【ミリマス】帰省できなかったシアター上京組の年末年始 (13レス)
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1: ◆yHhcvqAd4. [sage saga] 2021/01/05(火)22:29 ID:1nFF4fw90(1/11) AAS
スレが立ったら書きます。大晦日に慌てて書いた話だけで満足しようと思っていたのですが、年始のことまで頭に浮かんできたので書きました。

【概要】
出てくる人:木下ひなた、横山奈緒、ジュリア、白石紬

大晦日の話と、一月二日の話を両方続けていきます。

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(1): 帰省できなかった年末年始 1/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:30 ID:1nFF4fw90(2/11) AAS
【2020年12月31日】

 暖房が効いて暖かい自室の中で、木下ひなたはまどろんでいた。突っ伏していた炬燵から頬を引き剥がして壁の時計を見ると、時刻は午後4時だった。仕方が無いことであるとはいえ、大晦日を独りで過ごしたことの無いひなたは、何をしようか、あるいは何をしたいのかも分からないまま、中学校の宿題を卓上に放り出したままにしていた。

 全世界的にウイルス性の伝染病が流行し、あらゆるものが大きな打撃を受けた一年だった。社会の仕組みそのものも変容してしまった。感染拡大を抑止するためにニュースでも新聞でも盛んに叫ばれていたのは、狭い空間で密になることや、大声を張り上げること、あるいは集まって会食をすることだった。人口の密集する都市部で生活する人間は、自らが病を持ち帰ることを恐れて故郷に帰ることもできないまま盆を過ごし、そして今、年末年始を迎えようとしていた。

 師走を迎えるずっと前の段階で、クリスマスの公演は無観客のネット配信となることが決まっていた。カウントダウンから続く元日ライブも今年は実施見送りとなり、年末年始は事務所に所属する全アイドルに休暇が出ることが言い渡されていた。クラスターの発生や、通勤途中での感染を避けるため、年始の数日間が過ぎるまでは、劇場も一時立ち入り禁止となるほどだった。

 去年までのひなたは、冬休みの間北海道に帰ることができていた。地方からやってきて東京で一人暮らしをしている者は、優先的に帰省の機会を与えられていたからだ。しかし、日々感染者の増加が報じられる都市部から田舎へ帰ることによってもたらされる災禍や、懇意にしている近所付き合いの悪影響を鑑みて、東京に残ったまま年を越すことをひなたは家族へ告げたばかりだった。家族の生命と社会的立場を守るための決断であることを、北海道の両親は尊重してくれた。愛してやまない祖父母も、ひなたの選択を笑って受け入れてくれた。だからこそ、東京で一人、顔を曇らせているのはきっと自分だけなのだと思えば、不甲斐なさに目尻が熱くなるのを感じた。そんなことで涙を流しそうになる自分を責めたくなって、まだ洗い物を済ませていない台所や、卓上に散らばったプリントのことを考えようとした。暖かいのは足元だけだった。
省10
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(1): 帰省できなかった年末年始 2/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:31 ID:1nFF4fw90(3/11) AAS
 ひなたの声は震えていた。言えば迷惑になる。だが言わなければ、あとどのくらいこの寂寥感と戦わなければならないのか分からず、途方に暮れてしまうことは火を見るよりも明らかだった。

「今、事務所の方にいるのかい?」
「ああ、劇場は閉まってるからな。ちょっと今の内に片付けておきたい仕事があって」
「……事務所に、行っちゃダメだろか?」
「……どうした、ひなた」

 受話器の向こう側から聞こえてくる声が、柔らかくテンポを落とした。

「毎年、年末年始は家族と一緒だったんだけども、一人で過ごすのなんて初めてで、その……ちょっこし」
「いいよ、おいで。こまめに換気してるから、暖かい恰好で来るんだぞ。マスクも忘れずにな」

 寂しい、と口にする前に、プロデューサーが先にそれを拾い上げてくれた。気の抜けたように肺から出ていく空気が、ひなたの不安をいくらか引き取ってくれた。抑えつけていたストレスがまぶたの端から零れ落ちている。鼻をすする音を悟られないよう、ひなたはティッシュを何枚か手に取った。
 じゃあ後で、と通話を終えるや否や、ひなたはてきぱきと身支度を始めた。プリントをクリアフォルダに入れなおして、鞄の中へ。差し入れとして持っていけるものが無いかどうか、冷蔵庫をがばっと開いた。ニット帽を被り、長いマフラーをぐるぐる巻いて口元を隠すと、靴を履き終える前に玄関の扉を開いた。
省8
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(1): 帰省できなかった年末年始 3/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:31 ID:1nFF4fw90(4/11) AAS
 そのまま歩き続けるひなたに、自然とジュリアはついてきた。寂しさに負けて大人に縋り付こうとしている自分に仲間ができたようで、ひなたは安心感を覚えていた。北海道に帰るのをやめた自分と同じで、ジュリアも福岡に帰るのは控えたのだと、道中で話してくれた。

「一度ぐらいは家族に会わない正月があってもいいかな、って思ってさ。それに、西日本の雪が酷いみたいで、飛行機が欠航になっちゃってるらしいから、どっちみちあたしは帰れなかったな」

