キョン「ほらよ」佐々木「ん? なんだい、この小包は?」 (13レス)
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1: [sage saga] 2020/02/11(火)20:59 ID:IEJuNBz7O携(1/10) AAS
「バレンタインデーなんて、くだらない」

俺がまだ中坊だった頃の話だ。
2月14日のバレンタインデーが近づき、教室内に甘ったるいチョコレートの香りが漂っているのではないかと思うほど浮ついた学友達を睨み、前の座席の女生徒は忌々しげに吐き捨てた。

「キョン、キミもそう思うだろう?」

まるでそれが世間一般の見解であるかのように同意を求めてくるが、凡庸たる俺には世の中の空気や流れに叛逆する気概など持ち合わせてはおらず、当たり障りのない返答で茶を濁した。

「そう邪険にしなくてもいいだろう。楽しんでいる奴らが居ることには違いないわけだしさ」
「おや。キミもそのひとりと言うわけかい? やれやれ、よもやキミが僕を裏切るとはね」
省6
2: [sage saga] 2020/02/11(火)21:03 ID:IEJuNBz7O携(2/10) AAS
「はん。聖ウァレンティヌス、ね……」

どうでもいいが、小馬鹿にしたように鼻で嘲笑うのは女子中学生の仕草としてどうかと思う。

「ああ、失敬。偉大なる聖人様を鼻で笑ったことは素直に謝罪しよう。仮に伝承通りならば彼は宗教弾圧下の古代ローマ帝国において、立派にその務めを果たしたと言える。しかしだね」

バレンタインデーをくだらないと言うわりには存外、その由来には詳しいらしく、饒舌に大昔の偉人を褒め称えたあとで、くつくつ喉の奥を鳴らしてから、上機嫌で続きを語る。

「肝心の聖人として列福するに至る奇跡とやらがあまりにお粗末が過ぎる。彼が成した奇跡はローマ皇帝に捕らえられた折、盲目の看守の目を見えるようにしてやっただけで、恋愛の成就とは程遠いものだった。そんな偉大なる聖ウァレンテヌスが恋人達の守護者とは、恐れ入る」
省5
3: [sage saga] 2020/02/11(火)21:07 ID:IEJuNBz7O携(3/10) AAS
「そもそもだ、キョン」
「なんだよ」
「盲目の看守の目を癒してやったとして、その看守は果たして幸せになれたのだろうか」

それは当然、この上ない幸福だったと思うが。

「見たまえ、キョン」

佐々木がまたもや大仰な手振りで現在進行形で繰り広げられる教室内のざわめきを示す。

「こんな有様を見せつけられている僕らは今現在、果たして幸せだと言えるだろうか?」
省7
4: [sage saga] 2020/02/11(火)21:10 ID:IEJuNBz7O携(4/10) AAS
「ほらよ」
「ん? なんだい、この小包は?」

ちょうど、ルービックキューブ大の小包を差し出すと、虚を突かれた佐々木は頬杖が外れてガクンとなりつつも、両手でそれを受け取った。

「当ててみろ」
「ほう? なかなか面白い催しだね」

などと余裕を装いながらも困惑気味な佐々木。

「この場で開けたら駄目なのかい?」
「今はちょっと恥ずかしいな」
「ふむ……では、自重しておこう」
省10
5: [sage saga] 2020/02/11(火)21:12 ID:IEJuNBz7O携(5/10) AAS
「しかしながらそれが来たる2月14日のイベントに関連した物かどうかまでは判断出来ない」
「意外だな。お前でもわからないなんて」
「僕だって何でもお見通しなわけじゃないさ」

