有栖川夏葉「一張羅」 (9レス)
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3: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/09/22(火)21:18 ID:p5W+m0Hg0(3/9) AAS
「それにしても、どうして主人公は勝てたのかしら」

「……っていうと?」

「だって、体格的にも技術的にも、全てにおいてチャンピオンが勝っていたように思えたし、試合が始まる前まではこれでもかというくらいそう印象付ける描写がされていたでしょう?」

「そう、だなぁ。確かに無謀な試合に臨む主人公、みたいに見えた」

「やっぱり、そうよね」

「でもさ、ほら。自宅を出る前のあのシーン」

「父親のグローブが目に留まって、少し迷った後に手に取るところ?」

「そうそう。思うに、あれが勝因だったんじゃないかな」

プロデューサーの言わんとしていることの意味がわからず、私はきょとんとしてしまう。
そんな私の気持ちを察したのか彼は「わかりやすく言うなら……」と続けた。

「夏葉は一張羅、ってわかるか」

「ええ。その人が持っている衣服の中で一番良いものであったり、それしか持っていない衣服のことよね」

「ああ。今回の場合の意味は、前者だな。釈迦に説法かもしれないけど、人って身に着けているもので結構気分が変わるものだろ? だからさ、きっと普段はできないこともできるような、ちょっとした奇跡を起こすくらいの力はあると思うんだ」

「そう、ね。アナタの言うとおりだわ」

いつかの、出演した番組でトータルコーディネートをさせてもらった高校生の女の子の顔が思い浮かぶ。
普段は出せない勇気も、衣服の力を借りることで少しだけ背中を押してもらうことができることを私は体験として知っている。

「……ってなところで!」

やや大きめの声で以て、プロデューサーは突然話を打ち切る。
その後で、にかりと歯を見せた。「俺の一張羅様に相談なのですが」
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