【艦これSS】不器用を、あなたに。 (624レス)
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219: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:17 ID:J91t5PLpO携(1/42) AAS
最後の更新からもうこんなに日が・・・
計画が・・・

続きを投下します
220: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:19 ID:J91t5PLpO携(2/42) AAS
電が鳳翔から風呂敷を受け取っているのを横目に見ながら、残された暁型の3人は密かに話し合う。

暁「電に何も言わず協力してくれるなんて、鳳翔さんも何か知ってるのかしらね」

雷「しかもすぐにお弁当渡したってことは準備してたってことよね」

暁「鳳翔さんの立場的に...電の言う2人のうちの1人が、ってこともあるんじゃないかしら」

響「それは単純に前回の事があったからだと思うよ」
省2
221: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:20 ID:J91t5PLpO携(3/42) AAS
電を見れば今度は深雪に絡まれている。
表情から察するに、おそらくは軽く山城擁護について小言を言われているのであろう。

深雪については電の姉妹艦である彼女達も好意的に思っている。

その理由はもちろんその持ち前の快活さで場を明るくしてくれる点も一つであるが、とりわけ重要なことは、艦時代の衝突事故の件を気にすることなく電にも活発に話かける点であった。

そのおかげで控えめな性格である電でも、萎縮せずに深雪と付き合えているようである。
それどころか電は深雪に振り回される時は決まって、困惑の表情を浮かべると同時に、また心からの嬉しさにも満ち溢れてさえいる。
222: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:21 ID:J91t5PLpO携(4/42) AAS
こうした背景から電の姉妹達−特に深雪より少し先に着任した最古参勢の響は−電の表情に明るさがもたらされていく過程を見てきただけあって、その最大の貢献者ともいえる深雪を信頼している。

・・・だからこそ3人とも本音を言えば、ほとんどの艦娘と同じように山城批判派側に立つ深雪と対立してまで、山城擁護の余地を探す事には気が進まなかった。

しかし電の気持ちをなるべく尊重してやりたいと思うのは姉妹艦として自然である。
また暁が今朝未明に経験して姉妹に共有したことは、信じ難くも同時に決して無視してはならない真実に思えた。

こうして3人は示し合わさずとも、先入観を捨て山城の言動を解明しようと努めだした。
223: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:22 ID:J91t5PLpO携(5/42) AAS
雷「でもまたこれで山城さんがますます酷い人って感じになっちゃったわね...」

暁「うん......でも...きっと何か理由があるのよ...!」

その言葉はつい今日の未明に垣間見た山城の隠された裏側の一部を、もういちど反芻して自身に言い聞かせるためのようだった。

響「ただやっぱり動機が気になるね。あれを見ただけじゃ悪意を持って傷つけようとしてるだけにしか見えない」

雷「電が言うにはあれにも意味があるってことらしいけど...」
省2
224: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:23 ID:J91t5PLpO携(6/42) AAS
電はといえば深雪と別れ食堂を出るところである。

もう先程の騒動の空気感はどこかへ行ってしまったようで、周囲はごく日常的で平和な喧騒で包まれている。

その時、3人の所にとある艦娘が話しかけてきた。

青葉「どーも恐縮です!お三方、ちょっとインタビュー宜しいですか?」

暁「インタビュー?」
省1
225: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:24 ID:J91t5PLpO携(7/42) AAS
雷「電と深雪はまだそういう関係じゃないわよ?」

いわゆる大衆雑誌のような内容を取材する事がほとんどな青葉。

それを踏まえて雷は、この3人のみがいる状況で尋ねてきたという事実から、おそらくは電に関するスクープ狙いと推測して先に断りを入れたのだった。

青葉「たしかに仲の良いお二人の関係性も気になるんですけどね!今回はちょっと真面目な取材でして...」

響「スクープ記事目当てじゃないなんて珍しいね」
省2
226: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:25 ID:J91t5PLpO携(8/42) AAS
青葉「その、先程もそうでしたが、電さんが何故あそこまで山城さんを助けるのか気になりまして」

響「...!」

青葉「姉妹艦の皆さんなら何か知ってるんじゃないかと思ったんです」

雷「...電は優しいから...」

雷がありきたりの言葉を呟く。
このような質問には、まずそれで反応を見ることがこの3人の中でのマニュアルになっている。
227: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:27 ID:J91t5PLpO携(9/42) AAS
青葉「...私は電さんが何か事情を知ってるからだと思います」

青葉「その事情のためにいつも山城さんを助けるのでは、と。」

少し小声で発声された青葉のその言葉を聞いた瞬間、3人が閉ざしていた門は開かれたのだ。

暁「偶然ね!ちょうど私達でその話をしようとしてたわ!」

響「(でも...青葉さんは時雨と同じタイミングで着任したはず...それもあってか仲良さそうだし...)」
省1
228: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:28 ID:J91t5PLpO携(10/42) AAS
響「残念ながら私達が知ってることは何も無いんだ」

暁や雷が躊躇いなく話そうとするところに、響が被せるように言った。
何となく響から警戒心を読み取った暁と雷は驚きと不安を隠せぬまま黙って響を見つめた。
一方の響は動じずクールな表情を保っている。

響「だけど“お人好し”なのだって、私達の妹の大事な長所だからね」

響「だから私達は、たとえ電が必要無いまでの優しさを振り撒いていても、それを見守るだけなのさ」

響は終始落ち着いていた。
それに今言ったこと自体は彼女の本心でもあった。
青葉のインタビューを回避しようとする意図以外は、まさに嘘偽りのない返答なのだ。
省2
229: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:29 ID:J91t5PLpO携(11/42) AAS
青葉「...やはり警戒しますか」

