飛龍「双龍の涙」 (140レス)
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1: [saga] 2017/02/22(水)22:29 ID:0UXc6vHJ0(1/11) AAS
艦これです。地の文ありです。冒頭にグロテスクな表現を濁らせてますがします。あと長いお話を予定しています。

SSWiki : 外部リンク:ss.vip2ch.com
2: [saga] 2017/02/22(水)22:31 ID:0UXc6vHJ0(2/11) AAS
目の前に横たわる物がある。

それは元は蒼龍と呼ばれてて、私の従姉妹にあたる艦娘だった。

親愛なる蒼龍。

悩んだ時も、悲しんだ時も必ず側にいて激励を飛ばしてくれる、唯一無二の蒼龍。

だった物が、お腹から肌色のやけに長い器官と、半端に折れた骨格を白昼の最中に晒し、海面をぶくぶくと肥えた黄色い脂肪が、血液と溶け合わさった海水と分離して漂っている。
3: 2017/02/22(水)22:32 ID:hmfF5LixO携(1) AAS
ヴォエ
4: [saga] 2017/02/22(水)22:32 ID:0UXc6vHJ0(3/11) AAS
私は今不思議に思ってる。なんでだろう。私は蒼龍を本当の姉の様に思っていたはず。

信念心情。お互い意気投合する事は多くて、安心して背中を預ける事ができた、数少ない中の、特別な一人。

その特別な蒼龍の亡骸を、私は今、物として見てる。

海上に浮かぶわかめみたいに、元からそこにあった。私が立ち尽くすずっとずっと前からこの蒼龍はここに浮かんでいた。そんな風に思えてしかたない。

艦娘は艤装を展開すると、この脂肪と同じ様にぷかぷかと浮かぶ事ができる。
省1
5: [saga] 2017/02/22(水)22:34 ID:0UXc6vHJ0(4/11) AAS
だから私の目の前にはただの無機質でグロテスクな艦娘がある。

それには陳腐な絵画を眺めた時と同様に、何の感情も抱かない。

それが、不思議で仕方ない。

神通「飛龍さん!あと1分稼げます!早く蒼龍さんをどうするか決めてください!」

ふと神通ちゃんの叫び声が耳に入る。同時に今が戦闘中だった事を思い出した。
省3
6: [saga] 2017/02/22(水)22:35 ID:0UXc6vHJ0(5/11) AAS
摩耶「クソっ!飛龍!蒼龍を持って帰るのは無理だ!」

1つは、死亡した艦娘の回収の可否。これは一縷の望みに賭けた可能性の為の判断。

見ての通り、まだこの蒼龍は浮かんでいる。だけどもう死んでもいる。

だけど、艦娘は兵器だ。これは例え話し。物が欠けた、壊れて動かなくなったら、どうします。

買い換える手段を選択する人が大半だと思うけど、中々元とは同等の替えがきかない艦娘は、そう易々と捨てられない。
省1
7: [saga] 2017/02/22(水)22:37 ID:0UXc6vHJ0(6/11) AAS
でも、もちろんそんな手間とコストが掛かる事はしない。船渠と呼ばれる施設に運び込まれて融解した鋼材と燃料を混合した液体に投げ入れるだけ。

そこでは鋼材が持つ熱量で燃料は引火しない。船渠には艦娘を修復する為のポッドがある。繭のように白くて、卵型の容器が。

その中では燃料は引火点には達せず、常にギリギリの温度管理がされている。そしてそのポッドに投げ込まれた艦娘は時間が経つと修復が終わる。

ただそれだけで、艦娘の歯車は駆動し再び動かすことができる。

大切なのは身体じゃない。私たちの魂。これさえあれば、器の身体がどうなろうと知ったことじゃない。この時代じゃ魂は商品なんだから。
8: [saga] 2017/02/22(水)22:39 ID:0UXc6vHJ0(7/11) AAS
その為にも、仮初めの死を得た蒼龍を回収しなくちゃいけないの。

そうすれば蒼龍は、あぁごめんしくじっちゃった、次はまたならないよう頑張るね、と、生き返ってすぐあっけらかんと私達に謝って、ドジを踏んだ恥ずかしさから、舌を出してウィンクをするだろう。

