Helleborus Observation Diary (436レス)
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20: [saga] 2019/10/22(火)03:11 ID:ShxRzgitO携(20/74) AAS
「ありがとう。ふゆの巻き方にしてみたかったんだよね」
「ちゃんと巻き方覚えた?」
「ん、んー……」
視線を落として、マフラーをぐいぐい。首を捻ってから私を見て、「まあまあ」と一言。
絶対明日になっても覚えていない気がした。
教室の掃除の邪魔になっていたので、そそくさと廊下に出る。窓から吹き付ける風はわずかに温い。
省11
21: [saga] 2019/10/22(火)03:12 ID:ShxRzgitO携(21/74) AAS
そんなこんなで外に出る。
駐輪場に自転車を取りに行こうとすると、桃は察してくれたのかこくっと頷いて足を止めた。
鍵を開け、サドルが少し高めなスポーツタイプの自転車に跨がる。すいすい漕いで桃のところまで戻って降りる。
そのまま自転車を押して校門まで歩いていると、後ろから「おーい」と大きな声が聞こえてきた。
「あ、つかさか」
ぜいぜい息を切らして、つかさが私たちのところに走ってきていた。
「はーっ……。二人ともわたしを置いて帰っちゃうなんてなんてひどいなー」
省7
22: [saga] 2019/10/22(火)03:13 ID:ShxRzgitO携(22/74) AAS
学校から駅までの道は、まっすぐ行けば十分ちょい。東口へと繋がる道を通るのが最短ルート。
ただ道幅が狭いから、自転車で通るには充分だけど複数人での歩きには向かない。
なのでいつもぐるっと遠回りして西口の方に向かう。こっちの方が人通りが多いし、街灯があって夜でも明るいからだ。
「ふゆゆとその愛車を見てるといつも思うんだけどー」
つかさは私の自転車をポンポン叩いて、明らかな思いつきを口にする。
「ふつーにパンツ見えない? てか見える、ゼッタイ」
「はあ」
省7
23: [saga] 2019/10/22(火)03:15 ID:ShxRzgitO携(23/74) AAS
それだけ言って、つかさはさっさと前に歩いていく。ゲンキンなやつってこういうこと。
髪先を摘んでぼーっとこちらを見ていた桃は、私の視線に気付くと一瞬で目を逸らす。……なんだろ?
しばらくゆるゆると歩きながら他愛のない話に興じる。話題は今日の体育について。
分かりきったことだったけれど、バドだったら得意ということもなく、テニスとそう変わらなかった。来たシャトルを返すので手一杯。桃のミス待ち。
でも桃もあまり得意でなかったのが幸いして、勝負としてはあまり酷いものではなかった。どんぐりの背比べ感がやばかったのは忘れることにする。
一方で、つかさは栞奈とまたテニスをしていたらしい。「今日は三勝二敗、先に十回勝った方にジュース奢りなのだ」と。ほんと仲良いな。
一年の時は二人と別のクラスだったから、どのようにして仲良くなったのかは知らない。四月には今の感じだったはずだ。
「つーちゃんって昔から運動得意だよね」
省3
24: [saga] 2019/10/22(火)03:15 ID:ShxRzgitO携(24/74) AAS
この組み合わせも仲が良い。いやどこかのペアは仲悪いとかそういう意味はなく、シンプルに。
小中学校が一緒のところで、何度か同じクラスになったことがあるとかなんとか。幼馴染っぽいやつ、とつかさが前に言っていた。
昔の自分をよく知っている同級生がめっちゃ身近にいるのってどんな感覚なんだろう。
私にはそういう人がいないから、だいぶ未知の領域だ。今度それとなく聞いてみようかな。
「もう着くけど、どこか寄ってくの?」
そろそろ駅が見えてくるところだったので、桃に声をかける。
おそらくなにもないんだろうと思うけど、まあ一応。
「このまま帰るつもりだった、けど」
省5
25: [saga] 2019/10/22(火)03:17 ID:ShxRzgitO携(25/74) AAS
*
「……ふゆゆはさ、アレどうすんの?」
信号と歩道をいくつか越えたところで、つかさは落ち着かない様子で私にそう訊ねてきた。
