樋口円香「心地よく」 (26レス)
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1: [saga] 2020/04/27(月)21:24 ID:/T0Ck7Xb0(1/25) AAS
事務所の窓辺には、いつも季節の草花が飾られています。
丹精込めて育てられた草花たちは、皆を癒してくれると同時に見守ってくれている存在でもあるのです。
うららかな陽気に包まれたある一日。
この日は、ヒヤシンスが朝から甘い香りを漂わせていました。
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7: [saga] 2020/04/27(月)21:48 ID:/T0Ck7Xb0(7/25) AAS
すると、トレーナーがピアノを弾く手を止めて言いました。
「月岡、ちょっとストップ」
「今日の歌い方、ずいぶん力んでいるように見えるがどうかしたのか?」と、続けます。
「ん〜〜、やっぱり先生には隠せんもんやね。うち、この前オーディション受けたやろ?そん時、あんま調子が出らんで……」と、恋鐘は頬を触りながら言いました。
「悔しい時は練習!って思っとったんやけど、力入るんもいかんね〜……」
省1
8: [saga] 2020/04/27(月)21:53 ID:/T0Ck7Xb0(8/25) AAS
「よし。月岡は一旦基礎をしよう。樋口も手伝ってやってくれ」と、言うと円香の方に視線を送りました。
その時、円香は髪の毛をクルクルと指に巻きながら様子を眺めていました。
しかし、すぐさま手を離し、少し早歩きで恋鐘のもとへと向かいました。
それから、トレーナーは身振り手振りを交えながら指示を出しました。
「月岡の身体の使い方、声の出し方は参考になるはずだから、ただサポートするだけではダメだよ」
9: [saga] 2020/04/27(月)21:57 ID:/T0Ck7Xb0(9/25) AAS
「〜♪〜♪」
時計の針が一回りしたころ、室内には、恋鐘と円香の歌声が響き渡りました。
「うん。月岡も大丈夫そうだな」と、トレーナーは安どの表情を浮かべました。
そして、円香へ身体を向けるとこう続けました。
「それから、樋口。初心者とは思えないくらい飲み込みが早いな。その調子だ」
省1
10: [saga] 2020/04/27(月)22:00 ID:/T0Ck7Xb0(10/25) AAS
「あの先生からあげなふうに褒められるとか、円香はすごか〜」
着替えも終わった廊下で、恋鐘は身を乗り出すように円香に言いました。
「いえ……、ありがとうございます」と、円香は返事をしました。
「うちなんて、怒られることの方が多かとに……」
「期待、されてるってことなんじゃないですか?」と、円香は努めて冷静に言いました。
省4
11: [saga] 2020/04/27(月)22:05 ID:/T0Ck7Xb0(11/25) AAS
恋鐘は、スマホに目をやりながら少し考えてから言いました。
「ねぇ円香。このあと結華とお茶するとやけど、よかったら一緒にどげん?」
「いえ、このあとは少し予定があるので……。すみません」と、円香は言いました。
「では、お先に失礼します」
円香は恋鐘に一礼するとレッスンスタジオを後にしました。
省1
12: [saga] 2020/04/27(月)22:09 ID:/T0Ck7Xb0(12/25) AAS
その夜、円香は薄明かりの自室で日誌を書いていました。
幼馴染が始めたと聞いた日誌。
試しに書いてみると、その日の出来事や課題が明確になり、それ以来続けています。
もちろん、誰かに見せるということはありません。
「はぁ、何やってんだろ……」と、円香は呟きました。
13: [saga] 2020/04/27(月)22:11 ID:/T0Ck7Xb0(13/25) AAS
つい数週間前までは、こんな日々が訪れるだなんて思ってもみなかったでしょう。
瞬く間に日常は塗り替えられ、余計なものを次々と背負わされ、……。
これが降ろせるものならどれほど良かったでしょうか。
円香は、机の端に置いてあるスタンドミラーを手に取り、表情筋のストレッチを始めました。
ベッドに置いてあるスマホは、通知のランプが点滅し続けていました。
省2
14: [saga] 2020/04/27(月)22:17 ID:/T0Ck7Xb0(14/25) AAS
あくる日、事務所では幼馴染の隣人こと浅倉透がプロデューサーと営業に出かける準備を進めていました。
「そろそろ出るよ。準備できた?」と、プロデューサーが声をかけました。
「うん。大丈夫」
「よし、じゃあ降りるか」
「あっ、待って、プロデューサー」
省5
15: [saga] 2020/04/27(月)22:21 ID:/T0Ck7Xb0(15/25) AAS
その頃、円香は一人で河原を歩いていました。
自宅と事務所の間にあるこの場所には、幼馴染や、その家族との思い出が詰まっていました。
季節ごとに様々な景色を見せてくれて、幼かった円香たちにとって遊園地のようでした。
