藤原肇もデートはしたい (28レス)
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1: [saga] 2020/01/26(日)16:13 ID:eEyX7Fuh0(1/26) AAS
 「補講やらは特に無かったよな」

 「はい」

 「なら四時に迎えに行く。その後は直でボーカルレッスンだ」

 「分かりました」

 「ここまでで何かあるか、肇?」
省11
2: [saga] 2020/01/26(日)16:27 ID:eEyX7Fuh0(2/26) AAS
 「肇」

首を振り、小さく息を零す。
どう言ったものか指先をこね回している間も、肇はじっと俺の顔に視線を注いでいた。

 「一般的に言って、アイドルに色恋沙汰はご法度だ」

 「はい」

 「ところが」
省10
3: [saga] 2020/01/26(日)16:40 ID:eEyX7Fuh0(3/26) AAS
 「……ごめんなさい」

 「いや……俺も、言葉が悪かった。すまない」

 「いえ……」

そのまま会話は萎み、やがて肇は頭を下げて打ち合わせ室を後にした。
扉が静かに閉じてから十秒経ち、俺は溜め込んでいた苦々しい息を辺りへぶち撒ける。
椅子に遠慮無く体重を押し付け、何度も何度も軋ませてやる。

これでいい。これでいいんだ。
最近の肇は少し、隙が過ぎる。
省6
4: 2020/01/26(日)16:42 ID:eEyX7Fuh0(4/26) AAS
お年頃の天女こと藤原肇ちゃんのSSです

画像リンク[jpg]:i.imgur.com
画像リンク[jpg]:i.imgur.com

前作とか
猫垣楓「猫になっちゃいましたにゃん」 モバP「えぇ……めっちゃ落ち着いてる……」 ( vip2chスレ:news4ssnip )
藤原肇「彦星に願いを」 ( vip2chスレ:news4ssnip )
神谷奈緒「魔法使いの弟子」 ( vip2chスレ:news4ssnip )

2年ほど前に頒布した本の一節へ加筆修正を施したものです
5: 2020/01/26(日)16:50 ID:/OZCAR1Jo(1) AAS
無断転載かな?
6: [saga] 2020/01/26(日)16:55 ID:eEyX7Fuh0(5/26) AAS
  ◇ ◇ ◆

休日の池袋は芋を洗うかのような有様だった。

眠気を誘う春の日差しを全身で浴びながら家族連れや恋人達が好き勝手な方へ歩いて行く。
幸いにして俺の周りは少しだけスペースが空くので、そんな光景を茫洋と眺め回すことができた。
俺が向こうの姿を認めるのと同時、どうやら向こうもこちらへ気付いたらしい。
背の高い方が俺に軽く手を振って、もう片方が丁寧に頭を下げた。

 「お待たせしました。やっぱりその上背は目立ちますね」

 「悪目立ちは好きません」
省8
7: [saga] 2020/01/26(日)17:09 ID:eEyX7Fuh0(6/26) AAS
 お仕事で、今後必要になるかもしれませんので、
 肇ちゃんのお洋服選びのお仕事を手伝って頂けるでしょうか。
 お仕事で。わくわく。

短い文中にしつこいぐらい『お仕事』の盛り込まれたメッセージを受け取り、
俺ははぐらかす事を諦めた。
どんなに言い繕おうとも彼女のことだ。
何か別の理屈を捏ね回して肇の休日に付き合わせようとするのは間違い無い。

ならば大人しく首を縦に振り、ダメージの軽減に回った方が得策だろう。
ファッションセンスが今後必要になるかも、という点についても、まぁ一理無い訳でもない。
省8
8: [saga] 2020/01/26(日)17:29 ID:eEyX7Fuh0(7/26) AAS
 「それで、何と言う店でしたか」

 「あ、それはですね」

楓さんはそこで言葉を切り、しずしずと俺達の後をついて来ていた肇と目を合わせる。
にこやかな笑みを浮かべながら軽く首を傾げると、答えるように肇が頷いた。

 「あ……すみません。用事があったのをうっかりすっかり忘れていました」

 「……用事ですか」
省9
9: [saga] 2020/01/26(日)17:56 ID:eEyX7Fuh0(8/26) AAS
肇が何度も深く頷くと、彼女は満足げな笑みを浮かべながら雑踏の中へ溶け込んでいった。
肇はその場でしばらく固まったままで、やがて気付いたように掌の紙切れを開く。
一分ほど黙読してから折り畳み、ようやく俺の近くにぎこちなく歩み寄って来た。

 「楓さん、用事があったんですね。失礼な事をしてしまいました」

 「……そうかもな」

 「それで、あの、えと、えと」

しまったばかりの紙切れをポケットから取り出し、
手早く目を通すと、肇は再びそれを丁寧にしまい込んだ。
省8
10: [saga] 2020/01/26(日)18:29 ID:eEyX7Fuh0(9/26) AAS
 「……まぁ、たまにはいいか」

