役人「君と世界に花束を」【ガルパンSS】 (63レス)
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5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2017/07/30(日) 05:54:52.78 ID:DcA3DrBQ0 ◇◇◇ Sの提示した案は意外なものだった。 プロリーグ設立や世界大会開催で世界の注目が集まる中、CV33やら八九式やらチハやら、日本の高校戦車道の戦車は貧弱すぎて見栄えが悪い。そこでアメリカと戦時中のレンドリース法に近い契約を結ぶ。旧式で性能の劣る戦車は全て廃車にして、全てシャーマンやチャーフィー、パーシングに入れ替えるというのである。 大胆過ぎるプランには当然異論も出たが、Sの恐らく入念に準備したと思われる説明と爽やかな弁舌の前にやがて感心したような沈黙に取って代わり、気圧されたように辻の処分はとりあえず保留ということで散会となった。 「要は、損して得とれってことだ」 場所は変わって神楽坂のバー。Sは満足げな表情でロックの水割りを呷りつつ、辻に説明していた。会合の時とはうってかわってぞんざいな口調なのは、同期の辻しかこの場にいないからであろう。 「おまえが失敗したのは、廃校案にこだわり過ぎて反発を招いたからだ。たしかに学園艦を1隻潰せば数百億のカネが浮くが、そのカネが直接文科省の懐に入るわけじゃない。だったらもっと上手い方向に生かそうというのが俺の発想だよ。戦車貸与で日本からカネがアメリカに流れれば、向こうは貿易赤字の解消に向けて動いてるってポーズができる。日本側も格安で体裁を整えられる。通った予算は当然うちの、文科省の取り分だ。三方丸く収まる、ウィンウィンってやつさ」 「そんな強引な話がそんなにうまく進むと思うのか?」 「思うね。アメリカの通商部高官とはコネがあるしもう話は付けてある。あちらは大乗り気だよ。今の大統領はそういう派手なポーズが大好きだし、鋼鉄と車両を輸出できるってイメージが作れれば支持率にも反響が見込めるからな。日本の与党筋にも話は通ってる。FTA交渉を前にアメリカの顔色を伺いたいタイミングだったからな、スムースだったよ」 「しかし……」 思ったより着実に裏で話は進んでいたようだ。外務省重鎮の父親を持つSは文科省では異色の国際派として通っており、欧米各国とのコネと交渉に強かった。ただのブラフではないだろう。辻はなぜだかその事実に焦燥を覚えながら、なおも反論を試みる。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501360854/5
29: ◆663LzicDVs [] 2017/07/30(日) 09:25:03.78 ID:DcA3DrBQ0 「審議官。我々にもお手伝いさせてください」 「本来法案作成の実務は我々が行う業務のはず。審議官は承認と監督、対外折衝をお願いします」 「来年の国会の法案提出に間に合うよう、急ピッチで作業を進めますから」 次々と声が掛かる。辻は茫然とプリンタから吐き出された書類を手に取った。分厚いそれには、辻が求めて届かなかった豊富な知識と膨大な作業、そして多角的な検討と洗練の結果からなる、いくつもの法案の試案が詳細に記されていた。 辻が行っていた作業がバレたことについては別に驚くことではない。霞が関で噂が伝わるのは早いから、省議で辻が謀反的な発言をしたことも、非公式にとはいえSのプランに逆らう形で活動していることも水面下では知られていても当然だ。 「いや……でもしかしなんで……」 辻は頭を振る。 「というより君達、本当にわかっているのかね? この事案に関わるという事は、省全体の方針に逆らうという事なんだよ? この事が公になればこの場にいる全員処分されかねないぞ……っ?」 「「……」」 まったくぶれることのない視線が一斉に向けられて、辻は続く言葉を飲み込んだ。ここにいる人間たちはそのリスクを承知で、ここにいる。 本気で闘う気なのだ。それは辻の考えに共鳴して、とか辻を守るため、とかではないだろう。 彼らも戦車道に関わる人間として、直接戦車に触れずとも、選手たちと言葉は交わさずとも、どこかで戦車道の目指すべき目的を、その魂をかすかながらも感じ取っていたのだろう。だから自分たちのキャリアや立場を危険に晒してまで動く決意を下したのだ。 官僚は国家に仕える犬だ。権力という鎖に縛られた犬だ。でもその犬たちにだって誇りがある。自分の力を使い尽くしたいという誇りが。政治家の欲や上層部の体裁や自分の人事考課を上げるためでなく、国家国民のために働き、仕えたいという誇りが。 若き官僚たちが向ける眼差しを見つめながら、辻は不意に、自分の若い頃を思い出していた。誇りある犬だったころの自分だ。三流省庁と蔑まれていた文科省の扉をあえて叩き、この国の教育を良くするのだと燃えていたころの自分だ。Sも含めた周りの若手キャリアと連日、徹夜で身を惜しむことなく働き、酒の席では熱くも青臭い教育論を戦わせていた時の自分だ。 ……まだこんな、真っ直ぐな目をしていたころの自分だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501360854/29
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