梨子「5年目の悲劇」 (315レス)
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283: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:47 ID:hUsgo0N0O携(7/31) AAS
梨子「…………」

思わず唇を噛む。握り拳に力が入る。

彼女は、一切の弁明をしようとしなかった。

それどころか、最後の結論さえも私の口から言わせるつもりでいたのだ。

ふぅと息を吐き、言いたくなかったその答えを、口にする。
省1
284: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:48 ID:hUsgo0N0O携(8/31) AAS
千歌「正解だよ、梨子ちゃん」

出来ることなら聞きたくなかったその台詞が、遠慮なく放たれた。
285: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:50 ID:hUsgo0N0O携(9/31) AAS
梨子「千歌ちゃん自身は何も証拠を残していない。花丸ちゃんは誤解をしたまま」

梨子「あなたを捕まえても、花丸ちゃんとルビィちゃんが傷つく結果しか得られない」

梨子「ある意味でこれは完全犯罪と言っていいものよ。何しろ本当のことを知っているのは千歌ちゃん、あなたしかいないんだから」

千歌「いま梨子ちゃんに話したけどね」

梨子「ねえ、千歌ちゃん。いったい何があったの? わざわざ花丸ちゃんたちをけしかけてまで、鞠莉さんとダイヤさんの命を奪う動機は──」
286: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:50 ID:hUsgo0N0O携(10/31) AAS
千歌「善子ちゃんが死んだのは、私のせいなんだ」

そう言った千歌の目に、後悔とも怒りとも取れる感情が浮かび上がり。

やがて、千歌の告白が始まった。
287: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:52 ID:hUsgo0N0O携(11/31) AAS
千歌「善子ちゃんが大学受験に失敗したことを知ったのは、本当に偶然だった」

千歌「けれども、私も大学を中退した直後でね。何かをしてやれるような気分でもなかった」

千歌「そんな時、日本を発つ前の鞠莉さんとお話する機会があったの」

梨子「……それで、鞠莉さんに善子ちゃんを助けてあげるよう頼んだのね」

千歌「結構いい案だと思ってたし、実際、善子ちゃんは目に見えて元気になっていた」
省1
288: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:54 ID:hUsgo0N0O携(12/31) AAS
梨子「相談?」

千歌「9人で集まるって約束をした日から1週間くらい後だったかな。善子ちゃんから電話があったんだ」

千歌「ほら、果南ちゃんが言ってたでしょ? 内浦の海で新資源が見つかった話」

千歌「それ絡みで鞠莉さんたちがやってる不正……癒着? 横領? っていうのかな。善子ちゃん、それを知っちゃってね」

千歌「かなりギリギリのやり方だったらしくて、いつバレてもおかしくはなかった」
省4
289: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:55 ID:hUsgo0N0O携(13/31) AAS
千歌『海岸通りで〜……待ってたのに〜……』

千歌『き〜みは今日来て……あ、来た』

千歌『おーい!』

善子『────!』

千歌『ひさしぶ──後ろ、よけて!』
省1
290: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:57 ID:hUsgo0N0O携(14/31) AAS
梨子「轢き逃げ……」

千歌「救急車を呼ぶまでもなく、即死だった。他に人通りもなかったし、轢いた車にも逃げられて、私にはどうすることも出来なかった」

千歌「私の家に直接来るように言えば、善子ちゃんが小原グループの秘密に気づかなければ」

千歌「もっと言えば、私が善子ちゃんを小原グループに入れさせなければ、善子ちゃんはあんな死に方をせずに済んだ」

梨子「あなたは、その矛先を……鞠莉さんたちに向けたっていうの?」
省2
291: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)01:59 ID:hUsgo0N0O携(15/31) AAS
ふざけるな。

千歌のやったことは逆恨みでしかない。

八つ当たりで、その上こんな卑劣なやり方で、人の命を奪ったというのか。
292: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:00 ID:hUsgo0N0O携(16/31) AAS
千歌「……最初はね、私が鞠莉さんたちを殺すつもりだった。けど私にそれをする勇気はなかった」

