【女の子と魔法と】魔導機人戦姫U 第14話〜【ロボットもの】 (642レス)
【女の子と魔法と】魔導機人戦姫U 第14話〜【ロボットもの】 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/
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21: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:21:05.03 ID:PGdg3XaSo 明日美「…………分かったわ。 諜報部主任には私から話を通しておきます」 暫く考え込んでいた様子だった明日美は、小さな溜息を一つ吐くと、 そう言って執務机の引き出しから一枚のカードキーを取り出した。 魔力認証が当たり前となったご時世に、カードキーと言うのも中々アナクロだ。 だが、それ故に破りにくいと言う側面もある。 旧世代の電子錠を破るためのクラッキング装備では、巨大な物理錠は壊せない。 それと同じ理屈だ。 明日美はそのカードキーと、カードキーを読み込ませるための端末を取り出す。 明日美「それを持って受付に行きなさい。 彼女ならそれで分かってくれるわ。 但し、キーと端末は今から二十分以内に必ず返却しなさい。 ………いいわね?」 茜「…………はい」 どことなく思い詰めた伯母の様子に怪訝そうな表情を浮かべた茜だったが、 すぐに気を取り直し、神妙な様子で差し出されたキーと端末を受け取る。 明日美「会った諜報部の職員に関しては忘れなさい。 誰かに口外した場合はあなたでも二十四時間監視を申請するわ」 茜「……分かりました」 いつになく厳しい調子で言った明日美に、茜は緊張した面持ちで応えた。 そして、深々と一礼してその場を辞す。 明日美「…………ハァ……」 茜が立ち去った――魔力が遠のく――のを確認してから、明日美は深いため息を吐く。 アーネストも僅かに目を伏せ、何かを考え込んでいる様子だったが、 すぐに明日美に向き直って口を開いた。 アーネスト「茜君がこの任務を受けた理由は、月島レポートが目当てでしたか……」 明日美「母親に……明日華に悟られたくなかったのでしょうね……」 明日美はアーネストの言葉に頷くと、天井を振り仰いで呟き、さらに続ける。 明日美「特一級の権限で60年事件の事を詳しく調べていれば、 彼に当たりを付ける可能性はあるとは思っていたけれど……」 アーネスト「しかし、亡くなっている人間まで調べると言うのは……些か……」 明日美「あの子にしてみれば、少しでも事件の真相に繋がる情報を知りたいのでしょう……」 言葉を濁したアーネストに、明日美は遠くを見るような目をしながら呟いた。 事件の真実。 それこそが、月島レポートが重要調査報告書として位置づけられる原因だった。 生前の月島勇悟には、60年事件の首謀者と思われるテロリストとの繋がりがあったとされている。 それが判明したのは彼が逮捕されてすぐの事。 用意周到に抹消されていた痕跡の中に残った、僅かな数のアクセス記録。 それは、当時は既にテロリストの手に落ちていた、 第七フロート第三層にあったかつての山路技研へのアクセス記録だった。 詳細なアクセス先はと言えば、厳重にブロックされ、 現在もアクセス不可能となっている、技研のメインフレーム……中枢コンピューター。 最終の日付は逮捕される直前の物。 改めて尋問と言う、その直前になっての自決。 確定情報ではないが、確定的と言っても間違いない繋がりだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/21
22: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:21:50.96 ID:PGdg3XaSo 明日美「因果な物ね……。 まさか、姪に昔の恋人の事を聞かれるなんて……」 明日美が自嘲気味に呟くと、アーネストは複雑な表情を浮かべて目を伏せた。 そう、昔の恋人。 明日美は月島勇悟と関係を持っていた時期があった。 終戦間近の頃から、父が亡くなってしばらくの間は、 明日美にも恋人と呼べるだけの関係の男性がいたのだ。 その頃の月島勇悟と言えば、まあ分かり易い技術屋と言った印象の男性で、 どこか父に似た雰囲気を持った男性だったと、明日美は記憶している。 父に似ていたから惹かれたのか、今となっては定かでない。 ともあれ、父の死を境に明日美は勇悟とは疎遠になり、 彼が亡き父の後釜として技術開発部の主任になった頃には、 もう既に二人の関係は冷め切って終わっていた。 明日美はそれ以後、新たな恋人を作るような事はなく、 未婚のまま現在に至るワケである。 アーネスト「未練が……お有りですか?」 明日美「……っ」 躊躇いがちなアーネストの質問に、明日美は驚いたように少し目を見開いた。 そして、沈思する事、およそ十秒足らず。 明日美「……分からないわね……正直」 自嘲の笑みと共に漏れたその言葉は、嘘偽り無く、明日美の本音だった。 かつての恋人であった月島勇悟がテロに荷担していたとすれば、 どこかであの真っ正直な技術屋がテロに傾倒するような事があったのだろう。 関係が終わっていなければ、彼を止められたのかもしれない。 そんな思いは確かにあった。 だが、その頃に男性として彼を愛していたかと聞かれれば、 テロや統合労働力生産計画の件を除いても、答はノーだ。 公的機関の司令としての責任感と、かつての恋人への拒絶の思い。 そんな複雑な感情が混ざり合った故の答だった。 アーネスト「……申し訳ありません、妙な事を聞きました」 明日美の返答と、その言葉の裏にあるであろう思いを感じてか、 アーネストは目を伏せたまま謝罪の言葉を口にする。 明日美「構わないわ……。 ただ、少し驚いただけよ」 そんなアーネストの様子に、明日美は笑みを浮かべ、 気にするなと言いたげにそう告げた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/22
