男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】 (597レス)
男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/
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428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 20:48:30.43 ID:4uI/TZsD0 耳に届くは夏の風物詩。 遠くから太鼓の音が聞こえてきた。 実際に叩いてはおらず、どうやら町内放送用の 大きいスピーカーで流しているようだが、 それだけでも祭りの雰囲気をこれでもかというほど増幅してくれる。 湖畔の傍にある公園のベンチで、僕はのんびりと空を仰いでいた。 薄橙色の黄昏だったカーテンはゆっくりと黒を纏い始めている。 夕暮れ頃に浮かんでいた入道雲も夜に染められているようで、 今は蝉の声と共に鳴りを潜めているようだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/428
429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 20:50:04.96 ID:4uI/TZsD0 周りを見渡せば人の波が視界に飛び込んでくる。 中々に壮観な混雑具合で、人混みが苦手は僕としては この中に後から飛び込むのかと考えると少しだけ肩が重い。 只、がやがやとしているが、その実なぜだか妙に心地良い。 祭りの賑わい故だろうか。 下駄足が奏でるカランカランという音と共に、 耳に入ってくるのは笑い声を基調とした穏やかな喧騒。 家族か、友人か、或いは想い人か。 様々な人間模様が目の前をゆっくりと通り過ぎていく。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/429
430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 20:53:56.36 ID:4uI/TZsD0 ふと、下駄の音が背後から自分に近づいてくるのを感じた。 振り返ってみると、そこには一人の女の子。 「お兄さん、お待たせしました」 和装の定番とも言える浴衣に身を包んだサンディがそこにいた。 日焼けした褐色の肌、烏の濡羽色を想起する黒艶な髪からのぞかせる、ほんのり紅潮した頬。 何やら少しもじもじしているのは、着慣れない服装に戸惑っているのかもしれない。 そんなしおらしい動作も兼ね揃えていて、奥ゆかしい大和撫子を体現しているようだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/430
431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 20:55:31.94 ID:4uI/TZsD0 濃紺の藍色を基調とした浴衣に身を包んだサンディ。 それを見た僕は率直な感想を告げてみた。 「うん、綺麗だね」 「………………っ!!!」 彼女はぼっと顔を更に真っ赤にして、しゅんしゅんと肩を縮こませるような素振りをする。 俯きがちに口元をもにょもにょさせる仕草もこれまた愛らしいというか何というか。 お祭りのために慌てて浴衣の買い出しにいったのは、どうやら正解だったか。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/431
432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 20:59:36.47 ID:4uI/TZsD0 サンディの分だけ買うと彼女は気後れするだろうから、 いちおう僕も大人用のそれを購入して、いま実際に着ていたりする。 和の心を形だけでもと整えてはみたが、こうして実際に袖を通してみると なかなかどうして粋なものだ。 「お兄さんも、とっても似合ってます……」 「え、本当!? 似合ってる?」 「ほ、本当です! すっごく、すっごく格好いいです!!」 両手をグーの形にして胸元に構え、ふんすと鼻息を荒げつつサンディは褒めてくれる。 なんだが言わせちゃったみたいで申し訳ないなぁと、頭を軽くかいてみる。 そのまま余った方の手をサンディの頭に添えて、整えられた髪を乱さない程度に少し撫でてみた。 ふふ、と少しくすぐったそうに顔をほころばせてくれる。 困ったことに、どうにも可愛い以外の言葉が出てこない。 彼女の微笑みは、見た人の語彙力を無くす効力でもあるのだろうか。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/432
433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:02:24.39 ID:4uI/TZsD0 「そ、それにしても思ったより時間がかかって申し訳ありません」 「気にしないで。少しは下駄に慣れたかい?」 「む、難しいところです……」 彼女は浴衣用の下駄を初めて履くものだから、 玄関を出た先の足取りなんてそれはもう覚束なくて危なっかしい。 なので近隣にある公園の周りを少し歩いて練習してくるとの事で遅くなっていた。 僕は祭りのために備え付けられていた公共用ベンチから腰を上げ、 さてどこから屋台を周ろうかなと思案をしながら一歩二歩と歩みを進める。 すると後ろから「うわっと、とと……」とこけないよう慌てるような声と共に 不規則なリズムの下駄音が聞こえて来た。 サンディはやはり歩き慣れていないようで、少しフラフラしながらも カルガモの赤ちゃんみたいに一所懸命ついてくる。 靴擦れ防止のため、鼻緒が当たる指間にはバンドエイドを貼ってはいるものの、 それでもこすれて痛まないように歩く歩幅には気をつけておきたいところ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/433