そしてもう一度海原に旅立ち、蒼龍をこけにした深海棲艦を沈めるため矢を射続けるはず。

提督からすると、手塩にかけた練度の高い蒼龍を危うく損失してしまう所だった、ですむ。

お互い思惑は違っても、利は同じ所にある。
9: [saga] 2017/02/22(水)22:40 ID:0UXc6vHJ0(8/11) AAS
だけどこれは極めて異例なケース。

だってそう。誰かが一人息途絶えたって事は、軍配は敵の方に挙がっているのだから。

言い方が悪いけど撤退するのに荷物は少ない方がいい。全く動けないものを担いで、お互いがボロボロな姿で助け合って逃げ惑うのは辛い。

それに深海棲艦達からすると、それが面白おかしくてしょうがないんだろう。私達が壊滅寸前の深海棲艦相手に追撃戦を仕掛けるのと同じ。次の一手で絶対に狩れるくらい深手を負った獲物が、尻尾を巻いて逃れようと必死に右往左往するのが楽しくない狩人はいない。

そういう心理は誰にだってある。嫌悪感を示すなら、そんな状況に出会ったことがないからだ。
省1
10: [saga] 2017/02/22(水)22:46 ID:0UXc6vHJ0(9/11) AAS
私はおもむろに25mm三連装機銃を蒼龍に向ける。

25mm三連装機銃は一度には全ての弾薬を吐き出せない。銃身の加熱を防ぐ為、一門ずつ弾を撃つ。

空母の私が艦載機の装備を固めず、機銃を装備することは珍しい。私のお仕事は後方から矢を正確に放ち、前線で戦うみなさんのアシスタントをするお仕事。だから敵機を撃ち落とすのはお門違いというわけ。

だけど今作戦は私が旗艦だ。用途は違うけど、最悪の結末に備え機銃を装備させられた。それに最速で終わらせる為には25mm三連装機銃はとても特化している。

撃つ。蒼龍の亡骸を。もう一度、何度も。頭から爪先に向かうようにゆっくりとスライドさせながら。
省1
11: [saga] 2017/02/22(水)22:49 ID:0UXc6vHJ0(10/11) AAS
2つ目は、死亡した艦娘の回収が不可能な場合、旗艦がその艦娘の処理を行うこと。

艦娘は死んだら深海棲艦になる。

これは、深海棲艦と戦う為のお仕事に就てるみんなが知ってること。艦娘だけが共有する裏話なんかじゃなくて、大本営、提督、鎮守府に勤務する人間の方々。グリーンカラーの人達が知る事実。

鎮守府に勤務する人達はそういった裏話が漏洩しないようにと明記された書類に色々と記入するのだけど、人間、艦娘もそうなんだけど何かの拍子で漏れてしまって風の噂として流布される。それが一般市民の間じゃ都市伝説として扱われてもいるけど、あくまでそれは噂話程度。

大体、どうしてそこまでしなくちゃいけないのか。
省3
12: [sage saga] 2017/02/22(水)22:53 ID:0UXc6vHJ0(11/11) AAS
今日はここまでにします。
vip2chスレ:news4ssnip
以前書いたお話を知っていると多少雰囲気がわかると思うので一応です。見なくても内容がわかるようには頑張ります。
13: 2017/02/23(木)16:46 ID:78bBYH2J0(1) AAS
これはなかなか心に来るけどなんかリアルだなぁ…
14: 2017/02/23(木)17:29 ID:Lxy82JVL0(1/9) AAS
深海棲艦は3種類に分類され強さは4段階に分けられる。

いろは歌から名前を取る低級深海棲艦と、遭遇したら運の尽きな、鬼級深海棲艦と姫級深海棲艦。

この鬼級と姫級にはいろは歌からの名付けとは違って、固有名詞で一体を区別する。それは数は少ないけど、一体が桁外れで、規格外の強さを持っているから、ただの深海棲艦としては扱えないから、そう名付ける。

