青年「藤の迷宮秘密箱」 (46レス)
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1: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:34 ID:t/awvdm70(1/11) AAS
青年「それじゃ、僕ちょっと用事があるから」

友「ん? おお分かった。気を付けてな」

青年「うん。ありがとう」

【えにしや】

青年(僕はこの前、町の片隅で偶然この骨董品屋を見つけた)
省4
2: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:36 ID:t/awvdm70(2/11) AAS
青年「……」カチャ

店主「いらっしゃいませ」ニコ

青年「お邪魔します」ペコリ

青年(店主……なのだろうか。若い女の人だ)

青年(さらっとした綺麗な黒髪に、丸い眼鏡をかけている)
省16
3: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:38 ID:t/awvdm70(3/11) AAS
店主「何かお気に召した商品は見つかりましたか?」

青年「いやあ、どれも魅力的で……見てるだけで圧倒されますね」

店主「これらの商品は、全てが特殊な縁(えにし)を持った、一点限りのものです」

青年「特殊な、縁……」

青年(おや、あの箱は)チラ
省10
4: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:39 ID:t/awvdm70(4/11) AAS
青年「中には何が入っているんですか?」

店主「私も分かりません。誰も開けた事が無いのですよ」

青年「何だか……よく分からないんですが、魅力を感じますね。でもさすがになぁ」

店主「千五百円で構いませんよ」ニコ

青年「えっ……えっ⁉ 十分の一の値段じゃないですか!」
省18
5: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:40 ID:t/awvdm70(5/11) AAS
かち かちかち かち

青年「うーん」

青年(さすがに複雑だ。簡単に開けられそうにない)

青年(でも何だろう。全く飽きる事が無い)

青年「中に何が入っているんだろう」
省18
6: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:41 ID:t/awvdm70(6/11) AAS
青年「はっ⁉」ガバ

青年(こ、ここは……?)

青年(藤棚がずうっと続いている……夢なのか? これは)

青年(しかし、こんな美しい景色は初めてだ)

青年(花の空に圧倒される……まるで巨大な藤の滝を見上げているようだ)
省4
7: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:42 ID:t/awvdm70(7/11) AAS
青年(藤の道を歩いていると、何だか懐かしい記憶が蘇る)

青年(桜に囲まれた一本道を歩くのが好きだった)

青年(昔から美しいものが好きだった。芸術にも興味があった)

青年(だけど、結局何もせずに今まで生きてしまった)

青年(純粋だった昔の僕が今の僕を見たら、何て言うんだろう)
省6
8: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:43 ID:t/awvdm70(8/11) AAS
青年(奥には開けた小さな空間があった。藤の広場と呼ぶべきか)

青年(中央には、曲がりくねった大きな藤の木が鎮座している)

青年(藤の木の前には、木製の古いベンチが一つ)

青年(藤を眺めることが出来るように設置されているのかな)

青年「うわ、すごいな……樹齢何年なんだろう」
省14
9: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:45 ID:t/awvdm70(9/11) AAS
青年(少し時間が経過した。僕はほんの少し落ち着いたようだ)

青年(美しい女性だ。これほどまでに整った顔は見た事が無い)

青年(なのに、よく分からない)

青年(顔を見れば見るほど、周囲の藤の花に「紛れて」しまって……見えないんだ)

青年(だまし絵でも見ているような気分だ。分かるのに分からない)
省8
10: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:46 ID:t/awvdm70(10/11) AAS
青年(唐突に核心を突かれて、思わず息が止まる)

青年(確かにその通りだ。僕は生き方についてずっと悩んでいた)

青年(だが、それを言い当てるなんて……)

青年(僕の顔は、そんなに疲れていたのだろうか)

青年「確かに、その通りです。どうして分かったのですか?」
省12
11: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/14(木)22:49 ID:t/awvdm70(11/11) AAS
青年(このままで良いのか分からない。ずっと漠然としたもやもやが胸で渦巻いている)

