【アイマス】真「目を閉じて見るハッピーエンド」 (96レス)
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70: 2019/10/26(土)01:26 ID:V51Y/Xs3O携(1) AAS
飽きるほど長くないしへーきへーき
71: 2019/10/26(土)21:29 ID:2J4DKF4t0(1/11) AAS
そう言ってもらえると助かる。
それでは続き投稿します。
72: [saga] 2019/10/26(土)21:34 ID:2J4DKF4t0(2/11) AAS
 雪歩と恋人としての……いや、恋人ごっこの日々を過ごすうちに、雪歩の口から仮面の裏に隠されていた想いがポツポツと語られ始め、あの違和感だらけの告白の日の疑問が徐々に紐解かれていった。

 雪歩の抱える最大の秘密。それは〈他人を愛せない〉こと……らしい。
 正直に言ってしまうと、ボクはそれを聞いて拍子抜けしてしまった。(そんなつまらない事で黒い仮面が…?)と、訝しみさえした。
73: [saga] 2019/10/26(土)21:36 ID:2J4DKF4t0(3/11) AAS
「世界中の人達が愛情を知っているのに、私達だけが愛を知らない」

 ある日の雪歩の言葉だ。
 この言葉を語る雪歩の表情は暗く塞ぎ込んでいた。

 “世界中の人達が愛情を知っている”?
 ボクはこの台詞を聴いた時に危うく吹き出しかけた。何をバカな事を。

 カップルや夫婦がみんな100%の愛情によって結ばれているなんて、仮面の見えるボクにはとても信じられない。

 そこには打算や見栄、妥協、世間体なんかの不純物が多分に混じっているはずだ。全てのカップルや夫婦が一生添い遂げるわけじゃないだろう?
省4
74: [saga] 2019/10/26(土)21:37 ID:2J4DKF4t0(4/11) AAS
 だから雪歩、まるで罪人であるかのように悩む必要は無いんだ。
 “人を愛せない”なんて大した事じゃない。
 ボクだって恋なんてしたこともないけど、それを悪いと思った事は一度もなかったよ。

 そんな風に、過去のボクなら言えたのに……

 今のボクには言えない。自分の恋する相手にこんなセリフを言える程ボクは恥知らずな人間じゃない。

 これは何の悪い冗談なんだ?
 本当に愛情を必要としている人間には与えず、一度も必要としていなかったボクに与えるなんて。

 神様がいるとしたら余程の皮肉屋らしい。
省1
75: [saga] 2019/10/26(土)21:47 ID:2J4DKF4t0(5/11) AAS
 雪歩と過ごす日々には天国と地獄の両方が混在している。

 手を繋ぐ、抱きしめる、キスをする……そんな単純な行為の一つ一つが心を幸せで満たしていく。
 恋をするとこんなにも簡単に満足感が手に入るのかと驚くばかりだ。

 そして、天国は同時に地獄をもはらんでいる。
 ボクを幸せにする雪歩の行為には、なんの感情も込められていない。
76: [saga] 2019/10/26(土)21:50 ID:2J4DKF4t0(6/11) AAS
 キスやハグのような恋人じみた行動をするワケは、要するに駄々っ子だ。
 欲しくて欲しくて仕方のないものが手に入らない雪歩は、愛情を侮辱することで心の平衡を保っている。

『酸っぱい葡萄』に出てくるキツネじゃないんだからさ……と呆れた振りをしたいけれど、心は思った通りには動いてくれない。

 雪歩がボクに「好き」と言う度に、黒い仮面が現れる。ボクを“好きじゃない”という何よりも確実な証。

 ボクはそれを見る度に、心に実体が存在する事を確信する。
 猛禽類が持つような鋭い爪が心をガリガリと抉り取っていく痛みを確かに感じるからだ。

 だけど勿論、雪歩は何も悪くない。
 全ての始まりはボクの嘘。
『ボクも雪歩と“同じ”だから』
省6
77: [saga] 2019/10/26(土)21:52 ID:2J4DKF4t0(7/11) AAS
 雪歩にとってボクは“自分を決して好きにならない”から価値がある。
 もし、ボクが自分の本当の気持ちを吐露すれば深く傷付き、必ずボクから離れていく。