23: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:22:42.17 ID:PGdg3XaSo 一方、司令執務室を辞した茜は、 明日美の指示通り、カードキーと端末を持って受付へと向かった。 そこで普段は一般職員として振る舞っている諜報部職員と合流し、 受付右手にある階段を登り、踊り場の折り返しにあった隠し扉を抜けて、その先に向かう。 美波「いや、まさかアッカネーンからコレを見せられるとは思ってなかったよ」 茜の先を行く諜報部職員――美波――は、 そう言ってカードキーと端末を肩の高さに掲げ、“にゃはは”と珍妙な笑い声を上げた。 茜「アッカネーンもやめて下さい……」 対する茜は、新たな素っ頓狂な渾名に溜息を漏らす。 そして、“むぅ、コレも駄目か……”と次なる珍妙ネームを考え始めた美波の背を見る。 昔からおかしな人だとは思っていたが、まさか諜報部職員だったとは思いも寄らなかった。 そう言えば、大叔母の明風からは、 “身体が小さい方が諜報任務に向く”と幼い頃から聞かされていた事を思い出す。 茜は背の高い方だったが、自分より頭一つは低いだろう背の女性は、 確かに遮蔽物の陰に隠れるには適した体型だろう。 美波「にゃはは、驚いてるでしょ? 生活課広報二係受付職員市条美波とは仮の姿。 実は私こそがギガンティック機関司令部直属、 諜報部職員市条美波さんなのでした〜」 振り返る事なく、戯けて自慢げに言った美波だったが、 茜は思考を見透かされたような気がして、思わず身構えかけた。 美波「あ〜、そんなに固くなんなくたって良いって。 アタシのコッチでの仕事は基本的に他の職員の監査と事務処理だし、 万が一アッカーネンに本気で襲い掛かられたら五分も保たずに負けちゃうから」 茜「アッカーネンもやめて下さい……アッカネーンのと違いが分かりません」 笑い声混じりの美波に溜息がちに返しながら、茜は内心で舌を巻く。 五分も保たずに、と言う事は、その時間よりも短ければ保たせる事が出来ると言う事だ。 彼女が言う“監査”とは、監査は監査でも、もしかしたら内偵の部類に入る監査では無いだろうか? この人が地獄耳なのも、案外、常に肉体強化で聴力を強化しているのかもしれない。 茜(……本当に、人は見かけに依らないな……) 茜はそんな事を考えながら、美波の後に続いて、通路奥の扉を抜けて狭い部屋に入った。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/23
24: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:23:30.48 ID:PGdg3XaSo 茜(ここは随分と寒いな……) 部屋に入った瞬間、室温が五度は下がった感覚に、茜は思わず身震いした。 空気も乾燥しており、高温を発する精密機器が置かれている場所だと推察できる。 美波「寒いでしょ? ここ司令室の真下ね。 メインフレームの冷却パイプが剥き出しで通ってるから、 特にその辺りの配管は触らない方が良いよ」 美波はそう言って、壁にビッシリと通っている配管の一部を指差した。 茜がそちらを見遣ると、確かに数本の配管に微かな霜が付着しているのが分かった。 美波は部屋の奥にあるコンソール前に座ると、 コンソールに端末を接続し、カードキーを読み込ませた。 美波「月島レポートでいいんだよね? かねかねの端末にダウンロードするから端末貸して」 茜「かねかねもやめて下さい。 ……いいんですか、秘匿ファイルの類だと思いますけど?」 後ろ手に手を差し出して来た美波に、茜は盛大な溜息を吐いてから、 怪訝そうに端末を手渡す。 美波「うん、ここからのアクセスだと司令室にはアクセスログ残らないから。 ファイルも時限式で十時間以内に消えるようになっているから安心して」 美波は手慣れた様子でコンソールを操作すると、 携帯端末に何某かのファイルがダウンロードされたようだ。 美波「はい、これが月島レポート。 第三者への開示、提示は原則禁止。 ここの端末以外からの複製は如何なる理由があろうとも厳禁。 司令か副司令、若しくは三人以上の各部署主任の許可を得た上でなら、 許可された人への開示は許されているわ。 無許可の開示・提示と複製は査問と三年以上の監視だから注意してね」 茜「了解です……」 口調はともかく、普段と違い、どこか落ち着き払った様子の美波から端末を返して貰い、 茜は緊張した面持ちで頷く。 似たようなやり取りを政府の公安局の職員ともしたが、 普段が素っ頓狂な美波が相手と言う事もあって、それ以上の緊張感がある。 美波「今からだと今夜の一時半頃には消えちゃうから注意してね。 まあ、あまり長くないレポートだから小一時間もあれば読み終わると思うけど」 茜「……はい」 また“にゃはは”と笑った美波の言葉に、茜は僅かに緊張を解いて頷いた。 二人はその場を辞し、気配を見計らって階段の踊り場に出ると、 アリバイ工作と言う事で司令室への挨拶に付き合って貰ってから受付に戻って別れ、 キーと端末の返却を自ら買って出た美波に任せた茜は、荷物を取りにハンガーへと向かった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/24
25: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:24:24.91 ID:PGdg3XaSo ―4― ハンガーに赴き、ギガンティック機関側の整備責任者への挨拶を終えた茜は、 人員輸送車両に預けていた当面の着替えの入ったスーツケースと私物を入れたバックパックを回収し、 一旦隊舎の外に出てから隊舎隣の寮へと向かう。 明日美達や司令室への挨拶とレポートの回収をした事もあって、 ロイヤルガードからの出向メンバーの手空きの人員で寮に向かうのは茜が最後だ。 茜「………」 クレースト<考え事ですか、茜様?> 神妙な様子の主に、クレーストはどこか心配そうに尋ねる。 茜<ああ……。 レポートを閲覧できるのは良いが、 捜査の上でこれにどれほどの価値があるのかと思ってな……> 茜は愛器に思念通話で返しながら、小さく溜息を漏らす。 正直な話、月島レポートに60年事件に関してどれだけの関連性があるかなど分からない。 茜(それでも……少しでも事件の真相に辿り着けるなら……) 茜はそんな強い気持ちを込めて、肩に提げたバックパックの紐を強く握り締めた。 だが、寮に入った所で茜は驚いて目を見開く。 茜が五年前に研修でギガンティック機関にいたのは、先に説明した通りだ。 無論、その研修期間中はこの寮を使わせて貰っていたし、その頃の構造も覚えている。 だが、以前なら男女共同のスペースを抜けて先に行けた筈の通路に、 今は大量のパーテーションが置かれて仕切られており、先に進む事が出来ない。 茜(改装でもしたのか?) 最初は驚いた様子の茜だったが、すぐに冷静にそう判断し、 パーテーションの前で曲がってその先……食堂に入って行く。 と、今度こそ驚きで目を見開いた。 パンッ、パンッ、パンッと甲高い音が三度も響き渡り、茜は身を竦ませる。 茜「ひゃっ!?」 身を竦ませて、驚いたような短い悲鳴を上げた茜は、だがすぐに立ち直って辺りを見渡す。 