青年「何がとは、はっきり分からないんですけど……苦しいんです」

青年「このままで良いのか、自分の行く末が、全く想像出来ないんです」

青年(僕は、初対面の女性に何を相談しているんだろう)

青年(けれど、この女性には、人にそうさせる穏やかな何かがあった)
省17
12: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/15(金)23:53 ID:4VcBxeVn0(1/2) AAS
青年(どうやら、寝る前に秘密箱のお香を焚くと、藤の世界に行けるらしい)

青年(あの香りは非常に強いリラックス効果があるようだ。目覚めの軽さが違う)

青年(だが、僕はあまりあちらへ行かないようにしていた)

青年(お香には限りがある。きっとすぐに使い切ってしまう)

青年(だから、出来るだけ使わないようにはしている)
省4
13: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/15(金)23:57 ID:4VcBxeVn0(2/2) AAS
女「お元気そうですね。またお話出来て嬉しいです」

青年「先生もお元気そうで。相変わらずここは穏やかですね」

青年(藤の世界には、僕たち以外の音が一切存在しない)

青年(車のエンジン音も、どうでもいい誰かの話し声も、カラスの鳴き声も)

青年(ただ、たまに優しい風が花を揺らすだけだ)
省20
14: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)10:38 ID:gqaXZ68y0(1/7) AAS
♪〜

友「……? 誰か歌ってる?」

青年「そうだね。あ、あそこじゃない?」

友「お、ギター弾いてる」

青年(軽音楽部の人かな)
省11
15: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)10:40 ID:gqaXZ68y0(2/7) AAS
女「猪鹿蝶。私の勝ちです」

青年「あ〜! 駄目だー! 勝てない!」ガリガリ

女「まだまだ駆け引きが甘いですね」

青年(かれこれ五回目の敗北だ。花札って難しいんだな)

女「そろそろ休憩しましょうか」
省13
16: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)14:18 ID:gqaXZ68y0(3/7) AAS
青年「ふぅ、随分と日が沈むのも早くなってきた」

青年(夕飯の買い出し帰りに、この坂道から見える夕日が好きだ)

青年(静かに燃える空は、何だか一日が終わったんだなと感じさせる)

青年(今日の夕飯は炊き込みご飯だ。炊き立て熱々を食べるんだ)

青年(味噌汁よりは豚汁がいいな)
省17
17: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)14:20 ID:gqaXZ68y0(4/7) AAS
青年(空、みかん、歯ブラシ、靴、看板)

青年(手当たり次第に、描き殴るように作品を作り続けた)

青年(それと同時に、身体を鍛え始めた。器具を使わない自重トレーニングだ)

青年(先生との時間は限られているんだ。それは、僕の人生も同じだ)

青年(時間なんて、使わなければ無限に感じるけど、本当は一瞬の間しか無い)
省6
18: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)14:21 ID:gqaXZ68y0(5/7) AAS
女「以前と比べて、何だか力強くなったような気がします」

青年「そうですか? 少し太ったかな」

女「いいえ……必死に努力をされているんですね」

青年「うっ……お見通しですか。参ったなあ」

女「恥ずかしがらないでも良いのですよ? 立派だと思います」
省8
19: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)14:23 ID:gqaXZ68y0(6/7) AAS
青年「肉屋のコロッケって、やたらと旨いよね」

友「分かる。揚げたてって言われるとつい買っちゃうよな」

青年「あ、向こうで腕時計売ってるよ。欲しいって言ってなかったっけ」

友「お、そうなんだよ……は⁉ やっす!」

友「行こうぜ。アホくさ」
省8
20: ◆XkFHc6ejAk [saga] 2021/01/16(土)14:27 ID:gqaXZ68y0(7/7) AAS
女「体調が優れないようですね。大丈夫ですか?」

青年「ええ、まあ」

青年(……お香も、残り一本になってしまった)

青年(この気持ちを、どう表現すれば良いのか分からない)

青年(寂しい、焦り、切ない、侘しい)
省6
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