男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】 (596レス)
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532: 2020/07/02(木)19:58 ID:xBNddiV40(1/18) AAS
【二人のエピソード】  ※連れて行きたい場所、日常の一コマ、未来の話など

たまには仕事帰りのお兄さんを

【視点:男 or サンディ or その他】

サンディ視点
 
533: 2020/07/02(木)20:00 ID:xBNddiV40(2/18) AAS
 
六月中旬。夕刻の頃。

どんよりとした空模様から、しとしとと降っている生温い雫がアスファルトを濡らす。

天気予報の週間予想は、一昨日からずっと傘マークを示していた。

これほどまでに雨が続くと、恵みの雨と表するには少々供給が過ぎているようにも感じる。

夏が始まる前の日本の空のカーテンは、グレイの色合いをしていた。
省5
534: 2020/07/02(木)20:03 ID:xBNddiV40(3/18) AAS
 
街並みを探偵事務所から見下ろしながら、私は一人の影を探す。

探し人は、居候先でお世話になっているお兄さんだ。

今日はお仕事で午前中から外出していて、帰宅が夕方頃になるとの事。

お兄さんを玄関で「おかえりなさい」と迎えたいので、

帰路の姿を見つけられるよう、こうしてチラチラと外を気にしてしまう。
省4
535: 2020/07/02(木)20:04 ID:xBNddiV40(4/18) AAS
 
既に家事は粗方片付いており、強いて言えば夕飯をどうするか悩んでいるくらい。

いつも夕方の時間帯はテレビを見ているか、読書、勉強をしているけれど、

今日はそんな気分ではない。

窓の外に映る景色が気分を落ち着かせてくれているのか、

もしくは昔の景色が瞼の裏に映って気分が落ち着かないのか。
省11
536: 2020/07/02(木)20:05 ID:xBNddiV40(5/18) AAS
Someday I want to run away
(いつか私は 逃げ出したい)

To the World of Midnight
(真夜中の世界へ)

曲自体は二分となく、短いものだった。

でも、その歌がずっと頭の中をリフレインしている。
省2
537: 2020/07/02(木)20:06 ID:xBNddiV40(6/18) AAS
「さーむでぃ……あい、うぉんと…とぅ、らなうぇい……」

いつか私は 逃げ出したい。

「とぅ……ざ、わーると…おぶ、みっどないと……」

真夜中の世界へ。
 
538: 2020/07/02(木)20:08 ID:xBNddiV40(7/18) AAS
 
私が、ずっと、ずっと考えていた事。

逃げ出して、どこかに行きたかった事。

あの時に居た暗がりよりも、暗いところに行きたかった事。
 
539: 2020/07/02(木)20:08 ID:xBNddiV40(8/18) AAS
堅い木材で頭を殴られた事を思い出すような衝撃だった。

不意に前に居た場所を思い出し、呼吸が少し荒くなる。

苦しさを顔に出すと更に折檻を受けた事を体が覚えていて、もっと息が辛くなる。

いきているのが、つらくなる。

お兄さんから渡されている青い錠剤を、ポケットから取り出し、
省2
540: 2020/07/02(木)20:09 ID:xBNddiV40(9/18) AAS
ぜぇぜぇ、と肩で息をしながら、ふっと深呼吸をする。

深く息を吸い、ゆっくりと吐く事を数度。

心拍数はやや乱れているものの、先ほどよりも幾分か気分が楽になった。

それでも、あの美しい歌声が、頭の中で優しく響いてくるのは変わりなく。

悲しい曲。けれど、とても美しい曲だな、と感じたから。
省7
541: 2020/07/02(木)20:10 ID:xBNddiV40(10/18) AAS
私はバタバタと慌てて玄関まで走り、お兄さんを出迎える準備をする。

お兄さんが濡れているかも知れないから、タオルを片手に持ち、ドアのチェーンを外した。

金属を擦る無機質な音が聞こえてから一拍、ドアがきぃ、と開いた。

「ただいま、サンディ」

「おかえりなさい、お兄さん」
省3
542: 2020/07/02(木)20:11 ID:xBNddiV40(11/18) AAS
「いやー、外は思ったより降っていたけれど、大きめの傘だったから殆ど濡れなかったね。
 出かける前に一緒に見ていたテレビの天気予報さまさまだよ」

「ふふ、それは良かったです」

「だからね、サンディ。気になる所は一つだけ」

お兄さんは手に取ったタオルを、優しく、優しく私の顔に添えてくれる。

「君の頬の方が濡れてる」
省9
543: 2020/07/02(木)20:13 ID:xBNddiV40(12/18) AAS
 
そしてそのまま事務所のソファまで運ばれ、一番フカフカのクッションを敷いた所に私を置いた。

どうやら無意識のうちに滂沱の如く涙を流していたようで、

ようやく首元の襟筋まで濡れていることに気づき、割と新品の服を汚したようで申し訳ない気持ちがある。

お兄さんは心配しながらも、内証について深くは聞かず、

私にホットミルクを作ってくれた。じんわりと心まで温めてくれる、優しい味。
省7
544: 2020/07/02(木)20:14 ID:xBNddiV40(13/18) AAS
恰好を部屋着にシフトしたお兄さんは、片手にコーヒーを持って私の横に腰を下ろした。

そのまま何も言わず、私の頭にそっと右手を伸ばして、自分の肩元に抱き寄せる。

何故だかまた涙が溢れてきた。

雨のような生温さのそれは、私の頬をポロポロと零れてゆく。

ふと、自分の頭の上から、調子が少し外れた歌が聞こえてくる。
省3
545: 2020/07/02(木)20:15 ID:xBNddiV40(14/18) AAS
「サンディ、懐かしい歌を知ってるね」

「え、あの……さっきラジオで聞いていたので……」

「この曲をラジオで流すのもまた凄いな……最近のFMを見くびっていたよ……」

「お兄さんはどうしてこれを知ってるんですか?」

「ああ、前の所長がジャンル問わずで音楽を車内で流す人でね。
 好きな作品で使われた曲だってのを熱弁された事があるんだ」
省3
546: 2020/07/02(木)20:16 ID:xBNddiV40(15/18) AAS
 
「サンディ、ハードボイルドが生きる時間帯って知ってるかい?」

「いえ……分からないです……」

「ハードボイルドは真夜中に生きているんだよ」

ハードボイルドは生き物だったのか。

などと一瞬思ったがそうではなく、恐らく活動時間帯の事を指しているのだろう。
省14
547: 2020/07/02(木)20:16 ID:xBNddiV40(16/18) AAS
その感触で正気に戻り、お兄さんの顔を見つめる事無く、

我ながら物凄い勢いで台所の奥へと駆けだした。

この状態で目が合ってしまえば、きっと息が出来なくなる。

どうしようもないほどに心拍数や脈拍が上がってしまうけれど、

これはきっと、悪い症状ではないのだと、自分に言い聞かせる。
省7
548: 2020/07/02(木)20:18 ID:xBNddiV40(17/18) AAS
 
 
貴方は自分を真夜中の世界の住人みたいに仰いましたけれど。

それを聞いた私は、貴方の事をそうは思っておりません。

私は生きている。

明るくて、温かい、お日様の世界に。

 
549: 2020/07/02(木)20:21 ID:xBNddiV40(18/18) AAS
日々なかなかの勢いで忙殺されていて、家の役割が風呂と就寝くらいしか果たせていない今日この頃。
投下が遅くなって申し訳ございません。
ボチボチと書いてはいますので、またゆるりとお付き合い頂ければ幸いです。

※サンディが聞いていた楽曲
動画リンク[YouTube]
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