頬を押さえながら、千歌が呟いた。

千歌「善子ちゃんを海に捨てて、あとは全部花丸ちゃんに押し付けた。彼女がどうしようと、その結果を私の答えにすることにした」

まさかルビィちゃんを巻き込むとは思っていなかったけど、と彼女は自嘲気味に付け加えた。
293: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:01 ID:hUsgo0N0O携(17/31) AAS
千歌「高森さんは……悪かったって思ってる。あの人、花丸ちゃんのことに気付き始めていて、私の部屋まで来たんだよ」

千歌「でも、Aqours以外の人に事の成り行きをどうにかされるのは、癪だったから……」

梨子「……あなた、おかしいわよ」

千歌「分かってもらおうなんて、思ってないよ」

間髪入れずに、否定の言葉が返された。
294: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:03 ID:hUsgo0N0O携(18/31) AAS
千歌「梨子ちゃんには……ううん、誰にも分からないよ。目の前でメンバーを殺された私の気持ちは」

千歌「あの頃のように、一つのユメを追っていたワケじゃない。みんなバラバラになってしまった」

千歌「だってそうでしょ? 生まれた環境も育った環境も違う9人が大人になって、いつまでも仲良く出来るワケじゃない」

千歌「現に、今の私を梨子ちゃんが理解出来ていない」

千歌「ユメを掴んだ人と、ユメを諦めた人」
省1
295: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:04 ID:hUsgo0N0O携(19/31) AAS
梨子「…………」

返すべき言葉が浮かんでは、喉の手前で消えてゆく。

善子が死んだその日から、或いはAqoursが優勝したその時から既に、彼女の頭のネジは外れてしまっていた。

それこそが、今回の事件の根幹だったのだ。
296: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:06 ID:hUsgo0N0O携(20/31) AAS
千歌「ねえ、梨子ちゃん」

千歌「私たちは、Aqoursは、輝いてたんだよね。あの日々は幻じゃ、なかったんだよね」

言いながら、彼女はポケットの中に手を突っ込もうとする。

その意味を知っていた私は腕を掴み、叫んだ。

梨子「幻なんかじゃない! 楽しいことも辛いことも、全部ひっくるめてあの日々があった!」
省1
297: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:07 ID:hUsgo0N0O携(21/31) AAS
梨子「私たちは確かに、輝きを掴んだ。私だって、あの日々の、千歌ちゃんのお陰で変わることが出来た!

梨子「千歌ちゃんと会えなかったら、スクールアイドルだけじゃない。今のユメだって、きっと諦めてた!」

梨子「それを、なかったことにしちゃいけないの!」

彼女のポケットから、隠し持っていたライターを力ずくで奪う。
298: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:09 ID:hUsgo0N0O携(22/31) AAS
千歌「…………」

千歌「そっか……そうだよね」

千歌「ありがとう、梨子ちゃん」

憑き物が落ちたように、彼女は笑った。
299: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:10 ID:hUsgo0N0O携(23/31) AAS
千歌「……梨子ちゃんが来なかったら、このまま学校に忍び込んで死のうって思ってた」

少しして、不意に飛び出た言葉に私はぎょっとした。

梨子「怖いこと言わないでよ。千歌ちゃん、火をつけるつもりだったんでしょ? 服の上からでもライター持ってるって分かったんだから」

千歌「あ、バレてた?」

梨子「千歌ちゃんの考えることなんて大体分かるんだから」
省1
300: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:11 ID:hUsgo0N0O携(24/31) AAS
千歌「でもライターは返して欲しいな。最後に、これだけは燃やしたいから」

反対側のポケットから取り出したのは、一枚の羽根だった。

くすんでいて、拾ってからかなりの時間が経っている。

元の色は分からなくなってしまったけれど……きっと、真っ白だったのだろう。
301: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:12 ID:hUsgo0N0O携(25/31) AAS
千歌「…………バイバイ」

灰になった、かつて受け取ったユメを眺めながら、千歌は小さく呟く。

あれから5年。彼女は何を思っているのだろう。

変わっていった皆に、自分に、どんなことを感じていたのだろう。

暗い表情からそれを読み取ることは、出来なかった。
302: ◆8TImjtGSKs [saga] 2017/07/16(日)02:13 ID:hUsgo0N0O携(26/31) AAS
梨子「これから、どうするの?」

千歌「どうだろう。警察に行くかは……少し、考えさせて」

くるりと反転し、私に背を向ける。
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