二人になった途端露骨にそわそわし始めて、お互い無言になっていた。
質問があるんだけど私から聞いてほしい、と言っているのかと思ったくらいだ。
やや遅足で進んでいる方角、西の空には夕焼けが広がっている。
この季節になると、午後四時半にはもう日が入っていってしまう。だから早めに帰りたいんだけど……今日はまあ仕方ない。
省7
26: [saga] 2019/10/22(火)03:18 ID:ShxRzgitO携(26/74) AAS
「さあね、どうするんだろ?」
思ったままを口にすると、つかさはがっくりと肩を落とした。
そして、わたしに聞くなよ、と声を出さずに口だけ動かす。聞いてきたのはつかさの方なのにね。
「桃の考えてることが全然分からないから、どうするもしないもないでしょ」
「んー……そんなに分かんないの?」
「え、いや逆に、桃の考えてることって分かる?」
省6
27: [saga] 2019/10/22(火)03:19 ID:ShxRzgitO携(27/74) AAS
最初に言われた時は驚いたけど、私自身がもうさしてそのことを気に留めてはいなかった。
桃も昼休み以降その話をしてこないし、私からする理由もない。真意があるにしろないにしろ、それを問い質す理由もない。
もうちょっと考えて的なことを言ったから、もうちょっと考えてきてくれるだろう、という甘い考え。だって、それしかないし。
「そりゃ気には……うぅん、あーいや」
ええもうめっちゃ気になります、と言われても困ったけど、こうして微妙な反応をされても変な感じになる。
しばらく、つかさは念仏を唱えるように「あー」とか「うーん」とか言っていたが、結局押し黙ってしまった。
「桃がすっごく真面目な感じだったら、私も同じように真面目に考えなきゃなっては思うよ」
という私の返答に、つかさはぱちぱちと目を瞬かせる。
省3
28: [saga] 2019/10/22(火)03:20 ID:ShxRzgitO携(28/74) AAS
そんなこと言われましても。というか、説明面倒だからって私に丸投げしたな。
抵抗……抵抗? イエスかノー、ではないにしろ。
「桃ならべつに知らない人ってわけでもないし、そういう意味での抵抗ならそんなにない」
「ないのか。いや、でもふゆゆならそうかも」
つかさが勝手に納得してくれる。「そういう風に取るか……」とぼそぼそ聞こえたけど。
ていうか私ならそうって、どういう納得の仕方か分からないが……ま、解釈はつかさに任せることにする。
省6
29: [saga] 2019/10/22(火)03:20 ID:ShxRzgitO携(29/74) AAS
「でももしなんかあったら、わたしを頼ってくれてもいいんだからな」
二人の友達だから、と続けたつかさの表情はまたしても真剣なものに戻っていた。
そんなに深刻に捉えるなんてとも思ったけれど、私が考えてなさすぎるのかもしれない。
そう指摘されているようで、返答に詰まる。詰まったところでなにもない。なにも変わらないのだが。
ちょっと気になったことがある。つかさの言う『干渉しない』は、私の認識とは少し違っている。
桃も栞奈も、つかさはそこそこ微妙なところがあるけど、一人一人が独立している感じはある。
それは各々の気質の問題でもあって、いい意味で言えばそういう信頼関係があるとも言える。
でも、干渉しないわけではない。お互いに思うところがあって干渉しないようにしている、が正しいのだと思う。
誰が言い出したわけでもないのにそうなっているのだから、そういう関わり方が私たちにとってベストとは言わずともベターなのだろう。
省2
30: [saga] 2019/10/22(火)03:21 ID:ShxRzgitO携(30/74) AAS
*
朝起きてすること。
それは、軽く走ること。
私の家の近くにはけっこうな長さの川があって、いくつかの大きな橋と、河川敷には舗装された道が続いている。
あまり傾斜がなく車も通らないから、マイペースで走るのには最適なルートだ。自然もそのままで、走っていると気持ちがいい。
朝にランニングを始めたのは昨年の夏だから、もう一年以上続けていることになる。
