渋谷凛「テレフォンパンチ」 (11レス)
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1: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:27 ID:YwNItfWC0(1/11) AAS
ニ月中頃、春を待たずして街は桜色に染まる。

喫茶店、レストラン、スーパーマーケットなど、ありとあらゆる店々で流れる音楽は恋を歌うものが多くなり、限定のチョコレートを用いたメニューや商品が増える。

今年も、バレンタインが近づいていた。

どうしてもアイドルという仕事柄、相手の性別に関わらずチョコレートはもらうことの方が専らであったけれど、渡すことがないではない。

というか、それなりに、ある。
省9
2: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:29 ID:YwNItfWC0(2/11) AAS


所属している芸能事務所の休憩室で、私は人目がないことをいいことに、だらりと机に覆いかぶさるように突っ伏しながら、バレンタイン特集と題された雑誌のチョコレートの情報を眺めていた。

机上に立てた雑誌の上を、右から左へ視線を移動させる。

ひとしきり眺め終われば、雑誌を支えている手の親指に力を込めて、ページをふわりと泳がせた。

もちろんそれでは綺麗にページは捲れない。
省17
3: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:30 ID:YwNItfWC0(3/11) AAS
「それで、何か私に用事?」

平静を装って、背後のプロデューサーに声だけ飛ばす。

対する彼はと言うと、当然であるかのように私の隣へと腰かけて「んーん。用事らしい用事はないんだけど」とけろりとしていた。

「じゃあなに? 私にちょっかいかけるためだけに来たってわけ?」

「いや、たまには自販機でジュースでも買おうと思って来てみたら、あまりにもお寛ぎの方がいたので」
省17
4: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:32 ID:YwNItfWC0(4/11) AAS
「そういえば、何読んでたの?」

「これ? これは普通の情報誌だよ。この時期にありがちな……ほら、バレンタイン特集」

「へぇ。チョコレートの特集が組まれてるのか」

「そうそう。こういうの見て、今のうちから目星つけたり、買いに行ったりしないとでさ、結構大変なんだよね」

「凛からもらえたら、大抵の人間はなんだって喜びそうなもんだけどなぁ」
省25
5: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:33 ID:YwNItfWC0(5/11) AAS


いつかの景色を思い出し、頬が緩む。

ああ、そういえばこれは、そんな始まりだったっけ。

なんて、懐かしい記憶をぼんやりと思い出している内に、乗っていた電車は振動を止めて、響く車掌さんの声は目的の駅名を繰り返していた。

慌てて座席から立ち上がり、逃げるように電車を降りると直後にぷしゅーっと音を立てて背後で扉が閉じた。
省10
6: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:34 ID:YwNItfWC0(6/11) AAS
程なくして目的地に着いた私は、左手首を返して腕時計を見やる。

時刻は待ち合わせの十五分前を示していた。

ちょっと、早く着きすぎたかな。

どこかで軽く時間でも潰そうか。

そう思って、周囲を見渡したとき、視界の端で小走りで駆け寄ってくるスーツ姿の男が見えた。
省11
7: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:35 ID:YwNItfWC0(7/11) AAS
このような心持で臨む私たちだ。

いきなり誰それにはこれ、などとチョコレートの吟味を始めるわけもない。

当然、初手で購入するのは贈答用のチョコレートなどではなく有名ブランドが限定販売しているチョコレートドリンクだった。

「あっま」

「ほんとだ。濃いね、これ」
省12
8: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:36 ID:YwNItfWC0(8/11) AAS
だからと言って楽しみ過ぎである、と言われてしまったらそれまでだが、そこはそれ。

大目に見てもらいたいものだ。

誰にするわけでもない言い訳を脳内で流し、レジから戻ってきたプロデューサーを見やる。

提げられたショッパーの他に何か持っているようだった。

それなに、と私が視線で問えば、彼はにこにことして「試食だって。今年の新作、限定商品なんだって」と言って私の口に放り込んできた。
省14
9: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:38 ID:YwNItfWC0(9/11) AAS


本題を忘れチョコレートスイーツを食べ、思い出しては贈答用の品を購入し、と繰り返し、思いつく限りの渡す予定の分を購入し終えた私たちは、両手にショッパーを提げ、帰路を辿っていた。

「今年も買ったなぁ」

「必要のないものも結構ある気がするけどね」

「余ったら食べよう」
省17
10: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:39 ID:YwNItfWC0(10/11) AAS
「ハート、いっぱいだな」

「まだまだこんなもんじゃないよ」

「と、言うと?」

「この前、出演した番組で共演したボクシングの選手が言ってたんだけど」

「?」
省7
11: ◆TOYOUsnVr. [saga] 2020/02/13(木)01:39 ID:YwNItfWC0(11/11) AAS
 ノックアウト、できるだろうか。

おわり
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