どうやら甲高い音の正体はクラッカーだったらしく、細かな色紙や紙テープが宙を舞っている。 そして、食堂内にはロイヤルガードの仲間達や、 ギガンティック機関の職員達が入り乱れて談笑したいた。 手作りの飾りで所狭しと飾られた広い食堂は、さながら立食パーティの会場となっている。 先ほどの通路のパーテーションも、この会場に誘導するための仕掛けだったようだ。 そして、両サイドと正面で固まっている三人の少女。 ?「ご、ごめんなさい……。 その……凄く、驚かしちゃいました?」 特に正面にいる少女は、どこか申し訳なさそうな雰囲気で怖ず怖ずと尋ねて来る。 茜「あ、いや……いきなりだったから、つい。 だ、大丈夫だ」 目の前の少女が余りにも申し訳なさそうな雰囲気だったので、 茜も恐縮気味に彼女をフォローした。 そして、すぐに少女が誰だか気付く。 茜「ああ、君はさっきの……朝霧空さんだね」 目の前にいた少女とは、空だった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/25
26: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:25:18.14 ID:PGdg3XaSo 空「はい! 現在、前線部隊で副隊長を任せられている朝霧空です。 ……って、三時間前にも自己紹介しましたよね」 姿勢を正して丁寧にお辞儀をしながらの自己紹介をした空だったが、 三時間前にも通信機越しに名乗っていたのを思い出して、照れ隠しの笑みを浮かべた。 茜「いや、しっかりとした自己紹介は必要だよ。 今日から出向となった本條茜だ。 よろしく頼む」 茜がそう言って手を伸ばすと、空は破顔する。 空「はい、よろしくお願いします、本條小隊長」 茜「三ヶ月とは言え、寝食を共にするんだ。 そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。 ……茜で構わないよ」 空「はい、茜さん! 私の事も空で構いません」 手を握り替えした空は、茜がそう言うと大きく頷いて微笑む。 茜「ああ、よろしく頼むよ空」 そう言って笑みを返した茜は、改めて両サイドに視線を向ける。 茜「で、お前達は何か言う事は無いのか? レミィ、フェイ……」 呆れ半分と言った風に呟いて、 茜は両サイドの二人……レミィとフェイを交互に見遣った。 フェイは普段通りに無表情無感情を装っているが、 レミィは初対面の人間が多いせいか、頭には大きなベレー帽を被っており、 普段は伸ばしている尻尾もスカートの中に隠していた。 レミィ「いや、思わぬ可愛らしい悲鳴が上がって、ちょっと思考停止が、な?」 フェイ「お久しぶりです、本條小隊長。三時間と十八分ぶりですね」 対して、二人はやや視線を泳がせつつ、 レミィは少し困ったように、フェイは淡々と返す。 茜「二人ともこっちを見ろ。 そして、レミィは忘れろ、フェイは誤魔化すな」 茜は先ほど、思わず上げてしまった悲鳴の事を思い出して頬を染めると、 少し怒ったように言ってから、辺りを見渡した。 幸い、他にこちらに気付いた様子もなく、部下達にも聞かれなかったようだ。 茜(全く……レオン辺りに聞かれた日には、 後で何を言われたか分かった物じゃないからな……) レオンが離れた場所で談笑しているのを確認した茜は、安堵の溜息を漏らしてから口を開く。 茜「ふぅ………久しぶりだな、レミィ、フェイ。 変わらない様子で何よりだ」 レミィ「お前もな。さっきは助かったよ、礼を言う」 フェイ「本條小隊長もご健勝のようで何よりです」 正面に出揃った二人は、茜にそう返す。 レミィも嬉しそうだが、フェイも淡々としながら心なしか嬉しそうに見える。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/26
27: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:25:58.65 ID:PGdg3XaSo 茜「コレはうちの連中への歓迎会か?」 空「はい、クララさんが企画して下さって、 一昨日から少しずつ準備をしていたんですけど……」 茜の問いかけに答えていた空だったが、最後は苦笑い混じりに言葉を濁す。 茜「クララさん? ……ああ、そう言えば、彼女は司令室にいたようだが……」 怪訝そうに首を傾げた茜は、思い出したように呟く。 確かに、つい先ほど司令室に出向いた時は、クララは他のメンバーと共に、 特に退屈そうな顔をして自分の席に座っていた。 レミィ「歓迎会も良いが、注意報レベル1発令中に司令室を空っぽにするワケにはいかないからな……。 各部署、最低一人は留守番を残す事になったらしいんだが……」 フェイ「技術開発部で留守番役に選ばれたのがサイラスオペレーターだったそうです」 どこか遠い目をして語り出したレミィに、フェイが淡々と続く。 成る程、プランナー不在なのはそう言う事らしい。 茜「それは、まあ……ご愁傷様だな」 ようやく司令室でぶーたれていたクララの真相を知って、茜は少し噴き出しそうになって呟く。 レミィ「まあ、折角クララさんが企画してくれたんだ、お前も楽しんで行ってくれ」 レミィはそう言って、半ば強引に茜の荷物を預かった。 フェイ「本條小隊長、是非こちらへ」 そして、荷物を預かられて身軽になった茜の背を、 フェイがらしからぬほどの強引さで押して行く。 茜「なっ、お前ら、何だそのコンビネーションの良さは!?」 レミィ「最近はモードHのお陰でお互いの呼吸も分かるようになって来たからな」 フェイ「何ら問題を生じる事案では無いと思われます」 レミィとフェイは、慌てふためく茜を半ば無視して会場の中央へと誘い、 空も小走りでその後を追う。 四人が会場の中央へと辿り着くと、軽食の載せられた皿やコップで埋められたテーブルのど真ん中に、 縦横高さ三十センチほどのラッピングされた箱が置かれていた。 茜「コレは……何かのプレゼントか?」 途中から半ば諦めて歩いていた茜は、その箱を眺めながら小首を傾げる。 空「はい、瑠璃華ちゃんからのプレゼントです」 茜「瑠璃華から?」 空「開けてみて下さい」 空の言葉にまた首を傾げると、開けるように促され、 茜は箱のリボンを解き、その蓋を開いた。 すると―― 茜「ひゃう!?」 ――箱の中から小さな手が伸びて、茜は思わず悲鳴を上げてしまう。 さすがにコレには周囲の人間達も気付いたらしく、何事かと視線を向けて来る。 茜「!? ……ん、コホンッ」 茜は頬を染めながらも、大慌てでその場を取り繕うが、 少し離れた場所ではレオンが腹を抱えて笑うのを堪えていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/27