 明るい調子で話すジュリアの声を聞きながら歩いていると、もう事務所の入り口へ続く階段の前だった。狭い雑居ビルに二人分の足音を響かせながら階段を上った先に、さらに一人、お仲間が立っていた。

「木下さんに、ジュリアさん……どうしてここに?」
「いや、まぁ……なんていうか、暇だったから。ムギは実家に帰るんじゃなかったのか?」
「その予定だったのですが、大雪で北陸新幹線が動かなくなってしまい、急遽取りやめたのです」
「あっ、そういえば、新幹線も運休になってるって、朝のニュースでやってたわぁ」
「それで、仕方無く家に戻ることにしたのですが……」

 紬がキャリーケースに視線を落とした。
省14
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(1): 帰省できなかった年末年始 4/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:32 ID:1nFF4fw90(5/11) AAS
 少しずつソーシャルディスタンスを取って各々が腰掛け、一人で座っていたソファは定員いっぱいになった。少々不満そうにしながら、紬も蜜柑を箱から取り出していた。ひなたが手に取った橙の果実は少々ひんやりしており、確かな重量感があった。底の部分の皮に爪を挿し込むと、掌にしぶきがかかって、柑橘類特有の酸味を含んだ爽やかな香りが立ち上る。薄皮の破れ目からあふれてきた果汁の甘さが口の中に広がっていく。炬燵でぬくぬくしながら頬張れたらもっと最高だろうな、とひなたは口元を緩めていた。

 敷かれたティッシュぺーパーの上には、ほどなくして蜜柑の皮が山と積まれた。途中で紬が煎れた緑茶が、まだほこほこと湯気を立てている。ひなたの隣で、プロデューサーは誰かとメッセージのやり取りをしているようだった。

「なぁプロデューサー、大晦日にまで仕事してたのか?」
「ん? ああ、年明けにやってもよかったんだけど、年内に仕事を残すのもな。もう終わったから、俺は自由だよ」
「プロデューサーも、実家には帰らないのかい?」
「今年は東京にいろ、って言われちゃったよ。去年も帰ってないんだけどさ」
「はは、あんたも年末年始は一人なんだな」

 様々な理由で帰省できなかった人間で集まることに妙な連帯感を覚えて胸の内が温かくなるのを、ひなたは感じていた。ふと、鞄に詰めてきた学校の宿題のことを思い出した瞬間、背後でカランカランとドアベルが鳴った。

「まいど! お蕎麦、六人分買ってきました! あと何か色々」
「お遣いありがとうな、奈緒。でも、五人分で良かったのに」
省14
6: 帰省できなかった年末年始 5/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:33 ID:1nFF4fw90(6/11) AAS
【2021年1月2日】

 横山奈緒は、布団の呪縛から逃れることができずにいた。

 寝る前に暖房を切っていた部屋の中は極寒だ。この幸福な空間から少し足を出しただけでも、一月の冷えた空気が肌をぎゅっと握りしめてくるのが分かりきっている。「もう少しだけ」とか「お布団さんが重すぎんねん」とか、自分にいくつも言い訳をしつつも、手を伸ばしてエアコンのリモコンを手中に収めた。手探りで見つけた暖房のスイッチを入れて、そのままボトッと枕元にリモコンを落とした。 
 まだうまく開かない目を擦りつつ、充電ケーブルを刺したままのスマートフォンを見ると、兄からのメッセージが残されていた。

「なんや、こんな正月早々から練習行くんかいな」

 大晦日と同じように、一月二日も家には一人きりになることが約束された瞬間だった。
省7
7: 帰省できなかった年末年始 6/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:34 ID:1nFF4fw90(7/11) AAS
 佐竹飯店も年末年始は完全に閉めてしまう、と美奈子が言っていた。家族と過ごしているのだろうから、そこを邪魔するわけにもいかなかった。何人かの連絡先をぐるぐる眺めていると、テレビから、覚えのある行楽地の名前が聞こえてきた。例年観光客の多い地も、閑古鳥が鳴いている……奈緒の予想した通りだった。顔を上げてモニターを眺めていると、開けた平地が見えた。芝生に覆われて、密という言葉の対極にある。これだ。スマートフォンを握りしめた次の瞬間、奈緒はメッセージアプリのグループに誘いをかけていた。

 街を歩く人は少なく、電車に乗っている人も数えられる程度だった。奈緒自身も含めて、みんな、顔の半分以上が覆われている。マスクをつけることが当たり前になってから、見知らぬ人の顔を観察しようとすることがすっかりなくなってしまった。そんな風に変わった自分がこれからもっと変わってしまいそうな気がして、厚着をしているのに奈緒は寒気を感じていた。

 ミリオンパークの一角にある古い公園、そのベンチには既に先客がいた。

「早かったなぁ、紬」

 マフラーに半ば顔を埋めながら、白石紬はちょうどマスクをずらしてお茶を飲もうとしている所だった。水筒から立ち上る湯気に負けないぐらい、呼気が白く膨れている。
省16
8: 帰省できなかった年末年始 7/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:35 ID:1nFF4fw90(8/11) AAS
 紬が明後日の方向へ視線を向けた。奈緒も振り向くと、一目でそれと分かる人影がこちらに向かって歩いてくる。二人の視線に気づいて、右手が上がった。

