【シャニマス】摩美々「ナッキンコールにありがとー」 (81レス)
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1: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:32 ID:JiBnuEL3o(1/80) AAS
投稿久々なんでミスったらごめんなさい

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2: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:33 ID:JiBnuEL3o(2/80) AAS
 初秋の青空。
 そこに、紙のように薄っぺらな月が浮かんでいる。

 それをぼんやり眺めながら、私は缶ジュースを飲んでいた。
 公園をさらさらと抜ける風が気持ち良い。朝が早かったこともあって、だんだん眠くなり始めていた。

「おーい、摩美々!」

 見慣れた『大人』が駆け寄ってくるのに気付いたのは、そんな時。にやけそうになる口元を苦労して抑える。
省1
3: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:34 ID:JiBnuEL3o(3/80) AAS
「あ、プロデューサー。どうですかー?」

「どうも機材の調子が悪いらしい。もうちょっと待っててくれ」

 頭を掻きながら彼は応える。自分のせいでもないのに、申し訳なさそうに言うのがおかしかった。

「えー。プロデューサー、カメラ壊しちゃったんじゃないですかぁ……ふふー」
省3
4: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:35 ID:JiBnuEL3o(4/80) AAS
「これは撮影、長引きそうですねー」

「そうなるかもなあ。寒くないか?」

「いや、別にぃ」

「そうか……何か食べたいものとかは?」
省5
5: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:35 ID:JiBnuEL3o(5/80) AAS
 手持ち無沙汰になったのか、彼は私と同じようにパイプ椅子に腰掛けて溢した。

「なんで俺達の撮影ってこんな頻繁に、機材トラブル起きるかなぁ……」

「パウリ効果ですかねー」

「なんだそれ、どんな効果?」

「教えてあげませーん。ふふー」
省3
6: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:36 ID:JiBnuEL3o(6/80) AAS
「──やっぱりー、お腹空いてきましたぁ」

「おぉ! そしたら何か買ってくるよ」

「まだまだ時間掛かるなら、どこか食べに行きましょうよー」

「え……抜け出すのか?」

「そこはぁ、パウリさんが交渉してきて下さーい」
省2
7: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:36 ID:JiBnuEL3o(7/80) AAS
「案外あっさりオッケー貰えたな……」

 コーヒーカップにブラウンシュガーを落としながら、彼が呟く。

「それどころじゃない位、バタバタしてましたもんねー」

 そう返して私はチーズケーキを口にした。その甘酸っぱさに、頬の奥の方がキュッとした。
省3
8: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:37 ID:JiBnuEL3o(8/80) AAS
「プロデューサー。はい、あーん」

 フォークに一口分のチーズケーキを乗せて、プロデューサーの顔の前に突き出してみる。私の突飛な行動に、彼は目を白黒させた。

「えっ、いや摩美々? そういうのはほら」

「ごー、よーん、さーん、にぃ、いーち……」

 何の説明もしないまま私が始めたカウントダウンに、案の定彼は焦った。そして観念したように口を開く。
省2
9: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:38 ID:JiBnuEL3o(9/80) AAS
「ぬおっ!!」

 そんな呻き声を聞きつつ、私はケーキを口にした。さっきよりも甘く感じるのはどうしてだろう。

「ふふふふ」

「お前なぁ、本当なぁ……」
省9
10: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:39 ID:JiBnuEL3o(10/80) AAS
 プロデューサーが電話をするために席を立ったので、私はぼうっと窓の外を眺めていた。
 そんな時、流れていた音楽が軽やかなジャズに変わる。

 彼が戻ってきたのは、それを聞いている最中だった。

「……ねー、プロデューサー」

「ん? どした」
省2
11: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:39 ID:JiBnuEL3o(11/80) AAS
 プロデューサーは確かめるように少しの間耳を澄ませてから、答えてくれた。

「『It is only a paper moon』だな。歌ってるのはナッキンコール」

「……意外ですー。ジャズ詳しいんですかー?」

「凄く有名な曲だからさ、たまたま知ってただけだよ」
省2
12: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:40 ID:JiBnuEL3o(12/80) AAS
 撮影場所の公園へ戻ると、福の神のように丸々とした監督が待っていた。いつも通りのにこやかな顔だけれど、その眉が今はハの字を描いている。

「ごめんなぁ摩美々ちゃん、P君……。今日中に復旧するの、無理だこれ」

「えぇっ、そんなに深刻なんですか!?」

 私の隣でプロデューサーがすっ頓狂な声を上げる。苦笑いをしたままの監督と少し引きつった表情の彼は、顔を突き合わせてバタバタと予定を組み直していた。
13: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:41 ID:JiBnuEL3o(13/80) AAS
 途中、監督がもう一度私に向き直ってくる。

「いや本当に悪いなぁ、摩美々ちゃん。今朝も早かったろう?」

「仕方のないことですしねー。今回は許してあげましょー」

「あっこら、摩美々! 目上の方だぞ!」
省6
14: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:41 ID:JiBnuEL3o(14/80) AAS
「そうしたら撮影は改めて、再来週の木曜でよろしくね」

 パタパタと手帳を捲って確認しながら、監督が言う。それを聞いて私は一瞬戸惑った。

「あれ。まみみ達は来週とかも、空いてますよー?」

 顔を上げた監督は、にんまり意味深な笑みを向けてくる。
省1
15: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:42 ID:JiBnuEL3o(15/80) AAS
「……監督、よく知ってますねー」

「うちのスタッフは全員、摩美々ちゃんのファンだからねぇ! みんなで応援にも行くよぉ!」

「本当に、お気遣いありがとうございます」

 きっちりと頭を下げるプロデューサーに対し、監督は慌てたように両手を振った。
省3
16: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:42 ID:JiBnuEL3o(16/80) AAS
  それはただのハリボテの月
  厚紙の海に浮かんでる

  でも君が信じてくれるなら、
  それはきっと偽物ではなくなるんだ
17: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:43 ID:JiBnuEL3o(17/80) AAS
「──田中摩美々さん、"第二位"ですっ!!!」
18: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:43 ID:JiBnuEL3o(18/80) AAS
 目の眩むようなスポットライトの中、司会者のその叫び声を聞いた瞬間。

 手足の先がすーっと冷えた。

 心臓が一回り縮んだみたいに感じる。

 目の前に広がる景色がまるで、モニター越しに見ているもののように思えて。

『あー……絶望って、こんな感覚のことを言うのかも』
省2
19: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:44 ID:JiBnuEL3o(19/80) AAS
 差し出されたマイクを丸々一拍遅れてから、慌てて手にして言う。

「……あ、ありがとうございましたー。次はもっと頑張るので、応援引き続きよろしくお願いしまぁす」

 自分でも全く分からなかった。

 ──私はこのとき、まともに笑えていたんだろうか。
20: ◆RZFwc/0Dpg [sage saga] 2019/12/04(水)22:45 ID:JiBnuEL3o(20/80) AAS
「すいませーん、私ダメでしたー」

 わざわざ舞台袖まで迎えに来てくれていたプロデューサーに、そう言った。

 声が震えないように。
 表情が引きつらないように。
 プロデューサーの目を見ないように。

 全身全霊をもって虚勢を張っていた私に、彼は優しく言う。

「お疲れ様。良く頑張った」
省4
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