434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:04:51.81 ID:4uI/TZsD0 目線を下にして足元を注視しながらも、わたわた歩きをするサンディは実に可愛い。 だがそれ以上にハラハラしてしまう……。 折角の楽しい場でケガをさせてしまうのは保護者失格。 浴衣と下駄を見立てたのは僕だし、そこはしっかり責任を持たねば。 支えになるため、彼女の左手を優しく握ってみた。 手が触れた驚きからか、下を向いていたサンディは顔を上げ、 まん丸になった彼女の目が僕の視線とぶつかる。 すると途端にまた俯いて、ぽつりと呟いた。 「あ、ありがとう、ございます……」 身長差も相まって彼女の表情は見えないが、耳元がこれでもかというほど赤くなっている。 一足早い秋の訪れか。まるで紅葉のようだった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/434
435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:12:59.53 ID:4uI/TZsD0 まぁ、おじさんに片足を踏み込んだような僕と手を繋ぐのは恥ずかしいのだろう。 中々に慣れてくれないから何だかこっちも妙に照れ臭くなってしまうのは困りもの。 「ゴメンね、嫌だったら離してもいいからね」 そういうとサンディは首を勢いよくブンブンと振って、 繋がっている手を少し強く握り返してくれた。 僕らは人込みの中にゆっくりと歩みを進めていく。 今日はお祭り。荘厳な意味合いではなく、人の笑顔で包まれる賑やかな世界。 美味しいものでも食べながら、ぶらりと歩いてこの空気を堪能してみよう。 その中で、一秒でも長く彼女の笑顔が続くよう 喧騒が好きな神様へ向けて少しだけ祈ってみた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/435
438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:30:12.58 ID:4uI/TZsD0 ちんとんしゃん、と祭りの雰囲気を色濃く醸し出してくれるBGMが聞こえてくる。 そんな中でダラダラ歩みを進めていると、くぅぅと横から可愛らしいお腹の音が聞こえて来た。 発信源になった子は、それはもう恥ずかしさでいたたまれないような表情をしている。 そういえば夕飯を済ませていなかった事を思い出し、 僕とサンディは屋台の並んだ通りを歩くことに。 当の彼女はチョコバナナ、綿菓子、林檎飴と見慣れない食べ物に非常に興味をそそられており、 おのぼりさんの様に首を忙しなく左右に振っていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/438
439: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:33:04.35 ID:4uI/TZsD0 「お兄さん、あれはなんですか?」 「あれはヒーローを催したお面だよ」 「食べられるんですか?」 「食べられないよ」 「え、でもアンパン〇ンのお面があります……」 「彼は稀に食べられない顔を持っているからね」 「あ、ではあれは何をしているんですか?」 「あれは型抜きだよ。くりとった型の出来で賞金や商品がもらえるよ」 「食べられますか?」 「素材的に食べられなくはないけれど、たぶん止めといた方がいいよ」 「じゃあ、あれは何ですか?」 「金魚すくいだね。掬った金魚を持って帰って育てたりできるよ」 「食べられますか?」 「お刺身の文化はあるけれど、あれは食べられないよ」 今日のサンディさんは突然の腹ペコ属性を手に入れてしまったようだ。 このままでは射的の屋台を見ても食べ物の可否判定をしそうな勢いじゃないか。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/439
440: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:36:41.52 ID:4uI/TZsD0 「へい、サンディ」 「な、なんでしょうか?」 「お好み焼きとタコ焼き、どっちが好き?」 「ど、どちらも好きですが……強いて言えば、たこ焼きです」 「よっしゃ任せて、どっちも買ってくる」 「え、お兄さん!? お兄さん!?」 何故に一回泳がせる質問をしてしまったのか、それはきっと祭りの魔力。 ハードボイルドらしからぬ言動だが、そこはそっと目を瞑ってほしい。 たぶん僕も空気にあてられ、少し浮かれているのだろう。 お祭りとは得てしてそういうものか。童心をふっと思い出してしまうのも已む無し已む無し。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/440