そう返した途端、肇の表情が俄に晴れ渡った。
それからはっと気付いたように、二度、三度と咳払いを繰り返す。

 「肇」

 「浮かれていませんよ」

 「まだ何も訊いていないが」
省4
11: [saga] 2020/01/26(日)19:13 ID:eEyX7Fuh0(10/26) AAS
  ◇ ◇ ◆

木漏れ陽のように揺らめく光と影が床に模様を描いていく。
つい足下に気を取られている間に、ふと新たな影が視界を横切っていく。
釣られるように見上げれば、ペンギンが空を飛んでいた。

水槽の下に詰め掛けていた群衆から歓声が上がる。
そこから少し離れるようにして佇んでいた肇の顔を盗み見てみれば、
浮かんでいたのは語るまでもない表情だった。

 「すごい……」

 「速いな」
省14
12: [saga] 2020/01/26(日)19:27 ID:eEyX7Fuh0(11/26) AAS
 「次の展示コーナーに行きましょうか」

 「ああ……しかし、混んでるな」

休日、晴天、池袋。
考えてみれば空くような要素など一切無い。
そう広くもない通路は家族連れでごった返し、さてどうしたものかと眺めていると、
肇は慌てたようにポケットから紙片を引っ張り出す。

 「……Pさん」

 「ん?」
省9
13: [saga] 2020/01/26(日)19:35 ID:eEyX7Fuh0(12/26) AAS
陶芸家の手は温かいんだと、ついこの冬に聞いたのを思い出す。
あの時の手は温かく、今こうして握る手はむしろ熱い。
極力丁寧に剥がそうと、腕をくいと引いてみる。
引っ張られるようにして二歩、肇がとことこと近付いて来た。

 「肇」

 「はぐれないように」

肇は純粋で、真っ直ぐで、故に頑固なところがあった。
俯いたまま返す言葉の節々にその片鱗が確かに見え隠れしている。
ようやく空いてきた通路と握られた手とを見比べながら、俺は小さく息をついた。
省3
14: [saga] 2020/01/26(日)19:47 ID:eEyX7Fuh0(13/26) AAS
  ◇ ◇ ◆

 「やっぱり男と女の胃は材質が違うんじゃないかと思う」

 「美味しかったですよ?」

 「確かに旨そうだったが、それでもあのクリームの量はおかしい」

かねてから楽しみにしていたという山盛りクリームのホットケーキを昼食代わりに平らげ、
俺達はようやく目的の服屋に向かっていた。
肇が堂々と広げながら確認しているメモの頭には『高垣楓プロデュース・池袋デートのススメ♪』
と大きく題されていて、むしろそろそろ突っ込んだ方が良いのだろうかと余計な気を回しそうになる。
省8
15: [saga] 2020/01/26(日)20:29 ID:eEyX7Fuh0(14/26) AAS
高垣楓行きつけの服屋、と聞いた時は一体どんな店なのかと想像を膨らませていたが、
実際に見てみればなるほど納得するしかない。
まぁ、少なくとも鬼も蛇も出てこないだろう。

昼食を終えてから一向に離れようとしない肇の手をどうにかこうにか引き剥がしてから、
そっと入口のカウベルを鳴らす。

 「いらっしゃいませー!」

訂正しよう。変な店だった。

入り口から三分の二、
手前の方には小奇麗な春物の服や季節を先取りした可愛らしい夏物が並んでいる。
省10
16: [saga] 2020/01/26(日)20:44 ID:eEyX7Fuh0(15/26) AAS
あー、何と言えばいいんだったか。
携帯電話を取り出し、先ほど楓さんから送り付けられて来たメッセージを読み上げる。

 「あの……?」

 「すみません。『たくさん可愛くしてください』」

 「アイアイサー!」

 「はいはい肇ちゃんはこっちのお部屋へご招待でーす!」
省11
17: [saga] 2020/01/26(日)21:05 ID:eEyX7Fuh0(16/26) AAS
  ◇ ◇ ◆

 「お疲れ様でしたーゆっくり着替えてきてねー」

 「やーひっさびさの新アイドルさんだったから張り切っちゃったよー」

 「……う……うぅ……ぐすん……」

目まぐるしいファッションショーも千秋楽を迎え、肇がよろけながら試着室へと戻って行った。
心なしか小さくなった背中を見送りつつ、楓さんに纏めた写真データを送信する。
省8
18: [saga] 2020/01/26(日)21:19 ID:eEyX7Fuh0(17/26) AAS
 「と、言いますと?」

 「……ついては、今後」

 「今後今後?」

 「女性もののアクセサリー等について、仕入れと相談を請け負って頂きたく」

首を傾げたのは一瞬で、すぐに二人ともにこやかな笑顔を浮かべ始める。
余りに意が通じ過ぎると、返って少々気恥ずかしい。
省5
19: [saga] 2020/01/26(日)21:29 ID:eEyX7Fuh0(18/26) AAS
  ◇ ◇ ◆

 「……悪かったよ。この通りだ」

 「……いじわる。えっち」

 「後者に関しては断固否定する……が、すまなかった」

服屋を後にしてから十五分。肇のご機嫌は傾きっぱなしだった。
省5
20: [saga] 2020/01/26(日)21:40 ID:eEyX7Fuh0(19/26) AAS
 「……」

 「肇……」

 「……Pさんは」

肇の手に再び力が篭もる。これまでよりも幾分か弱々しかった。

 「色々な私を、見てみたかったんですか」
省6
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