今日も風が時折ビュウと吹き、河川がサラサラと穏やかな返事を返します。
いつも隣にいる誰かも、今日はいません。
省2
16: [saga] 2020/04/27(月)22:23 ID:/T0Ck7Xb0(16/25) AAS
「円香〜〜!!」
突然、円香の後ろから聞き覚えのある声が響きました。
円香は、思わず苦笑いを浮かべそうになりながら振り返りました。
「あ、やっぱり円香やったね〜」と、恋鐘は言いながら円香の傍へやってきました。
17: [saga] 2020/04/27(月)22:27 ID:/T0Ck7Xb0(17/25) AAS
「こんなところにおるんやもん。びっくりした〜」と、恋鐘は息を整えながら言いました。
「それはこっちのセリフです」
「んふふ〜」
「恋鐘さんと霧子さんは、買い出しか何かですか?」と、円香は二人の手にある手提げ袋を見ながら言いました。
「うん……レッスンで使う備品……少なくなってきちゃってたから……」と、霧子は袋を持ち直しながら言いました。
省3
18: [saga] 2020/04/27(月)22:30 ID:/T0Ck7Xb0(18/25) AAS
円香が少し困ったような表情を浮かべると、霧子がそっと近づいてきて言いました。
「この前……恋鐘ちゃんから聞いてね……ヒヤシンスさんのこと、好きになってくれたって……」
「えぇ……、とても綺麗で……」
「きっと……ヒヤシンスさんも……円香ちゃんに好きになってもらったこと……喜んでる」
霧子はふんわりとした笑顔をして言いました。
省2
19: [saga] 2020/04/27(月)22:33 ID:/T0Ck7Xb0(19/25) AAS
「ここは……この季節になるといろんなお花が咲いていて……たまに見にくるんだ……」
霧子は足下を気にしながら少しずつ歩きます。
「あっ!これ!つくしが生えとるばい」と、恋鐘は立ち止まって声をあげました。
三人は草むらに隠れた四本のつくしを見つけました。
「おてんとさんに向かって、一生懸命伸びとるね〜」
省2
20: [saga] 2020/04/27(月)22:35 ID:/T0Ck7Xb0(20/25) AAS
「つくしさんは……一本一本は離れていても……根っこで繋がってるの……」と、霧子は言いました。
「繋がってる……」
円香はその言葉を聞くと、少しだけ安心したように微笑みました。
「んふふ〜、円香の笑顔、見れたばい」と、恋鐘がズイと近づいて言いました。
「は?……」
省2
21: [saga] 2020/04/27(月)22:38 ID:/T0Ck7Xb0(21/25) AAS
「円香……あんね」と、恋鐘が切り出しました。
「うち、円香ともいっぱい話したか。それに、うちら同じ事務所の仲間やけん、困ったことがあったら何でも言ってよ」
「はぁ……ほんとにもう……」と、円香はため息交じりに言いました。
「ふぇ?」
恋鐘は不思議そうな顔をしています。
省2
22: [saga] 2020/04/27(月)22:40 ID:/T0Ck7Xb0(22/25) AAS
三人でひとしきり春を探し終えるころ、恋鐘が言いました。
「これから、事務所に飾る花も買いに行くとやけど一緒にどげん?」
「ヒヤシンスさんの……言葉に……気づいてくれたように……円香ちゃんとお話したいお花もいると思う……」と、霧子も続きます。
「えぇ……」
円香は、スマホを取り出して時間を確認し、二人と共に行くことにしました。
23: [saga] 2020/04/27(月)22:42 ID:/T0Ck7Xb0(23/25) AAS
数日後、事務所にスイートピーが加わりました。
霧子が育てている花の隣に、添えられていたのです。
「綺麗だな。そのスイートピー。円香が買ってきたのか?」と、プロデューサーが言いました。
「はい」と、円香は短く答えました。
24: [saga] 2020/04/27(月)22:47 ID:/T0Ck7Xb0(24/25) AAS
「きれいなピンクで、窓辺がもっと華やかになったな。香りもその花から?」
「そうです。それにしても、あなたにも花を慈しむ心があったんですね」
「みんなのおかげで少しずつな。えっと、スイートピーの分類は……」
「はい。御託を並べている暇がおありでしたら、自分の仕事に集中してください」
「分かったよ。じゃあ仕事の話だ」
省6
25: [saga] 2020/04/27(月)22:53 ID:/T0Ck7Xb0(25/25) AAS
おしまい
拙い作文にお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました
読んでくださった方の中にあるメンバーのイメージと遠くないと嬉しいです
妄想の種は、円香さんの朝コミュやSDのモーションからです
河原は、透さんのダンスレッスン(約束)をすっぽかすと河原に行くのでそこから妄想しました
26: 2020/04/28(火)02:31 ID:IoVpljh+o(1) AAS
乙
次回作期待してるで
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