青葉も伊達に“取材”を続けてきたわけではないのだろう、その経験を活かしてか普段そこまで接点が多いわけでもない艦娘の心理を見事に読んでみせたのだ。

青葉「ですがこれは決して記事にするとかではなく、私個人のために内密に調べてることなんです」

青葉「どうか、些細なことでも、電さんについて知ってることを教えてくれないでしょうか」

青葉「きっと姉妹艦にだけなら、ってふと零した重要な言葉があるんじゃないかって思うんです」
省1
230: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:30 ID:J91t5PLpO携(12/42) AAS
響「...青葉さんが本気なのは分かったよ」

ひとまず青葉の意図を信頼し、警戒姿勢を緩める響。

響「ただ警戒したメインの理由はそこじゃないんだ」

青葉「他に何かあるんですか...?」

響「電が山城さんの味方をする理由を見つけるには、きっと、今ある山城さんの人物像を一度忘れる必要がある」
省3
231: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:31 ID:J91t5PLpO携(13/42) AAS
雷「まぁ...この鎮守府で進んでやることじゃないわよね...」

響「特に青葉さんは時雨と同時着任で仲も良いじゃないか」

響「それでも本当にそんな調査をしたいと思えるのかい?」

響が危惧していたのはまさにその点であった。

ほぼ全員から良く思われていない者について、1度先入観を捨て去って再評価しようとするにはかなりの勇気が必要である。
省1
232: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:33 ID:J91t5PLpO携(14/42) AAS
もちろん鎮守府の雰囲気に流されずに中立や擁護すら見せる艦娘達も数人はいる。そして彼女らがその立場を理由に飛び火して嫌われるという事態は一切起きていない。

しかし彼女達はほとんどが古参の面々で、戦力的にも精神的にも鎮守府に大きく貢献している者達であることも同時に忘れてはならない。

つまりそれだけの存在だからこそ周囲の行き過ぎた山城嫌いを抑制できるのであって、これを他の者が安易に真似る事は得策ではない。

・・・それでも電の言動の意図を解き明かしたいのであれば、この道は避けられないかもしれないが。
233: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:35 ID:J91t5PLpO携(15/42) AAS
青葉「...覚悟は決めてあります」

響の言葉で空気が重く沈んだが、やがて青葉が口を開いた。

青葉「もちろん私は時雨さんとは仲が良いです」

青葉「そして今までずっと山城さんのことを憎むべき人だと信じて疑いませんでした」

振り返れば青葉も山城への嫌悪は隠さないタイプであったように思う。
省3
234: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:36 ID:J91t5PLpO携(16/42) AAS
暁「そう思うきっかけがあったのかしら?」

暁がそう尋ねると、青葉は意を決したように言葉を続けた。

青葉「ええ、数日前に古鷹さんがふと零した言葉が忘れられなくて...」

古鷹さん、という言葉に反応して暁型の3人はある気づきを得た。
しかし、誰から目配せをしたわけでもないが、ひとまずは青葉の話を中断せずに聞くことにした。

青葉「私がいつも通り山城さんを批判した時、古鷹さんは悲しそうな顔をしてこう呟いたんです」
省2
235: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:38 ID:J91t5PLpO携(17/42) AAS
青葉「それは、喧嘩を仲裁する時みたいな普段の山城さん擁護とはちょっと違いました」

青葉「わざわざ古鷹さん自身を比較対象に出すくらい、本心から絞り出た古鷹さんの思いだった気がするんです」

青葉は困ったような顔をしている。

青葉「だから、もう私は分からなくて...古鷹さんは誰にでも優しすぎるから、って勝手に納得してただけなのかもしれないって」

青葉「古鷹さんの言葉を前提にしてみたら、きっと山城さんは今と全く別の人物になるんじゃないかって」
省1
236: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:40 ID:J91t5PLpO携(18/42) AAS
青葉が次の言葉を口にしようとする時、またもや響が食い気味で被せてきた。

響「詳しいことを教えてくれなかったんだね?」

しかし今度の意図は話を回避するためではなく、むしろその真逆である。
まさに言おうとしたことを言い当てられて青葉は少し驚きを隠せずにいた。

雷「これって、古鷹さんが残り2人のうちの1人ってことよね」

暁「そうとしか思えないわね」
省1
237: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:43 ID:J91t5PLpO携(19/42) AAS
響「うん。実をいえば私達もちょうど青葉さんと同じだからね」

雷「古鷹さんみたいな妹がいるもの」

青葉「やはり...!」

青葉「私も、古鷹さんが何か山城さんに肩入れする事情があるのだとしたら、古鷹さんと同じような立場を取る電さんもきっと同じはずだと思ってたんです」

青葉は自身の推測が正しかった事に興奮を覚えながら、それでも周りに聞かれぬようにある程度抑えた声量で話を続ける。
省2
238: ◆eZLHgmSox6/X [saga] 2019/03/09(土)01:44 ID:J91t5PLpO携(20/42) AAS
響「なるほど、それで私達が3人になった時にインタビューしに来たんだね」

青葉「そういうことです」

暁型の3人も、青葉と同じ発想を古鷹に対して適用しなかったわけではなかった。

何せ青葉は自覚があるかは分からないが古鷹にべったりであり、古鷹も青葉を特に大事にしている様子である。
青葉の妹である衣笠曰く、ヘタレな青葉が行動しないだけで実際は“事実上の恋人同士”らしい。

今では青葉に色恋沙汰を取材されたら「古鷹とはどうなのか?」と言い返せば青葉を退けられるとまで言われるほどである。
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