【艦これ】山城「不幸のままに、幸せに」 (247レス)
上下前次1-新
1: ◆yufVJNsZ3s 2019/08/19(月)22:21 ID:G6ax3z7W0(1/9) AAS
人間は慣れる生き物だ。そうでなければ生きていくことはできない。
傷口に塩水の沁みる痛みも、いつの間にか感じなくなってしまった。
ならば私のこの不幸にも、いずれ慣れていくときが来るのだろうか。
痛みどころではなかった。左上腕から先の感覚は消失している。眼で確認するのも億劫で、私は自己診断プログラムを走らせた――腱断裂、解放骨折及び出血多量。A3度の危険域。左足表皮と腰骨神経系もA1相当の被害を受けていて、私はそこで走査を打ち切る。
怪我をC1からA3までの九段階で評価する樫村スケールは、あくまで自動修復作用をどこにどれだけ割り振るかの判断基準でしかない。自動修復よりも自壊速度が上回っている現状を鑑みるに、最早意味がないのは明白だった。
不幸だわ。
口癖となってしまっている言葉は、いまこそ似合っているように思えた。
省1
228: 2020/03/21(土)19:51 ID:H4IBT/zYo(1) AAS
お疲れ様です
229: 2020/03/21(土)22:50 ID:scL0oBCpO携(1) AAS
ギャルゲーから読んでますよ
どれも好き
だか待つぞ
230: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)13:55 ID:S0LjOGb+0(1/12) AAS
ばたばた、ばたん。
階段を駆け上がる音、扉の開け閉め、あるいはクローゼットのそれ、壁越しの話し声。
蛍光灯は灯り、外の投光機は会議室までの道を照らす。購買に幾人も駆け足でやっていき、また駆け足で出ていく。
俄かな慌ただしさ。それも当然だろう。敵作戦群と思しき集団との邂逅が昨日の今日とは、運がいいのか悪いのかわからない。あまりにも生き急ぎ過ぎている。
緊急のブリーフィングは一時間後、大会議室で行われる予定となっていた。参加者は、呉、パラオ、CSARから六名ずつ、そして佐世保からの選抜六名。勿論佐世保はメインを張る都合上、その他部隊も指揮しなければならない。
通信が入った。佐世保の通信網に乗っていない、独自のもの。
231: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)13:56 ID:S0LjOGb+0(2/12) AAS
『点呼。番号を』
後藤田提督の声。野太く、低い。それだけ身が引き締まる。
『一番、大淀、います』
『二番、不知火』
『グラーフ・ツェッペリン。準備は万端だ』
省7
232: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)13:59 ID:S0LjOGb+0(3/12) AAS
『後藤田提督』
『どうした、淀の字』
『今回の作戦目標は』
『会議次第だが、恐らく敵戦力の壊滅、あるいは特定期間の邀撃達成ということに――』
『失礼。遂行基準については、どうお考えですか』
省8
233: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:01 ID:S0LjOGb+0(4/12) AAS
『……少し、考える。時間をくれ』
ともあれ内容は理解できた。大淀が言っているのは、つまりこういうことだ。「佐世保や呉、パラオの行動理念と、我々CSARの行動理念は違うのではないか」。
深海棲艦を撃滅せんとする彼女たちと、隊列から落伍した兵士を救わんとする私たちでは、当然倫理や規範、規準が変わってくる。作戦の大義の中にあってなお、我々が追求すべきは果たしていかなるものなのか、大淀は問うているのだ。
救助部隊と言えど、第一線に立って砲を打ち、機銃を構えることはできる。援護が一人でも欲しい場面は多いだろう。その場に私たちがいたとして、同時に負傷者が海に浮かんでいたとすれば、さてどちらの選択をとればいいのか。
銃後の存在と言えども、前線に立てるのがCSARの存在意義。追加の戦力として期待されるだけなら、別段「浜松泊地」でなくてもよくて、どこか他の基地から数人を引っ張ってくればいいだけの話なのだ。
後藤田提督は嘗て私に言った。今日を生き延びる気のない人間を仲間にはしないと。それは決して仲間を見捨てて逃げろと言う意味ではないはずだ。
234: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:01 ID:S0LjOGb+0(5/12) AAS
大淀は静かに了承の言葉を唱えた。あとに続くものはいない。
『……それじゃあ、各自、また会おう』
通信が切れる。
私は大きく呼吸した。
新鮮な空気を頭に取り込む。活性化させる。明朗化させる。始まってから、動き出してからおっつけたのでは間に合わない。微々たる準備でさえ大きな差が開く。私はそのことを知っている。
現状敵戦力の多寡や目標はわかっていない。ならば考えることは他にある。艦娘の運用方法、指揮系統、それらに対する心構えと交戦規定の再確認。
省3
235: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:04 ID:S0LjOGb+0(6/12) AAS
しかし、とはいえ、ここは佐世保鎮守府。何も総勢二十四名でことにあたらなければならないわけではない。そもそも私たちは救難救助がメイン、出撃のスパンは異なるだろう。
「山城」
壁に背中を預けながら、こちらへと手をひらひらさせるのは不知火だった。ゼリーの袋を咥えて、もう中身はないのだろう、空気を送り込んでぺこぺこ音を鳴らし遊んでいる。