28: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:26:53.15 ID:PGdg3XaSo ?????「大丈夫ですか、茜様?」 そして、そんな茜に、箱の中から伸びた手の主が声を掛ける。 それはよく聞き慣れた声だった。 茜「まさか、クレーストか?」 茜は驚いて箱の中を覗き込むと、そこには二十センチほどのサイズで 二頭身にデフォルメされた姿のクレーストがいた。 そう、空達のドローンと同じ仕様のデフォルメクレースト型クローンだ。 クレーストは短い手足を器用に使って箱の外に飛び出すと、 そのまま飛行魔法で浮遊して茜の元に行く。 空「瑠璃華ちゃんが作ったドローンです。 勿論、私達の分もあります」 空がそう言うと、いつの間にか彼女の肩にエール型ドローンが腰掛けていた。 フェイの差し出した腕の上にはアルバトロス型ドローンがちょこんと止まり、 レミィの頭の上……ベレー帽の上にはヴィクセン型ドローンが寝そべっている。 茜「ああ、コレが噂の瑠璃華謹製ドローンか……。 ふーちゃんから聞かされてはいたが、これは確かに良いな」 空「ふーちゃん?」 クレーストを抱き上げた茜が感心したように漏らすと、 その中に聞き慣れない人名を聞きつけた空が首を傾げた。 レミィ「ああ、ウチの隊長の事だ。 風華さんとコイツは親戚同士で幼馴染みだしな」 そんな空の疑問に答えたのは、噴き出しそうになっているレミィだ。 フェイ「素が出てらっしゃいます、本條小隊長」 茜「あ……!?」 フェイからの指摘を受けて、茜はまた顔を真っ赤に染める。 茜「んっ、コホンッ! ………ふ、藤枝隊長から何度か話を聞いていたが、見るのは初めてだ。 いや、中々可愛らしい物だな」 茜は顔を真っ赤にしたまま咳払いすると、やや棒読み加減の早口でまくし立てる。 だが、その声も肩も羞恥で震えており、ただでさえ誤魔化しきれる状況ではないと言うのに、 その様子がさらに拍車を掛けていた。 この場に英雄・閃虹の譲羽ではなく、 普段の結と言う人物をよく知る者がいたら、おそらく口を揃えて言うだろう。 “嗚呼、この娘……間違いなくあのオトボケ一級の孫だ”と。 レオン「お、お嬢、む、無理……すんな……ぶはっ」 レオンは声を震わせて絶え絶えにフォローするが、耐えきれなくなったのか盛大に吹き出す。 茜「お、お嬢って言うにゃー!」 空(あ、噛んだ……) 羞恥で顔を真っ赤にして叫んだ茜を見ながら、 空はどうして良いか分からず、困ったような笑顔のままそんな事を思う。 とても数時間前に颯爽とイマジンを倒して見せた人物とは思えない。 だが、それが逆に“初対面”と言う僅かな距離感を感じさせる壁を打ち砕いて、 親しみ深さのような物を感じさせた。 口調も固く、颯爽としていた姿も凛々しく見えたせいか、 今のギャップはとても新鮮だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/28
29: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:27:51.54 ID:PGdg3XaSo レミィ「アハハッ、災難だな、茜」 その光景に、レミィも声を上げて笑っている。 しかし、それが悪かった。 茜「うぅぅ……! お前も隠し事するなーっ!」 茜は既に正常な判断を失っているのか、 頭から湯気が出るのではないかと言うほどに顔を真っ赤に染めて叫び、 レミィの被っている大きなベレー帽をヴィクセンごと取り去る。 無論、茜に悪意は無い。 彼女自身、レミィの秘密――人とキツネの混合クローンである事――は知っていた。 これは、羞恥のあまりの暴走だ。 空「あ!?」 空は慌てて茜の暴走を止めようとしたが、時既に遅く、 レミィの頭頂に生えたキツネ耳は白日の元にさらけ出され、 突然の事に驚いたせいか、スカートの中に隠していた尻尾も飛び出してしまう。 レミィ「うわぁぁっ!? み、見るなぁ!?」 レミィは慌てた様子で尻尾と耳を押さえてその場に蹲るが、 事情を知らぬロイヤルガードの隊員達は驚きに目を見開いている。 片手ずつでは両耳を隠す事も、フサフサの尻尾を覆い隠す事も出来ず、 手の隙間から溢れ出していた。 特に耳はビクビクと震えている。 そこでようやく茜は我に返った。 レミィが初対面の人間には、打ち明けられるまでこの事を隠したがっている事を思い出したのだ。 茜「あ、す、スマ……」 慌てて謝り、彼女を衆目から遮らんとする茜だったが―― ??「か、カワイイ!」 彼女の謝罪の言葉を遮って、歓声を上げたのは、誰あろう茜の部下の紗樹である。 少し離れた場所にいた紗樹は、殆ど一足飛びの勢いで蹲るレミィに駆け寄ってしゃがみ込んだ。 紗樹「ね、ねぇ、コレ本物よね? 本物の耳よね!? それに、こっちの尻尾も……。 触っていい? ねぇ、触ってもいい!?」 レミィ「え? あ……は、はい?」 異様な勢いで紗樹に迫られたレミィは、思わず頷いてしまう。 紗樹はしゃがんだ体勢のまま“ッしゃぁっ!”と叫んでガッツポーズを取ると、 改めてレミィに向き直る。 紗樹「じゃ、じゃあ……さ、触るわね?」 レミィ「ひぅ……は、はぃ……」 目の色を変えて昂奮しきりと言った風の紗樹に、レミィは思わず後ずさりかけたが、 有無を言わさぬ迫力の前に再び頷いてしまった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/29
30: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:28:39.16 ID:PGdg3XaSo そして、期待と昂奮でワナワナと震える紗樹の手が、 遂にレミィの頭頂……そこで怯えたように震える耳に触れる。 その瞬間、紗樹は電撃が走ったかのようにビクリと身体を震わせ、レミィも全身を震わせた。 僅かな……体感にして十数秒、現実にして二秒足らずの時間が経過する。 紗樹「や、やわらかぁい……モフモフしてる、モフモフしてるわ! あぁぁん、ぬいぐるみなんて目じゃないわ! 嗚呼、これが夢にまで見たリアルモフモフ!」 随喜の感激――と表現する以外の方法が思いつかない悦びよう―― から立ち直った紗樹は、レミィを抱き寄せると、 けたたましい歓声とは裏腹に、片耳に優しく頬ずりしながらもう片方の耳を撫でた。 その光景に、歓迎会の会場は静止する。 レミィ「あぅ……ふぅ……」 撫で慣れているとでも言えば良いのか、あまりの技巧派ぶりに、 レミィも思わず安らいだ吐息を漏らしてしまい、 尻尾もそれに倣うかのようにふにゃりと力なく垂れた。 紗樹「もう何なのこれ……! 