 そうすれば雪歩は無機質な“黒い仮面の少女”に戻ってしまう。ボクは肉眼では二度と雪歩の素顔を見られなくなるだろう。

 それだけは……絶対に避けなきゃいけない。

 雪歩はいまだにボク以外の人前では黒い仮面を被ったままだ。

 過去のボクは何故雪歩が黒い仮面を常に被っているのか疑問に思ったけれど、今ならわかる。
省7
78: [saga] 2019/10/26(土)22:10 ID:2J4DKF4t0(8/11) AAS
 少しだけ昔の映画の話をさせてほしい。

 中学生の頃、『マトリックス』という映画を観た。たしかテレビで再放送していたんだと思う。

 簡単にあらすじを説明すると、自分の生きる世界がコンピューターによって創られた架空現実だと知った主人公が現実の世界で目覚めて、コンピューターに支配された過酷溢れる世界を救うため戦う話だ。

 この世界では人間はコンピューターの養分としてカプセル内で培養され、架空現実という夢を見せられている。
79: [saga] 2019/10/26(土)22:12 ID:2J4DKF4t0(9/11) AAS
 この映画を観てボクは大切な教訓を得た。

 “嘘はバレなければ真実になる”

 ボクはつい、映画内では描かれなかった人々について考えてしまう。
 コンピューターの養分として架空現実の中で一生を終えた人達だ。

 架空現実に囚われた人達を見て(可哀想だ)と思うのは、真実を知る者の驕りとしか言いようが無い。
 ボクからすると、架空現実の中で何の疑問も持たずに死んでいった人こそが幸せな一生を過ごしているように思える。

 嘘を最後まで貫ければ他人を幸せに出来るんだ。
省5
80: [saga] 2019/10/26(土)22:23 ID:2J4DKF4t0(10/11) AAS
『二人に似た雰囲気を感じたからだ』

 雪歩と体を重ねている最中、唐突に一つの台詞が頭の中で響いた。
 ……誰に言われたんだったかな?

 あぁ思い出した、プロデューサーだ。
 たしか、ボク達をユニットにした理由を尋ねた時の返答だったはず。

 あの時は(どこが雪歩と似てるって言うんだ?)と一笑に付したけれど、今にして思えばボク達には一つだけ共通点があるのかもしれない。
81: [saga] 2019/10/26(土)22:26 ID:2J4DKF4t0(11/11) AAS
 ボクはこの目で直接見た人しか仮面の有無を確認できない。

 だから、この世で一人だけ仮面を見る事が出来ない人物がいる。それはこのボク自身だ。

 “黒い仮面の少女”
 雪歩をそう呼んだのはボクだけれど、自分自身がそうでないなんてどうして言い切れる?

 ボクは仮面が見えるようになった幼い頃から“他人の求める自分”を作り上げる事に腐心してきた。
 上手く生きるためには敵を作りにくくて多くの人から好かれる人格になった方が都合が良いからだ。

 仮面を見て答え合わせが出来るボクは微調整を繰り返して今の“765プロのアイドル菊地真”に辿り着いた。それこそがボクを覆う黒い仮面なんだろう。
省2
82: 2019/10/26(土)23:05 ID:XJtNrpjYO携(1) AAS
今日は終わり?
83: 2019/10/27(日)10:24 ID:7/eREH8fO携(1/12) AAS
ごめん昨日は寝落ちしてた。
続き投稿していきます。
84: [saga] 2019/10/27(日)10:28 ID:7/eREH8fO携(2/12) AAS
 物思いに耽っていると、隣で横になっている雪歩がねだるような表情を見せた。
 その表情の意味をよく知るボクは、いつもの様に雪歩に身を寄せてキスをする。