始めた理由は、朝起きて暇だったからなんとなく。ぼーっとしているのもいいが、それならなんでもいいからしたいと思ったから。
美容のためとか、健康維持のためとか、そういったことは全然ない。そういう理由なら逆に続かなかったとすら思う。
けどそれなりに成果というか、効果のようなものは出ている。朝ご飯が美味しく食べられるのだ。
省4
31: [saga] 2019/10/22(火)03:22 ID:ShxRzgitO携(31/74) AAS
だからその前に、さっさと往復して帰路に就く。寒いし寒いし、あと寒いし。
自分がもともと寒がりなのもあって、手袋をぴっちりはめてモコモコのウインドブレーカーを羽織っていても寒い。
昼と夜は耐えられても、朝の寒さは苦手だ。心持ちの問題だと思うが、少し気にして厚着をしてしまう。
十二月でも元気に走っていた昨年が懐かしい。今思えばすごかったと思う。ハーパン生足とかのときもあったし。
私が走るのと同じタイミングで走っているのは、だいたい四人か五人。
今いるのは、めっちゃガチガチの服装で走っている二人組のお兄さん、多分サッカー部の男の子、大学生くらいの帽子のお姉さん。
ほぼ毎日顔を合わせるものだから、自然と会釈をするようになっていた。まあお姉さんからされて返すだけだけど。
「どうも」とにこやかな笑みを向けられて、「どうも」と同じように返す。で、走っていく。お姉さんはめっちゃ速いから、後ろ姿はすぐに小さくなっていく。
ふと河原に目を向けると、水上に鴨の集団がたむろしていた。パンかなにかを放りこまれるのを待っているっぽい。
省1
32: [saga] 2019/10/22(火)03:22 ID:ShxRzgitO携(32/74) AAS
すーっと澄んだ空気を吸い込む。太陽が出て、日差しが差し込んできた。低い位置にある鼠色の雲はゆったり動き、水面を鈍く染める。
休憩ついでに体育座りで鴨を眺めていたら、そのうち私に興味をなくしたらしく対岸に泳いでいってしまった。
ぱしゃぱしゃと小さい音を立てて、今度は鴛鴦がやってきた。後ろの石段に両手をついて、ちょっと観察する。鴛鴦はめったに逃げてかない。
鮮やかなのが雄で、色味が少ないのが雌だったかな。最近気付いたことなんだけど、鳴き声も若干異なっているみたいだ。
そのどちらとも違う鳴き声が聞こえて振り向く。木の上にトンビがとまっている。こっちもエサ目当てだろう。
あまり野鳥に詳しくないので、すっごく有名どころのものしか分からない。あ、白鳥だ、と思い込んでいたものが白鷺だったり。
本屋で野鳥図鑑と数十分睨めっこして諦めた。今日もいるなー程度に留めておく方が楽しいし性に合っている。
秋の河原沿いを彩る木々にしても、それなりに同じことが言えるかもしれない。
紅葉といえば、モミジにカエデにイチョウに、結構いろんなのがあるけど、色付いているのは目で見ればはっきりと分かる。
省1
33(1): [saga] 2019/10/22(火)03:23 ID:ShxRzgitO携(33/74) AAS
砂利道を歩き、堤防の傍ら水の流れが堰き止められ、小さな草むらが出来ているところに目を向けると、今日もいた。
一匹の白鳥。仲間の飛来を待っているのだろう、十月に姿を確認してからずっとこの場所に留まっている。
いつも「おーい」と声をかけると近くまで寄ってくる。寂しいのか、単に近付いてくるものが珍しくてなのか。分からないけれど、他の白鳥と比べれば人懐っこい気はする。
でも今日は羽繕いに夢中らしく、声をかけても気付いてくれない。一度駄目なら引き下がるのがマイルールなので引き返す。
もしかしたら好きで一匹だけでいるのかな。だとしたら、私が声をかけるのも考えなきゃいけない。
勝手に気持ちを推し量ってしまうのは、私の悪い癖だと思う。体が冷えてきたのでもう一度走り始めながら、そんなことを思う。
秋が終われば、当然のように冬が来る。艶やかな草木も徐々に次の春に向け色を落としていく。
今は中途半端で、冬になりかけてはいるけれど、まだ冬ではない。
昨年は十二月半ば頃に多くの白鳥を見たので、それまでは私が影ながら見守っていようと思うのだった。