堪らないわ、あぁ……一生モフモフしていたい……」 栄光ある皇居護衛警察の、それもオリジナルギガンティックを擁する小隊の 隊員とは思えない言葉を吐きながら、紗樹は歓喜のあまり涙ぐんでしまう。 レミィ「はぅ……あ……んん……」 最初は紗樹の異様さに警戒の色を浮かべていたレミィも、 最早陥落寸前と言いたげな甘い声を漏らしている。 その光景を遠目に見守っている面々も、ある者は唖然呆然とし、ある者は生唾を飲み込み、 ある者は赤面して顔を覆いながら、指の隙間からその光景に見入っていた。 ちなみに、空は三者目であり、茜は一者目、 フェイは何れにも属さず、異様な光景を無表情で見遣っている。 しかし、その光景も長続きはしない。 紗樹「嗚呼! カワイイ……ワンちゃんみたい……!」 歓喜の叫びを上げた紗樹が、その禁忌の言葉を呟いてしまった。 撫でられるに任せられていたレミィが、一瞬、ビクンッと痙攣したように身体を震わせる。 レミィ「ワンちゃん……だと……?」 蕩けたような甘い声を漏らしていたレミィの口から、不意に怒気に満ちた声が響く。 紗樹「へ?」 我を失っていた紗樹も、思わぬ怒声に首を傾げた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/30
31: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:29:33.37 ID:PGdg3XaSo その瞬間、紗樹の拘束が弱まり――と言っても、殆ど力など入れていなかったが――、 レミィは立ち上がって、紗樹を見下ろす。 レミィ「私はキツネだぁっ!」 紗樹「き、キツネ!?」 怒声で断言するレミィに、紗樹は愕然と叫ぶ。 そう、レミィにとって、犬扱いは禁句である。 どのくらい禁句かと言えば、彼女が普段から気にしている、 年齢にそぐわないスレンダーな体型よりも優先度に勝る禁句だ。 しかし―― 紗樹「つまり、ワンちゃんの尻尾よりもモフモフ!」 ――対して堪えた様子もなく、フサフサのレミィの尻尾を見遣って、 また目の色を変えて輝かせた。 だが、紗樹がふさふさの尻尾に飛び掛かろうとした瞬間、 彼女は背後から遼によって羽交い締めにされてしまう。 遼「東雲先輩、これ以上、恥を上塗りしないで下さい!」 紗樹「は、離して徳倉君!? そ、そこに、そこにモフモフの尻尾があるのよっ! 自然保護官の適性無しの私がモフモフの尻尾に触る機会なんて、 この先、一生無いかもしれないのよ!?」 羽交い締めした遼を必死に振り払おうとする紗樹だが、 頭一つ違う身長差の前には、足が持ち上がってしまい、ジタバタと藻掻く事しか出来ない。 レミィ「うぅぅ〜……っ!」 対するレミィも羞恥と怒りで顔を真っ赤にして紗樹を睨み付けているが、 紗樹の目はレミィの頭頂……そこで怒りに震えているキツネ耳に釘付けだ。 紗樹「嗚呼……モフモフぅ……」 転んでもただでは起きないとは、こう言う時にでも使える言葉だろう。 そして、周囲が唖然呆然とする中、レオンは腹を抱えて笑っている。 空(何だか、もう……しっちゃかめっちゃかだ……) 空はその光景を見遣りながら、心の中で呆然と呟いた。 しかし、そんな騒ぎがあったにも拘わらず、歓迎会は再開され、 機体の搬入作業を行っていた整備班や手空きの職員達も合流し、 時折、レミィと紗樹が奇妙なおいかけっこを披露する一面を見せながら、賑やかに終わった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/31
32: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:30:19.36 ID:PGdg3XaSo ―5― 三時間後、食堂―― 歓迎会は無事?、お開きとなり、今は生活課や有志による後片付けの最中である。 レミィ「もう今後は耳と尻尾は隠さない……隠すのが馬鹿らしくなって来た」 歓迎会の間、終始、紗樹に追い回されていたレミィは、 食器を運びながらげっそりとした表情で譫言のように呟いた。 どうやら、追い掛けられ過ぎて、逆に吹っ切れてしまったらしい。 空「あ、アハハハ……」 その傍らで、同じく食器を運んでいた空が乾いた苦笑いを浮かべる。 追い回されていたレミィには気の毒だが、吹っ切れたのは何よりだ。 二人は抱えていた大量の食器をカウンターに預けると、次の食器の回収に向かおうとする。 茜「すまない、ウチの東雲が迷惑をかけた……。 ……あ、いや、元はと言えば私が原因か……すまなかった、レミィ」 だが、そこに駆け寄って来た茜が、レミィの前で申し訳なさそうに頭を下げた。 自分の事もだが、流石に部下の自制の無さに落胆している所もあるのだろう。 実際、紗樹に大量のぬいぐるみコレクションの話をされた事はあったが、 まさかあれほどとは思いも寄らなかったのだ。 レミィ「いや、隠していたのは私の責任だからな……。 次から気を付けてくれたら、それでいいさ」 レミィは一瞬驚いたように目を丸くしたが、小さな溜息を一つ吐いて気を取り直すと、 やや疲れたような笑みを浮かべて言った。 茜「そう言って貰えると助かるよ……」 茜も顔を上げると安堵の表情を浮かべる。 その様子を見て、空も安堵した。 最初はどうなる事かと思ったが、どうやら事なきを得たようだ。 空「何だか、茜さんって最初の印象と全然違いますね」 茜「あぅ……」 空が微笑ましげに漏らすと、茜はがっくりと項垂れてしまう。 まあ、先ほどが失態の連続だっただけに、印象が違うと言われたら、 それはまあ幻滅したと言う意味に取れない事もないだろう。 うっかりオトボケ同士が巻き起こす負の連鎖である。 空「あ、違います!」 空も自分の言い様が言葉足らずであんまりだった事に気付いたのか、 慌てた様子で言うと、さらに続けた。 空「その……最初に見た時は、颯爽として格好良くて……何だか近寄りがたい印象で、 勝手に完璧超人みたいに思っていたんですけど、でも……うん、ほっとしたんです」 茜「……ほっとした?」 言いながら自分で納得したような空の言葉に、茜は気を取り直して首を傾げる。 空「はい……。 “ああ、この人は御伽噺に出てくるような完璧超人なんかじゃなくて、 私達と同じで、格好良い所も情けない所もある普通の人間なんだ”って……。 ……私も、あんまり褒められたような性格じゃありませんし」 最初は感慨深く語っていた空だったが、最後は苦笑いを浮かべて呟くと、 “なんで副隊長任せてもらえたのか、自分でも不思議なくらいで”と付け加えた。 確かに、空自身、今は仲間達からの信頼も篤いが、入隊初日にレミィと悶着を起こした事もあり、 挙げ句、半年前にはPTSDの果てに失踪するなどトラブルには事欠かない。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/32