441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:44:36.17 ID:4uI/TZsD0 少し離れた屋台にて双方の食べ物を購入し、サンディの所へ戻ろうと振り返ってみると。 遠目だと分からないが、どうやら浴衣姿の女性と話し込んでいるようだ。 知り合いなのだろうか? 屈託のない笑顔を浴衣の女性に向けていた。 例の事件のこともあるし、心内で少しだけ警戒レベルを上げながら元居た場所に歩みを進める。 だが、近づくにつれて自分の心配が杞憂なのが分かった。 サンディと話し込んでいるのは、よく買い物に行く洋服屋の店員だった。 確かサンディと初めて会った頃、動物園に向かう前に寄ってからあの店は贔屓させてもらっている。 当然僕も顔なじみになり始めていたので、まぁ互いに見知った仲ではある。 浴衣姿の店員がこちらに気付いて手を振ってくれた。 少し気恥ずかしさを覚えながら、食べ物の入った袋を片手に一任し、空いた手で手を振り返してみた。 その時にふと、気がつく。 その店員の背中に隠れるように、サンディと同年代の子どもがいる事に。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/441
442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:53:37.90 ID:4uI/TZsD0 「あら、お兄さん。偶然ですね!」 「いや本当に。店員さん、浴衣姿も似合っていますね」 「本当ですか!? いやー、イケメンから言われると悪い気はしませんね!!」 はっはっは、と互いに笑いながらも邂逅する。 こちらとしては偽りなく褒めているつもりだが、まぁ向こうの返しは社交辞令だろう。 アパレル系の方は何かとお上手なものだ。 ふと何やらピリッとした視線を感じる。 店員の後ろから発せられるそれは、子どもから生じていたものだった。 なんだか敵意のようなものを向けられているような気がする。 知らぬ間に嫌われるようなムーヴを見せてしまっていたのだろうか……。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/442
443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 21:56:46.59 ID:4uI/TZsD0 大きな目、クリっとした癖毛、中世的な顔立ち。 例えがあまり思い浮かばないが、芸能人の有名子役と言われても違和感のない子だ。 まぁ、うちの子も負けてはいないが。 背丈と雰囲気から察するに年齢はサンディと近いと予想する。 ……ただ、この子は男の子か?女の子か? 一体どっちだ? とりあえず質問してみることに。 「あの、後ろの子はご家族ですか?」 店員はからから笑って答える。 「この子は従弟ですよ。年の離れているのもあって可愛いのなんのって」 「そ、そうですか……」 男の子であったか。 うむ、探偵としてのカンが男の子と告げていたからね。やっぱりか。 などと誰にも聞こえない謎の強がりもとい勝利宣言を頭の中だけで考えていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/443
444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:07:46.52 ID:4uI/TZsD0 そういえばサンディは、日本に同じ年頃の子の友人が今の所いなかったのを思い出す。 もしこの子が友人になってくれたら、きっと彼女は喜ぶだろう。 いつの間にやら僕の背中に隠れるように収まっていたサンディの頭を軽く撫で、 そっと背中を押して前に出す。 「ほら、自己紹介」 「あ、え、あ……、さ、サンディです。 こ、こちらのお兄さんにお世話になっています」 よく言えました、と褒美のように手元のたこ焼きを手渡しする。 えへへ、と笑顔を見せる彼女は可愛い。 何でこんなに可愛いのかよ、と孫を歌う某演歌の歌詞の一部が想起されてしまう。 負けじと店員さんも、背中にいた子をグイグイ押し出してきた。 「ほら!あんな可愛い子が挨拶してきたんだから、アンタも自己紹介しなさいな」 「……みなせ、まお、です。真っすぐ生きるって、書きます」 なるほど、真生(まお)君か。良い名前だな。 確か中国の猫も、マオと呼ぶんだったか。そちらの意味も妙にしっくりくる。 サンディにとって、こっちでの初めての友達になってくれたら嬉しいけれど、 まぁそこまで干渉するのは庇護が過ぎるか。 両人でどこか気が合う所があればいいのだけれど、などと思ってしまう。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/444
