男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】 (596レス)
男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/
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20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 06:41:20.02 ID:lfj9bXFJ0 仕事場でもあり居住地として使用している我が根城。 事務所兼自宅に男が一人だけ。 そこに暮らす輩が無精者だとすれば、それはまぁ見事に散らかっているもので。 顧客を招く職場としての事務所は辛うじて綺麗な環境を保ってはいるが、 これぞハリボテと呼ぶのが正しいものだろう。 少し裏に回れば掃き溜めの如き環境が広がっている。 ここに年頃の娘を住まわせるのか? ……え、ここに? http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/20
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 06:48:30.54 ID:lfj9bXFJ0 否、断じて否。 部屋の散らかりは心の散らかり。美しい場所でこそ凛とした育ての場に相応しい。 元から性根の腐っている自分ならまだしも、これは子どもを預かる環境としてはあまりに不適切。 「サンディ。もしかしなくて、今日から早速一緒に住むって事でいいのかな?」 「は、はい。ご迷惑でしたら、適当に野宿をしながらでも生きていきますので……」 彼女の目じりに涙が一気に溜まる。 人に泣かれる事なぞ滅多にないので、ついあわあわと狼狽してしまう。 「いやいや、違う違う。もしそうだったら、ちょっとお願い事があってね」 「あ、しょ、承知いたしました。私に何なりとお申し付けください」 サンディは目元の涙を腕でごしごしと拭った後、スカートの端を軽くつまんでお辞儀をしてくる。 なんとも優雅な身のこなしだ。堂に入っている事が妙に胸をざわつかせるが、それは現状まぁ置いといて。 はい、どうぞと。彼女の両手にそれぞれハタキと空のバケツを持たせる。 そしてそのまま玄関先に向かい、OPEN札を裏返しておく。今日は早々に店じまいだ。 「……部屋の片づけ、一緒にやってもらってもいいかい?」 「お任せください。謹んでお受け致します」 普段から綺麗にしておかないから別嬪さんに迷惑かけるんだよ、と。 今は亡き母が空から怒っているような幻聴がした。 うむ、ごもっとも。 この情けない現状は自分だって心苦しいし恥ずかしいのだ。 とりあえずは、えっちな本だけ先に片付けておくことにしよう。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/21
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 07:14:10.65 ID:lfj9bXFJ0 彼女を招いたのがお昼過ぎくらいの頃だったか。 今やすっかり日も傾いて、もう夜の帳が下りそうな時間だ。 もっとこう、時間もあれば多少は片付けて招けたのだが……などと、心の内で言い訳だけ噛み砕く。 彼女の尽力のおかげで、居住地だけではなく、トイレ、風呂、果ては事務所の隅々まで見事に綺麗になっている。 久々に自分の部屋の床が見えて感動していた昼下がりの自分が、また何とも残念な大人っぷりを醸し出していた。 サンディは、未だに事務所の床をモップで一所懸命に磨いている。 そんなに擦ると摩擦係数がなくなるんじゃなかろうかと思ってしまう程だ。 「お疲れ様、サンディ。まだしんどいだろうに、初日から無理させてごめんね」 「いいえ、ご主人様。私如きがお役に立てるのならば幸いです」 滔々と彼女は言う。 滅私奉公が義務のような言い方だ。 そんな言葉を使い慣れているのが、今までの環境を想起させてくる。 「君が居てくれて良かった。今日はこのくらいにして、夕飯にでもしようか」 そんな素直な感想を伝えると、彼女は一瞬ピタっと動きを止めて、目を大きく見開いて驚いていた。 何か不味い事でもあったのかと心配していると、 「……今、なんと?」 と、訊ねてきた。 「いや、もう今日は終わりにして、ご飯でも食べようかって……」 「いえ、その、前の、言葉です……」 「ああ、君が居てくれて良かったっていうあれか。 うん、僕の正直な気持ちだよ」 「……っ」 彼女はその大きな瞳から、滂沱の涙を零し始めた。 とめどなく流れていくそれを抑えようと、サンディは両手を顔に添えて必死に堪えている。 「も、もったい、ない、おこ、おことば、です……。 あ、あり、ありが、……うっ、ありがどう、ございまず……」 当たり前の言動で心が震えてしまうほど。 虐げられてきたのだろう。傷ついてきたのだろう。 今まで辛かったのだろう。 かける言葉は、今の自分には見つからない。 ただ今日の夕飯は、とても美味しいものを準備してあげたい。 そう心に決めた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/22