34: [saga] 2019/10/22(火)03:24 ID:ShxRzgitO携(34/74) AAS
*
教室の窓を開けて、新鮮な空気を取り込む。閉め切られていた空気は重く、ちょっとだけ苦い。
ここに来て、やることはやった。ので、自分の席に座って鞄から本を取り出す。
授業とはまた別のお勉強、というとなんかすごい真面目っぽいな。趣味の延長……にしても真面目っぽい。
今日の授業の予習は前の休みに済ませた。それほど量はないし、難しいものを出されたこともない。
簡単な問題を、時間をかけずに解く。答えがあるものはそれでいいから楽。
ぼーっと眺めて、目が滑ってきたところで本を閉じる。栞を挟むのを忘れたことに気が付いて、ページを読んでいた位置に戻す。
目が覚めていない。走って、ご飯を食べて、自転車を漕いでここまで来て、だから眠さとは違うけど、頭がまわらない。
こういう時に、家だったら嫌々寝室に戻るかリビングのソファにもたれかかったりして時間が過ぎるのを待つけれど、今はどうしようか。
省1
35: [saga] 2019/10/22(火)03:25 ID:ShxRzgitO携(35/74) AAS
「……眠い」
そう言えば眠くなったりしないかな、と思って、でもそうならないことは分かっていて。
教室には私以外の誰もいないが、ちょっとだけ周りを気にする。
私の次の子が来る時間まではまだまだある。騒いだって、なにをしたって自由な時間だ。
席を立って、教室内をふらふらうろつく。
目に付くものは多々あるけれど、目の前を見ていれば一番大きなものに目が向く。
黒板の落書きはいかにも女子高生が書きましたって感じで、黒板のその部分だけがきらめいているようだ。
教卓に手をかけ飛び乗り、座ってみる。昨日授業中にやってみたいと思ったことだった。
省6
36: [saga] 2019/10/22(火)03:26 ID:ShxRzgitO携(36/74) AAS
「おはよー、冬見さん。今日も早いね」
「おはようございます、先生」
それほど耳が利くわけではないが、パンプスとスニーカーの音の違いくらいは分かる。
生徒のでなければ、必然的に先生のということになる。
「……で、なにしてるの?」
「えっと、暇だったので……あ、降ります降ります」
省8
37: [saga] 2019/10/22(火)03:26 ID:ShxRzgitO携(37/74) AAS
担任を二年連続でしてもらっているから分かるけど、この人も学校に来るのが早い。
でもこの時間に教室に来るのはなかなかない。というか、多分これが初めて。
「あー! 冬見さん、いつもお花ありがとうね」
私から目を外した先生が教室の後ろの方を向く。
そして駆け寄っていった先には、一本の花瓶。いつの日か家から持ってきた私物だ。
「いえいえ、勝手にやってるだけです」
「そう? 先生、冬見さんのお花をけっこう楽しみにしてるんだけどなぁ」
省4
38: [saga] 2019/10/22(火)03:28 ID:ShxRzgitO携(38/74) AAS
「このお花は?」
「チョコレートコスモスです」
「コスモスかー……すっごくいい香りね、あ、チョコレートの香りなのね」
「はい」
聡明なところがある先生だけれど、花についてはあまり造詣が深くないらしい。
でも新しい花を飾るとその花の名をいつも聞いてくるあたり、ちょっとは好きなんだろうか。
省8
39: [saga] 2019/10/22(火)03:28 ID:ShxRzgitO携(39/74) AAS
「不定期ですけど、ええと、かまいませんよ」
「うん。お花についていろいろ教えてくれると嬉しいかも」
私もそこまで知らないけど、と思ったけど、頷きを返した。
不定期というのは本当のことで、先生も自由なのだから私も自由にやらせてもらっている。
しかも部長といっても部員自体が私一人だし、やるもやらないも私次第なわけだ。
先生は、どうせ来ないし。あ、来てほしいとかそういうことではなくて、むしろ来ないでほしいかもしれない。いきなり来られたら多分けっこう困る。
「切り花って、もって一週間くらいかな」
省5
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