王族林檎とうさ耳の魔法使い (125レス)
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1: ◆hs5MwVGbLE [saga] 2018/05/18(金)22:01 ID:axZJXWW20(1/14) AAS
城の遣い「王がお待ちだ。入れ」

ナブ「……はい」

今わたしがいる場所。ここは争いごとを好まない平和な平和なある一国のお城。

大きな扉の前でわたしは黄金の取っ手を掴んだ。中では王様が待っている。なぜ呼び出されたかは知っている。格好もそれらしく、小さな首輪に薄い布一枚だ。

わたしは、王様の子を授かるらしい。
省1
2: [saga] 2018/05/18(金)22:02 ID:axZJXWW20(2/14) AAS
……………………

生まれつき多大なる魔力と魔法の才覚があったわたしは若くして上級魔法職に就任。
その才能と関係があるのかは分からないが身長は異常なまでに伸びなかった。だが恵まれた人生……そんなちっぽけなことはこれっぽっちも気にならなかった。

魔法使いとしてこの国の魔法技術の発展に協力し、そこで稼いだお金でやっとお世話になった学校や孤児院にも恩返しができる。何もかもが上手くいっていた。

しかし3日前、わたしは上級魔法職のうさ耳族という理由だけで大勢の人の前で国から迫害を受けた。
3: [saga] 2018/05/18(金)22:04 ID:axZJXWW20(3/14) AAS
審問官「上級魔法職、ナブ。異端亜人種として貴様の国民権を剥奪する」

ナブ「そんな! 何故ですか!?」

審問官「これも国民の平和のためだ。貴様はこの国の平和を脅かす脅威になり得るのだよ」
4: [saga] 2018/05/18(金)22:05 ID:axZJXWW20(4/14) AAS
ナブ「納得がいきません! 説明してください!」

審問官「……よかろう。我々ヒューマンが取り仕切る王政でありながら数ある亜人種にも寛大なのがこの国の特徴であり、その共存が平和の象徴でもある。何も貴様がうさ耳族というだけで我々は貴様を裁くのではない」

ナブ「なら!」

審問官「問題なのはその貴様の過ぎたる魔法の才覚とうさ耳族の繁殖力にある。もしもの話だ。この先貴様の子孫から強力な魔力を秘めたうさ耳族が増えすぎたらどうなるか? 賢い貴様ならわかるはずだ」

審問官「より力のないヒューマンはいつか淘汰され、この国は貴様らうさ耳族に乗っ取られてしまうだろう。ナブよ、後ろを見たまえ」
省1
5: [saga] 2018/05/18(金)22:07 ID:axZJXWW20(5/14) AAS
わたしはその景色が今でも忘れられない。

「たしかになー……」

「こえーよなー」

「噂によるとうさ耳族って年頃になるとすぐ発情して子どもつくりたがるんだろ?」

審問官「聞こえるだろう? 国民たちの不安の声が……これが大衆の意思なのだよ」
省3
6: [saga] 2018/05/18(金)22:07 ID:axZJXWW20(6/14) AAS
そうして行き着いた先は……

ナブ「性奴隷……ですか……」

メイド「『性奴隷』だなんてとんでもありません! これは名誉あることなのですよ? 王様直属の『愛人様』でございます」

メイド「ああ、王様はなんてお優しい方なのでしょうか。普通なら国を追われるはずだったあなたを、それは哀れと思い愛してくださるのです。これ以上の幸せがありましょうか。さあ、お身体を清めましょう……」

平和なんて、愛なんて全部嘘だ。
省1
7: [saga] 2018/05/18(金)22:09 ID:axZJXWW20(7/14) AAS
………………

ナブ「失礼します……」

王「おお、やっときたか。私は待ちくたびれたぞ。……なかなか綺麗じゃないか。お前は元が良いからな……やはりうさ耳族の女は総じて整った顔つきをしていて実に麗しい。……体格が少し小柄すぎるのが心配じゃが……なに、じっくりとほぐしてやろう。痛くならんようにな」

お化粧なんてしたことがなかった。男の人に自分を見てほしいなんてことも、一度も思ったことがない。

ナブ(いやだ。いやだ……)
省1
8: [saga] 2018/05/18(金)22:11 ID:axZJXWW20(8/14) AAS
王「ほれ、もっと近くでその愛らしい童顔を見せろ。月も綺麗じゃ……うさ耳族の者は月に焦がれるのじゃろう? まずはこちらで共に月見でも愉しもうではないか。こういうのは雰囲気が大事じゃからな」

バルコニーでワイングラスを揺らす王様がこちらへ手招きをしてくる。逆らえるはずもなく足は前に進んで行く。

ナブ(誰でもいいの。誰か、助けて……)

誰も、助けてくれるわけがない。わたしは全てを置いてきたから。その代償に手に入れた魔法も、今は魔封じの首輪一つに囚われている。魔法使いでありながら魔法を封じられ、うさ耳族でありながらその血の悦びすらも感じられずにいる。

ナブ(わたしって、なんなんだろう。わたしの人生って、なんだったんだろう)
省5
9: [saga] 2018/05/18(金)22:12 ID:axZJXWW20(9/14) AAS
永遠の自由を求めてわたしは月を目指した。