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 07:34:15.98 ID:lfj9bXFJ0 涙を流していたサンディを事務所のソファに座らせ、手元にティッシュを添えてやる。 その対面に自分は腰をおろして、感情の起伏が治まるのを待ってみた。 「お見苦しいところを、失礼いたしました」 ずびっ、っと鼻を啜りながら彼女は謝罪を口にする。 ようやく泣き止んでくれた頃には、辺りは既に真っ暗になっていた。 時刻は十八時を回って少々。秋の半ばは夏に比べると宵の口が早くなる。 「いいよ、気にしないで。ゆっくり慣れていけばいいさ」 「お心遣い、恐縮です」 不器用に頭をかくん、と下げてくる。彼女の年相応な本意の礼だろう。 何とも不慣れなのが妙に可愛らしい。 「それで、今日の夕飯なんだけれど。何か食べたいものとかあるかい?」 「いいえ、特に。……それで、私は何をすれば宜しいのですか?」 「え、いや別に。何もしなくても、出前で適当に頼もうかなって」 「そうではなく。食べ物を貰うときは、相応の何かをするという事でいつも貰っていたので」 「そういうのは要らないし、受け取らないよ」 冷えた言葉が口から漏れた。 彼女の過ごした環境への憤りが、つい態度に出てしまう。 こういう点が自身の幼い所で、改善しなければならないところだというのに。 猛省しながらサンディを見ると、やはり空気が変わってしまった機微に触れている。 緊張していただろう体が更にこわばっており、顔面蒼白になっていた。 「も、も、申し訳ありません……ご主人様への不快な発言をしてしまい、まして……」 彼女のスカートの裾が大きく皺になる。両手で握りしめているから。 早々に誤解を解かねばならない。 「ああいや、違う、違うんだ。君に怒っていたんじゃない。 君がいた昔の場所を考えて、僕はつい変な空気にしてしまった。そして、不安にさせてしまった事を心から謝罪する」 赦してくれとは言えないが、誠意が伝わりますようにと思いながら大きく頭を下げた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/23
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 07:49:42.18 ID:lfj9bXFJ0 彼女の返答を待つまで頭を下げていたが、一向に答えが返ってこない。 嫌われてしまったか。 それも已む無しと思いつつ、ふと顔を上げると。 両手をあわあわと振りながらも、言葉に詰まって慌てふためく彼女の姿があった。 「あ、あの、あのその! お、お気にならさず、なさらず!? わ、私如きに頭を下げるというのは滅相もないというか何というか そういう風にされるのは生まれて初めてだからどうすればいいのか分からないというか私はそのあのそのその…!!」 一気にまくし立てて喋るから、後半は何を言ってるのか正直分からなかった。 だが、何とも愛くるしいその様に、つい吹き出してしまう。 嫌われていないのが分かっただけでも、こちらの心も随分と軽くなるものだ。 「ゴメンよ、サンディ。次から気を付ける。 付けるついでに取り直して、夕飯の相談をしよう」 「しょ、承知しました……」 尻すぼみな返答をしつつ、何となく「ここでは何もしなくても良い」と伝わってくれたようだ。 後は何か美味しいものでも食べよう。 食事というのは、それだけで心を満たしてくれる。 「ところで、君は何か好きな食べ物とかあるのかい?」 「す、好きな食べ物ですか……?」 「うん、ご飯を食べるついでと言っちゃ何だけれど、これから一緒に暮らすんだから、趣味嗜好とか知っておきたいんだ」 「出されたものは何でも全て食べていましたから、嫌いなものはありませんが……。 好きなもの、というのは存外難しいです……」 「まぁまぁ、何でもいいよ。インタビューみたいなものさ。 あくまで、好みだけ教えてほしい」 「そう、ですね……。今まで食べて来られたもの、で、美味しかったものと言えば……」 「>>27、ですかね」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/24
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 09:14:24.06 ID:lfj9bXFJ0 >>27 「お魚、ですかね」 これはまたずいぶん漠然とした好物だ。 種類は何か、調理方法はどういったものが好きか、味付けはソースと塩のどちらが良いのか。 色々と聞きたい所はあるが、まずは彼女の好きな物が分かっただけでも良しとしよう。 「そうか、君は魚が好きなのか」 「はい。特に食べ方のこだわり等はありませんが、お魚さんが好きです」 お魚さん。なにそれ可愛い。 こほん、と誤魔化すための咳払いを一つ。 「何で魚が好きなのか、聞いてもいいかい?」 「私は物心が着く頃辺りまで港町に住んでいたのだと思います。 もう記憶も朧気なので、どこに居たのかまでは思い出せないのですが。」 「ほぅほぅ」 「そこで覚えているのは、活気のある町と、顔も思い出せない母の手、そしてお魚さんを使った色んな料理。 だから、魚を食べているときだけは、何となく昔を思い出してもいいような気がしまして……」 「なるほどね」 「失礼致しました。つまらない話をして申し訳ありません」 「いや、いいんだ。話してくれて有難う。 おかげさまで出前のメニューがようやく決まったよ」 まだ報酬の振り込みが確認できていないからほとんど素寒貧だが、今こそ見栄の張り所。 サンディ、君にはジャパニーズ海鮮料理の金字塔こと“SUSHI”の魅力を存分に堪能してほしい。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/28
