傘を忘れた金曜日には. (824レス)
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1: [saga] 2018/11/07(水)23:34 ID:MvBC7eGdo(1/8) AAS
傘を忘れた金曜日には
vip2chスレ:news4ssnip
のつづき
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2: [saga] 2018/11/07(水)23:40 ID:MvBC7eGdo(2/8) AAS
「……後輩くん、あのね。何を言ってるのかわからないけど」
「……はい」
「きみとはぐれたあと、わたしがきみを探さなかったと思う?」
「……え?」
省12
3: [saga] 2018/11/07(水)23:41 ID:MvBC7eGdo(3/8) AAS
◇
電話を切って、俺はまた夜の散歩に出かけた。
行き先は、公園。木立の奥の、噴水。
今日もまだ、水が溜まったままになっている。
月が、静かに水面に浮かんでいる。
考えてみれば、嘘と偽物とまがいものにまみれていた。
俺が書いた作文は、俺が書いたわけじゃない。偽物だ。
俺と真中は、付き合ってなんかいない。嘘だ。
省12
4: [saga] 2018/11/07(水)23:42 ID:MvBC7eGdo(4/8) AAS
誰のことも求められない自分自身。
なにひとつ目指せない、自分自身。
何も得ようと思えない、俺自身のことが、すとんと胸に落ちるように、納得がいく。
偽物だから。
この場にいるはずのない存在だから。
俺は三枝隼ではなく、
両親や純佳の優しさも、ちどりや怜の親愛も、真中の好意も、
省9
5: [saga] 2018/11/07(水)23:42 ID:MvBC7eGdo(5/8) AAS
誰のことも好きになるべきじゃない。
誰のことも愛せない。
誰からも何も受け取るべきじゃない。
俺は不当な簒奪者だ。
だからこんなに、こんなにも……忘れるなと言うみたいに、葉擦れの音が耳元で騒ぐ。
でも、じゃあ俺はどうすればいい?
空席の王座を掠め取った俺は、どうすればいい?
……不意に、
省8
6: [saga] 2018/11/07(水)23:43 ID:MvBC7eGdo(6/8) AAS
俺は、涸れた噴水の水面を眺めている。
そこには、俺が、俺自身が映っている。
『鏡を覗くものは、まず自分自身と出会う』
明け渡せ、と声が聞こえた。
水面に映る、俺の口が動いている。
明け渡せ、と、動いている。
省14
7: [saga] 2018/11/07(水)23:44 ID:MvBC7eGdo(7/8) AAS
「──さあ、"返せ"」
光が。
光が。
引きずりこんでいく。
俺の意識は森の中に飲まれていき、
二重の風景が逆さになる。
森のなかが俺にとっての現実になり、
水鏡を覗く景色は"俺"のものではなくなる。
いま、二重の視界に、涸れ噴水の水面には、俺が映っている。
省14
8: ◆1t9LRTPWKRYF [saga] 2018/11/07(水)23:44 ID:MvBC7eGdo(8/8) AAS
つづく
9: 2018/11/08(木)00:07 ID:fw5IbzFaO携(1) AAS
乙です、恐ろしい話だ
瀬尾と隼は本当にコピーなんだろうか
瀬尾とちどりが似てるだけと言えなくもないんだけど
10: 2018/11/08(木)00:14 ID:lWyWcT36O携(1) AAS
乙です。
青葉がコピーってのは想像ついたけど、隼はさすがにびっくり
11: 2018/11/08(木)07:40 ID:/aaH07Af0(1) AAS
おつです
12: 2018/11/08(木)21:51 ID:t14O2ALF0(1) AAS
おつです
13: [saga] 2018/11/08(木)23:58 ID:vcSV0TpRo(1/3) AAS
◆
身体の感覚が、まだ馴染んでいない。
六年間に渡る森のなかでの、あの身動きのとれないミイラとしての生活は、俺の意識と身体をさいなんでいた。
ひさしぶりに現実というものを取り戻したけれど、どうにも感覚が取り戻せず、立つことも歩くことも眠ることさえ覚束ない。
それでも、ひさしぶりの我が身だ。
朝日のあたたかさが俺自身のものとして考えられる。それは爽快な感覚だ。
ひどく気分がいい。……明るく、温かい。昼の光は、こんなにも眩しかったか。
今まで俺はこの感覚を、他人のものとしてしかとらえられなかった。
省3
14: [saga] 2018/11/08(木)23:59 ID:vcSV0TpRo(2/3) AAS
閉めた部屋の扉の向こうから、足音が聞こえる。
その音に、俺はわくわくする。
俺は立ち上がって、こっそりとドアの脇へと身を隠す。
扉が開かれる。
「兄、朝……」
「純佳!」
省13
15: [saga] 2018/11/08(木)23:59 ID:vcSV0TpRo(3/3) AAS
「昨日、元気なかったのに、急に」
「生まれ変わったんだ」と俺は言った。
「……はあ、そうですか」
純佳はピンとこない言い方で、戸惑ったみたいにされるがままになっている。
「えと、元気になったなら、よかったですね?」
「うん」
省13
16: [saga] 2018/11/09(金)00:00 ID:u2fkhLqMo(1/7) AAS
「照れてるの?」
「戸惑っています」
見事に警戒されてしまったらしい。
歓びのあまり飛ばしすぎてしまったか。
「悪いな。ちょっと興奮が抑えられなかった」
「……あの、さっきから何をおっしゃってるんですか」
省7
17: [saga] 2018/11/09(金)00:00 ID:u2fkhLqMo(2/7) AAS
「……あまりおすすめしないですよ、そういう振る舞いは」
そして俺のそばには、"カレハ"がいる。
「やあ、居たな」
「まだ本調子じゃないでしょう。六年もむこうにいたんですから」
「じき慣れるさ。よくこっちに出て来られたな」
省13
18: [saga] 2018/11/09(金)00:00 ID:u2fkhLqMo(3/7) AAS
「訂正しろ」と俺は言う。
「あいつは三枝隼じゃない」
「……失礼しました」
「いい。……まあ、言うことは分かる」
たしかに、周囲の人間を戸惑わせるのはよくない。
省9
19: [saga] 2018/11/09(金)00:01 ID:u2fkhLqMo(4/7) AAS
◆
純佳と一緒に朝食をとり、なんでもない朝のテレビを見た。
天気予報のキャスターの声ですら心地よい。雨の予報すら祝福に思える。
小鳥の声すら俺の帰還を祝いでいる。
「兄、今日はバイトですか?」
「ん? ああ……どうだったかな」
省13
20: [saga] 2018/11/09(金)00:01 ID:u2fkhLqMo(5/7) AAS
純佳から弁当の巾着を受けとって、俺は彼女を残して通学路を行く。
「もっと戸惑うと思っていました」
「純佳が?」
「声を出さないほうがいいです」
省11
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