式波・アスカ・ラングレー「またね、シンジ」 (8レス)
1-

1: [sage saga] 2021/04/03(土)21:12 ID:4B3dgK4pO携(1/8) AAS
「なんとかしなさいよ! バカシンジ!!」

衛生軌道上に安置された初号機奪還を目的としたUS作戦で、Code.4Bに苦戦を強いられた私は咄嗟にその名前を叫んでいた。

それに応えるように初号機が格納されていた黒い箱に亀裂が生じ、中から光が照射されて4Bを追跡し、そのコアを破壊して撃破した。

ほんの12秒ほどの、出来事だった。

その光景を間近で目撃した私は、目の前の現実を認識出来ず、情けないことに惚けた。
見惚れてしまったのだと、あとから気づく。
省7
2: [sage saga] 2021/04/03(土)21:15 ID:4B3dgK4pO携(2/8) AAS
「アスカ! 良かった……無事だったんだね」

初号機のエントリー・プラグ内からサルベージされたシンジは、あの時から変化がない。
そんなことは最初からわかっていたけど、だからこそ強く失望した。故に、殴りつけた。

私とシンジを隔てる分厚いガラスにヒビが入り、拳が痛かった。なにより胸が痛かった。
私だって再会の喜びを分かち合いたかった。

けれど、すぐ近くには加持リョウジを喪ったミサトが居て、父親を喪った鈴原サクラの姿もある。赤城リツコの観察するような視線も無視は出来ない。私は監視されているのだ。

そうした理由の他にも、まるで不慮の事故から奇跡的に生還した友人を見つけたような、完全に他人事のシンジの態度に泣けてくる。
省11
3: [sage saga] 2021/04/03(土)21:18 ID:4B3dgK4pO携(3/8) AAS
「ワンコくん、大人しくお座りしてた?」
「何も変わらず、寝癖で馬鹿な顔してた」
「その顔、見に行ったんじゃにゃいの?」

コネメガネに尋ねられ、見たままの印象を伝えると、見透かしたようなことを言われた。
自分はいったい、シンジになにを求めていたのか。開口一番に、何を伝えたかったのか。

少なくとも、あんなに冷たく接するつもりはなかった。けれど、どうしようもなかった。

シンジは私の無事を喜んではいたけれど、自分こそが当事者だとは自覚していなかった。
シンジにとっては一緒に事故に巻き込まれて、私だけが重傷だったようなものなのだ。

それが癪に障ったことは間違いなく、ならば当事者意識を持って貰えばそれで満足だったのか。それも違う。そんな同情は要らない。
省6
4: [sage saga] 2021/04/03(土)21:20 ID:4B3dgK4pO携(4/8) AAS
「邪魔しないでよ、アスカッ!!」
「女に手をあげるなんて、最ッ低……!」

再会したシンジはまたエヴァに乗っていた。
あれほど乗るなと言われたのに、あれほど辛い思いをして、傷ついたのに。ほんとバカ。

結局、ミサトが正しかった。それが悔しい。
この世界の惨状とその原因が自分にあると知れば、シンジはエヴァに乗ってしまうのだ。

利用され操り人形と化していると知らずに。

そして私はまた肝心な時に止めてやれない。
前と違って今度はこの場に存在するのに、あのバカを止められない。きっとまた傷つく。
省10
5: [sage saga] 2021/04/03(土)21:22 ID:4B3dgK4pO携(5/8) AAS
「いきなりケンケンと呼ばれて、驚いたよ」

なんとか第三村に辿り着き、シンジと一悶着があり、アイツが家出してから相田ケンスケが苦笑混じりに苦言を呈した。素直に謝る。

「ごめん。でも、こうするしかなかった」

シンジと親しくならないように、遠ざける。
それには理由が必要でケンスケを利用した。
じゃないとシンジと私も一緒にダメになる。

「碇は愛されてるな」
省10
6: [sage saga] 2021/04/03(土)21:24 ID:4B3dgK4pO携(6/8) AAS
「アスカ、僕も行くよ」

家出したシンジが帰ってきて、しばらくケンスケの仕事を手伝って、そして初期ロットを看取り、自分もヴンダーに戻ると口にした。

未調整の初期ロットが長くは保たないことは最初からわかっていたことだったけれど、だからと言って設備や薬のないこの第三村では処置出来ず、初期ロット自身もNERVへ戻ろうとせず、だから、どうしようもなかった。

14歳のままのシンジなら、その現実を受け止められずに喚き散らしていただろうけど、今のシンジはその喪失をしっかり受け入れた。

私が使徒に侵食、寄生され、使徒として処理せざるを得なくなった時、当時のシンジは選択から逃げた。選ばないことを選んだのだ。
省16
7: [sage saga] 2021/04/03(土)21:26 ID:4B3dgK4pO携(7/8) AAS
「ちょっと、寄り道するわ」

碇ゲンドウとの決戦に赴く前にシンジに伝えたいことがあった。同行したコネメガネは、コネメガネにしか出来ない布石を打った。

私は寄り道の目的である問いを投げかけた。

「なんで私が殴りたかったかわかった?」
「僕が何も選ばなかったから」

望む答えを得て満足した。あとはついでだ。
私は私だけが伝えられる私自身の気持ちを、シンジへと伝える。照れや迷いはなかった。
省9
8: [sage saga] 2021/04/03(土)21:29 ID:4B3dgK4pO携(8/8) AAS
私はどうなってもいい。ただシンジのために。

人を捨て全力を出し尽くし、今度こそ死を覚悟した私は気がついたら大人になっていた。
傍らにはシンジが座っていて、裂けたプラグ・スーツから覗く肌を隠そうと寝返りを打ち、自分が恥じらっているのだと自認した。

「僕もアスカのこと、好きだったよ」

シンジに好きだと言って貰えて嬉しかった。
自分にしか出来ないことを見つけたシンジが、今度こそ私を助けてくれて、嬉しい。

頑張った甲斐があったと思った。見返りは求めるなと言われていたけど、やっぱりご褒美があると報われた気持ちになれる。幸せだ。
省22
1-
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル

ぬこの手 ぬこTOP 0.125s*