33: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:31:14.81 ID:PGdg3XaSo 茜「ああ、そう言う事か……」 レミィ「まあ、コイツは見た目のギャップがもの凄いからな」 胸を撫で下ろした茜に、レミィが噴き出しそうになりながら言いうと、 茜は呆れた調子で“そっくりそのまま返してやる”と呟いた。 方や見た目お嬢様のうっかりオトボケ娘、方やキツネ耳の子犬系少女。 どっちもどっちである。 ともあれ、片付けには茜も加わり、 三人は生活課を手伝って会場の粗方の片付けを終えた。 ??「お客さんやドライバーの子にまで手伝わせて申し訳ないね。 後はもうこっちで出来るから上がって貰っていいよ」 任された範囲の作業を終えた頃、食堂を預かっている生活課食堂班の班長、 潮田【うしおだ】が調理場の奥から顔を覗かせる。 要はこの食堂のコック長だ。 好々爺然とした、正に“おじいさん”と行った風の初老の男性だが、 以前は一流ホテルに勤めていたとか噂されている。 空「いつも美味しい食事を作ってもらってるお礼ですよ」 潮田「そうかい? 嬉しい事を言ってくれるね」 微笑み混じりの空に、潮田は嬉しそうに目を細めて返した。 茜「さて、と……」 そんなやり取りを後目に、茜は元の食堂の姿を取り戻した歓迎会場を見渡す。 既に他の出向メンバーも三々五々と寮の空き部屋を求めて散って行き、 自分達が撤収すればお開きと行った具合だ。 茜<クレースト、レポート閲覧のタイムリミットは?> クレースト<残り七時間二十分です> 思念通話での質問に対するクレーストの返答に、茜は“ふむ……”と沈思する。 今は午後六時を少し回った所だ。 さすがに真夜中まで起きているつもりは無いが、十時前には読み終えたい。 ただ、それでも八時頃から読み始めても十分に間に合う計算だ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/33
34: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:32:02.61 ID:PGdg3XaSo 茜(それにしても、軽食とは言え、少し摘み過ぎたか……。 夕食は抜きにして夜食に携帯食でも摘めば良いとして、 その前に軽く腹ごなしでもするべきだな) 茜はそう思い立つと、壁際に置かれている荷物の元へと向かう。 予定を先送りにするのも気が引けるが、 腹の皮が突っ張ったままでは考え事には向かない。 茜「私はこれからトレーニングセンターで一汗流して来るが、君達はどうする?」 茜は振り返りながら空とレミィに尋ねる。 空はレミィと顔を見合わせて頷き合うと、 “ちょっと待ってて下さいね”と茜に断ってから、 少し離れた場所で作業を手伝い続けているフェイに向けて声を掛けた。 空「フェイさーん! 私とレミィちゃん、これから茜さんと一緒にトレーニングするんですけど、 フェイさんも一緒にどうですか?」 フェイ「申し訳ありません、朝霧副隊長。 私はもう少しこちらの片付けを手伝ってから、 本日分の調整を受けに技術開発部に出頭する予定です」 空の呼び掛けに、フェイは淡々としながらも申し訳なさそうな雰囲気で返す。 空「分かりました。じゃあ、片付けの手伝い、お任せしますね」 しかし、空は気にするなと言いたげな雰囲気でそう言った。 そして、改めて茜に振り返る。 空「じゃあ、私とレミィちゃんだけですけど、ご一緒しますね」 レミィ「お前と一緒にトレーニングなんて何年ぶりだろうな」 “よろしくお願いします”と頭を垂れた空に続き、レミィもどこか楽しげに漏らす。 茜「ああ、私も楽しませて貰うよ」 茜も嬉しそう返し、二人と共に寮内のトレーニングセンターに向かった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/34
35: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:32:50.37 ID:PGdg3XaSo ―6― それからおよそ二時間後、八時半過ぎ。 ギガンティック機関隊員寮、茜の私室―― 結局、乗って腹ごなしとは言えないほど熱の入った本格的な組み手を始めてしまった茜達三人は、 たっぷりかいた汗をシャワー室で流し、シフト明けのデイシフト職員達と共に食事を摂ってから別れた。 茜「ふぅ……何だかんだで羽目を外してしまったな……」 茜は小さく溜息を漏らすと、荷物をベッドサイドに置いてから、ベッドに腰を下ろす。 クレースト「茜様。ファイルの消滅期限まで、残り五時間を切りました」 同じく、ベッドの上に乗ったクレーストに言われて、茜は端末の時計を確認する。 確かに、期限の一時半まではもう五時間もない。 茜「そうだな、もう用事も無い事だし、今の内に確認しておこう。 ありがとう、クレースト」 茜はそう言ってクレーストの頭を撫でてから、端末に保存されたファイルを起動した。 月島レポート。 前述の通り、元技術開発部主任だった頃の月島勇悟に関するレポートだ。 茜(西暦2009年9月2日生まれ……2069年5月12日、享年は59歳。 旧日本国立国際魔法学院在学期間中にアメリカに留学、 飛び級で工科大学に入学、在学期間中に博士号を取得。 大学卒業後に帰国し2029年、二十歳で山路重工に就職、 旧魔法倫理研究院と山路重工の合同研究プロジェクトに所属……) 茜は淡々と読み上げながら、月島の経歴を頭の中で反芻する。 茜(亡くなったアレックスお祖父様の研究チームにいたのは、やはり確定か……) それまでに読み漁って来た調査資料と同じ記述に、 茜はそれまでに抱いて来た推測を確信に固めた。 明記されている記述は見た事が無いが、 旧研究院と山路重工の合同プロジェクトと言えば、 ギガンティックウィザードの研究開発くらいしか無い。 2029年頃と言うと、終戦前後でハートビートエンジンの研究が始まった頃だろう。 それとどうやら、この頃の監査記録はギガンティック機関と言うより、 旧魔法倫理研究院の物らしい。 その証拠に、記録者の署名に諜報エージェントと言う記述があった。 茜はさらにレポートを読み進める。 茜(イマジン事変後は技術者の腕を買われて整備班の陣頭指揮を任せられチームを異動、 メガフロート籠城後は整備修繕の傍らに研究チームに復帰。 ギガンティック機関結成後は同時期に結成された山路技研に配属、副所長に抜擢) 頭の中で記述を読み上げながら、 “なるほど、エリートらしい出世街道だ……”などと、頭の片隅で考えていた。 留学して飛び級で大学を卒業、就職しては重要チームに配属され、 一見して左遷先に思える異動先も当時は重要部署だ。 そして、技研の副所長から―― 茜(アレクセイ・フィッツジェラルド・譲羽の死後、 2035年から2049年までギガンティック機関技術開発部で主任を務める……と) ――人類防衛の最前線で、技術者の長を務める。 本人が研究開発に没頭したいだけなら話は別だが、 傍目には華々しいまでの出世街道だろう。 そして、茜はレポートの全てを読み終える。 その事で彼女は満足げにしていると言う事はなく、 どこか疲れた様子でベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/35