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 09:28:46.63 ID:lfj9bXFJ0 「……綺麗」 届いた特上寿司を見た彼女の感想だ。 美味しそう、ではなく、綺麗というのがまた何とも奥ゆかしいというか。 薄いピンクの霜降りが垂涎を誘う大トロ、こんなに並んでいるのは自分でもほとんど見た事がない。 イクラが宝石と喩えたのは一体誰だったか。今なら非常に共感できる。 眺めているだけで垂涎を誘う素晴らしい光景、お預けのままでいるのはあまりに惜しい。 「よし、では一緒に食べよう」 「?」 サンディは首をかしげてこちらを見てくる。 はて一体どうしたのか。 「一緒に食べても、宜しいのですか?」 「いいよ。むしろ君に食べてもらいたいから準備したんだ。遠慮はダメだぞ」 「……すいません。あまりにも普段と違う環境なので、その、どうしていいのか分からなくて」 「うん。 これから少しずつ慣れていけばいいさ」 そう言いながら、彼女の頭をくしゃりと撫でてみる。 こそばゆそうな、でもどこか嬉しそうな顔で撫でる手を享受してくれた。 「では、いただきます」 「い、いただき、ます……?」 自分が手を合わせるのを見たサンディは、その仕草を真似たのちに寿司に向かって頭を下げる。 そう。美味しい物を食べるという当たり前の日常。いや、寿司は当たり前ではないが。 人が日々の中で過ごすそんな幸せに、少しずつ、慣れていってほしい。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/29
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 09:34:51.89 ID:lfj9bXFJ0 昨今の出前寿司は、ワサビ抜きがデフォルトになっている。 別個でワサビは準備されており、それを醤油入れ用の小皿に分けて好みの量を取るのが普通なのだ。 ただ、きっと彼女の食べた一口目はきっと例外でワサビがてんこ盛りだったのだろう。 泣きながら寿司を食べる人を初めて見た。 それでも美味しそうに食べているその様は、お腹よりも、心を充分に満たしてくれた。 まだ食べていないのに、何故かこっちまで泣きそうになってしまうのは困りものだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/30
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 09:50:17.57 ID:lfj9bXFJ0 「少し横になっても良いですか?」 それを承諾すると、お腹いっぱいになったらしい彼女は充足したようにソファに横たわった。 どうやら食べ過ぎたらしい。 もともと線の細い少女だと思っていたから、これからどんどん食べてほしいものだ。 「こんなに美味しいものを食べたのは、とっても、久しぶりです……」 くりくりの大きい瞳を目蓋が覆い隠そうとしている。 どうやら眠気が襲ってきたようだ。まるで子どものようだと思いつつ、そういえば子どもだったなと再確認する。 食後のお茶でも準備するために席を立ち、再び戻ってきた頃には対面の少女は穏やかな寝息を立てていた。 就寝用のベッドは一つしかないから、彼女にはそれを利用してもらい、自分は事務所のソファで寝ることにしよう。 寝室には後から運ぼうと決め、まずは一服しようと自分が淹れた玄米茶を軽く啜る。 気持ちよさそうに眠っているサンディを見ると、心が温かくなる。ふっと自分の口元がたわんでしまう。 これは傍から見たら事案になるのか。などと変な事を考える前に、窓際にかけてあるカレンダーに視線を移した。 今日の日付は、十一月十一日。語呂も良くて覚えやすく良い日だ。 同居人というか居候が突然増えた日。 おおよそ一年という期間が長いのか短いのは今は分からないが、とかく、大切に過ごそうと思った。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/31
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 09:56:55.52 ID:lfj9bXFJ0 【今後の呼ばせ方について】 1:ご主人様のままで構わない 2:先生、お兄さん、など特定の呼び名(要安価) 3:主人公の名前(要安価) >>33-40までの間、多数決にて検討。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/32
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2017/11/07(火) 12:34:07.81 ID:lfj9bXFJ0 では、2番の「兄さん」にて採決を。ご協力に感謝。 ご主人様枠がレスで一つも無いという皆の優しさほんとすき。 のんびり書いているので、ゆるりとお茶でも飲みつつお待ちください。 感想やご意見などあれば是非ぜひ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/41
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