 キスというのは不思議な事に、唇が触れ合うだけなのに相手の愛情の多寡がわかってしまう。
 雪歩の柔らかな唇は、何の感情も伝えようとはしてくれない。
 だからボクも、感情が込められないように精一杯自分の気持ちをセーブする。幸せになれるはずの行為なのに虚しさが募るばかりだ。

 だけど、もしかしたら気持ちをセーブする必要なんて無いのかも。
85: [saga] 2019/10/27(日)10:30 ID:7/eREH8fO携(3/12) AAS
「真ちゃん」

 雪歩がただ名前だけを呼ぶ時は例の言葉を求めているというサインだ。
 ボクはついさっきの思い付きを試してみる。

「雪歩、愛してるよ」

 いつもはセーブしてる感情を言葉に乗せて、本気で伝えた。
 もしかして……という期待半分。
 雪歩がどう受け止めるのか若干ドキドキしたけれど、結果は予想通り。ボクの言葉を受けて喜んでいる。

 ボクの言葉を嘘だと全面的に信じ切っているから……
86: [saga] 2019/10/27(日)10:33 ID:7/eREH8fO携(4/12) AAS
 フィクションではたまに、『言葉にしなくても想いが伝わる』というセリフを耳にする。
 現実的な人であれば『言葉にしなくちゃ想いは伝わらない』と言い返すかもしれない。

 でも、現実はもっと残酷だ。

 言葉にしたって想いは伝わらない。
 雪歩は自分のイメージの中にある“自分を好きにならない菊地真”しか見ようとしない。ボクの本当の気持ちなんて知りたくもないだろう。

 肌が密着するほど近づいても混ざり合うことが決してないように、幾ら言葉を交わしてもボクたちは永遠に分かり合えない。
87: [saga] 2019/10/27(日)10:35 ID:7/eREH8fO携(5/12) AAS
「私も。私も××てるよ、真ちゃん」

 いつからだろう。雪歩から好意の言葉を向けられる時に反射的に目を瞑るようになったのは。

 ボクを好きじゃない証を、黒い仮面を見るのが怖かった。

 その代わりに目を閉じて目蓋の裏に映し出すのは、ボクの運命を変えたあの時の雪歩の笑顔。
 目を閉じれば見える幸せな光景が嘘の言葉と混じり合って、本当に愛されているような錯覚を与えてくれる。

 たぶん時間にすれば1秒に満たない間だけ現実から目を背ける。
 つかの間の幸福を得た後、雪歩の様子を窺うと微笑みをこちらに向けてくれていた。
 その理由はわからないけれどボクも同調して微笑みを返す。
省2
88: [saga] 2019/10/27(日)10:37 ID:7/eREH8fO携(6/12) AAS
 それなのに、ある不安が頭の一部にこびり付いて離れてくれない。

『人を好きになる方法がわからないのに、どうして人を好きになれるんだろう』

 雪歩がかつて漏らした言葉。
 今まで誰かを好きになった事が無いのだからこれからも好きになれない……と、雪歩は考えている。

 だけど、ボクは知っている。ほんの少し前までは雪歩と同じだったボクはよく知っている。

 誰かを好きになるのに小難しい理屈は要らない。
 “その時”は思いも寄らないところから突然訪れる。訪れた時に“これだ”とわかるんだ。
省2
89: [saga] 2019/10/27(日)10:40 ID:7/eREH8fO携(7/12) AAS
 自分の愛する人に愛する人が出来た時に手放しに喜べるような人を聖人君子って呼ぶのかな?
 だったらボクは聖人君子には絶対になれない。
 愛情はベタベタとした欲で汚されてしまっている。

 ただ、雪歩の傍にいたいんだ。
 誰よりも近くにいたいんだ。
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