36: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:33:44.48 ID:PGdg3XaSo 茜「結局、書いてある事は粗方知っていたな……ハァ……」 茜は溜息がちに呟き、最後に盛大な溜息を漏らす。 月島が亡き祖父の研究チームに所属していたかもしれない、 と言う推測を補強してくれた以外は、査問や監視の危険まで冒して読む程の物では無かった。 骨折り損の草臥れ儲け、とはこう言う事だろう。 茜は殆ど無駄に終わった一時間余りを後悔しつつも、気を取り直して考える。 捜査の基本は情報収集と、得た情報を使って次の情報の手がかりを推測する事だ。 月島勇悟と言う人物に辿り着いたのも、そう言った情報収集と推測の繰り返しなのだ。 茜(山路にいた頃も、機関で主任をしていた頃も、 テロに傾倒していたような記述は無かった……。 だとすると、テロとの繋がりが出来たのは、 やはり政府に……統合労働力生産計画に移ってからなのか……?) 茜は今までに得て来た情報を繋ぎながら、思案する。 茜にとって見れば、テロリストと言うのは過度の愛国や売国のなれの果てだ。 根底にあるのはどちらも不満。 こんな国は自分の愛した国ではない。 こんな国は自分の望んだ国ではない。 或いは国家を宗教や経済に置き換えても良い。 自分の愛した信仰を守るために他の信仰を冒し、 自身の経済的安寧を守るために他の経済的安寧を崩す。 暴力、弾圧、買収。 それらが法によって正当化される範疇、 つまり倫理の枠を越えた時に、忌むべきテロとなる。 茜(月島勇悟が60年事件のテロリストに関わっていた事…… 最低でも何らかの繋がりがあった事は、通信記録からも疑いようも無い……。 だが、何が月島をそうさせた……? 不満か、不安か……?) 茜はさらに思考を続けた。 不安など、現代の人々は大小あれど抱いている。 その際たる物はイマジンだ。 オリジナルギガンティック以外、何者も対抗し得ない絶対の暴力。 だからこそ、人々はオリジナルギガンティックを擁する政府に信頼を置く。 生活に階級による較差こそあれど、 旧世界ではあり得ないほどの安定した衣食住を確約してくれる政府は、 多くの無辜の市民にとって無くてはならない存在である。 四級市民からして見ればそうでは無いかもしれないが、 犯罪者に医療や就業が保証されているだけ有り難いと思って貰わなくてはならない。 加えて、皇族と王族による人心掌握も、政府に対する信頼を補強するためのエッセンスだ。 政府は全ての責任を負いながらも、 権威や権力の一部を皇族や王族に任せる事で一歩引いた立場を演出している。 茜(あの馬鹿げた主張を掲げる連中に同調するような節が、コイツには見当たらない……。 と言うよりも、同調するほど愚かとは思えない) 行政の構造について考えていた茜は、不意に件のテロリスト達の主張を思い出し、 その推察と共に盛大な溜息を漏らす。 思い出しても頭の痛くなる主張を頭の片隅の、さらに最奥に押しやってから、思案を再開した。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/36
37: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:34:20.64 ID:PGdg3XaSo 茜(だとすれば……月島と連中の関連は何だ? 単に、あの階層……山路技研を占拠するためだけの協力者だったと言うのか?) 第七フロートは元来、山路重工がテスト用に使っていた海上実験場を改装して作った物だ。 それ故に大規模食料生産プラントも無ければ、丸ごと一層を使った自然保護区も存在しない。 いや、存在しないと言うより、実験場だった構造の名残で、それらを後付け出来なかったのだ。 元はNASEANメガフロートとは別のメガフロートであったため、 専用の小規模な食料生産プラントはあるが、他のフロートに比べて大規模ではない。 最低限の自給自足能力を持ち、 十五年前の当時で最先端の技術を誇った山路技研を擁する第七フロート第三層の占拠。 それには内部構造に詳しい者の協力が不可欠であり、 かつて技研の副所長を務めていた事もある月島はその候補としては有力だろう。 加えて、空襲直前のハッキングの手際も、月島クラスの技術者なら可能である。 だが、繰り言のようになってしまうが、月島とテロリストの繋がりが已然として見えて来ない。 テロリスト側が月島勇悟を協力者に選ぶ理由は分かる。 だが、逆に月島勇悟がテロリスト側に協力する理由は何だと言うのだろう? 同調するような思想的節も無く、社会に不満を感じるほど外様に追い遣られていたワケでもない。 むしろ、彼がテロに傾倒するならば、 七年前に統合労働力生産計画の責を押しつけられて逮捕された後の方が説明が付く。 クレースト「……月島勇悟自身の事は一旦、捜査から切り離した方が良いのでは無いでしょうか?」 天井を睨んだまま考え続ける主を思ってか、クレーストが躊躇いがちに提案して来る。 茜「………………だろうな。 捜査が混乱するばかりだ」 しばらく考え込んでいた茜だったが、小さく息を吐くと吹っ切れたように呟いた。 茜(月島に辿り着いて以来、一年近く追って来たが、無駄骨だったな……) 茜は目を瞑り、また一つ溜息を漏らす。 パレード襲撃から第七フロート第三層の占拠までの手際の良さ。 それを実行するに当たって協力者であったと考えられる、 天才技術者である月島勇悟をテロリストと繋ぐ事が出来ない。 60年事件の真相に迫ろうとする捜査も、これでまた振り出しだ。 茜(月島の端末に残されていたアクセス記録は、 捜査を混乱させるための偽装だった、と言う線から洗った方が良いのか……? もしそうなら、それをやったのは誰だ……? そうする事で一番得をしたのは……?) 茜は現状、手元にある情報を駆使して推測を続ける。 だが、やはり有力な手がかり繋がりそうな推測には至らない。 茜は苛立ちを感じながら、閉じた瞼の上に左手を乗せ、さらにその上に右腕を重ねる。 苛立ちを抑えようと、真っ暗な瞼の裏に、敬愛する父の姿を思い描く。 葉桜を背に振り返る、力強く、優しい父の姿を……。 茜(お父様………茜は、きっと見付けて見せます………。 お父様を殺した犯人を……。 それを裏から操っていた者を……必ず………) 色褪せない記憶の中の父の姿に、その決意を再確認する。 いつか必ず、事件の真相に辿り着く。 そして、首謀者を―――― 茜は、そんな決意を抱きながら、 不意に押し寄せた疲労感に身を任せるまま、眠りに落ちて行った。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/37