445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:19:24.64 ID:4uI/TZsD0 店員のお姉さんは、よくできましたと言わんばかりにマオ君をぐりぐり撫でくりましている。 当の彼は、やめろよと口では言いながらも、嫌がる事無くされるがままだった。 どことなく照れているような素振りすら伺えてしまう。 ……おや、これはひょっとして? ひとしきり撫で終えたあと、店員はこちらを振り返って笑顔を向けてくる。 「それにしても、お互いに子ども連れって奇遇ですね。 お兄さんは彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」 「いやぁ、あいにく縁が無いものでして」 「モテそうなのに意外ですねぇ」 「それを言うならそちらこそ。彼氏さんとは予定が合わなかったんですか?」 「謙虚に地雷を踏むタイプの人ですか、お兄さん……! 彼氏なんてもう長いこといませんよ……」 店員のお姉さんは、げんなりと肩を落とすような仕草で、これみよがしに大きなため息をつく。 僕はこういう男女が絡む話は苦手なんだ、ハードボイルドだから。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/445
446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:20:56.47 ID:4uI/TZsD0 「で、でもお姉さんはきっとその内いい人ができますよ。お綺麗なんですから」 「いいんです、いいんです……。その優しさにしばし癒させてもらいます……」 「何なら僕が嫁さんにしたいくらいですよ」 「えー、ほんとにですか……?」 何となくお姉さんがまんざらでもない顔を向けてくる。 と、同時に空いた片手がギュッと握られた。 なんぞと思いながら視線を向けると、無表情でたこ焼きをもぐつかせながら サンディが僕の手を握ってきていた。 よくよく顔を覗き込むと目は虚ろで、瞳の中にはまるで出会った時のような 感情を殺したようなどんよりとした黒が見える。 えっ、サンディさんこわい。どうしたの? http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/446
447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:28:33.23 ID:4uI/TZsD0 謎のプレッシャーを感じつつ、ふと相手の方を見てみると、マオ君が店員さんの手を握っていた。 彼女はポカンとしながらも握られるがまま。 マオ君は顔を見られないように俯きながら、しかして真っ赤な耳で呟いた。 「姉ちゃんは俺がもらうから、いいだろ」 男前ですやん。なんて分かり易い初恋なんだ……! 敵意の目線を向けられていた事も理解した。 なるほど、お兄さんは全力で君の応援をするぞ。 そんな事を言われた当の本人は。 「はーーーー!! もう、可愛い!!! 姉ちゃんね、アンタがそんな事を言わなくなるまで、ずっと甘やかしてあげるからね!!!」 それを聞いたマオ君は、サンディと同じように無表情で死んだ魚のような目をしていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/447
448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:38:21.02 ID:4uI/TZsD0 サンディは握っていた僕の手を放して、つかつかとマオ君に近づいていく。 そうして悲しみの抱擁が終わった彼の前に立ち、次はサンディが彼にハグをした。 そして背中を二度三度、ポンポンと叩く。 その後にサンディとマオ君は初めて向かい合い、互いの目を見つめた。 はっ、とマオ君はサンディの何かを察したような仕草をする。 サンディと僕を交互に数度見て、その様子が終わったあとにサンディは無言で彼に向けて頷く。 次はマオ君が無言でサンディに抱擁を返した。 そして背中を二度三度、ぽんぽんと叩く。 抱擁が解かれたあと、彼らはほんの数秒だけ見つめ合い、何故か堅い握手を交わした。 この動作が行われている間、たったの一言も言葉を交わしていないのに。 何故かサンディとマオ君の間には確かな友情らしきものが生まれていた。 二人の表情を見るに、友情というか、同盟というか、仲間意識というか、そういうものすら感じてしまう。 彼らの思いなぞ終ぞ知らぬ僕と店員さんは、きっと同じ事を思っていたに違いない。 最近のシャイな子どもって、何も言わなくても友達になれるんだなぁ、と。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/448
449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga] 2018/10/15(月) 22:54:45.87 ID:4uI/TZsD0 そうして僕らは二言三言と世間話をしたあと、 もうすぐ花火が始まるとのアナウンスを機にそれぞれ解散した。 お姉さんは別所に二人分だけスペースを事前に作って陣取ってあるのだとか。 僕たちよりその場を早めに去る二人の背中を見つめる。 目に見えて分かるのは、身長差。 頭一つ少々足りていない背の高さが、きっとマオ君にはもどかしいのだろう。 願わくば、彼の初恋が実りますように。 前を向いてずんずんと歩き、何事もないような振りをしながらも おそるおそる好きな人の手を握ろうとする、一所懸命なマオ君の姿を応援したくなった。 日本でのサンディの初めての友達。いつか家に招いてみたいものだ。 サンディと手を改めてつなぎ直し、僕らは花火の見える広場へと向かった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509966048/449
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