ナブ(綺麗な満月……)

青白い光の中で夜風が全身に触れる。身に纏った薄い布一枚は無いのと一緒だった。素肌で触れるそれが清々しくて心地いい。空中で月に手を伸ばす。

ナブ(ああ、あと……もう少しだけ……)
省2
10: [saga] 2018/05/18(金)22:13 ID:axZJXWW20(10/14) AAS
そう思っていたのだが

ナブ「あぅ……ん……へ……?」

「ナブが逃げおった! ひっとらえろ!」

ナブ(嘘!? 庭の木に引っかかっちゃった)

布が無ければ当然そのままだった。無いのと同じだなんて……そんなことはなかったようだ。
省5
11: [saga] 2018/05/18(金)22:17 ID:axZJXWW20(11/14) AAS
結果はなんとか成功。塀にかけた腕に力を入れてよじ登る。

ナブ「んっ……しょ……きゃっ!」

前に力をかけすぎてそのまま塀を伝ってコロコロと転がってしまった。着地で少しおしりをぶつけた。

ナブ「あいたた」

頭じゃなかっただけよかった。月だけは無謀なわたしを守ってくれたようだ。
省6
12: [saga] 2018/05/18(金)22:18 ID:axZJXWW20(12/14) AAS
自分で言うのもなんだけれど、うさ耳族はヒューマンより足が速い。遠ざかる革靴の音、確実に追っては引き離している。

今さら後ろはもう見ない。それがわたしの人生だったから。しかしもう前も霞んで見えない。行く当ても、目的も失くしてただもがくだけの自分をわたしは笑った。だが笑い声は出ない。代わりに呻き声がこぼれた。

石床は足跡を残しはしなかったが、涙で濡らした部分が足跡のかわりになった。極小の水玉、さすがにこれだけでバレることはなさそうだ。これくらいは……見逃して欲しい。

ひたすら走って、走って……

ナブ(走って……!)
13: [saga] 2018/05/18(金)22:19 ID:axZJXWW20(13/14) AAS
「うわっ!」

ナブ「きゃあ!」
14: [saga] 2018/05/18(金)22:19 ID:axZJXWW20(14/14) AAS
なうろうでぃんぐ……

(-ω-)
15: ◆hs5MwVGbLE [saga] 2018/05/19(土)00:38 ID:JQiiYcvw0(1/30) AAS
………………

「いってぇ……なんだ?」

俺は自宅の農家で栽培している林檎を荷台に積んで親友が営むケーキ屋に運ぶ途中で何者かにぶつかった。

(暗くてよく見えなかった)

小さな子どものような影が、すごい速さで突っ込んできて。おかげで荷台の林檎も何個か落としちまった。慌てて拾い上げるとフッとひと息かけて雑に埃を飛ばす。本当はぶつかった相手の心配をするのが先なんだろうがつい林檎を優先してしまった。
省6
16: [saga] 2018/05/19(土)00:39 ID:JQiiYcvw0(2/30) AAS
「へ? あ、あんた確か最年少上級魔法職の!」

思わず声が喉までで詰まる。驚いてもしかたない。だってそいつは、確か異端審問にかけられ城の監視下に置かれるという判決をうけた……

「ナブ、だっけか?」

ナブ「ぉ、おねがぃ……見逃して……」

涙目で仰がれた。潤んだ大きな瞳がまっすぐ俺を映す。
省6
17: [saga] 2018/05/19(土)00:41 ID:JQiiYcvw0(3/30) AAS
「!……足音、もうそこまで来てる!」

ナブが長いうさ耳を立てた。その言葉を聞いて俺も耳をすませば確かに微かだが足音が大通りを掛ける音がする。次第に音は俺の耳にもはっきりしてくる。

(これは馬だな)

「っ!」

「待て!」
省6
18: [saga] 2018/05/19(土)00:43 ID:JQiiYcvw0(4/30) AAS
追跡班「馬ならヤツにも追いつける筈だ! 急げー!」

何頭かの馬が目の前を横切っていく。俺はその様子をナブの頭を抑えながら伺っていた。

バレるのではないかと思うほどの心臓の高鳴り、それを気にして口内に溜まる唾はできるだけ音を殺して飲み込んだ。

(あれ、俺……なんでこんなことしてるんだ?)

衝動のまま行動してしまったが冷静になるとこれは国への反逆行為ではないか。
省1
19: [saga] 2018/05/19(土)00:44 ID:JQiiYcvw0(5/30) AAS
………………

パカラッ、パカラッ

遣い「くそっ、一体どこまで逃げたんだ」

遣い「ん……?」

追跡班「どうしましたか?」
省4
20: [saga] 2018/05/19(土)00:45 ID:JQiiYcvw0(6/30) AAS
………………

「……なんとかなったみたいだな」

先に俺一人でもう一度大通りに出て辺りを見回したがもう城の人間の気配はしなかった。

ナブ「あ、ありがと……あなた名前は?」

ロー「ん? 俺はローだ。この大通りより少し離れた場所で林檎農家をしてる者だ」
省3
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