その2種類の深海棲艦を除いた、他の深海棲艦にも当然だけど強さの序列がある。

誰が一番強いかとかの話じゃなくて、強さの指標になる、
省1
15: 2017/02/23(木)17:34 ID:Lxy82JVL0(2/9) AAS
この違いはとっても簡単に解る。standard。文字通り、標準的で特筆することもない、深海棲艦と検索すればヒットする名前通りの見目形を持つ深海棲艦を指す。

elite。ここから姿形、ていうか、威風を纏い始める。いわゆるオーラだ。禍々しいにオーラをその身に漂わす。おかげで一目で優先順位がつけられて好都合なのは別の話。

eliteと呼ばれる深海棲艦は赤色のオーラを漂わせる。そしてflagship、改flagshipも同じ様な変化を生じさせる。

flagshipは黄色のオーラを。改flagshipは黄色のオーラの他に迸る青の閃光を眼の周りに放つ。

これらの変化はただ虚勢を張る為のお飾りなんかじゃない。単なる深海棲艦とは違って、下から順当に、格段に攻撃翌力が跳ね上がるの。
16: [saga] 2017/02/23(木)17:39 ID:Lxy82JVL0(3/9) AAS
どうして生物の深海棲艦に、そんな変わり様があるのか。

それは死亡した艦娘の処理を怠ったか、やむ終えずそのまま放置して撤退をしたかで決まる。

何の関係性があるのかと言うと、死亡した艦娘の練度によって深海棲艦の強さの指標が変わると同時に、肉体の処理の具合によって、より力を持った深海棲艦が誕生する確率が上がるということ。簡単に言うと死体の状態が良好であればあるほど、力を持った深海棲艦に変化してしまうということ。

もちろんそれとは関係無く自然に生まれる事もあるけど、可能な限り、自分達の脅威になる可能性は潰しておかなくちゃいけない。

万が一にも処理を怠って姫級、鬼級の深海棲艦が誕生してしまったら大変だ。その一体が何体、何十体の艦娘を殺しかねない。
省1
17: [saga] 2017/02/23(木)17:40 ID:Lxy82JVL0(4/9) AAS
もう1つ。なんで旗艦が死亡した艦娘の処理を担うのかは、リーダーである私の責任だからだ。

敵と交戦し、戦闘終了後には必ず鎮守府に損害情報を連絡しないといけない。そして現状で海域の攻略が可能か、不可能かを提督が判断し進軍、撤退の命令を出す。

その判断に従って私たちの生死は決定づけられるから、絶対に情報の齟齬が発生しないようにしなくちゃいけない。

今回の提督の采配は進軍だった。つまりは現段階においての海域の攻略は可能であるとの判断だ。

しかし今蒼龍は沈みつつある。提督は可能だと言ったはずなのに。
省2
18: [saga] 2017/02/23(木)17:42 ID:Lxy82JVL0(5/9) AAS
そして、最後の3つ目は。

榛名「飛龍さん!時間切れです!撤退します!」

私が蒼龍の顔から右胸辺りまで貫き終えた時、榛名さんは私の肩に勢いよく手を置きそう話した。

でも私は作業の半分も終えてない。私の為にも、みんなの為にも、そして蒼龍の為にも半端に終えるわけにはいかない。

飛龍「もう少しだけ時間を稼いでください!あと5分もあれば!」
省2
19: [saga] 2017/02/23(木)17:45 ID:Lxy82JVL0(6/9) AAS
そして私は周りをやっと確認した。榛名さんを除き、みんな満身創痍だった。みんな砲塔はへし折れ、艤装に内蔵されたガスタービンエンジンが不完全燃焼を起こし、排気口から黒煙がもくもくと燻っていた。浅く掠めた銃弾が秋月ちゃんの額をぱっくりと開いてもいた。

でも、あと少しで3つ目が果たせる。あと少しなんだ。

飛龍「ならあと1分でしん....」

榛名「いい加減にして!.....総員撤退します!輪形陣を組み、神通を先頭、後方に飛龍、秋月で一列とし、左側面を摩耶、殿は榛名が務めます!各自10m間を維持し対空防衛を優先してください!そして鎮守府からランデブーポイントの指示が出るまで、時速23ノットで敵に背を向けぬよう、後退してください!神通さん!鎮守府へ撤退の電報をお願いします!」

神通「はい!」
省1
20: [saga] 2017/02/23(木)17:46 ID:Lxy82JVL0(7/9) AAS
飛龍「榛名さん!」

大きな声で呼び止める。すると私の悲痛な声に反応したのか、榛名さんは歩み止めたが。

榛名「今は逃げる事だけ考えてください。後で幾らでも文句を聴きますから。だからもう黙って私の指示に従ってください」

振り返らず吐き捨てる様にそう言った。そして私に見向きもせず後方に向かって行く。

今回の作戦で私は初めての旗艦だった。
省2
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