揶揄うような口調で軽口を叩いても、佐々木は依然として堅い口調で慎重姿勢を崩さない。

「キョン、僕はキミを信じていいのか?」
「好きにしろよ」
「す、好きだなんてっ……もう。気が早いよ」

気が早いのはどっちだ。思わず呆れていると。

「そもそもだね、どうして男のキミが僕に……」
「なんだ、佐々木。知らないのか? バレンタインってのは欧米じゃ男女関係なく親しい相手にプレゼントを渡す日なんだぜ?」
省9
6: [sage saga] 2020/02/11(火)21:14 ID:IEJuNBz7O携(6/10) AAS
「なんだ、お前も用意してたのか」
「か、勘違いしないでくれたまえ! これはあくまでバレンタインデーに対する抗議というか、意地でも2月14日に渡してやるものかという僕の意思を示したもので……とにかく、はい!」

はいっと手渡されて有り難く包みを受け取る。

「ありがとな、佐々木」
「ふん……味は保証出来ないよ」
「どれどれ」
「あっ……こらキョン、待ちたまえ!」

制止を振り切り、包みを開けると中には形良く焼けたチョコレートクッキーが入っていた。

「美味そうだな」
「そうまじまじと眺めるような物じゃないよ」
省6
7: [sage saga] 2020/02/11(火)21:17 ID:IEJuNBz7O携(7/10) AAS
「もういい。今度はこっちの番だ」

ひとしきり俺に揶揄われた佐々木は仕返しとばかりに先程渡した小包をいそいそ開け始めた。

「家に帰ってからにしろよ」
「ふんだ。キミにだけは言われたくないね」

すっかり対抗心剥き出しの困った親友は、包みの中の茶色い物体を見て、その動きを止めた。

「うっ……こ、これは……」
「んん? どぉしたぁ? 佐々木ぃ?」
省12
8: [sage saga] 2020/02/11(火)21:21 ID:IEJuNBz7O携(8/10) AAS
「なんだよ、佐々木。取り乱してどうした?」
「抜け抜けと……キミのせいだろ!」
「俺が何をしたって? ただいつも世話になってる親友にチョコを渡しただけだぜ?」

そう開き直ると、佐々木は悔しげに唸った。

「ううっ……本当にチョコだろうね?」
「当たり前だろ。嘘だと思うなら食ってみろ」
「こ、心の準備が……」
「だったらほら、俺もお前から貰ったこの得体の知れないウンコクッキーを食うからさ」
「そんなものは断じて入れてない!!」
「なら安心だな。んじゃ、頂くぞ」
省11
9: [sage saga] 2020/02/11(火)21:24 ID:IEJuNBz7O携(9/10) AAS
「ほら、佐々木。パクッと食っちまえよ」
「その前に、匂いを……」
「いいから、さっさと口開けろ」

匂いを嗅ごうなどという無粋な真似は断じて許さず、俺はチョコを摘んで佐々木の口元へと運んでやった。お約束のあーんをしてやる。

「ううっ……どうしても食べなきゃダメ?」
「食えよ。せっかく作ったんだから」
「わ、わかった……僕、頑張るよ」

涙目の佐々木が素晴らしくかわいい。好きだ。

「好きだ」
「えっ?」
省6
10: [sage saga] 2020/02/11(火)21:26 ID:IEJuNBz7O携(10/10) AAS
「すごく美味しかったよ……ありがとう」
「それは何よりだ」

ゆっくりと味わうように咀嚼して、俺が妹と一緒にこしらえたチョコを食べ終えた佐々木。
改めて感謝されて、妙に気恥ずかしくなり。

「まあ、なんだ。これでお前も少しはバレンタインデーを好きになれたんじゃないか?」
「うん……好きになった。君のせいでね」

冗談めかしてそう付け加える佐々木がくつくつと喉の奥を鳴らして笑うので、いよいよ小っ恥ずかしくなった俺は、やむを得ず茶化した。

「うんこじゃなくて、残念だったな!」
「キョン、キミって奴は……やれやれ」
省17
11: 2020/02/11(火)23:12 ID:VLSI1JYGO携(1) AAS
おつんこ
12: 2020/02/11(火)23:16 ID:LtS30Mwj0(1) AAS
気持ち悪いぞガイジ
13: 2020/02/26(水)03:33 ID:UjhtV3AO0(1) AAS
ルルーシュの人か?
懐かしいな
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