「今日は『ジュリアちゃん』やな」
「アイシャドウ切らしてたんだよ。年末に買うのを忘れててさ」

 モッズコートのモスグリーンに、下ろした赤毛が映えている。アイメイクはナチュラルだったが、トレードマークの青い星はしっかり頬に乗せられていた。

「そのギター……今日も、路上ライブをやろうとして、止められたのですか?」
「『も』って何だよ。ミリオンパークに集まるんだったらギター弾いてちょっと歌うぐらいできるだろうと思ってさ。マスクを外して大声出すわけでもないんだし」

 ああこれ、と言いながら、ジュリアがバッグの中から紙袋を取り出した。
省15
9: 帰省できなかった年末年始 8/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:36 ID:1nFF4fw90(9/11) AAS
「やっぱりみんな餅からいくんだな」
「あまりにいい匂いがするものですから……」
「あーーーっ、あかん! これはあかんで!」

 口中に広がる甘みと、ほんのり塩気を含んだバターのコクに、奈緒は声をあげずにいられなかった。絶対に美味しいはずだ、という予想は確信に変わり、喉の奥へ餅があっという間に滑り込んでいく。まだ一枚目の餅を食べきっていない内から、奈緒は視界にある食べ物をとりあえず紙皿の上へ載せていった。

「なぁヒナ、これどうやって作るんだ?」
「後でスマホの方にレシピ送っておくねぇ」

 スマートフォンを取り出していじり始めたひなたを見て、奈緒は携帯電話を買ったばかりの祖父の姿を思い出した。スマートフォンを貸与されて随分経つのに、それぐらいひなたは電子機器に不慣れだった。

「この辺の店見てて思ったんやけど、東京って四角い餅ばっかり売っとるんやな。餅は丸いもんやろ」
「そう言われれば……地元みたいな丸餅って、無いことは無いけど、あまり見かけなかったかもしれないな」
「東日本と西日本で分かれているそうですね。石川だと、どちらの餅も半々ぐらいですが……」
省13
10: 帰省できなかった年末年始 9/9 [sage saga] 2021/01/05(火)22:37 ID:1nFF4fw90(10/11) AAS
 無理があるって分かってるけどねぇ、と付け足して、ひなたは頭を掻いた。

「あたしは、バンドを組みたいな。プロデューサーにも具体的な企画として相談してみようと思っててさ。劇場のヤツ何人かに声かけて、集まってくれたらいいなって。ギターはあたしがやるとして、夏のフェスに参加した時、ドラムを亜利沙に教えたんだ。多分、アイドル同士で組むって話になれば、乗ってくるだろ、あいつなら。シズもやれるならキーボードで参加するって前に言ってたんだ」
「そういうんなら、朋花が何かのイベントでベース弾いとるの見たで。天空騎士団がお客さんで来てくれそうやな」
「三味線は……やはり場違いでしょうか?」
「三味線か……いいと思う。楽曲の方向性は和ロックかな。ふふ、考えてるだけでワクワクしてくるぜ」

 好きなことを語って、子どもみたいに目をキラキラさせているジュリアを見ながら、奈緒は戸惑っていた。やりたいこと。自分には何があるだろうか。
 アイドルとしてもっと大成する。もちろんそれは、やりたいに決まっている。でも、具体的に何を? 上から目線の兄に、参ったと言わせる。でも、どうやって? 美奈子と組んでいるユニットで、新曲が歌いたい。でも、曲も振り付けも衣装も、自分の力では作れない。ひなたと紬とジュリアのような、自分の力で実現できる具体的なビジョンが、奈緒の頭には思い浮かばなかった。抜けるような青空から差してくる日光が眩しくなって、奈緒は目を思わず目を細めた。

「奈緒さん、ぼんやりして、どうしたんだい?」
「んー……私、具体的にやりたいこと、決まってへんな、って」
「じきに見つかるだろ。これだけ刺激だらけの集団の中にいるんだから」
省21
11: ◆yHhcvqAd4. [sage saga] 2021/01/05(火)22:40 ID:1nFF4fw90(11/11) AAS
以上になります。ここまで読んでくださってありがとうございます。
突発的に考えた話だったので以前のものとの繋がりは特に持たせていません。(前の続き、早く書かないと……)

567プロダクションの活動は全くもって収まる気配がありませんね。
皆様ご安全に。
12: ◆NdBxVzEDf6 2021/01/05(火)22:50 ID:N+PXXwkz0(1) AAS
今の時期考えると上京組は大変なんだねぇ
乙です

>>2
木下ひなた(14) Vo/An
画像リンク[jpg]:i.imgur.com
画像リンク[png]:i.imgur.com

>>3
ジュリア(16) Vo/Fa
画像リンク[png]:i.imgur.com
画像リンク[jpg]:i.imgur.com
省8
13: 2021/01/05(火)22:51 ID:vDrFD9uso(1) AAS

遠慮のかたまりって関東にはないん?
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