かしたわけではない。
 アルクェイドを糾弾するためではなく、アルクェイドの悩みと疑問に応えるためなのだから。

 もちろんアルクェイドは申し訳ないと思っただろう。
 けど先輩の心境をくみ取ったあいつは、決して謝罪の言葉を口にしてはいけないと理解し――――“ありがとう”という一言に万感の思いを込めた。

「……いいですよ。先に胸の内を明かさせたのはわたしの方なんですから」

 先輩はアルクェイドの感謝の言葉に、静かに――でも本当に嬉しそうなほほ笑みを浮かべる。
省6
18: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:18 ID:FpkFq5Eu0(18/32) AAS
※ ※ ※

「はじめまして、アシスタントティーチャーのアル美です!
 みんな、今日はわたしのためにありがとーう!」

 なんであの流れからこうなるんだ、このばか女ああああぁぁっ!!

 ざわめく教室、血の気が引く酩酊《めいてい》感。
 教壇から放たれるあっけらかんとした破壊光線《あいさつ》。
 奴の顔には一度は危険物として没収したはずの丸眼鏡がかけられ、メガネ属性まで付加されている。

 間違いない。
 魔眼の力でなんやかんや有耶無耶《うやむや》にした特別講師・アル美先生まさかの再来か――――ッ!
省17
19: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:19 ID:FpkFq5Eu0(19/32) AAS
「ぐお……っ」

「遠野くん……!?」

 あまりの絶望に頭を抱える勢いが止まらず、机に額を叩きつけるように突っ伏してしまう。
 クラス中が喧噪に包まれているおかげで目立たなかったが、この異様な雰囲気に吞まれていなかったのが弓塚が驚いて振り返る。
 それに手を軽く振って大丈夫だと応えながら、有彦が朝からサボっていることを神に感謝いややっぱしねーわ、こんな事態を引き起こしやがって。
 今なら心の底から神に呪われたと、ガッデムと叫べるぞ俺は。

「わたしはあくまでアシスタント役なんだけど、英語の先生は今日はお休みだから代わりに進めちゃいま〜す♪」

 ま〜すじゃねえよ。
 おまえアシスタントティーチャーなんだろ。アシスタントを止めてメインになろうとすんなお願いだから。
省16
20: ◆SbXzuGhlwpak 2021/09/27(月)19:19 ID:FpkFq5Eu0(20/32) AAS
「し、質問です! アル美先生はおいくつなんでしょうか!」

「好きなブランドは何ですか!」

「誕生日はいつでしょうか!」

「彼氏は!? 彼氏募集中ですか!?」

「どんなタイプが好みですか!?」
省22
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