38: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:34:55.95 ID:PGdg3XaSo ―7― 茜が60年事件の真相解決への決意を新たにしていた頃。 件の第七フロート第三層、旧山路技研―― 高台のようになった広大な敷地に林立する、煌々と照らし出されるビルと倉庫の群。 その中でも一際巨大な倉庫の二階。 吹き抜け構造の倉庫内壁に這うように作り付けられた、広く頑丈な通路は、 それに沿うように大きな窓が並んでいる。 その窓から、一人の男が遠くに臨む街を眺めていた。 半年前の皇居襲撃の際、臣一郎とテロリストの一団の戦闘を観察していた、 “博士”と呼ばれていた人物だ。 博士「全ての用意が十五年と言う節目に間に合ったのは、 因果と言うべきか……何と言うべきか……」 博士は消え入りそうな声で呟く。 男「どうされました?」 偶然に近くを通りかかった男性が、博士の声を聞きつけて尋ねる。 博士「ん? いや、贅沢と言うのはこう言う事だろう、と感慨に耽っていただけさ。 街を見ながらね」 対して、博士は怪しい素振りを見せる事なく、 先ほど呟いた言葉とはまるで違う言葉を返した。 旧技研の一帯は、天蓋からの照明が無いと言うのに、 真夜中でも昼間のように明るく、正に不夜城と言った雰囲気だ。 それに引き換え、やや高くなった技研から見下ろす街は暗闇に閉ざされ、 目を凝らしても点々と灯る微かな光が見えるか見えないかと言う有様である。 男「お言葉ですが贅沢などではありません。 城に住む我らは管理する側、街に住む者は管理される側。 管理される側が管理する側よりも劣るのは当然の事でしょう。 現状は我々が享受するべき当然の権利であり、贅沢とはほど遠い物です」 博士「まあ、そうだろうね……」 さも当然と言いたげな男の言に、博士は小さな溜息を交えて呟く。 その心の中で“君達の考えならば、ね”と嘲るように付け加えられたのは、 男には悟られていないだろう。 城……彼らは十五年前に占拠した山路技研を、そう呼んでいた。 かき集めた魔力を技研と周辺施設の運用に注ぎ込み、 街にはその恩恵を預かる事を許可していない。 食料生産プラントから作り出される合成食品も、 殆どが城の中で消費され、街に出回るのは僅かばかり。 街の人々は結託してこの構造を崩そうにも、 魔力の搾り取られてその余力は無く、逆に城には多数のギガンティック。 力で不満と不平を押し潰す、正に恐怖政治の在り方そのものだ。 だが、時世が非常時と言うならば、効率的な手段の一つとも言える。 城と街と言う表現は、その効率的手段を体現した象徴だった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/38
39: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga sage] 2014/07/20(日) 21:35:31.60 ID:PGdg3XaSo 博士(虚栄心の権化……) 博士は、城と言う表現をそう評していた。 王が人々から吸い上げた力を、 吸い上げられた人々に自らの力として誇示、行使する。 旧世紀……いや、それ以前ならば国の一つの在り方としてはあり得るモデルケースだが、 現代においては実に非文明的で未開人のような考え方だ。 しかし、傲慢にも彼らはその未開人のような有り様を受け入れてしまっている。 まあ、虐げられる側と虐げる側に別れるに当たって、 虐げる側にいられるならば、そうなってしまうのもやむを得ない。 博士(だからこそ、御し易い……) 博士はそんな事を考えながら、 どこか呆れたような視線を、城と街とを隔てる境界線の辺りに向ける。 先程の男は、もう既に何処かへと立ち去ってしまったらしかった。 と、その時である。 軍人「ユエ博士!」 少し離れた場所から、先ほどの男とは違う男――軍人のような格好だ ――から声を掛けられ、博士は振り返った。 ユエ。 それが博士の名だった。 ユエ「何かね?」 軍人「皇帝陛下がお呼びです。謁見の間においで下さい」 博士……ユエが振り返り様に尋ねると、軍人のような男は敬礼しつつ報告する。 ユエ「……そうか、陛下がお呼びか。 では、謁見の間に行くとしよう」 ユエは一瞬の逡巡の後、普段からそうしているように、 芝居がかったような大仰な仕草で言って、足早に歩き出した。 カツカツ、と甲高い足音が倉庫内に谺する。 向かうのは、この倉庫の一階奥。 玉座の置かれた、“謁見の間”と呼ばれる場所。 内心でその名を小馬鹿にしながら、ユエは通路の眼下に広がる倉庫を見遣った。 そこには、三十メートルから四十メートルの巨大な鋼の巨人―― ギガンティックウィザードの大群が並ぶ光景が広がっていた。 五十機を越える機体の各部には鈍色の輝きが灯り、 主が乗り込む時を今か今かと待っている。 ユエ「さあ……コンペディションの、開幕だ……」 また消え入りそうな声で漏らしたユエの呟きは、 彼自身の足音に掻き消され、今度こそ誰の耳に届く事も無かった。 第14話〜それは、忘れ得ぬ『哀しみの記憶』〜・了 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/39
40: 3スレ目にかわりまして4スレ目がお送りします ◆22GPzIlmoh1a [saga] 2014/07/20(日) 21:37:58.14 ID:PGdg3XaSo 今回はここまでとなります。 前スレはエタらせてしまい、申し訳ありませんでしたorz 今スレはエタらないように注意しながら投下して行きたいものです……。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405857766/40
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