「いっきに騒がしくなったわね」
「仕方がありません。やっこさんも、せめて昼に出会ってくれればいいものを」
夜の戦闘は聊か勝手が違う。空母の大半は夜目が効かないし、照明弾や探照灯がなければ誤射の可能性も上がる。そして私たちだって、捜索に悉く難儀するだろう。
この騒がしさや慌ただしさが杞憂とまではいかなくとも、せめて一時のものであればどんなにいいか。
省2
236: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:05 ID:S0LjOGb+0(7/12) AAS
「それもそうだけれど」私は唇を湿らせて、宙を仰ぐ。「最初のブリーフィングのときに説明された海域の図を覚えている?」
「台湾とフィリピン……東シナ海からインド洋まで」
「かなり広範に渡るわ。それをローラー作戦で絞り込んでいくと言う話だったはず」
「そうですね」
「随分と接敵が早かったと思ってね。そもそも、交戦した敵群が本当に『イベント』の作戦群だという根拠はあるのかしら?」
省7
237: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:07 ID:S0LjOGb+0(8/12) AAS
「……私だって、そうよ」
裏切られたり、いいように使われたり。そんなものには飽き飽きしている。
結局のところ私たちなぞ一介の兵士でしかないのだろう。大局的な視点を持たず、右往左往するだけの愚かな生き物。少なくとも、一部の上層部はそう考えているに違いない。
そうでなければ、私も、不知火も、大鷹も、ここにはいない。
「腹が立つわね」
零れた言葉に、不知火が怪訝な目でこちらを窺ってくる。
業腹だった。実に、業腹だった。それは。
この世にはどうしようもないことが数多く、本当に夥しいほどあって、だから古今東西問わずにこの世の理不尽や不条理を描いた絵、唄った詩が山積している。それらは時代と人によってさまざまで、社会構造や身分階級、性別、成功と失敗、
省3
238: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:07 ID:S0LjOGb+0(9/12) AAS
「時間です」
不知火がついに空き容器をゴミ箱へ放り込んで言った。空中を二度タップするとログイン画面が表示され、その右隅には現在時刻が示されている。
いきましょう。不知火に促されて私たちは会議室へと向かった。指示通り、定刻の五分前。
既に会議室はごった返していた。佐世保、呉、パラオ。一通りそろっている。CSARの面々も、一塊になって席を陣取っていた。大淀と青葉がまだ来ていないようだ。
私たちの姿を見つけてポーラはひときわ大きく手を挙げた。さすがに酩酊はしていないようだ。柔らかな美少女の姿がそこにある。
後藤田提督は軽くこちらに目をやっただけで、腕を組んで何か難しい顔をしていた。そんな彼の様子を察してか、グラーフと大鷹もまた落ち着かないふうに見える。
加賀もいた。目を瞑って微動だにしない。隣には呉の杉崎提督がいて、後藤田提督と同じような思案顔。
パラオの霧島はまだ来ていなかった。空席を隣において、敦賀提督が忙しく爪を噛んでいる。苛立っている? 焦っている? わからない。
夕立と三神提督は何やら話し込んでいた。どちらも和気藹々としていて、この二人の周囲だけが少し空気を変質させている。佐世保というホームだからなのか、緊張というものと無縁なだけなのか。
239: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:08 ID:S0LjOGb+0(10/12) AAS
時間になった。ベルが鳴る。
いつの間にか来ていた青葉、大淀、そして霧島の三名が、扉を閉める。
「さて、皆さん」
大淀が一際とおる声を投げかけると、それまで喧噪に包まれていた会議室内が、しぃん、水を打ったように静まり返る。だがそれは、不思議な静けさだった。誰もが大淀の言葉を待っているというよりは、寧ろ……。
「どうして、大淀が……?」
省4
240: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:09 ID:S0LjOGb+0(11/12) AAS
「――たった今この部屋の通信網を一時的に隔離しました。外部と連絡はできません。拳銃もセーフティはおりません」
は?
「青葉さん」
「はいっ!」
青葉は鋭く応じて、
省2
241: ◆yufVJNsZ3s [saga] 2020/03/22(日)14:10 ID:S0LjOGb+0(12/12) AAS
―――――――――――――
ここまで
速度あげてこ
待て、次回。
242: 2020/03/22(日)18:00 ID:1XPuRI6Lo(1) AAS
お疲れ様です
舞ってる次回
243: 2020/03/23(月)03:55 ID:ATBK6/9Vo(1) AAS
乙。
ファッ!?
何か陰謀の臭い!
244: 2020/05/17(日)15:45 ID:qcEHSx0So(1) AAS
まつわ
245: 2020/09/12(土)22:02 ID:U5lsmz7k0(1) AAS
もうこないのか……
246: 2020/09/14(月)15:04 ID:7v6ZoaRyo(1) AAS
来て欲しいが、主にも色々あるんだろう
信じて待つしかない
247: 2020/09/14(月)23:07 ID:tUnmGxVro(1) AAS
他のSSで一から書き直してるっていってたからゆっくりかな。
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